2026年9月28日 Satoshi Onodera

FIRPTAで引かれた15%は日本で取り戻せるか。外国税額控除の年と上限

日本に住む方がニューヨークの物件を売ると、決済のときに売却代金の15%が米国で源泉徴収されます。300万ドルで売れば45万ドルです。これがFIRPTAです。そして同じ売却益に、日本でも譲渡所得として所得税がかかります。

 

二重に払うわけではありません。米国で納めた税は、日本の所得税から外国税額控除として差し引けます。ただし、控除できるのは源泉された45万ドルそのものではなく、米国の申告で確定した税額です。しかも控除する年と売却した年がずれ、控除の上限額の計算が絡みます。

 

何が控除でき、いつ控除し、上限はいくらか。そして源泉を実際の税額に近づけて、この手続きを軽くする方法を順に見ていきます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。

 

 

1. 控除できるのは15%ではなく、米国で確定した税額

マンハッタンのコンドミニアムのクロージングのテーブル

 

 

 

還付される部分は控除の対象外

FIRPTAの15%は前払いです。翌年に米国の非居住者用申告書(Form 1040-NR)を出すと、実際の譲渡益に対する税額が確定し、差額は還付されます。日本の外国税額控除の対象になるのは、この確定した税額です。還付される部分は日本でも控除できません。

たとえば300万ドルで売った物件の取得費が200万ドルなら、譲渡益は100万ドルです。連邦の長期譲渡益の税率を20%とすると連邦税は20万ドル前後で、これに州税が加わります。源泉された45万ドルとの差は戻ってきます。日本で控除できるのは、確定した税額の側です。

 

15%の計算そのものと、決済前に源泉額を減らす源泉徴収証明書の手続きはFIRPTAの源泉徴収の記事で扱っています。本記事はその先、日本側の申告の話です。

 

 

2. 控除する年が、売った年とずれる

マンハッタンのコンドミニアムのクロージングのテーブル

 

日本では、物件を売った年の譲渡所得として翌年3月15日までに申告します。一方、米国の税額が確定するのは翌年に1040-NRを提出したときです。所得税基本通達では、申告により税額が確定する外国所得税は、その確定に応じて「納付することとなる日」が決まり、その日が属する年の控除になります。

つまり、売却が2026年なら日本の譲渡所得は2026年分、米国の税額が確定するのは2027年です。控除したい年に、控除の元になる国外所得がないという状態が起きます。

 

 

繰越の仕組みで吸収する

この問題は、控除限度額の繰越で解決します。外国税額控除の上限は、その年の所得税額に国外所得の割合を掛けた金額です。売却年には国外所得が大きいので上限は大きく出ますが、まだ控除する外国税がありません。この使い残した上限(控除余裕額)は翌年以降3年間繰り越せます。翌年に米国の税額が確定したとき、繰り越した上限の範囲で控除します。

逆に、外国税が上限を超えた場合の超過額も3年間繰り越せます。国税庁の所得税基本通達95関係に、納付することとなる日と繰越の扱いが定められています。

 

実務では、決済時の源泉額を売却年の外国税として控除し、還付を受けた年に減額の調整をする整理もあります。どちらの整理を取るかで申告の手間と時期が変わるため、売却の前に税理士と確認しておくことを推奨いたします。

 

 

3. 居住者と非居住者、個人と法人で扱いが変わる

マンハッタンのコンドミニアムのクロージングのテーブル

 

 

 

立場で前提が変わる

ここまでの話は、日本の居住者が個人名義で持っている場合です。立場が変わると前提が変わります。

米国に住んでいる方は、そもそもFIRPTAの対象になりません。源泉徴収は米国の非居住者に対する制度だからです。同時に、日本の非居住者であれば米国の物件の売却益に日本の所得税はかからず、外国税額控除の話も出てきません。非居住者としての米国の申告は非居住者のキャピタルゲイン税の記事で扱っています。

 

日本法人の名義で持っている場合は、法人税法の外国税額控除を使います。仕組みは個人と同じで、控除限度額と3年の繰越があります。ただし法人の場合は、米国で法人としての申告(Form 1120-F)が必要になり、個人の1040-NRとは様式も期限も異なります。

以下は立場ごとの違いを並べた表です。

 

立場 FIRPTAの源泉 日本での課税 外国税額控除
日本居住・個人名義 代金の15% 譲渡所得として課税 所得税法95条。繰越3年
日本居住・日本法人名義 代金の15% 法人の所得として課税 法人税法69条。繰越3年
米国居住・個人名義 対象外 日本の非居住者なら課税なし 不要
米国LLC名義(日本居住者が出資) LLCの課税区分で変わる 出資者の区分で変わる 個別に判定

 

※上記は、2026年現在の制度に基づく一般的な整理です。LLC名義は米国での課税区分の選択によって扱いが変わるため、個別の確認が必要です。

 

 

4. 源泉を実際の税額に近づけると、手続きが軽くなる

マンハッタンのコンドミニアムのクロージングのテーブル

 

 

 

源泉徴収証明書と1031の使い分け

源泉の15%と確定税額の差が大きいほど、還付を待つ期間と日本側の調整が重くなります。この差を小さくする方法が、決済前に米国内国歳入庁へ申請する源泉徴収証明書です。実際の税額に見合う源泉額を認めてもらえれば、45万ドルの代わりに20万ドル前後の源泉で決済できます。

証明書が間に合えば、日本で控除する金額と源泉された金額がほぼ一致し、還付の調整もほとんど生じません。売却を決めた時点で証明書の申請に着手するかどうかが、出口の資金繰りと日本の申告の両方を左右します。

 

売却の前に取れる選択肢はもう一つあります。1031エクスチェンジで別の米国物件に買い換えると、米国側の課税が繰り延べられます。ただし日本側は繰り延べを認めていないため、日本では売却年に課税されます。米国で税が発生しない以上、日本で控除するものもありません。この使い分けは1031エクスチェンジの記事で扱っています。

 

 

まとめ

マンハッタンのコンドミニアムのクロージングのテーブル

 

 

 

契約の前に日米の申告まで設計する

FIRPTAで源泉された15%は、そのまま日本の控除にはなりません。控除できるのは米国の申告で確定した税額で、控除する年は売却年の翌年にずれます。控除限度額の3年繰越で吸収できますが、申告の組み立てを知らずに売ると、控除を取り逃がすことがあります。

日本の居住者が個人名義で持つ場合は所得税法95条、日本法人名義なら法人税法69条、米国居住者なら制度の外です。立場で前提が変わります。

 

源泉徴収証明書で源泉額を実額に近づければ、還付待ちも日本側の調整も軽くなります。売却の段取りは、契約の前に日米両方の申告まで含めて設計しておくのが順序です。海外にいながら決済まで進める手順は売るときの流れの記事にまとめています。出口の設計段階からご相談ください。

 

よくある質問

FIRPTAで源泉された15%をそのまま日本の外国税額控除にできますか。

できません。控除の対象は米国の申告(Form 1040-NR)で確定した税額で、源泉額のうち還付される部分は対象になりません。確定税額と源泉額の差が大きいほど、還付待ちと日本側の調整が重くなります。

売却した年と控除する年がずれるとどうなりますか。

売却年には国外所得が大きく控除限度額が出ますが、控除する外国税がまだ確定していません。使い残した限度額は翌年以降3年間繰り越せるため、米国の税額が確定した年にその範囲で控除します。

米国に住んでいる場合はどうなりますか。

FIRPTAは米国の非居住者に対する源泉徴収なので対象外です。同時に日本の非居住者であれば、米国物件の売却益に日本の所得税はかからず、外国税額控除も生じません。

日本法人の名義で持っている場合の控除は個人と同じですか。

仕組みは同じで、法人税法69条の外国税額控除を使い、控除限度額と3年の繰越があります。ただし米国では法人としての申告(Form 1120-F)が必要で、個人の1040-NRとは様式と期限が異なります。

PRACTICE取得・保有・出口の実務(77件)

買うとき

持っているあいだ

出すときと税務

全体の流れ

CONTACT
まずはご相談ください

源泉徴収証明書、1031、還付待ちのどれを選ぶかで、出口の資金繰りと日本の申告が変わります。売却を決める前にご相談ください。

無料で相談する

本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。