ニューヨークで買うとき、売主が見ているのは金額だけではありません。どの条件を付けたオファーかを同じくらい見ています。同じ200万ドルでも、ローン特約を付けたオファーと現金で条件なしのオファーでは、売主にとって価値が違います。
条件(コンティンジェンシー)は、その条件が満たされなければ手付金を失わずに契約から抜けられるという取り決めです。買主を守る仕組みですが、付けるほどオファーは弱くなります。外せば通りやすくなり、外した分のリスクは自分で持つことになります。
主な3つの条件が何を守るのか、外すときに何が起きるのか、そして日本にお住まいの方が外してよい条件とそうでない条件を順に見ていきます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
1. 買主を守る3つの条件

ローン、検査、鑑定
①ローン特約(Financing Contingency)。決められた期限までに融資の承認が下りなければ、契約を解除して手付金を返してもらえます。承認までは通常30日から45日かかります。
②検査特約(Inspection Contingency)。専門家に建物を見てもらい、重大な不具合が見つかれば解除または再交渉ができます。ニューヨークのコンドミニアムでは建物全体の管理は管理組合が行うため、住戸内の設備と配管が中心になります。
③鑑定特約(Appraisal Contingency)。銀行が依頼する鑑定の評価額が契約価格に届かなかった場合に抜けられます。ローンは鑑定額を基準に出るため、届かなければ差額を現金で埋めることになります。200万ドルの物件で鑑定が190万ドルなら、10万ドル(約1,550万円)を追加で用意する必要があります。
2. 外すと何が起きるか

手付金が戻らない
ニューヨークの手付金は契約時に価格の10%を入れるのが通例です。200万ドルなら20万ドル(約3,100万円)を、売主側の弁護士の預り口座に預けます。
条件を外したオファーで契約し、その後に融資が下りなかった場合、契約違反になります。手付金は戻りません。検査特約を外して契約した後に配管の大規模な不具合が見つかっても、値引きを求める根拠がありません。
つまり、条件を外すというのはその分のリスクを手付金で担保するという意味です。通りやすさを金額ではなくリスクで買っている、と考えると判断しやすくなります。
以下は、3つの条件を外した場合に何を負うのかを並べた表です。
| 条件 | 守るもの | 外したときに負うもの | 非居住者の判断 |
|---|---|---|---|
| ローン特約 | 融資が下りない場合の解除権 | 手付金(価格の10%) | 外さない。審査が長く読みにくい |
| 検査特約 | 不具合が見つかった場合の解除・再交渉 | 修繕費用の全額 | 契約前に検査を済ませてから外す |
| 鑑定特約 | 鑑定額が価格に届かない場合の解除権 | 差額の現金 | 差額を出せるときだけ外す |
※上記は一般的な整理です。契約書の文言と期限は取引ごとに異なり、実際の解除の可否は契約の条項で決まります。
3. 日本から買う場合、外していい条件は限られる

審査が読めないうちは、ローン特約を外さない
日本にお住まいの方が米国でローンを組む場合、審査は米国の居住者より時間がかかります。米国のクレジットヒストリーがなく、収入の証明も海外の書類になるためです。頭金は30%から40%を求められることが多く、金利も居住者向けより高くなります。
この状況でローン特約を外すのは、手付金を賭けているのと変わりません。審査の見通しが立たないうちは外さない、というのが基本です。条件と金利の実際はアメリカの住宅ローンの組み方にまとめています。
一方、現金で買う場合はローン特約も鑑定特約も必要ありません。現金であることが、そのまま条件を外したオファーになります。売主から見れば、融資が下りないという最大の不確実性が消えるため、多少低い金額でも通ることがあります。日本から現金で買う場合の段取りは日本から買うの記事で扱っています。
4. 検査だけは、外す前に済ませておける

順序を変えれば、条件を付けずに守れる
検査特約は、外し方に工夫の余地があります。オファーを出す前に検査を済ませてしまうという方法です。売主の許可を得て内見の段階で専門家を入れ、結果を見たうえで条件なしのオファーを出します。
売主から見れば条件のないオファーで、買主から見れば中身を確認済みです。検査の費用は先に出ていきますが、条件を外した強いオファーを、リスクを負わずに出せます。
コンドミニアムの場合、住戸の検査と同じくらい重要なのが管理組合の財務です。修繕積立金が薄い建物では、購入後に臨時徴収が来ます。これは検査特約では守れないため、契約前に予算書と議事録を取り寄せて読む必要があります。何を見るかは購入前に確認するHOAの財務書類にまとめました。
購入の流れ全体はニューヨーク不動産の購入ガイドに、決済までの手順はエスクローの解説にあります。
まとめ

外すなら、外した分を手当てしてから
オファーの条件は、買主が抜けられる権利です。付ければ守られ、外せば通りやすくなり、外した分は手付金と自己資金で負うことになります。ニューヨークの手付金は価格の10%が通例で、200万ドルなら20万ドルです。
日本にお住まいの方は、審査の見通しが立たないうちはローン特約を外さないのが基本です。検査特約は、オファーの前に検査を済ませることで、条件を付けずに中身を確認できます。
どの条件を外せるかは、資金の出し方と物件の状態で決まります。オファーを出す前の段階からご相談ください。
よくある質問
コンティンジェンシーを外すと何が起きますか。
その条件で守られていたリスクを手付金で負うことになります。ニューヨークの手付金は価格の10%が通例で、200万ドルなら20万ドルです。ローン特約を外して融資が下りなければ契約違反となり、手付金は戻りません。
日本から買う場合、ローン特約は外せますか。
審査の見通しが立たないうちは外さないのが基本です。米国のクレジットヒストリーがなく収入証明も海外の書類になるため、居住者より審査に時間がかかります。現金で買う場合はローン特約も鑑定特約も不要で、それ自体が強いオファーになります。
検査特約を外しても中身を確認する方法はありますか。
オファーを出す前に検査を済ませる方法があります。売主の許可を得て内見の段階で専門家を入れ、結果を見てから条件なしのオファーを出します。売主から見れば条件のないオファーで、買主は中身を確認済みという形になります。
鑑定額が契約価格に届かないとどうなりますか。
ローンは鑑定額を基準に出るため、差額を現金で埋めることになります。200万ドルの物件で鑑定が190万ドルなら10万ドルの追加です。鑑定特約を付けていれば解除できます。
PRACTICE取得・保有・出口の実務(119件)
買うとき
- 物件の探し方 — 情報の仕組みと在庫の実際
- 日本から買う — 内見から送金までの実務
- 米国のローン — LTVとレバレッジの考え方
- アメリカの住宅ローン — 駐在・非居住者でも借りられる条件と金利
- ニューヨークシティのコンドミニアム購入 — 価格相場と手順、費用と名義の決め方
- DSCRローン — 収入証明なしで組む条件
- 法人名義で買うか — 個人所有との損益分岐
- タイトル保険 — 日本の登記制度との違い
- 不動産会社の選び方 — 確認すべき5点
- 失敗は5つに集まる — 契約前に確認できる項目
- 海外不動産のデメリット4つ — 対処できるものとできないものを分ける
- 新築と中古 — 価格・交渉・維持費で比べる
- プレコンストラクション — 竣工前に買う判断
- タウンハウス一棟 — 管理組合のない所有
- 借りるか買うか — 高金利下の損益分岐
- オファーの条件をどこまで外すか(この記事)
- 住みながら買う — 賃貸を続ける場合との比較
- 買付前に揃える資金証明 — 海外資産をどう示すか
- 購入資金を日本から動かす — 送金の手順と証跡の残し方
- 価格を交渉する — 売主が実際に見ている条件
- 新築か中古か — 費用構造から比べる
- ペントハウスとは何か — 名称の実態と価値の見極め方
- Airbnb前提で買わない — 30日ルールの実際
- アメリカ不動産の買い方 — 手続き・費用・注意点
- アメリカで家を買うときにつまずきやすい点 — 準備の順序で結果が変わる
- 利回りか、資産の置き場所か — ニューヨークを選ぶ理由の分かれ目
- コンドとコープの違い — 審査・費用・売りやすさ
- 賃貸と購入の総費用 — 税制とリスクまで含めて比べる
- オフマーケット物件 — 情報が回る経路と紹介を受ける準備
- バイヤーエージェント — 買主側につく担当の役割
- アトーニー(弁護士) — 契約と決済で担う役割
- 購入前のデューデリジェンス — 確認すべき書類と手順
- インスペクション — 何を見て、いくらかかるか
- 価格はどう決まるか — 鑑定と成約事例の読み方
- 買うのに何ヶ月かかるか — オファーから鍵の受け取りまで
- クロージング費用 — 内訳と節約できる項目
- マンションタックスと譲渡税 — 100万ドルを超えると変わること
- エスクロー — 仕組みと流れ、日本との違い
- タイトル保険の費用 — 必要な理由と保険料の決まり方
- 新築コンドのスポンサーユニット — 仕組みと交渉
- SSNなしで組むローン — 3つの方法を比べる
- 学区と価格の関係 — コンドミニアム相場の読み方
持っているあいだ
- 管理費は月いくらか — 区別の実額と安い建物の落とし穴
- 不動産にかける保険 — 所有形式で必要な補償が変わる
- 買った後の管理 — 海外に住みながら所有を続ける
- 管理会社の選び方 — 費用と契約前の確認事項
- テナント管理 — 賃料回収と契約更新の実務
- 収益改善の手法 — プロパティマネジメントの実際
- アメリカの固定資産税は年いくらか — 州別の実効税率と物件価格別の年額
- 減価償却で税を前倒しする — 建物比率と、個人名義・法人名義の違い
- 4年償却は使えるのか — 2020年改正後の正しい姿
- 改正後に残った節税の道 — 個人の損益通算と法人名義の分かれ目
- 土地の権利とゾーニング — 何が建てられるかの規制
- 保証人と保証会社 — 収入40倍の壁を越える
- 賃貸収入の税務 — 非居住者の源泉徴収と純額課税の選択
- 非居住者の確定申告 — オーナーの年間カレンダー
- 価格の推移 — 10年・5年・直近1年を都市別に見る
- 駐在員の確定申告 — 日米どちらに出すか、FBARの1万ドルの線
- 賃料の日本での申告 — 円換算のレート、償却の制限、外国税額控除
- 国外財産調書と財産債務調書 — 5,000万円と3億円の線
- 法人名義と日本の合算課税 — LLCは日本では外国法人。20%と27%の線
- 日本にいながら賃貸を回す — 管理会社の選び方と契約で決めること
- 家賃を払わない入居者 — 貸主にできることと、できないこと
- 買った翌年に税額が変わる — 減免の残存年数で年2万ドルの差
- 固定資産税の不服申立 — 3月1日と3月15日という期限
- 州を固定資産税で選ぶ前に — 同じ州でも郡と学区で倍変わる
- マルチファミリー投資 — 収益構造と融資、見落としやすいリスク
- 賃料規制物件を買うと — レントスタビライゼーションの実際
- リノベーション — 管理組合の承認と工事の実際
- コストセグリゲーション — 償却を前倒しする調査の中身
- 不動産プロフェッショナル(REPS) — 給与所得の課税を下げる仕組み
- IRSの税務調査 — 備えておく書類
- 売らずに積み上げる — 担保に次を買い、課税を繰り延べる
- 商業不動産への投資 — 住宅との違いと市場の特徴
- ピエダテール税 — 日本に住む所有者のコンドは対象か
- 家賃凍結 — 貸している物件に効くのはどの住戸か
出すときと税務
- 売るときの流れ — 海外にいながら決済まで
- 売却の手続きと税金 — 必要書類まで
- 売却の戦略 — 市場を見て出口を決める
- 非居住者のキャピタルゲイン税 — 1040NRの申告手順
- 1031エクスチェンジ — 譲渡益を繰り延べる仕組み
- 出口の使い分け — 源泉徴収・1031・セクション121
- QOF(適格機会基金) — 譲渡益の課税を繰り延べる
- オポチュニティゾーン — 繰延制度の中身
- FIRPTAの源泉徴収 — 売却代金の15%と還付の手続き
- 贈与税はいくらから — 非居住者は生涯控除ゼロ
- アメリカの相続税 — 連邦と州、非居住者の場合分け
- 非居住者の遺産税 — 基礎控除6万ドルの壁
- 不動産をトラスト名義にする — プロベートは避けられるが遺産税は消えない
- 日本の相続税評価 — 鑑定評価、TTB換算、小規模宅地の特例
- FIRPTAと外国税額控除 — 対象は確定税額。控除の年がずれる
- 売却の為替差益 — 取得日と売却日のTTMで譲渡所得が変わる
- ニューヨーク州の遺産税 — 控除を5%超えると全部消える
- 持分を毎年贈与するか — 取得費が引き継がれるか、時価に置き換わるか
- 信託(トラスト) — 種類・税務・債権者保護
- 複数人で持つ — 共有の形式で相続の結果が変わる
- 遺言書 — 手続きと費用、税務上の注意
- FBAR・FATCA — 海外金融口座の報告義務
- 駐在員の確定申告 — 日米の税金と控除
- 日米の税制の要点 — 法人設立の前に押さえる
- 日米租税条約 — 軽減されるもの、されないもの
- 富裕層の節税の型 — 実際に使われている7つ
- 資産をどこに置くか — 富裕層の配分と、不動産が選ばれる理由
- C-Corp と LLC — 形態ごとの課税の違い
- 1031と日本の課税 — 米国で繰り延べても日本では課税される
- 相続したときの名義の移り方 — 検認と納税証明の順番
- プロベートの費用と期間 — 回避する方法
- 資産の種類で変わる相続 — 米国株・米国債・預金・不動産
- 日本の遺言書は使えるか — 現地で別に作る場合の線引き
- 名義変更でかかる費用 — 買った後に器を変える代償
- 住んでから貸すか、貸してから住むか — 順番だけで7万1,400ドル変わる
- 所得税ゼロの州で買う — 効く人と効かない人の境界線
市場を読む
- 今後10年の市場予測 — 投資家が見ておく5つの流れ
- 住宅不足はなぜ解消しないか — 供給ギャップと価格への影響
- 2026年のアメリカ不動産市場 — 金利と為替、地域差
- ニューヨーク住宅市場の現在地 — 価格動向とエリア別の需給
- なぜニューヨーク不動産なのか — 価値が残る7つの理由
- 利回りが高い州と都市 — 全米の順位と読み方
- アメリカ不動産投資の始め方 — 利回りと税制の基本
全体の流れ
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。

















