日本に住んだままアメリカの物件を貸すと、賃料は米国と日本の両方で申告します。米国では非居住者として1040-NRを出し、日本では不動産所得として確定申告に含めます。日本の居住者は国内外を問わず全所得に課税されるためです。
日本側の申告で決まっているのは3つです。ドルの賃料と経費は取引日のTTMで円に換算する、築年数の古い建物の減価償却による赤字は2021年分から他の所得と通算できない、米国で納めた税は外国税額控除で日本の税から差し引く。この3つを押さえていれば、申告の骨格はできます。
円換算のレートの選び方、経費に入るものと入らないもの、償却の制限、外国税額控除の順序、そして名義と居住地で何が変わるかを順に見ていきます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
1. 円換算は取引日のTTM。ただし継続適用なら月の平均も使える

毎月の賃料を1件ずつ換算しなくてよい
外貨建取引の円換算は、原則としてその取引日の対顧客直物電信売買相場の仲値(TTM)で行います。国税庁の所得税基本通達57の3-2が根拠です。賃料が毎月入り、経費が随時出る不動産所得で、全部を取引日ごとに換算するのは手間がかかります。
そこで同じ通達は、不動産所得については継続適用を条件に、収入はTTB、経費はTTSを使うこと、さらに前月末や当月初のレート、前月の平均レートを使うことも認めています。一度決めた方法は毎年続ける必要があり、有利な年だけ切り替えることはできません。
実務では、月ごとの平均レートで収入と経費を換算する方法が扱いやすく、米国の管理会社から届く月次報告書とそのまま対応させられます。最初の年に方法を決めて、以後は変えないことが大切です。
2. 経費に入るものと、減価償却の制限

管理費、固定資産税、保険料、修繕費、ローン利息
必要経費に入るのは、コモンチャージなどの管理費、固定資産税、火災保険料、修繕費、管理会社への報酬、ローンの利息部分、米国での申告を依頼した会計士の費用などです。ローンの元本返済は経費になりません。日本から物件を見に行く渡航費は、その旅行の主目的が物件の管理であることを示せる範囲で認められます。
減価償却は建物部分について計上します。法定耐用年数を過ぎた中古建物は簡便法で短い年数になり、木造なら4年、重量鉄骨造なら6年です。ここまでは以前と同じです。
変わったのは2020年度の税制改正です。2021年分の申告から、国外にある中古建物の減価償却で生じた不動産所得の赤字は、生じなかったものとみなされます。給与や事業の所得と通算して税を戻す使い方はできません。国外の他の物件の黒字と相殺することは可能です。改正の中身は減価償却は4年で全額計上できるのかの記事で扱っています。
3. 米国で納めた税は外国税額控除で差し引く

1040-NRの確定税額が対象
米国では非居住者の賃料に30%の源泉徴収がかかりますが、純額課税を選択して1040-NRを出せば、経費を引いた後の所得に累進税率で課税されます。この米国の確定税額を、日本の所得税から外国税額控除として差し引きます。控除の上限は、その年の日本の所得税額に国外所得の割合を掛けた金額で、使い切れない分は3年繰り越せます。
米国の1040-NRは翌年に提出するため、日本の申告と年がずれることがあります。売却時の扱いと同じで、FIRPTAと外国税額控除の記事に控除の年の考え方をまとめています。純額課税の選択そのものは賃貸収入の税務のガイドで扱っています。
以下は、年間の賃料6万ドルの物件を個人名義で持つ場合の、日本側の計算の骨格を並べた表です。
| 項目 | ドル | 円換算(155円) | 扱い |
|---|---|---|---|
| 賃料収入 | 60,000 | 930万円 | 総収入金額 |
| 管理費・固定資産税・保険 | 30,000 | 465万円 | 必要経費 |
| 減価償却費(中古建物) | 60,000 | 930万円 | 赤字部分は通算不可 |
| 不動産所得 | −30,000 | −465万円 | 赤字は生じなかったものとみなす |
| 米国で納めた税 | 1040-NRの確定額 | 納付日のレート | 外国税額控除 |
※上記は、計算の順序を示すための仮の数字です。経費の内訳、償却年数、米国の税額は物件と申告の内容で変わります。
4. 名義と居住地で、そもそも誰が申告するかが変わる

個人、法人、LLC、非居住者
ここまでは日本の居住者が個人名義で持つ場合です。日本法人の名義なら、賃料は法人の益金、経費は損金で、償却の制限は個人の制度なので法人には及びません。法人税の外国税額控除で米国の税を引きます。
米国LLCの名義は注意が必要です。日本ではLLCを外国法人として扱うため、賃料は本人の不動産所得ではなくLLCの所得になり、本人に届くのは配当です。米国では本人が1040-NRで賃料に課税されるので、日本と米国で所得の帰属が食い違います。この食い違いが合算税制の入口になる点は米国不動産を法人名義で持つと日本の合算課税にかかるかの記事で扱っています。
米国に住んでいる方は日本の非居住者なので、米国の賃料に日本の申告は要りません。逆に日本にいる方は、所得税の申告とは別に、国外財産が5,000万円を超えていれば国外財産調書の提出が翌年6月30日まで、確定申告は3月15日までと、期限が2つあります。
まとめ

最初の年に決めることが、あとの年を決める
米国の賃料の日本での申告は、取引日のTTMか継続適用の月平均レートで円換算し、管理費と固定資産税と利息を経費に入れ、中古建物の償却で出た赤字は他の所得と通算せず、米国の確定税額を外国税額控除で差し引く、という骨格です。個人名義の話で、法人名義なら償却の制限はなく、LLC名義なら所得の帰属そのものが変わります。
換算レートの方法は最初の年に決めて以後変えられません。名義も買った後は変えにくいものです。
どの名義で持ち、どのレートで換算し、米国の申告をどう日本に接続するか。買う前に決めておくと、毎年の申告が同じ型で回ります。設計段階からご相談ください。
よくある質問
毎月の賃料を取引日ごとに円換算する必要がありますか。
原則は取引日のTTMですが、不動産所得については継続適用を条件に、前月末や当月初のレート、前月の平均レートを使えます。米国の管理会社の月次報告書に合わせて月ごとの平均レートで換算する方法が扱いやすく、一度決めたら毎年続けます。
中古建物の減価償却で赤字が出たら給与と通算できますか。
できません。2021年分の申告から、国外中古建物の減価償却によって生じた不動産所得の赤字は生じなかったものとみなされます。国外の他の物件の黒字と相殺することはできます。法人名義の場合はこの制限がありません。
米国で払った税は日本で二重に取られませんか。
1040-NRで確定した米国の税額を、日本の所得税から外国税額控除として差し引けます。上限はその年の所得税額に国外所得の割合を掛けた金額で、使い切れない分は3年繰り越せます。
LLC名義で持っている場合の賃料は不動産所得ですか。
違います。日本ではLLCを外国法人として扱うため、賃料はLLCの所得となり、本人が受け取るのは配当です。米国では本人が1040-NRで賃料に課税されるので、日米で所得の帰属が食い違い、外国子会社合算税制の判定にも入ります。
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