
アメリカに資産がある場合、日本で書いた遺言書だけで足りるかどうかは資産の種類と金額で分かれます。日本の遺言書は米国でも効力を認められえますが、プロベート(裁判所の検認)の中で外国の遺言として扱われ、翻訳と証明の手続きが加わって時間が延びます。米国内の資産が大きい場合、米国の資産だけを対象にした遺言書を現地で別に作るのが実務の標準です。
日本の遺言書はアメリカで使えるのか
使えます。ただし条件と手間があります。米国の相続手続きは州法で動いており、多くの州は方式が有効な外国遺言を受け入れます。問題は有効性ではなく手続きの重さです。日本語の遺言書は、プロベートの場で翻訳、方式の証明、場合によっては日本法の専門家による宣誓書面まで求められます。ただでさえ平均18ヶ月から3年かかるプロベートが、外国遺言の証明でさらに延びます。
日本にいる相続人が、米国の裁判手続きを海外から進めながら、日本の遺言書の英訳と証明を整える。この負担が、日本の遺言書だけで済ませることの実際のコストです。
米国で別に遺言書を作ると何が変わるのか
米国内の資産だけを対象にした遺言書(Situs Will と呼ばれます)を現地の方式で作っておくと、プロベートが現地の書式のまま進みます。翻訳も外国方式の証明も不要になり、手続きの月数が縮みます。日本の遺言書は日本の資産用、米国の遺言書は米国の資産用と分ける形です。
注意点が1つあります。2通の遺言書は互いに取り消し合わないように作る必要があります。遺言書には「これまでの遺言をすべて取り消す」という定型文が入ることが多く、後から作った1通が先の1通を消してしまう事故が実際に起きます。両方の専門家に、もう1通の存在を伝えて整合させてください。
遺言書があればプロベートは避けられるのか
避けられません。ここが最も誤解されている点です。遺言書はプロベートの道案内であって、プロベートの回避策ではありません。遺言書があってもプロベートは行われ、遺言書はその中で「誰に渡すか」を示す文書として機能します。
| 備え | できること | できないこと |
|---|---|---|
| 日本の遺言書のみ | 誰に渡すかの指定 | プロベート回避。手続きはむしろ重くなる |
| 米国のSitus Will追加 | プロベートを現地書式で速く進める | プロベート自体の回避。遺産税の軽減 |
| 受取人指定(TOD/POD) | 証券・銀行口座のプロベート回避 | 不動産には使えない州が多い。遺産税は減らない |
| リビング・トラスト | 不動産を含むプロベート回避 | それ自体では遺産税は減らない。設立費用がかかる |
つまり優先順位はこうなります。証券口座と銀行口座は受取人指定を設定する(無料で、プロベート自体を外せます)。不動産は金額と保有方針に応じてトラストを検討する。遺言書は、これらの指定から漏れる資産の受け皿として整える。遺言書だけで完結させようとすると、一番重い手続きが残ります。
遺言書が何もないと、どうなるのか
州の無遺言相続法(インテステート)に従って分配されます。分配の配分は州法が決めるため、日本の法定相続分と一致するとは限りません。配偶者と子がいる場合の取り分は州によって違い、想定と違う配分になりえます。さらに、誰が相続人かの証明を日本の戸籍から英訳で組み立てることになり、手続きは最も重くなります。
一般論はここまでです。受取人指定・トラスト・遺言書のどれを組み合わせるかは、資産の種類と金額で変わります。個別のご事情に応じた設計はお問い合わせフォームよりご相談ください。実際にお手伝いした取引は取引実績に掲載しています。
資産の種類ごとの遺産税とプロベートの扱いは資産の種類で変わるアメリカの相続の記事に、プロベートの流れと費用はプロベートの記事に、トラストの種類と費用はアメリカの信託の記事にまとめています。
よくある質問
日本で書いた遺言書はアメリカで有効ですか。
多くの州で、方式が有効な外国遺言として受け入れられます。ただしプロベートの中で翻訳と方式の証明が求められ、手続きは現地の遺言書より重く、長くなります。
アメリカで遺言書を作れば、日本の遺言書は不要ですか。
不要にはなりません。米国の遺言書は米国の資産用、日本の遺言書は日本の資産用として分けて持つのが標準です。互いに取り消し合わないよう、両方の専門家に整合させてもらってください。
遺言書があればプロベートは避けられますか。
避けられません。遺言書はプロベートの中で誰に渡すかを示す文書で、手続き自体は行われます。回避したい場合は、口座の受取人指定や不動産のトラストを別に設定します。
遺言書が何もないとどうなりますか。
州の無遺言相続法に従って分配されます。配分は州法が決めるため、日本の法定相続分と一致するとは限らず、相続人の証明も含めて手続きは最も重くなります。
遺言書を作れば遺産税は減りますか。
減りません。遺言書は誰に渡すかを決める文書で、税額には影響しません。非居住者の遺産税は基礎控除6万ドルの問題として、別に設計が必要です。
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