
アメリカにある資産を相続するとき、税金と手続きは資産の種類で変わります。同じ100万ドルでも、不動産なら米国の遺産税とプロベートの両方にかかり、米国債なら多くの場合どちらにもかかりません。2026年時点の連邦税法で、非居住者の遺産税の基礎控除は6万ドルしかないため、何をドルで持つかという選択が、そのまま相続の設計になります。
資産の種類で、米国の相続はどう変わるのか
米国の遺産税は、非居住者に対しては米国内にあるとされる資産(米国situs資産)だけに課されます。どの資産が米国内とされるかは、置き場所ではなく資産の種類で決まります。米国株は日本の証券会社で保有していても米国situsです。逆に米国の銀行預金は、米国の銀行にあっても原則として遺産税の対象外です。
| 資産 | 米国遺産税(非居住者・基礎控除6万ドル) | 米国での手続き |
|---|---|---|
| 米国不動産 | 対象 | 原則プロベート(裁判所の検認)。1年以上かかることがある |
| 米国株式(米国法人の株) | 対象。日本の証券口座で保有していても対象 | 証券会社・名義書換代理人の手続き。移管証明を求められる |
| 米国債(1984年より後に発行のもの) | 原則対象外(ポートフォリオ債券の例外) | 保有先の金融機関の相続手続き |
| 米国の銀行預金 | 原則対象外(事業に関連しない預金) | 口座は凍結される。銀行ごとの相続手続きが必要 |
この表が示すのは単純な事実です。米国の遺産税だけを見るなら、不動産と米国株は重く、米国債と預金は軽い。100万ドルの不動産なら概算33万ドル前後の遺産税がかかりうる一方、同じ100万ドルの米国債なら米国の遺産税は原則かかりません。
日本の相続税は、資産の種類で変わらないのか
変わりません。ここが設計の要です。日本に住む相続人が相続する場合、日本の相続税は全世界の資産に課されます。米国の不動産も株も債券も預金も、すべて日本の相続税の対象です。評価は相続時の時価を円換算して行い、残高証明や評価資料を米国側から取り寄せる必要があります。
つまり米国側の税と手続きだけが資産の種類で変わります。米国で遺産税を払った場合、日米相続税条約と外国税額控除の仕組みで二重課税は調整されますが、調整されるのは税額だけで、両国での手続きは両方残ります。
プロベートを避ける方法はあるのか
資産の種類ごとに、生前の設定でプロベートを避ける道があります。証券口座と銀行口座には、死亡時の受取人をあらかじめ指定する仕組み(TODやPODと呼ばれます)があり、指定しておけば口座はプロベートを通らず受取人に移ります。設定は口座画面や窓口で完了し、費用もかかりません。設定していない場合との差は、手続きの月数で表れます。
不動産にはこの仕組みが使えない州が多く、リビング・トラストに入れておくのが標準的な回避策です。設立に費用はかかりますが、プロベートの期間(平均18ヶ月から3年)と費用(遺産総額の3%から10%)を考えると、米国不動産を持つ場合には検討に値します。
見落とされやすい点
受取人指定やトラストはプロベートを避ける仕組みであって、遺産税を減らす仕組みではありません。混同されがちですが、別の問題です。TODを設定した米国株も、遺産税の計算には含まれます。手続きの速さと、税額の重さを分けて考えてください。
ドル資産の持ち方は、相続からどう逆算するか
資産の種類ごとの扱いが分かると、逆算ができます。相続まで視野に入れるなら、同じドル資産でも「何で持つか」で結果が大きく違います。
米国債と預金は、米国の遺産税の観点では軽い資産です。米国株は運用益では有利でも、非居住者の相続では基礎控除6万ドルの壁に直面します。不動産は遺産税とプロベートの両方が重い代わりに、賃料と値上がりと減価償却という他にない収益構造を持ちます。重い資産を選ぶなら、トラストや保険で相続の備えを同時に設計する。軽い資産で固めるなら、収益性をどこで取るかを別に考える。どちらかを選ぶのが設計です。
一般論はここまでです。資産構成と含み益の大きさで最適な持ち方は変わります。個別のご事情に応じた設計はお問い合わせフォームよりご相談ください。実際にお手伝いした取引は取引実績に掲載しています。
不動産の遺産税の実額は非居住者の遺産税の記事に、プロベートの流れはプロベートの記事に、生前贈与との比較はアメリカの贈与税の記事に、米国相続税の制度全体はアメリカ相続税の記事にまとめています。
遺言書をどう用意するかは日本の遺言書はアメリカで使えるかの記事で、受取人指定・トラストとの使い分けまで整理しています。
保有中に名義を変える場合の費用は名義変更の記事にまとめています。
よくある質問
米国株を日本の証券会社で持っていても米国の遺産税はかかりますか。
かかります。米国法人の株式は保有場所に関係なく米国内資産として扱われます。非居住者の基礎控除は6万ドルのため、まとまった米国株には遺産税の検討が必要です。
米国債の相続に米国の遺産税はかかりますか。
1984年より後に発行された米国債は、ポートフォリオ債券の例外により原則として非居住者の遺産税の対象外です。同じドル資産でも米国株とは扱いが正反対になります。
アメリカの銀行口座は相続でどうなりますか。
口座名義人が亡くなると凍結され、銀行ごとの相続手続きが必要になります。遺産税は事業に関連しない預金なら原則対象外ですが、手続きなしに引き出すことはできません。
日本の相続税はどの資産にかかりますか。
日本に住む相続人が相続する場合、全世界の資産が対象です。米国の不動産も株も債券も預金もすべて日本の相続税の計算に入り、相続時の時価を円換算して評価します。
受取人指定(TOD)をすれば遺産税もかかりませんか。
かかります。受取人指定はプロベートという手続きを避ける仕組みで、遺産税を減らす仕組みではありません。手続きの速さと税額の重さは別の問題として設計してください。
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