アメリカの固定資産税は、州ごとに一つの税率が決まっているわけではありません。実際に税率を決めるのは郡、市町村、学区で、同じ州の中でも自治体をまたぐと負担が倍近く変わります。
それでも州ごとの傾向ははっきりあります。日本から複数の州を比べて買い先を決める場合、この傾向を押さえておかないと、購入価格だけを見て毎年の負担を読み違えます。名義と税務の設計まで含めて書きます。州別の実効税率と物件価格ごとの年間税額はアメリカの固定資産税は年いくらかの記事に一覧でまとめてあります。
1. 誰が税率を決めているか

アメリカの固定資産税は、州が集めて配る税ではありません。郡、市町村、学区がそれぞれ必要な予算を決め、それを課税対象の資産の評価額で割って税率を出します。学区の割合が最も大きく、負担の半分以上を占める地域が珍しくありません。
したがって同じ州でも、学校に予算を厚く配る自治体は税率が高く、隣の自治体では低い、ということが普通に起こります。ニューヨーク州のウエストチェスター郡はその典型で、町の中に村がある地域では、番地が違うだけで年間の税額が数千ドル変わります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決めるのは誰か | 州ではなく郡・市町村・学区。学区の割合が最も大きい |
| 実効税率が高い州 | ニュージャージー、イリノイ、コネチカット、ニューハンプシャー、テキサス |
| 実効税率が低い州 | ハワイ、アラバマ、コロラド、ネバダ、アリゾナ、サウスカロライナ |
| 州所得税がない州 | フロリダ、テキサス、ネバダ、ワシントン、テネシー、サウスダコタ、ワイオミング、アラスカ |
| 確認する場所 | 物件が所在する郡の評価担当部署が出す評価台帳と税額の明細 |
ニューヨークで持つ場合の税の全体像はアメリカ不動産の税金に、州別の投資条件はニューヨークとアメリカの不動産サービスのページにまとめてあります。
2. 州ごとの傾向

住宅の実効税率が高いのは、ニュージャージー、イリノイ、コネチカット、ニューハンプシャー、テキサスです。これらの州では、住宅価格に対する年間の固定資産税が2%前後に達する地域があります。50万ドルの住宅なら年1万ドル前後という水準です。
低いのはハワイ、アラバマ、コロラド、ネバダ、アリゾナ、サウスカロライナで、0.3%から0.6%の範囲に収まる地域があります。同じ50万ドルの住宅でも年間の負担は2,000ドル前後で、高い州との差は5倍近くになります。
ニューヨーク州は中間から上寄りに位置します。ただし州内の差が大きく、ニューヨーク市内の集合住宅と、郊外の一戸建てでは仕組みそのものが違います。市内の一戸建てには年ごとの評価額の上昇に上限がかかる区分があり、長く持つほど市場価格との差が開きます。
3. 州所得税との組み合わせで見る

固定資産税だけを見て州を比べると判断を誤ります。州によっては州所得税がなく、そのぶん固定資産税を高く取る構造になっているからです。テキサスとニューハンプシャーが典型で、州所得税がない代わりに固定資産税が高く設定されています。
連邦の累進税率と州ごとの税率は、アメリカの所得税率の記事に一覧でまとめています。
賃貸に出して利益が出る場合、その利益には連邦所得税と、州所得税のある州では州の所得税もかかります。州所得税のない州で持てば後者は生じません。つまり比べるべきは、固定資産税と州所得税を合わせた年間の負担です。
もう一つ見落とされやすいのが売却時です。州によっては売主に譲渡税がかかり、非居住者に対して州段階の源泉徴収を行う州もあります。連邦のFIRPTAの源泉徴収とは別に、州の分が上乗せされます。買う前に、出るときの税まで見てください。
4. 保有の実務と名義の設計
どの州でも、外国籍で米国に住んでいない方が不動産を買うことはできます。名義は個人、LLC、信託のいずれも選べます。集合住宅のうちコープだけは理事会の審査があり、非居住の方はほとんど通りませんが、これはニューヨークとその周辺に集中した形態で、他州ではほとんど問題になりません。
賃料を得る場合、非居住者は賃料総額の30%の源泉徴収が原則で、確定申告を選ぶと経費を引いた純額への課税に切り替えられます。固定資産税も減価償却も経費に入るため、この選択の有無で手取りが大きく変わります。LLC名義で保有する場合の税務はLLC名義での保有と税務にまとめてあります。
個人名義のまま非居住者が亡くなると、米国の遺産税は基礎控除が6万ドルしかなく、最高税率40%が超過分にかかります。これは州を問わず同じです。名義の設計は、購入後に変えると譲渡税がかかるため、契約前に決めます。取引の際には、その時点の最新の税務を、契約書と書面で確認してください。
5. まとめ
固定資産税は州の数字で比べるものではなく、番地の数字で比べるものです。候補が絞れたら、その郡の評価台帳で直近の税額を取り寄せてください。あわせて州所得税と、売却時の州の源泉徴収まで並べて見ます。購入の全体の流れはニューヨーク不動産の購入ガイドに、日本にいながら進める手順は日本からの遠隔購入にまとめてあります。
州の選定から名義の設計まで、個別のご相談を承っております。
よくある質問
州の平均税率で比べてはいけないのですか。
目安にはなりますが、判断の根拠にはなりません。税率を決めるのは郡、市町村、学区で、同じ州の中でも自治体をまたぐと倍近く変わります。候補の物件が決まったら、その郡の評価担当部署が出す直近の税額を書面で取り寄せてください。
州所得税がない州のほうが有利ですか。
一概には言えません。州所得税がない州は、そのぶん固定資産税を高く設定している例が多いためです。賃貸で利益が出るなら州所得税の有無は効きますが、固定資産税と合わせた年間の負担で比べる必要があります。
非居住者が売却するとき、州の税もかかりますか。
州によります。売主に譲渡税を課す州、非居住者に州段階の源泉徴収を行う州があります。連邦のFIRPTAによる15%の源泉徴収とは別に上乗せされるため、買う前に出るときの税まで確認してください。
ニューヨークの固定資産税は高いほうですか。
州としては中間から上寄りです。ただし州内の差が大きく、市内の集合住宅と郊外の一戸建てでは仕組みが違います。市内の一戸建てには評価額の上昇に上限がかかる区分があり、長く持つほど市場価格との差が開きます。
PRACTICE取得・保有・出口の実務(117件)
買うとき
- 物件の探し方 — 情報の仕組みと在庫の実際
- 日本から買う — 内見から送金までの実務
- 米国のローン — LTVとレバレッジの考え方
- アメリカの住宅ローン — 駐在・非居住者でも借りられる条件と金利
- ニューヨークシティのコンドミニアム購入 — 価格相場と手順、費用と名義の決め方
- DSCRローン — 収入証明なしで組む条件
- 法人名義で買うか — 個人所有との損益分岐
- タイトル保険 — 日本の登記制度との違い
- 不動産会社の選び方 — 確認すべき5点
- 失敗は5つに集まる — 契約前に確認できる項目
- 海外不動産のデメリット4つ — 対処できるものとできないものを分ける
- 新築と中古 — 価格・交渉・維持費で比べる
- プレコンストラクション — 竣工前に買う判断
- タウンハウス一棟 — 管理組合のない所有
- 借りるか買うか — 高金利下の損益分岐
- オファーの条件をどこまで外すか — 手付金10%を賭ける判断
- 住みながら買う — 賃貸を続ける場合との比較
- 買付前に揃える資金証明 — 海外資産をどう示すか
- 購入資金を日本から動かす — 送金の手順と証跡の残し方
- 価格を交渉する — 売主が実際に見ている条件
- 新築か中古か — 費用構造から比べる
- ペントハウスとは何か — 名称の実態と価値の見極め方
- Airbnb前提で買わない — 30日ルールの実際
- アメリカ不動産の買い方 — 手続き・費用・注意点
- アメリカで家を買うときにつまずきやすい点 — 準備の順序で結果が変わる
- 利回りか、資産の置き場所か — ニューヨークを選ぶ理由の分かれ目
- コンドとコープの違い — 審査・費用・売りやすさ
- 賃貸と購入の総費用 — 税制とリスクまで含めて比べる
- オフマーケット物件 — 情報が回る経路と紹介を受ける準備
- バイヤーエージェント — 買主側につく担当の役割
- アトーニー(弁護士) — 契約と決済で担う役割
- 購入前のデューデリジェンス — 確認すべき書類と手順
- インスペクション — 何を見て、いくらかかるか
- 価格はどう決まるか — 鑑定と成約事例の読み方
- 買うのに何ヶ月かかるか — オファーから鍵の受け取りまで
- クロージング費用 — 内訳と節約できる項目
- マンションタックスと譲渡税 — 100万ドルを超えると変わること
- エスクロー — 仕組みと流れ、日本との違い
- タイトル保険の費用 — 必要な理由と保険料の決まり方
- 新築コンドのスポンサーユニット — 仕組みと交渉
- SSNなしで組むローン — 3つの方法を比べる
- 学区と価格の関係 — コンドミニアム相場の読み方
持っているあいだ
- 管理費は月いくらか — 区別の実額と安い建物の落とし穴
- 不動産にかける保険 — 所有形式で必要な補償が変わる
- 買った後の管理 — 海外に住みながら所有を続ける
- 管理会社の選び方 — 費用と契約前の確認事項
- テナント管理 — 賃料回収と契約更新の実務
- 収益改善の手法 — プロパティマネジメントの実際
- アメリカの固定資産税は年いくらか — 州別の実効税率と物件価格別の年額
- 減価償却で税を前倒しする — 建物比率と、個人名義・法人名義の違い
- 4年償却は使えるのか — 2020年改正後の正しい姿
- 改正後に残った節税の道 — 個人の損益通算と法人名義の分かれ目
- 土地の権利とゾーニング — 何が建てられるかの規制
- 保証人と保証会社 — 収入40倍の壁を越える
- 賃貸収入の税務 — 非居住者の源泉徴収と純額課税の選択
- 非居住者の確定申告 — オーナーの年間カレンダー
- 価格の推移 — 10年・5年・直近1年を都市別に見る
- 駐在員の確定申告 — 日米どちらに出すか、FBARの1万ドルの線
- 賃料の日本での申告 — 円換算のレート、償却の制限、外国税額控除
- 国外財産調書と財産債務調書 — 5,000万円と3億円の線
- 法人名義と日本の合算課税 — LLCは日本では外国法人。20%と27%の線
- 日本にいながら賃貸を回す — 管理会社の選び方と契約で決めること
- 家賃を払わない入居者 — 貸主にできることと、できないこと
- 買った翌年に税額が変わる — 減免の残存年数で年2万ドルの差
- 固定資産税の不服申立 — 3月1日と3月15日という期限
- 州を固定資産税で選ぶ前に(この記事)
- マルチファミリー投資 — 収益構造と融資、見落としやすいリスク
- 賃料規制物件を買うと — レントスタビライゼーションの実際
- リノベーション — 管理組合の承認と工事の実際
- コストセグリゲーション — 償却を前倒しする調査の中身
- 不動産プロフェッショナル(REPS) — 給与所得の課税を下げる仕組み
- IRSの税務調査 — 備えておく書類
- 売らずに積み上げる — 担保に次を買い、課税を繰り延べる
- 商業不動産への投資 — 住宅との違いと市場の特徴
出すときと税務
- 売るときの流れ — 海外にいながら決済まで
- 売却の手続きと税金 — 必要書類まで
- 売却の戦略 — 市場を見て出口を決める
- 非居住者のキャピタルゲイン税 — 1040NRの申告手順
- 1031エクスチェンジ — 譲渡益を繰り延べる仕組み
- 出口の使い分け — 源泉徴収・1031・セクション121
- QOF(適格機会基金) — 譲渡益の課税を繰り延べる
- オポチュニティゾーン — 繰延制度の中身
- FIRPTAの源泉徴収 — 売却代金の15%と還付の手続き
- 贈与税はいくらから — 非居住者は生涯控除ゼロ
- アメリカの相続税 — 連邦と州、非居住者の場合分け
- 非居住者の遺産税 — 基礎控除6万ドルの壁
- 不動産をトラスト名義にする — プロベートは避けられるが遺産税は消えない
- 日本の相続税評価 — 鑑定評価、TTB換算、小規模宅地の特例
- FIRPTAと外国税額控除 — 対象は確定税額。控除の年がずれる
- 売却の為替差益 — 取得日と売却日のTTMで譲渡所得が変わる
- ニューヨーク州の遺産税 — 控除を5%超えると全部消える
- 持分を毎年贈与するか — 取得費が引き継がれるか、時価に置き換わるか
- 信託(トラスト) — 種類・税務・債権者保護
- 複数人で持つ — 共有の形式で相続の結果が変わる
- 遺言書 — 手続きと費用、税務上の注意
- FBAR・FATCA — 海外金融口座の報告義務
- 駐在員の確定申告 — 日米の税金と控除
- 日米の税制の要点 — 法人設立の前に押さえる
- 日米租税条約 — 軽減されるもの、されないもの
- 富裕層の節税の型 — 実際に使われている7つ
- 資産をどこに置くか — 富裕層の配分と、不動産が選ばれる理由
- C-Corp と LLC — 形態ごとの課税の違い
- 1031と日本の課税 — 米国で繰り延べても日本では課税される
- 相続したときの名義の移り方 — 検認と納税証明の順番
- プロベートの費用と期間 — 回避する方法
- 資産の種類で変わる相続 — 米国株・米国債・預金・不動産
- 日本の遺言書は使えるか — 現地で別に作る場合の線引き
- 名義変更でかかる費用 — 買った後に器を変える代償
- 住んでから貸すか、貸してから住むか — 順番だけで7万1,400ドル変わる
- 所得税ゼロの州で買う — 効く人と効かない人の境界線
市場を読む
- 今後10年の市場予測 — 投資家が見ておく5つの流れ
- 住宅不足はなぜ解消しないか — 供給ギャップと価格への影響
- 2026年のアメリカ不動産市場 — 金利と為替、地域差
- ニューヨーク住宅市場の現在地 — 価格動向とエリア別の需給
- なぜニューヨーク不動産なのか — 価値が残る7つの理由
- 利回りが高い州と都市 — 全米の順位と読み方
- アメリカ不動産投資の始め方 — 利回りと税制の基本
全体の流れ
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。

















