2026年11月7日 Reinvent編集チーム

国外転出時課税はアメリカの不動産にかかるか。個人名義は対象外、LLCや法人の持分は1億円に数える

日本からアメリカへ住まいを移すとき、1億円以上の有価証券などを持っている方には、日本を出る時点の含み益に所得税がかかります。国外転出時課税と呼ばれる制度です。アメリカの不動産そのものは対象に入りませんが、LLCや法人の名義で持っている場合は話が変わります。

 

法人の出資者の持分は有価証券に当たり、アメリカのLLCは日本の税法では原則として外国法人です。名義の選び方が、移住のときの税に効いてきます。

 

この記事の要点

  • 対象は、1億円以上の有価証券等を持ち、出国前10年以内に日本に5年超住んでいた方
  • 対象資産は有価証券、匿名組合の出資の持分、未決済の信用取引とデリバティブ取引。不動産は入らない
  • 法人の出資者の持分は有価証券に当たる。アメリカのLLCは原則として外国法人なので、LLC名義の物件は持分として数えられる
  • 納税管理人を届け出て担保を出せば5年(延長で10年)納税を猶予でき、その間に帰国すれば課税を取り消せる

 

本日は国外転出時課税とアメリカの不動産、特に名義による違いについて見ていきましょう。

 

 

1. 国外転出時課税のしくみ

日本からアメリカへ住まいを移す家族が持つマンハッタンの住宅

 

 

出国の時に売ったものとみなす

国税庁のNo.1478によれば、国外転出(日本に住所も居所もなくなること)の時に1億円以上の対象資産を持っている一定の居住者は、その時に対象資産を売ったものとみなされ、含み益に所得税がかかります。2015年7月1日以後の出国から適用されています。

 

 

対象になる人と資産

対象者は、出国の時に持つ対象資産の合計が1億円以上で、原則として出国の日の前10年以内に日本に住所か居所があった期間の合計が5年を超える方です。対象資産は、有価証券(株式や投資信託など)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引と発行日取引、未決済のデリバティブ取引です。

 

1億円対象資産の合計がこれ以上なら対象になる
5年超出国前10年以内に日本に住んでいた期間の合計
5年納税を猶予できる期間(延長の届出で最長10年)

 

 

2. 不動産は対象外、LLCと法人の持分は対象

日本からアメリカへ住まいを移す家族が持つマンハッタンの住宅

 

 

個人名義のコンドミニアムは数えない

対象資産の列挙に不動産は入っていません。個人名義で持つニューヨークのコンドミニアムは、出国の時に売ったとはみなされず、1億円の判定にも入りません。

 

 

法人の出資者の持分は有価証券に当たる

所得税法の有価証券には、政令で定めるものが含まれ、所得税法施行令第4条第2号は「合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分」と並べて「その他法人の出資者の持分」を挙げています(e-Gov法令検索)。株式会社の株式はもちろん、法人の持分も有価証券として扱われます。

 

 

アメリカのLLCは、日本では原則として外国法人

国税庁の質疑応答事例は、アメリカの各州のLLC法に基づいて設立されたLLCを、アメリカの税務上の選択にかかわらず、原則として日本の税法上の外国法人として扱うとしています。ニューヨーク州のLLCを法人と判断した裁判例も示しています。このため、LLCの名義で持つ物件は、LLCの持分として有価証券に数えられます。

アメリカの物件の名義 国外転出時課税 理由
個人名義 対象外 不動産は対象資産に入らない
LLC名義(持分を個人で保有) 持分が対象資産 LLCは原則として外国法人で、出資者の持分は有価証券
アメリカの法人(C-Corp)名義 株式が対象資産 株式は有価証券
日本の法人名義(株式を個人で保有) 株式が対象資産 株式は有価証券

※持分や株式の価額は、出国の時の価額で見ます。物件の時価や借入れを反映した評価になるため、評価の方法は個別に確かめます。

 

ポイント

LLCや法人の名義には、日本の合算課税や申告の面でも別の論点があります。整理はアメリカ不動産を法人名義で持つと日本の合算課税にかかるかと米国不動産をLLCで持つと税はどう変わるかにあります。

 

 

3. 申告と納税の猶予、帰国したとき

日本からアメリカへ住まいを移す家族が持つマンハッタンの住宅

 

 

納税管理人を届け出るかで手続きが変わる

出国の時までに納税管理人を届け出た場合は、出国した年の確定申告の期限までに、この制度による所得を含めて申告と納税をします。届け出ずに出国する場合は、出国の時までに、その年の1月1日から出国の時までの所得を含めて準確定申告と納税をします。

 

 

猶予は5年、延長で10年

出国の時までに納税管理人を届け出て、確定申告書に猶予を受ける旨を書き、決められた明細書などを付け、期限までに担保を出せば、納税を5年(延長の届出で最長10年)猶予できます。猶予の間は、毎年12月31日に持っている対象資産について、継続適用届出書を翌年3月15日までに出します。出さなければ、その期限から4か月で猶予が終わります。

 

 

5年以内に帰国すれば取り消せる

出国の日から5年以内(猶予の延長を届け出ていれば10年以内)に帰国し、その時まで持ち続けている対象資産については、課税を取り消せます。帰国の日から4か月以内に、更正の請求か修正申告をします。

 

 

4. 贈与や相続で、海外に住む家族に渡るとき

日本からアメリカへ住まいを移す家族が持つマンハッタンの住宅

 

 

出国しなくても、渡した時にかかる

No.1478は、対象となる居住者が出国していなくても、贈与、相続または遺贈で非居住者に対象資産が渡った時に、その時に売ったものとみなして含み益に所得税がかかるとしています。LLCの持分や法人の株式を、アメリカに住むお子さんに贈与したり、相続で渡したりする場合が当たります。

 

 

個人名義の物件は、相続の税で見る

個人名義の物件は、この制度ではなく、アメリカの遺産税と日本の相続税の問題になります。アメリカ側は非居住者の米国遺産税、日本側の評価はアメリカ不動産の相続税評価で扱っています。

 

注意

移住の直前に名義を個人からLLCへ、あるいはLLCから個人へ移すと、その移転自体が日米で譲渡や贈与として課税されることがあります。名義は、移住の予定が分かった時点で、日米の両方の税で比べてから決めます。

 

 

まとめ

日本からアメリカへ住まいを移す家族が持つマンハッタンの住宅

 

 

移住の税は、物件の名義で分かれる

国外転出時課税は、1億円以上の有価証券等を持つ方が日本を出る時に、含み益に所得税をかける制度です。不動産は対象外なので、個人名義のアメリカの物件は数えません。一方、法人の出資者の持分は有価証券に当たり、アメリカのLLCは原則として外国法人なので、LLCや法人の名義で持つ物件は持分として1億円の判定に入ります。

 

対象になっても、納税管理人と担保を用意すれば5年(最長10年)猶予でき、その間に帰国すれば取り消せます。移住の可能性がある方は、物件を買う前の名義の段階から、この制度を計算に入れておくことをおすすめします。一般的な整理はここまでです。ご家族の状況に合わせた判断は、個別にご相談ください。

 

よくある質問

個人名義でニューヨークのコンドミニアムを持っています。アメリカに移るとき、国外転出時課税はかかりますか。

不動産は国外転出時課税の対象資産に入らないため、個人名義の物件は出国の時に売ったとはみなされず、1億円の判定にも入りません。ただし株式や投資信託などほかの有価証券等の合計が1億円以上なら、それらには課税されます。

LLCの名義で持っている物件は対象になりますか。

なり得ます。国税庁はアメリカのLLCを原則として日本の税法上の外国法人として扱い、所得税法施行令第4条第2号は法人の出資者の持分を有価証券に含めています。このためLLCの持分は対象資産となり、1億円の判定にも入ります。

対象になった場合、税をすぐに払う必要がありますか。

出国の時までに納税管理人を届け出て、確定申告書に猶予を受ける旨を書き、決められた書類を付けて担保を出せば、5年間(延長の届出で最長10年)納税を猶予できます。猶予の間は、継続適用届出書を毎年3月15日までに出します。

5年以内に日本へ戻った場合はどうなりますか。

出国の日から5年以内(猶予の延長を届け出ていれば10年以内)に帰国し、その時まで持ち続けている対象資産については、課税を取り消せます。帰国の日から4か月以内に、更正の請求か修正申告をします。

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