利回りの良さそうな集合住宅が売りに出ている。数字を見ると悪くない。ところが現地のブローカーが「レントスタビライズドが3戸入っています」と言った瞬間、話が変わります。
ニューヨークには、大家が自由に賃料を決められない住戸が約100万戸あります。市内の賃貸住戸のおよそ半数です。
この住戸を含む物件を買うと、購入後に市場賃料へ引き上げることはできません。表面利回りの計算がそのまま崩れます。
本日は、ニューヨークの賃料規制物件を買うと実際に何が起きるのかを見ていきましょう。
1. 賃料規制には2種類ある

ニューヨークの賃料規制は、レントコントロールとレントスタビライゼーションの2つに分かれます。
レントコントロールは1947年以前から住み続けている世帯が対象で、残っているのは市内で1万戸台と、実務上ほとんど出会いません。
問題になるのはレントスタビライゼーションのほうです。対象は主に1974年以前に建てられた6戸以上の建物で、こちらは約100万戸あります。加えて、421-aなどの固定資産税減税を受けた新しい建物も、減税期間中は規制対象になります。
つまり、古い建物だけの話ではありません。新築のタワーでも、減税を受けていれば規制住戸が含まれていることがあります。制度の詳細はニューヨーク州の住宅・地域再生局(HCR)が公開しています。
2. 買主にとって何が制限されるのか

規制住戸を含む物件を購入すると、次の制限をそのまま引き継ぎます。
①賃料の値上げ幅が委員会で決まる。ニューヨーク市の賃料ガイドライン委員会が毎年、1年契約と2年契約それぞれの上限を決めます。近年は1年契約で数パーセント台にとどまっており、市場の上昇率には届きません。
②契約更新を拒否できない。賃借人には更新の権利があり、大家の都合で退去させることは原則できません。相続人が居住していれば、その方に引き継がれることもあります。
③空室になっても市場賃料に戻せない。ここが最大の変更点です。2019年の法改正まで、退去時に一定の条件で規制を解除できる仕組みがありました。この解除手段は2019年に廃止されています。
それでは、改正の前後で何が変わったかを表で整理します。
| 項目 | 2019年改正前 | 改正後(現在) |
|---|---|---|
| 高額賃料での規制解除 | 一定額を超えると解除可能 | 廃止。解除できない |
| 空室時の上乗せ | 最大20%程度の上乗せ可 | 廃止 |
| 改修費の賃料転嫁 | 工事費に応じて転嫁可 | 上限と期間が厳格化 |
| オーナー使用による明渡し | 比較的柔軟 | 原則1戸に制限 |
※上記は、2019年の住宅安定・賃借人保護法による主な変更点です。
以上を踏まえると、かつて成立していた「規制住戸を買って、退去を待って市場賃料に戻す」という投資手法は、現在は成立しません。古い前提で書かれた情報を信じて購入すると、想定した収益は出ません。
3. それでも規制物件を買う理由はあるか

ここまで制限ばかり述べましたが、規制住戸を含む物件が常に不利かというと、そうではありません。
まず、価格に織り込まれています。規制住戸の比率が高い物件は、同じ立地の自由賃料物件より安く取引されます。安く買えるという事実は、それ自体が条件の一つです。
次に、空室リスクが低いという側面があります。規制住戸の賃料は市場より安いため、賃借人が出ていく動機に乏しく、長期にわたって安定した入居が続きます。景気後退局面では、この安定が効きます。
一方で、修繕費と固定資産税は市場と同じように上がります。賃料が上がらず費用だけ上がる構造なので、長期保有では収支が悪化していく点は織り込んでおく必要があります。
4. 購入前に確認すること

集合住宅の購入を検討される際、レントロール(賃料一覧)で必ず確認すべき点は次の通りです。
・各住戸が規制対象か自由賃料か、住戸ごとに明示されているか
・規制住戸の現在賃料と、委員会が認める上限賃料(リーガルレント)の差
・現在の賃料が市場賃料と比べてどれだけ低いか(ロス・トゥ・リースの実額)
・過去に賃料の過大請求で係争がなかったか
・減税措置を受けている建物か、受けている場合の残り期間
特に4点目は見落とされます。過去に規制を超える賃料を請求していた履歴があると、購入後に前所有者の分まで返還請求を受ける可能性があります。この責任は物件とともに引き継がれるため、弁護士による確認が欠かせません。
集合住宅の収支の見方はマルチファミリー投資の記事に、購入前の確認手順はデューデリジェンスの記事にまとめています。
まとめ

賃料規制は、ニューヨークの集合住宅投資で最初に確認すべき項目です。2019年の改正で解除の道はほぼ閉じており、規制住戸は規制されたまま持ち続ける前提で計算してください。
安く買えることと引き換えに、賃料は上がらず費用だけが上がる。この構造を理解したうえでなら、選択肢に入れる価値はあります。
ご検討中の物件のレントロールを拝見し、規制の有無と収支への影響をお示しいたします。
よくある質問
レントスタビライゼーションとは何ですか。
ニューヨークの賃料規制制度で、対象住戸では賃料の値上げ幅が毎年市の委員会の定める率に制限され、入居者には原則として契約更新の権利があります。対象かどうかは建物と住戸の履歴で決まり、所有者の意向では外せません。
規制対象の物件を買うと何が起きますか。
入居者がいる場合、その入居者の賃料と更新の権利をそのまま引き継ぎます。市場水準まで賃料を上げることも、自由に退去を求めることも原則できません。購入前に各住戸の規制状況と賃料履歴を必ず確認する必要があります。
規制対象かどうかはどうやって確認しますか。
州の住宅当局に賃料履歴の開示を請求する方法が確実です。売主側の説明だけに頼らず、書面での確認をご推奨いたします。2019年の法改正で規制を外れる経路が大幅に狭まったため、現在対象の住戸は今後も対象が続く前提で判断します。
規制物件は投資として成立しますか。
賃料の上昇余地が制限されるぶん価格は割安になる傾向があり、長期の安定収入を重視する投資には合う場合があります。一方、賃料を上げて価値を高める戦略は取れません。ご自身の投資方針との整合を先にご確認ください。
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