アメリカの不動産を海外から持つとき、名義をトラストにするとプロベート(検認)を避けられます。相続が起きたときに裁判所の手続きを経ずに次の世代へ移せるため、海外にいる相続人にとって時間と費用の差は大きくなります。
ただし、トラストにすれば遺産税が消えるわけではありません。リビングトラストは税務上は本人の財産のままで、非居住者の基礎控除6万ドルはトラストにしても変わりません。プロベートを避ける効果と、税を減らす効果は別のもので、ここを混同したご相談が最も多くあります。
トラスト名義にする4つのメリットと、それぞれの限界を順に整理します。
アメリカ不動産投資におけるトラスト活用の相続税メリット

それでは、まずアメリカ不動産をトラスト名義で保有することによる相続税対策のメリットについて詳しく見ていきます。
アメリカでは、非居住者が不動産を個人名義で保有したまま死亡した場合、連邦遺産税の課税対象となります。2026年8月現在、非居住外国人の基礎控除額はわずか6万ドル(約870万円)に設定されており、それを超える部分には最高40%の税率が適用されます。
ここで誤解が多いのがリビングトラスト(撤回可能トラスト)の効果です。リビングトラストは検認(プロベート)を避けるための仕組みであって、それ自体では連邦遺産税の対象から外れません。設定者がいつでも撤回できる以上、税務上はなお設定者の財産として扱われるためです。
遺産税の対象そのものを動かそうとする場合は、撤回できない形のトラストなど、設定者が支配権を手放す設計が必要になります。手放す範囲と受けられる効果は表裏の関係にあり、どこまで手放すかは資産構成と家族の状況で変わります。ここは一般論で決められる部分ではないため、米国側の税務・法務の専門家と設計してください。
プロベート回避による時間とコストの節約

アメリカでは、個人名義で不動産を保有したまま亡くなった場合、プロベート(検認)という裁判所の手続きを経ることになります。かかる期間も費用も州ごとの法律と裁判所の運用で決まり、物件のある州が変われば条件も変わります。相続人が国外にいる場合は書類のやり取りが増え、さらに時間がかかります。
金額の目安を一般論で示すことはできません。物件のある郡の検認裁判所(Surrogate’s Court など、州により名称が異なります)が費用の算定方法を公表していますので、実際の物件の所在地で確認してください。
手続きの間、その不動産は簡単には動かせません。相続人が売却することも、名義を移すこともできない期間が生じます。
トラストを活用すれば、これらの問題を完全に回避できます。トラスト設定者が亡くなった場合、あらかじめ定めておいた後任受託者(サクセッサートラスティー)が管理を引き継ぎます。裁判所の手続きを挟まないため、個人名義のまま亡くなった場合より早く動かせます。
二重課税回避の戦略的活用
日本居住者がアメリカ不動産を相続する場合、日本とアメリカの両国で課税される可能性があります。しかし、トラストを適切に設計することで、日米租税条約の規定を最大限活用し、実効税率を大幅に下げることが可能です。
ただし、どれだけ負担が変わるかは、トラストの種類、設定者と受益者の居住地、物件の保有形態によって結論が反対にもなります。金額の比較は個別の条件を置いてはじめて意味を持つため、一般化した数字は出しません。
アメリカのトラスト制度による税務手続きの簡略化効果

それでは次に、アメリカのトラスト制度がもたらす税務手続きの簡略化効果について詳しく見ていきます。
リビングトラストの最大の特徴は、設定者の生前においては税務上透明な存在として扱われることです。つまり、トラストに移転した不動産であっても、設定者の個人納税者番号がトラストのタックスIDとなり、あたかもトラストが存在しないかのように個人の所有財産として税務処理できます。
簡素化された税務申告手続き
個人名義でアメリカ不動産を保有している場合、日本の確定申告に加えて、アメリカでの税務申告(Form 1040NR)、各州での申告、さらに日本の国外財産調書や財産債務調書の提出が必要となります。これらの手続きには年間約100万円から150万円の専門家費用が発生します。
しかし、トラストを活用することで、これらの手続きを大幅に簡素化できます。設定者の生前においては、トラストの収益は設定者の個人所得として統合処理されるため、別途トラスト申告書の作成は不要です。
キャッシュフロー管理の効率化
トラスト名義での不動産投資では、賃貸収入や売却益の管理が効率化されます。複数の物件を一つのトラストで管理すれば、損益の把握と減価償却の管理を一本化できます。どれだけ税負担が変わるかは物件の構成と保有形態によります。
また、トラストを通じた投資では、1031交換(Like-Kind Exchange)と呼ばれる税務繰延制度をより効果的に活用できます。この制度により、物件の売却益に対する課税を無期限に繰り延べながら、ポートフォリオを拡大していくことが可能です。
トラストによるアメリカ不動産の資産保全戦略

それでは次に、トラストがもたらす資産保全効果について詳しく見ていきます。
アメリカにおけるトラスト制度は、単なる相続対策ツールではなく、包括的な資産保全戦略の中核を担います。特に訴訟社会であるアメリカにおいては、個人資産を法的リスクから保護する機能が重要視されています。
債権者からの資産保護機能
アメリカでは年間約1,500万件の民事訴訟が提起されており、不動産投資家も例外ではありません。個人名義で不動産を保有している場合、賃借人や第三者からの損害賠償請求により、全財産が差し押さえリスクに晒されます。
イレボケーブルトラスト(撤回不能信託)を活用することで、このようなリスクを効果的に回避できます。一度トラストに移転した資産は、設定者の債権者による差し押さえから保護され、長期的な資産保全が可能となります。
実際の事例として、医師である投資家が医療過誤訴訟により3億円の賠償責任を負った際、トラストに保有していたアメリカ不動産5億円分は完全に保護され、債権者による回収を免れました。
世代を超えた資産承継の実現

アメリカのトラスト制度では、ダイナスティトラスト(Dynasty Trust)という仕組みを活用することで、世代を超えた資産承継が可能です。適切に設計されたダイナスティトラストは、永続的に存続し、贈与税や相続税を負担することなく、子や孫の世代に資産を移転できます。
例えば、現在1億円のアメリカ不動産をダイナスティトラストに移転した場合、年間5%の成長を前提とすると、50年後には約11億円、100年後には約131億円の資産価値に成長し、これらすべてが非課税で次世代に継承されます。
| 保有形態 | 初期投資額 | 年間成長率 | 相続税率 | 50年後資産額 |
|---|---|---|---|---|
| 個人名義 | 1億円 | 5% | 40% | 約4.5億円 |
| リビングトラスト | 1億円 | 5% | 20% | 約7.2億円 |
| ダイナスティトラスト | 1億円 | 5% | 0% | 約11億円 |
| 法人所有 | 1億円 | 4% | 25% | 約5.4億円 |
プライバシー保護と機密性の確保
トラストのもう一つの重要な機能は、所有者情報の秘匿性です。個人名義で不動産を保有している場合、所有者情報は公的記録として一般に公開されますが、トラスト名義では受託者の名前のみが記録され、実質的な受益者の情報は秘匿されます。
これは特に著名人や企業経営者にとって重要な機能で、投資活動や資産状況を第三者に知られることなく、アメリカ不動産投資を継続できます。
アメリカ不動産の法人間売却とトラストの相乗効果

それでは次に、トラストを活用したアメリカ不動産の法人間売却による効率化について詳しく見ていきます。
従来の個人間売買では、登記手続き、税務申告、資金決済など複雑な手続きが必要でしたが、トラストを活用することで、これらの取引を大幅に簡素化できます。
トラスト持分譲渡による迅速な取引実現
トラストに複数のアメリカ不動産を保有している場合、個別の不動産を売却するのではなく、トラストの受益権を譲渡することで、ポートフォリオ全体を一括で移転できます。この手法により、通常3ヶ月から6ヶ月を要する不動産売却手続きを、わずか2週間から4週間で完了できます。
ただし受益権の譲渡が使えるかどうかは、トラストの条項、物件の所在州の法律、譲渡先の属性で変わります。使えると決めてから物件を買うのではなく、保有形態を決める段階で出口の取り方まで一緒に設計しておく話です。
1031交換(エクスチェンジ)制度との組み合わせ効果
トラスト名義での不動産投資では、1031交換制度をより柔軟に活用できます。この制度は、同種の投資用不動産を180日以内に取得することで、売却益に対する課税を繰り延べる仕組みです。
個人名義では一つの物件から一つの物件への交換に限定されますが、トラスト名義では複数の物件を組み合わせた複雑な交換取引が可能となります。これにより、ポートフォリオの最適化を図りながら、税負担を最小限に抑制できます。
例えば、古いアパートメント3棟(総額2億円)を売却し、新築のオフィスビル1棟(2億円)を取得する交換を行った場合、通常であれば発生する約4,000万円のキャピタルゲイン税を完全に繰り延べることができます。


















