アメリカの不動産を売って次の物件に買い替えるとき、1031交換を使えば米国の譲渡所得税を繰り延べられます。売却代金に手を触れず、45日以内に次の物件を特定し、180日以内に取得する。これが条件です。
ここで見落とされるのが日本側です。日本の所得税には、1031のような繰延べの仕組みがありません。米国で課税されなくても、日本にお住まいの方はその年に譲渡所得として申告し、納税します。現金は次の物件に入っているのに、納税だけが手元に残ります。
どこまで使えて、どこから使えないのか。居住者と非居住者で何が変わるのかを整理します。
1. 1031は米国の中だけで完結する制度

期限は45日と180日
売却の決済日から45日以内に次の物件を書面で特定し、180日以内に取得を終える。この2つの期限は延長できません。売却代金は適格仲介者(QI)の口座に入れ、自分の口座を通しません。一度でも受け取ると、その時点で繰延べは認められなくなります。
対象は事業用または投資用の不動産です。自宅は使えません。内国歳入庁の解説のとおり、2018年以降は不動産だけが対象で、米国内の不動産と国外の不動産は同種として扱われません。ニューヨークの物件を売って東京の物件を買う形では成立しません。
2. 日本側では、売った年に課税される

長期か短期かで税率が変わる
日本の居住者は全世界の所得に課税されます。米国で繰り延べたかどうかは関係ありません。売却した年の譲渡所得として、翌年3月15日までに申告します。
税率は所有期間で変わります。
| 区分 | 売った年の1月1日時点の所有期間 | 税率(所得税・住民税) |
|---|---|---|
| 長期譲渡 | 5年超 | 20.315% |
| 短期譲渡 | 5年以下 | 39.63% |
計算は円建てです。取得したときのレートで取得費を、売ったときのレートで収入を円に直します。ドルで横ばいでも、円安が進んでいれば円では利益が出ます。1ドル110円で買い、155円で売れば、ドルの値動きがゼロでも4割の為替差益が課税対象に乗ります。
3. 外国税額控除がかみ合わない

課税の年が両国でずれる
二重課税を調整する仕組みが外国税額控除です。ただし控除できるのは、その年に外国で納めた税だけです。1031で米国の課税を繰り延べると、売った年に米国で納める税がありません。日本で課税され、控除する相手がない状態になります。
将来、買い替えた物件を売って米国で課税されたとき、日本ではすでに課税が済んでいます。その年の日本の譲渡所得は、繰り延べた分を含みません。税が出る年が両国でずれるため、控除で取り戻せない部分が残ります。
4. 非居住者はFIRPTAの源泉が先に来る

Form 8288-Bは売り出す前に
日本にお住まいの方が米国の不動産を売ると、買主は売却代金の15%を源泉徴収して国庫に納めます。1031交換でも、この源泉徴収は自動では止まりません。繰延べが成立していても、決済の場で15%が引かれれば、その現金は次の物件に使えません。
止めるには、決済日までにForm 8288-Bで源泉徴収証明書を申請します。審査には数か月かかります。物件を市場に出す前に動き始める書類です。決済が決まってからでは間に合いません。
5. それでも使う場合の条件

判断に必要な3つの数字
1031が効くのは、米国側の課税が重く、日本側の課税が軽いか、生じない場合です。具体的には、売主が米国の居住者であるか、法人を通じて米国で課税され続ける構造のときです。日本に住んだまま個人名義で使うと、米国の税だけが消え、日本の税は残ります。
判断に必要なのは3つの数字です。日本で出る譲渡所得と税額、米国で繰り延べられる税額、そして納税資金をどこから出すか。この3つを並べてから、QIを手配するかどうかを決めてください。
まとめ
繰り延びるのは米国の税だけ
1031交換は米国の制度で、日本の税を止める力はありません。日本にお住まいのまま使うと、繰り延べた年に日本で納税が生じ、控除する相手もない状態になります。名義を誰にするか、どちらの国で課税を受け続けるかを決めてから、買い替えの設計に入ってください。
よくある質問
日本に住んでいても1031交換は使えますか。
米国の手続きとしては使えます。ただし日本の所得税には繰延べの仕組みがないため、売った年に日本で譲渡所得として申告し、納税します。米国で課税が止まっても、日本の課税は止まりません。
45日と180日の期限は延長できますか。
できません。売却の決済日から45日以内に次の物件を書面で特定し、180日以内に取得を終える必要があります。売却代金は適格仲介者の口座に入れ、自分の口座を通した時点で繰延べは認められなくなります。
ニューヨークの物件を売って日本の物件を買う形でも使えますか。
使えません。2018年以降、同種とみなされるのは米国内の不動産同士です。国外の不動産との交換は対象外です。
非居住者の場合、FIRPTAの15%源泉はどうなりますか。
1031交換でも自動では止まりません。決済日までにForm 8288-Bで源泉徴収証明書を申請し、認められて初めて止まります。審査に数か月かかるため、物件を市場に出す前に動き始める書類です。
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