ニューヨークでご家族と暮らす場合、市内の集合住宅か、郊外の一戸建てか。この判断は、駐在で赴任される方にとって最初の大きな分岐点になります。
郊外を選ぶ場合、マンハッタンから東へ向かう選択肢がロングアイランドです。その入口にあたるのが、クイーンズの東隣に広がるナッソー郡(Nassau County)です。
この地域を検討される際、多くの方が最初に驚かれるのが固定資産税の水準です。物件価格が100万ドルの住宅で、年間2万ドルを超える税額になることは珍しくありません。
一方で、市内では手の届かない敷地と学校環境が現実的な予算で手に入ります。本日はナッソー郡の全体像を、税金と通勤という2つの軸から整理していきます。
1. ナッソー郡という地域の構造

ナッソー郡はロングアイランド島の西半分、クイーンズの東隣に位置します。面積は約735平方キロメートル、人口はおよそ140万人です。
郡の中は、3つのタウン(ヘムステッド、ノースヘムステッド、オイスターベイ)と2つのシティ、そして60を超えるビレッジ(村)に細かく分かれています。
ここが実務上の要点です。同じナッソー郡でも、ビレッジが違えば税率、条例、ごみ収集、警察の管轄まで変わります。物件を検討される際は、住所の郡だけでなく、どのビレッジと学区に属するかを必ず確認してください。
地理としては、北岸(ノースショア)と南岸(サウスショア)で性格が大きく異なります。
北岸はロングアイランド湾に面した丘陵地で、20世紀初頭に富裕層の別邸が建てられた「ゴールドコースト」と呼ばれる一帯です。グレートネック、ポートワシントン、ロズリン、マンハセットがこの区域に含まれます。
南岸は大西洋に面した平坦な地形で、ジョーンズビーチをはじめとする海浜地帯が広がります。中央部には、ガーデンシティやジェリコといった計画性の高い住宅地が位置します。
郊外型の商業施設も充実しており、ルーズベルトフィールドは全米でも有数の規模を持つショッピングモールです。
2. 固定資産税の実額と仕組み

ナッソー郡を検討される際、避けて通れないのが固定資産税です。ここを理解せずに購入すると、毎年の保有コストが想定を大きく超えます。
ナッソー郡の実効税率は、おおむね市場価格の年1.9パーセントから2.4パーセント程度です。100万ドルの住宅であれば、年間1万9,000ドルから2万4,000ドル程度(約295万〜372万円程度)となります。(2026年8月現在、1ドル=155円換算)
税額の内訳で最大の比重を占めるのが学校税です。総額のおよそ6割が学区への納付であり、学区ごとに税率が異なります。学校環境の評価が高い学区ほど税率が高くなる傾向があるのは、この構造によるものです。
残りは郡税、タウン税、ビレッジ税、特別区(消防、水道、下水)の負担で構成されます。
以下は、ニューヨーク市内と郊外の税負担を比較した表です。
| 項目 | ナッソー郡 | ニューヨーク市 |
|---|---|---|
| 固定資産税(実効) | 年1.9〜2.4パーセント | 年0.6〜1.0パーセント程度 |
| 市の不動産譲渡税(RPTT) | なし | 1.0〜1.425パーセント |
| マンションタックス | 100万ドル以上で1.0パーセント | 1.00〜3.90パーセントの累進 |
| 市の所得税 | なし | 居住者に課税 |
※税制は改正されます。実際の税額は物件所在地と時期により異なりますので、必ず個別にご確認ください。
この表で見落とされがちなのが、下2行です。ナッソー郡は固定資産税が重い一方で、市の不動産譲渡税がかからず、マンションタックスも100万ドル超で一律1パーセントにとどまります。
ニューヨーク市内で300万ドルの物件を購入すると、マンションタックスだけで累進税率により相当額に達します。郊外ではこの負担が発生しません。
さらに、市の所得税がかからない点も、居住地の選択としては大きな差になります。
もう一つ実務的に重要なのが、グリーバンス(tax grievance)と呼ばれる減額申立の制度です。郡による評価額に異議がある場合、毎年決められた期間内に申立てを行えます。
ナッソー郡では、この申立を代行する専門業者が多数存在し、減額が認められた場合の成功報酬型が一般的です。購入後は毎年この手続きを行うことが、地元では標準的な実務となっています。詳細はナッソー郡の評価審査委員会の公開情報をご確認ください。
3. LIRR(ロングアイランド鉄道。マンハッタンのペンステーションとロングアイランドを結ぶ通勤鉄道です)による通勤の実際

ナッソー郡での生活は、LIRR(ロングアイランド鉄道)を軸に組み立てられます。どの支線沿いに住むかが、通勤時間を決定します。
2023年にグランドセントラル・マディソン駅が開業し、ペンステーションに加えてグランドセントラルへも直通するようになりました。ミッドタウンの東側にお勤めの方にとって、これは大きな変化です。
主要な支線と所要時間の目安は以下の通りです。
①ポートワシントン支線。グレートネック、マンハセット、ポートワシントンを結びます。ペンステーションまで30分から40分程度です。
②本線・ロンコンコマ支線。ヒックスビル、サイオセットを経由し、急行でペンステーションまで35分から45分程度です。ジェリコにお住まいの方はヒックスビル駅を使います。
③ヘムステッド支線。ガーデンシティ、カントリーライフプレスを経由し、40分から50分程度です。
④オイスターベイ支線。ロズリン、グリーンベールを結びます。本数が限られ、乗り換えを要する時間帯があるため、所要時間は50分から70分程度を見込む必要があります。
ここで強調しておきたいのが、④のように支線によって利便性が大きく異なる点です。地図上の距離が近くても、運行本数と乗り換えの有無で通勤の実感はまったく変わります。
物件を検討される際は、必ず実際の時刻表でご自身の通勤時間帯の本数を確認してください。当社では内見の際、この確認を最初に行っております。
加えて、駅までの移動手段も検討事項です。ナッソー郡の多くの駅では駐車場が住民向けの許可制となっており、順番待ちが発生する地域があります。車での送迎を前提とするか、駅徒歩圏の物件に絞るかで、探す範囲が変わります。
4. 主要タウンの性格と価格帯

それでは、当社にご相談の多いタウンを比較していきます。
| エリア | 戸建て価格帯 | LIRR所要 | 性格 |
|---|---|---|---|
| グレートネック | 120万〜350万ドル | 30〜35分 | 駅前に集合住宅。市内に最も近い |
| ポートワシントン | 110万〜300万ドル | 35〜45分 | 港町。商店街が徒歩圏 |
| ロズリン | 120万〜400万ドル | 50〜70分 | 歴史的な village。車前提 |
| ジェリコ | 100万〜200万ドル | 40〜50分 | 学区評価が高い。完全な車社会 |
| ガーデンシティ | 110万〜280万ドル | 40〜50分 | 1869年計画の街。商業が充実 |
※上記は、2026年現在の当社が現地で把握している市場感に基づく目安であり、個別物件により大きく異なります。
各エリアの詳細は、グレートネック、ポートワシントン、ロズリン、ジェリコ、ガーデンシティの各解説記事をご覧ください。
選び方の考え方を申し上げると、判断軸は次の3つに集約されます。
①通勤時間の上限をどこに置くか。②車を何台持つ前提か。③駅前で歩いて生活したいか、敷地の広さを優先するか。
この3点が決まれば、候補は自然に2つか3つのタウンに絞られます。逆に、ここが曖昧なまま内見を重ねると、判断がぶれて時間だけが失われます。
5. 購入・賃貸時の注意点

ナッソー郡で不動産を取得される際の確認事項を整理します。
①固定資産税は物件ごとに実額を確認すること。同じ価格帯でも学区と特別区の違いで年間数千ドル変わります。
②浄化槽(セスプール)方式の地域があり、下水道への接続状況を確認すること。
③洪水危険区域(FEMAのフラッドゾーン)に該当する場合、洪水保険が必須となり年間保険料が大きく変わること。
④暖房が石油(オイル)方式の住宅では、地下タンクの有無と設置年を確認すること。
⑤ホームインスペクション(建物検査)は必須であり、契約前に実施すること。
とくに③は南岸のエリアで重要です。2012年のハリケーン・サンディ以降、洪水保険の料率と要件は継続的に見直されています。FEMAの洪水地図で該当区域を事前に確認できます。
賃貸をご検討の場合、ナッソー郡は市内と比べて賃貸物件の絶対数が少ない点にご留意ください。戸建ての賃貸は流通しますが、時期によって選択肢が限られます。
駐在で3年から5年の滞在を予定される方には、駅前の集合住宅が選択肢となる地域(グレートネック、ガーデンシティ、ポートワシントン)を優先してご案内することが多くなります。
もう一点、税制上の留意事項です。ニューヨーク州には学校税を軽減するSTARという制度がありますが、これは自己の主たる住居として使用する場合の制度です。投資目的で保有し賃貸に出す場合は対象外となります。
保有形態と税制の関係は取得前に整理しておく必要があります。全体の考え方は不動産とアメリカ移住のガイドにまとめています。
ナッソー郡で知られている場所

それでは、この地域を代表する場所をご紹介します。
サンズポイント・プリザーブは、20世紀初頭のゴールドコースト時代の邸宅と敷地がそのまま保存された公園です。海に面した約216エーカーの敷地に、城館とチューダー様式の邸宅が残ります。
オールドウエストベリー・ガーデンズも同時代の邸宅で、英国式の庭園が公開されています。
海ではジョーンズビーチ州立公園が中心です。南岸に約10キロにわたって続く砂浜で、夏季は郡内外から人が集まります。マンハッタンから車で1時間程度の距離にある本格的な海水浴場です。
買い物はルーズベルトフィールドが郡の中心です。全米でも上位の規模を持つモールで、主要百貨店とブランド店が一か所に揃います。
その名の通り、かつてリンドバーグが大西洋横断飛行に飛び立った飛行場の跡地であり、隣接するクレイドル・オブ・アビエーション博物館にその歴史が展示されています。
まとめ

ナッソー郡は、ニューヨーク市内では実現できない敷地と住環境を、鉄道で通勤可能な距離で確保できる地域です。
その代償として固定資産税は重く、年間2万ドル前後の保有コストが継続的に発生します。この金額を織り込んだ上で判断できるかどうかが、郊外を選ぶかどうかの分かれ目になります。
また、同じ郡内でも支線とビレッジによって通勤の実感と税額が大きく変わります。エリア選びの精度が、そのまま生活の質に直結する地域です。
当社では、ニューヨーク現地にて、物件のご紹介から購入手続き、賃貸のお住まい探しまで、NY州ライセンスを有するプロフェッショナルを通じてご支援しております。
ロングアイランドのエリアにご関心をお持ちの方は、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
※当社はR New York としてのサービスとなります。物件の売買・賃貸のご案内は、NY州の不動産ライセンスに基づき行っております。税務については税理士にご確認ください。
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