アメリカ不動産を売るときの税金と3つの制度
買う段階で名義と使い方を決めておくと、売るときに使える制度が変わります。外国人の売却で先に引かれる源泉徴収、投資用物件の買い替えで課税を先送りする1031エクスチェンジ、自宅の売却益を課税対象から外すセクション121の3つを、対象者と期限と上限額で並べて整理しました。
このガイドでわかること
- 売却時に引かれる金額と、最終的な税額はまったく別のものです
- 1031エクスチェンジとセクション121は、使える人と物件の使い方が違います
- 45日と180日、2年と5年という期限が判断を縛ります
- 法人名義に変えても税負担は消えません
買う前に出口を決める理由
売るときに使える制度は、売る段階で選ぶものではありません。名義と物件の使い方によって、買った時点でほぼ決まっています。
名義で使える制度が変わる
セクション121による売却益の除外は個人だけの制度です。法人名義で持つと、この選択肢は最初からなくなります。
使い方で使える制度が変わる
1031エクスチェンジは投資用と事業用に限られ、自宅と別荘は対象外です。逆にセクション121は主たる住居だけの制度です。
居住者かどうかで源泉徴収が変わる
売却の時点で米国の税務上の非居住者なら、買主が代金の一部を先に納める義務が生じます。居住者なら原則としてかかりません。
買い替えるなら資金の預け先を先に決める
1031エクスチェンジは売却代金を自分で受け取ると使えません。売る前に適格仲介者を決めておく必要があります。
3つは併用するものではありません。物件の使い方と名義によって、どれが使えるかが決まります。
3つの制度を1枚で比べる
目的が違う3つの制度です。源泉徴収は前払い、1031エクスチェンジは先送り、セクション121は除外です。

| 制度 | 何をするもの | 使えるのは誰か | 個人と法人 | 金額の上限 | 期限と保有期間 | 主な条件 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| FIRPTAの源泉徴収 | 税を減らす制度ではなく、外国人の売却で買主が代金の一部を先に納める仕組みです | 売主が米国の税務上の非居住者のときにかかります。居住者なら原則かかりません | 個人も法人も対象になります | 上限はありません。売却価格の15%です。買主が自己居住に使う場合、30万ドル以下は0%、100万ドル以下は10%になります | 買主が決済日から20日以内に納付します。軽減の申請は決済前にしかできません | 軽減には決済前の申請と、取得価格や減価償却の根拠資料が必要です |
| 1031エクスチェンジ | 投資用不動産を投資用不動産に買い替えて、課税を将来へ先送りします | 投資用または事業用として保有していた人です。自宅と別荘は対象外です | 個人も法人も使えます。売った納税者と買う納税者が同一である必要があります | 上限はありません。ただし手元に残した現金と減った借入は課税されます | 売却から45日以内に候補を書面で指名し、180日以内に取得します。申告期限が先に来る場合はそちらが締切です | 米国内の不動産同士に限られます。代金は適格仲介者が保有し、売主は受け取れません |
| セクション121 | 自宅の売却益を、一定額まで課税対象から外します | 個人だけです。主たる住居として使った物件が対象です | 個人限定です。法人名義では使えません | 単身で25万ドル(約3,750万円)、夫婦合算で50万ドル(約7,500万円)までの利益です | 売却前5年のうち通算2年以上、所有と主たる住居としての居住の両方が必要です。2年に1回までです | 賃貸期間に取った減価償却に相当する利益と、非居住で使った期間に対応する利益は除外できません |
先送りと除外は結果が違います。1031エクスチェンジで先送りした利益は将来の売却時に課税されます。セクション121で除外した利益は、その分が課税対象から外れます。
売却時にまず引かれる金額
外国人が売る場合、クロージングで代金の一部が引かれてから手取りが渡されます。ここでいちばん誤解が多いのが、引かれる金額の計算方法です。
引かれるのは利益ではなく代金です
売却価格の15%です。利益の15%ではありません。200万ドルで売れば、利益が20万ドルでも30万ドルが引かれます。
これは税額ではなく前払いです
翌年の確定申告で最終的な税額を計算し、納めすぎていれば差額が還付されます。多くの場合、源泉徴収額は実際の税額を上回ります。
資金繰りに直接影響します
手取りが減った状態で次の物件の頭金に充てる予定だと、計画が崩れます。買い替えを前提にしているなら先に軽減の可否を確認してください。
軽減の申請は決済前にしかできません
実際の税額の見込みが源泉徴収額を大きく下回るとき、徴収率そのものを引き下げる申請ができます。審査に時間がかかるため、売却を決めた時点で準備します。
居住者になっていれば原則かかりません
売却の時点で米国の税務上の居住者であれば、非外国人であることを証明する書面で対応できます。ただし売却益への課税は残ります。
「利益の15%」ではありません
計算の基準は売却価格です。利益が小さい取引や損失が出る取引でも、申請をしなければ売却価格の15%が引かれます。損失なのに30万ドル引かれるという事故が起きるのはこの構造のためです。
税率の段階、免除の要件、還付までの流れは「売却時のFIRPTA源泉徴収ガイド」に詳しくまとめています。
1031エクスチェンジで課税を先送りする
投資を続ける前提なら、いちばん実務的な選択肢です。ただし手順を1つ外すと使えなくなる制度でもあります。
売る前に適格仲介者を決めます
売却代金を自分の口座で受け取った時点で使えなくなります。契約前に仲介者を決め、代金はそこへ入れます。
45日以内に候補を指名します
書面で指名します。3件までなら金額の制限なく候補に挙げられます。暦日で数えるため、営業日ではありません。
180日以内に取得します
45日を含めた180日です。確定申告の期限が先に来る場合は、そちらが締切になります。
同じ納税者で買います
売った名義と買う名義を一致させます。単独オーナーの米国LLCは、連邦税では原則オーナーと一体として扱われます。
現金を残すと、その分は課税されます
手元に残した現金と、借入が減った分は課税対象です。全額を繰り延べるには、同額以上の物件と同額以上の借入が必要になります。
売ってから探すのでは間に合いません
45日は暦日で数えます。売却の目処が立った段階で候補の絞り込みを始めてください。指名できなければ、その時点で通常の課税売却に戻ります。
外国人が使う場合、1031エクスチェンジで課税が先送りになっても、FIRPTAの源泉徴収は自動では止まりません。決済前の軽減申請が別に必要です。
セクション121で自宅の利益を除外する
自分で住む前提があるなら、いちばん効果が大きい制度です。ただし投資用として使った期間はきれいに消えません。
2年と5年の関係
売却前の5年のうち、通算2年以上を所有し、かつ主たる住居として使っている必要があります。連続していなくても構いません。
除外できる金額
単身で25万ドル、約3,750万円までの利益が課税対象から外れます。夫婦合算で要件を満たせば50万ドル、約7,500万円までになります。
減価償却の分は残ります
賃貸に出していた期間に取った減価償却に相当する利益は除外できません。この部分には最大25%の税率帯が乗ります。
投資用から自宅に変えた場合
非居住で使っていた期間に対応する利益は除外の対象外です。保有期間の内訳で按分され、全額が消えるわけではありません。
法人名義では使えません。1031エクスチェンジで取得した物件を自宅にしてから売る場合、取得から5年以上の所有が別に求められます。
150万ドルで買って200万ドルで売る場合
1年を超えて保有し、現金での単純な売買を前提にした試算です。売却費用、改良工事の費用、減価償却、州税と市税は含めていません。1ドル150円で換算しています。
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 購入価格 | 150万ドル(約2億2,500万円) | 取得時の価格です |
| 売却価格 | 200万ドル(約3億円) | 売却時の価格です |
| 値上がり益 | 50万ドル(約7,500万円) | 単純な差額です |
| クロージングで引かれる額 | 30万ドル(約4,500万円) | 売主が外国人の場合、売却価格の15%です。税額ではなく前払いです |
| 連邦の譲渡益税の目安 | 7万5,000ドルから10万ドル(約1,125万円から1,500万円) | 1年超の保有なら0%、15%、20%の3段階です |
| 減価償却を取っていた場合 | 取った額に最大25% | 賃貸に出していた期間の分が上乗せされます |
| 差額の扱い | 還付の対象になります | 確定申告で精算します |
州税と市税は別にかかります。ニューヨーク州とニューヨーク市の物件では、売主負担の譲渡税が加わり、州の所得税も別に発生します。実際の税額は売却費用、改良工事の費用、減価償却の累計、保有名義、売却時点で居住者かどうかで変わります。ここに示した数字は考え方を示す目安です。
よくある質問
30万ドル引かれたら、それが税金ですか
法人名義に変えれば源泉徴収はなくなりますか
単独オーナーのLLCを作れば変わりますか
アメリカに移住して居住者になれば税金はゼロですか
1031エクスチェンジとセクション121は併用できますか
売らずに持ち続けるのがいちばん有利ですか
まずはご相談ください
ご検討中の物件の使い方と名義をうかがい、売却時にどの制度が使えるのか、源泉徴収がいくらになるのかをご説明します。
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