日本に住む方がニューヨークの不動産を持ったまま亡くなると、その物件は日本の相続税の対象になります。日本の居住者は国内外を問わず全財産に相続税がかかるためです。米国側の遺産税とは別に、日本でも評価して申告します。
問題は評価の方法です。日本の不動産なら路線価と固定資産税評価額で機械的に決まりますが、米国の不動産には路線価がありません。財産評価基本通達は、通達の方法で評価できない財産について売買実例価額や精通者意見価格を参酌して評価すると定めています。つまり時価に近い数字を、自分で用意する必要があります。
評価をどう出すか、為替をいつの相場で換算するか、小規模宅地等の特例は使えるか、そして個人名義とLLC名義で結果がどう変わるかを順に見ていきます。
1. 評価の根拠は通達5-2。路線価がない財産は時価で評価する

財産評価基本通達5-2は、国外にある財産についても通達の定めによって評価することを原則としつつ、その方法で評価できない場合には、通達の方法に準じるか、売買実例価額や精通者意見価格などを参酌して評価すると定めています。米国の不動産はこの後段に当たります。
実務で使われる方法は3つあります。①現地の不動産鑑定士による鑑定評価書。②現地の不動産会社の査定価格。③同じ建物や近隣の直近の成約事例です。税理士法人チェスターの海外不動産の相続税評価の解説でも、この3つが整理されています。
数億円の物件では、鑑定評価書を取ることを推奨いたします。費用はかかりますが、税務調査で価額の根拠を問われたときに、第三者の書面があるかどうかで説明の重さが変わります。査定や成約事例は、鑑定を補強する材料として添えます。
為替は相続開始日のTTB
ドル建ての評価額は、課税時期である相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)で円に換算します。TTBは銀行が外貨を買い取る相場で、TTSより円安側に出ます。相続開始日が土日祝日なら、その前の最終営業日の相場を使います。
100万ドルの物件であれば、1ドル=155円のとき1億5,500万円、1ドル=140円なら1億4,000万円です。同じ物件でも、相続が起きた日の為替で日本の相続税評価が1,500万円動きます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
2. 小規模宅地等の特例は、米国の土地にも使える

所在地の要件がない
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた宅地や貸付事業に使っていた宅地について、一定の面積まで評価額を減額する制度です。居住用は330平方メートルまで80%、貸付事業用は200平方メートルまで50%の減額です。
この特例の要件には、宅地の所在地に関する制限がありません。したがって米国の宅地でも、利用状況と相続人の要件を満たせば適用できます。ニューヨークで賃貸に出していたタウンハウスの土地は、貸付事業用宅地として検討の対象になります。
ただし、コンドミニアムの場合は土地の持分が小さく、減額の対象になる面積も価額も限られます。特例の効果が大きいのは、土地を直接持つタウンハウスや戸建てです。物件の種類で、日本の相続税評価に効く制度が変わります。
3. 個人名義とLLC名義で、評価の対象が変わる

持分の評価と特例は両立しない
個人名義で持っている場合、相続財産は不動産そのものです。ここまで見てきた鑑定評価と小規模宅地等の特例がそのまま当てはまります。
LLC名義で持っている場合は違います。相続財産は不動産ではなくLLCの持分で、持分の価額はLLCの純資産をもとに評価します。不動産の時価から借入を引いた残りが持分の価額になるため、借入の多い物件では個人名義より小さな評価になることがあります。
一方で、LLC名義では小規模宅地等の特例が使えません。特例は宅地そのものを相続した場合の制度で、持分は宅地ではないためです。借入で評価を下げる効果と、特例で評価を下げる効果は両立せず、どちらが大きいかは物件と借入の状況で決まります。
以下は名義ごとの違いを並べた表です。
| 項目 | 個人名義 | LLC名義 |
|---|---|---|
| 相続財産 | 不動産そのもの | LLCの出資持分 |
| 評価の方法 | 鑑定評価・査定・成約事例 | 純資産(時価から借入を控除) |
| 小規模宅地等の特例 | 要件を満たせば適用可 | 適用不可 |
| 借入の効果 | 債務控除として別に差し引く | 持分の評価に織り込まれる |
| 米国側の手続き | プロベートの対象 | 持分の移転で済む場合がある |
※上記は、日本の居住者が米国不動産を相続する場合の一般的な整理です。個別の適用は物件と契約の内容で変わります。
4. 米国の遺産税は別にかかり、日本で控除する

相続税法20条の2の外国税額控除
日本の相続税とは別に、米国側では非居住者の遺産税がかかります。米国居住者の基礎控除が1,500万ドルあるのに対し、非居住者は6万ドルしかありません。100万ドルの物件なら94万ドルが課税対象で、税率は最高40%です。詳しくは非居住者の遺産税の記事で計算しています。
米国で納めた遺産税は、日本の相続税から外国税額控除として差し引けます。相続税法20条の2の規定で、同じ財産に二重に課税されないための仕組みです。控除できるのは日本側でその財産に対応する相続税額が上限で、米国の税額がそれを超えた分は戻りません。
順序として、米国の遺産税の申告が先に確定していないと日本側の控除額が定まりません。相続開始から日本の申告期限まで10ヶ月ですが、米国の遺産税申告は原則9ヶ月です。両国の期限を並べて動く必要があります。米国側の手続きを軽くする名義の置き方は不動産をトラスト名義にするの記事で扱っています。
生前に評価を下げる選択肢としては、贈与で移す方法があります。ただし非居住者の贈与には米国の贈与税がかかり、生涯控除がありません。贈与か相続かの分岐はアメリカの贈与税はいくらからの記事で扱っています。
まとめ

買う前に名義を決めておく
米国不動産の日本の相続税評価は、路線価がないため時価で行います。鑑定評価書を軸に、査定と成約事例で補強し、相続開始日のTTBで円換算します。小規模宅地等の特例は米国の土地にも使えますが、LLC名義では使えません。
個人名義は特例が使え、LLC名義は借入が持分の評価に織り込まれます。どちらが日本の相続税で有利かは、物件の種類と借入の大きさで決まり、買う前に決めておくのが順序です。個人所有との損益分岐は法人名義で買うかの記事で扱っています。
米国の遺産税は別にかかり、日本の相続税から控除します。両国の申告期限が違うため、相続が起きてからでは間に合わない準備があります。名義と税務の設計段階からご相談ください。
よくある質問
米国不動産の相続税評価に鑑定評価書は必須ですか。
必須ではありません。売買実例価額や現地の査定額を参酌した評価も認められています。ただし数億円の物件では、税務調査で価額の根拠を問われたときのために、現地の不動産鑑定士による鑑定評価書を用意することを推奨いたします。
為替はいつの相場で換算しますか。
相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)です。相続開始日が休日の場合はその前の最終営業日の相場を使います。1ドル=155円と140円では、100万ドルの物件で日本の評価額が1,500万円変わります。
米国の土地に小規模宅地等の特例は使えますか。
使えます。特例の要件に宅地の所在地の制限はなく、居住用や貸付事業用としての利用状況と相続人の要件を満たせば米国の宅地にも適用できます。ただしLLC名義で持つ場合は相続財産が出資持分になるため適用できません。
米国で払った遺産税は日本の相続税から引けますか。
引けます。相続税法20条の2の外国税額控除で、その財産に対応する日本の相続税額を上限に控除します。米国の遺産税申告は相続開始から原則9ヶ月、日本の相続税申告は10ヶ月で、米国側が先に確定している必要があります。
PRACTICE取得・保有・出口の実務(55件)
買うとき
- 物件の探し方 — 情報の仕組みと在庫の実際
- 日本から買う — 内見から送金までの実務
- 米国のローン — LTVとレバレッジの考え方
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- コンドミニアムの購入 — 価格相場と手順、費用と名義の決め方
- DSCRローン — 収入証明なしで組む条件
- 法人名義で買うか — 個人所有との損益分岐
- タイトル保険 — 日本の登記制度との違い
- 不動産会社の選び方 — 確認すべき5点
- 失敗は5つに集まる — 契約前に確認できる項目
- 海外不動産のデメリット4つ — 対処できるものとできないものを分ける
- 新築と中古 — 価格・交渉・維持費で比べる
- プレコンストラクション — 竣工前に買う判断
- タウンハウス一棟 — 管理組合のない所有
- 借りるか買うか — 高金利下の損益分岐
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持っているあいだ
- 管理費は月いくらか — 区別の実額と安い建物の落とし穴
- 不動産にかける保険 — 所有形式で必要な補償が変わる
- 買った後の管理 — 海外に住みながら所有を続ける
- 管理会社の選び方 — 費用と契約前の確認事項
- テナント管理 — 賃料回収と契約更新の実務
- 収益改善の手法 — プロパティマネジメントの実際
- アメリカの固定資産税は年いくらか — 州別の実効税率と物件価格別の年額
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- 駐在員の確定申告 — 日米どちらに出すか、FBARの1万ドルの線
出すときと税務
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- 売却の戦略 — 市場を見て出口を決める
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- 出口の使い分け — 源泉徴収・1031・セクション121
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- 贈与税はいくらから — 非居住者は生涯控除ゼロ
- アメリカの相続税 — 連邦と州、非居住者の場合分け
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- 富裕層の節税の型 — 実際に使われている7つ
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全体の流れ
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