1戸目を買った方から、次にいただくご相談は決まっています。「2戸目はどう買えばいいですか」。
手元の現金をもう一度貯めるという答えもありますが、それでは時間がかかります。米国で実際に資産を積み上げてこられた方が使っているのは、いま持っている物件そのものを次の原資にするという設計です。
そしてもう一つ、売却のたびに課税されていては積み上がりません。米国には売却益への課税を繰り延べ続ける仕組みがあります。
本日は、この2つを組み合わせた積み上げ方について見ていきましょう。
1. 売らずに、次の頭金を作る

物件の価値が上がり、ローンの元本が減っていくと、その差である純資産(エクイティ)が厚くなります。
この厚みを、売らずに現金として引き出す方法があります。キャッシュアウト・リファイナンスと呼ばれる借り換えです。
たとえば100万ドルで購入した物件が130万ドルになり、ローン残高が60万ドルまで減っていたとします。評価額の7割まで借りられるとすれば91万ドル。既存の60万ドルを返済して、差額の31万ドルが手元に入ります。
この31万ドルを次の物件の頭金に充てる。これが積み上げの基本形です。
重要なのは、借り入れで得た資金は、その時点では所得になりませんという点です。売却して現金化すれば課税されますが、借りるのであれば課税されない。ここが設計の要になります。
ローンの実務はアメリカ住宅ローンのガイド(駐在と非居住者向け)、非居住者向けの条件はアメリカ住宅ローンのガイド(駐在と非居住者向け)にまとめています。
2. 売るときは、1031で次に乗り換える

とはいえ、物件を入れ替えたい場面は必ず来ます。手のかかる物件を手放したい、より条件の良い市場に移りたい、といった理由です。
ここで普通に売却すると、値上がり分に課税されます。長期譲渡益で連邦20パーセント、純投資所得税3.8パーセント、さらに州税と、これまで積み上げた減価償却の取り戻し課税が加わります。
1031エクスチェンジを使えば、この課税を次の物件に繰り延べられます。売却代金の全額を次の物件購入に充てられるため、税で目減りさせずに規模を上げられます。
それでは、繰り返した場合の違いを表で見ていきます。
| 段階 | 通常の売却を繰り返す | 1031で乗り換える |
|---|---|---|
| 売却のたびに | 利益の2〜3割が税で減る | 課税を次に繰り延べ |
| 次に回せる資金 | 税引き後の残り | 売却代金の全額 |
| 期限 | なし | 45日で特定、180日で取得 |
| 対象 | 制限なし | 投資用のみ。自宅は不可 |
※上記は一般的な整理です。適用の可否は必ず米国の会計士にご確認ください。
期限は厳格です。売却から45日以内に次の候補を特定し、180日以内に取得を完了する必要があります。次に何を買うか決まっていないと、この日数は現実的に足りません。詳しくは1031エクスチェンジで売却益を繰り延べるにまとめています。
3. 自宅には別の制度がある

ここで混同されやすいのが、セクション121との違いです。
セクション121は、自宅として使っていた物件を売る場合に、譲渡益の一定額を非課税にできる制度です。過去5年のうち2年以上そこに住んでいたことが条件になります。
1031との違いを整理すると、こうなります。
・1031は投資用。課税を繰り延べる。次の物件を買う必要がある
・セクション121は自宅用。一定額まで非課税になる。次を買う必要はない
1031は自宅には使えず、セクション121は投資用物件には使えません。どちらを使うかは、その物件をどう使ってきたかで決まります。
なお、投資用として1031で取得した物件を、後に自宅として使う設計もありますが、保有期間などの条件が絡みます。この領域は必ず会計士と設計してください。セクション121の詳細はセクション121の記事をご参照ください。
4. どこまで繰り延べ続けられるのか

1031を繰り返す限り、課税は先送りされ続けます。ここで多くの方が疑問に思われます。「では最後はどうなるのか」。
米国の税法には、相続時に取得価額が時価に洗い替えられる仕組みがあります。この扱いが適用される場合、繰り延べてきた含み益に対する所得課税は、相続人の側では引き継がれません。
米国で「売らずに交換し続ける」という考え方が語られるのは、この構造があるためです。
ただし、ここには大きな前提があります。日本にお住まいの方の場合、米国の遺産税と日本の相続税が別途かかります。しかも非居住者の米国遺産税の控除額は極めて小さく設定されています。
所得課税を繰り延べても、承継の段階で別の負担が生じるということです。この点は非居住者の米国遺産税の記事にまとめています。
つまり日本の方の場合、所得課税の繰り延べと、承継時の設計は別々に組む必要があります。片方だけ最適化しても、もう一方で負担が出ます。
担保評価と融資の基礎はアメリカの住宅ローンの記事もご参照ください。
2軒目以降の融資は、給与収入ではなく物件の収益で審査するDSCRローンという選択肢があります。条件と金利はDSCRローンの記事にまとめています。
まとめ

積み上げの型は2つです。売らずに借り換えて次の頭金を作ること、入れ替えるときは1031で課税を繰り延べること。この2つを組み合わせると、税で目減りさせずに規模を上げられます。
ただし1031には45日と180日の期限があり、次の候補が決まっていないと使えません。そして日本にお住まいの方は、承継の設計を別途組む必要があります。
1戸目をお持ちの方も、これから始められる方も、何戸まで増やしたいのかを先にお聞かせください。逆算して、最初の1戸の選び方が変わります。
※本記事は一般的な情報提供であり、税務・投資の助言ではありません。制度は改正され、適用は個別の事情により異なります。実行の前に、必ず米国および日本の専門家にご確認ください。
よくある質問
キャッシュアウト・リファイナンスで得た資金は所得として課税されますか。
借り入れで得た資金はその時点では所得にならないため課税されません。売却して現金化すれば課税されますが、借り換えであれば課税されない点が設計の要になります。物件の評価額が上がってローン残高が減った差額を次の頭金に充てることで、税負担なく資産を積み上げることができます。
1031エクスチェンジで売却から取得完了までの期限は何日ですか。
売却から45日以内に次の候補を特定し、180日以内に取得を完了する必要があります。この期限は厳格であり、次に何を買うか決まっていないと現実的に足りません。売却代金の全額を次の物件購入に充てることで税で目減りさせずに規模を上げられます。
セクション121の制度は投資用物件の売却にも適用されますか。
セクション121は自宅として使っていた物件を売る場合に譲渡益の一定額を非課税にする制度であり、投資用物件には使えません。過去5年のうち2年以上そこに住んでいたことが条件になります。1031は投資用で自宅には使えず、どちらを使うかは物件の使い方で決まります。
1031エクスチェンジを繰り返した場合、相続時に含み益への課税はどうなりますか。
米国の税法には相続時に取得価額が時価に洗い替えられる仕組みがあり、この扱いが適用される場合、繰り延べてきた含み益に対する所得課税は相続人の側では引き継がれません。ただし日本にお住まいの方は米国遺産税と日本の相続税が別途かかるため承継設計を別々に組む必要があります。
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