ニューヨークに駐在で赴任される方から、赴任前のご相談でもっとも多く名前が挙がるエリアがあります。クイーンズ西端のロングアイランドシティ、通称LICです。
イーストリバーを挟んでミッドタウンの真向かいに位置し、地下鉄7系統でグランドセントラルまで1駅、所要時間は約10分という立地にあります。
この20年でLICは、市内でもっとも大きく姿を変えたエリアです。倉庫と工場が並んでいた水辺に高層レジデンスが林立し、住宅供給の中心地となりました。
ただし、ひとくちにLICと言っても、地区によって性格はまったく違います。本日はLICの街と不動産事情を、地区ごとの差を含めて見ていきましょう。
1. LICはどのようにして現在の姿になったか

LICはクイーンズの最西端に位置し、北はアストリア、東はサニーサイド、南はグリーンポイント(ブルックリン)と接しています。
19世紀から20世紀半ばまで、この一帯は製造業の集積地でした。パン、時計、家具、化学製品の工場が並び、鉄道の貨物ヤードが水辺を占めていました。
転機は2001年です。ハンターズポイント地区の用途地域が住宅用途へ変更され、水辺の大規模開発が可能になりました。
2000年代半ばから高層レジデンスの竣工が始まり、2010年代には市内でもっとも多くの新築住戸が供給される地区となります。この傾向は現在も続いています。
もう一つLICを特徴づけるのが、文化施設の集積です。MoMA PS1は公立学校の校舎を転用した現代美術館で、近代美術館(MoMA)の関連機関として企画展を行っています。
ほかにも、イサム・ノグチ庭園美術館、ソクラテス・スカルプチャー・パークが近接し、工業地帯だった時代の建物がスタジオやギャラリーとして使われ続けています。
水辺のガントリープラザ州立公園には、貨物船の積み下ろしに使われていた鉄骨のガントリーがそのまま残され、地区の象徴になっています。
2. 地区ごとの性格の違い

LICで物件をお探しになる際、まず理解しておくべきは地区の区分です。同じLICでも、生活の実感がかなり異なります。
①ハンターズポイント(水辺)。ガントリープラザ州立公園に面した一帯で、マンハッタンの眺望を持つ高層レジデンスが並びます。LICでもっとも家賃が高い地区です。
②コートスクエア。7系統、E・M・G系統が集まる交通の結節点で、シティグループビルを中心に高層タワーが集中します。通勤利便性は市内最高水準です。
③クイーンズプラザ周辺。地下鉄N・W・R・E・M・F・7系統が使える一方、幹線道路と高架が交差するため、街の表情は交通量に左右されます。
④ダッチキルズ/内陸部。旧工業区画が残り、比較的新しい中規模物件が点在します。水辺より2割前後安い水準です。
ご家族での駐在であれば①、単身で通勤時間を最短にしたい方は②、予算を抑えたい方は④、という整理になります。
代表的なレジデンスとしては、水辺のハンターズポイント・サウスの物件群、コートスクエアのシティ・タワー系の高層賃貸、そして分譲では水辺沿いの中高層コンドミニアムが挙げられます。
賃貸物件はビル単位で管理会社が一括運営していることが多く、内見から契約までの手続きが標準化されている点は、赴任時の実務では大きな利点になります。
3. 家賃とコンドミニアム価格の相場

それでは、実際の相場を見ていきます。
2026年現在、LICの賃貸はスタジオで月3,000〜3,600ドル程度、1ベッドルームで月3,800〜4,600ドル程度、2ベッドルームで月5,000〜6,500ドル程度が中心帯です。(2026年8月現在、1ドル=155円換算)
分譲では、コンドミニアムの1ベッドルームが95万〜150万ドル程度、2ベッドルームが130万〜200万ドル程度が目安となります。
以下は、通勤時間が近い他エリアとの比較です。
| エリア | 家賃(1BR) | コンド価格(1BR) | ミッドタウンまで |
|---|---|---|---|
| ロングアイランドシティ | 3,800〜4,600ドル | 95万〜150万ドル | 10〜15分 |
| ミッドタウンイースト | 4,500〜5,800ドル | 110万〜180万ドル | 徒歩圏 |
| アストリア | 2,600〜3,300ドル | 60万〜85万ドル | 20〜25分 |
| グリーンポイント | 3,800〜4,500ドル | 90万〜150万ドル | 25〜35分 |
※上記は、2026年現在の当社が現地で把握している市場感に基づく目安であり、個別物件により大きく異なります。
この表で注目していただきたいのは、ミッドタウンイーストとの差です。通勤時間の差が10分程度であるのに対し、家賃で月700〜1,200ドル、購入価格で15パーセントから20パーセント安い水準にあります。
加えて、LICの物件は築年数が新しく、ジム、ラウンジ、屋上テラス、コンシェルジュといった共用施設が標準装備です。設備の水準で比較すれば、実質的な差はさらに開きます。
投資の観点では、表面利回りで3.5パーセント前後が目安となります。マンハッタンの同等物件より0.5ポイント程度高く、賃貸需要が新築供給に吸収され続けている点が特徴です。
ニューヨーク全体の家賃水準は、ニューヨークの家賃相場の記事で解説しています。
4. 交通アクセスと生活環境

続いて、通勤と日々の生活を見ていきます。
LICの最大の資産は交通です。7系統はコートスクエアからグランドセントラルまで1駅、所要時間は約10分です。E・M系統はミッドタウンの53丁目方面へ、N・W系統は5番街とタイムズスクエア方面へ直行します。
G系統はブルックリン方面への移動に使え、NYCフェリーのハンターズポイント発着便はイースト34丁目やウォール街方面へ乗り換えなしで結びます。
これだけ多様な経路を持つ住宅地は、市内でも限られます。路線が止まっても代替手段が確保できるという点は、日々の通勤では想像以上に効いてきます。
生活面では、ヴァーノン・ブルバードとジャクソンアベニューが商店の中心です。スーパーマーケット、飲食店、カフェ、ジムが一通り揃っており、日常の買い物で不便を感じることはありません。
大型店での買い物が必要な場合は、車で15分程度の距離に量販店が集まっています。
ご家族でお住まいの場合、水辺のハンターズポイント・サウス・パークが生活の中心になります。芝生、遊具、ランニング路が整備され、対岸に国連本部とミッドタウンのスカイラインを望みます。
教育環境はクイーンズ学区30に属します。個別校の状況は年度ごとに変わりますので、ニューヨーク市教育局の公開情報でご確認いただくことを推奨いたします。
賃貸契約の手続きや必要書類は、ニューヨークの賃貸ガイドにまとめています。
5. 購入時の注意点と資産価値の考え方

LICで購入をご検討される際、確認しておくべき論点があります。
①新築供給が続いているため、竣工時期によっては同一地区内で賃料の競合が発生すること。
②税制優遇(421-a等)の適用を受けた物件では、優遇期間の終了に伴い固定資産税が段階的に上昇すること。
③眺望が価格に強く反映されるため、将来の隣地開発による眺望の喪失リスクを確認すること。
④共用施設が充実している分、共益費(コモンチャージ)が高くなる傾向にあること。
とくに②は、購入後の収支を大きく左右します。優遇期間中の税額だけを見て利回りを計算すると、数年後に前提が崩れます。
当社では購入検討時に、優遇の残存年数と期間終了後の税額見込みを必ず確認しております。
③についても実務的な要点です。LICは開発余地が残っている地区であり、隣接する低層区画が将来タワーに置き換わる可能性があります。眺望に対して支払う金額は、その眺望が確保される根拠とセットで判断すべきです。
水辺の公園に面した住戸や、公園越しに視界が抜ける住戸は、この点で優位に立ちます。
資産価値の面では、通勤10分という立地条件が最大の支えです。ミッドタウンのオフィス需要が続く限り、この距離に対する需要は構造的に維持されます。
投資戦略の全体像は、ニューヨーク不動産投資ガイドをご参照ください。
地元で通われている店と公共空間

それでは、この地区で日常的に使われている場所をご紹介します。
ガントリープラザ州立公園は、LICの生活の中心です。貨物用のガントリーが保存され、桟橋の先からミッドタウンのスカイラインを正面に望みます。
南に続くハンターズポイント・サウス・パークは近年整備された区画で、芝生と遊具が広く取られています。
食では、カサ・エンリケが知られています。メキシコ料理の店で、ミシュランの星を保持し続けている数少ないクイーンズの飲食店です。
スウィートリーフはLICの焙煎店で、地区の再開発が始まった初期から営業を続けています。
文化施設ではMoMA PS1が中心です。旧校舎の教室をそのまま展示室に使う構成で、夏季には中庭で音楽イベントが開催されます。
北側にはイサム・ノグチ庭園美術館があります。彫刻家イサム・ノグチが自らの作品のために設計した施設で、屋外の彫刻庭園を含めて静かな時間が流れる場所です。
クイーンズの他のエリアはクイーンズのエリアガイド一覧から、ロングアイランド方面はロングアイランドのエリアガイド一覧からご覧いただけます。
まとめ

ロングアイランドシティは、ミッドタウンまで10分という通勤条件、新しく設備の整った住戸、そして水辺の公共空間を併せ持つ、駐在の方にとって完成度の高いエリアです。
一方で、新築供給が続く市場であるため、購入にあたっては税制優遇の残存年数、眺望の将来性、共益費の水準という3点を必ず確認する必要があります。
当社では、ニューヨーク現地にて、物件のご紹介から購入手続き、賃貸のお住まい探しまで、NY州ライセンスを有するプロフェッショナルを通じてご支援しております。
LICのエリアにご関心をお持ちの方は、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
※当社はR New York としてのサービスとなります。物件の売買・賃貸のご案内は、NY州の不動産ライセンスに基づき行っております。
近隣エリアの記事もあわせてご覧ください。アストリア、クイーンズの各エリアまとめ。
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。

















