ニューヨークで物件を探そうと思い立って、まず日本から検索をされる方がほとんどだと思います。ところが、いくつかのサイトを見比べているうちに、同じ建物なのに載っている住戸が違う、価格が更新されていない、そもそも問い合わせ先が不動産会社ごとにバラバラで、どこに聞けばいいのか分からないという状態になります。
当社にご相談をいただく方の多くが、この段階で数週間から数ヶ月を費やしていらっしゃいます。物件探しに時間がかかっているのではなく、探し方の構造が日本と違うことに気づかないまま進めているために、時間だけが過ぎているというのが実際のところです。
そして、もっと大きな問題があります。物件を先に決めてしまうと、どの名義で買うかという最も金額に効く判断を、後回しにしたまま契約に進むことになります。名義は買った後に変えられません。本日は、ニューヨークで物件を探すときの実際の流れと、探し始める前に決めておくべきことについて見ていきましょう。
1. ニューヨークには「物件情報サイト」が存在しない

日本の感覚で最初につまずくのがここです。ニューヨークには、すべての売却物件が一元的に載っている公的なサイトがありません。
実際に売り出されている住戸の情報は、RLS(Residential Listing Service)という業界内のデータベースに集約されています。ここに登録された情報が各社のサイトに配信される仕組みで、消費者向けのサイトはあくまでその写しです。配信のタイミングや、どの情報を出すかは各社の判断によるため、サイトによって見え方が変わります。
それでは、実際に何が起きるのかを整理します。
①更新の遅れ。契約が入った住戸が「販売中」のまま数週間残ることがあります。②掲載の差。ある会社のサイトには出ているのに、別の会社では見当たらないという状態が起きます。③写真と実物の乖離。数年前の写真がそのまま使われている住戸があります。④問い合わせ先の分散。住戸ごとに担当する会社が違うため、10戸に興味を持つと10社とやり取りすることになります。
以上で見て来たように、日本から複数のサイトを見比べる作業は、同じ情報を違う鮮度で何度も見ているだけということが少なくありません。時間をかけた割に全体像がつかめないのは、そのためです。
2. 公開されている在庫は、実はかなり少ない

もう一つ、日本の方が驚かれるのが在庫の少なさです。人口860万人の都市ですから物件はいくらでもあると思われがちですが、高額帯の建物では常時売りに出ている住戸が数戸しかないということが普通に起こります。
以下は当社がCityRealtyの各建物ページから集計した、2026年8月時点で実際に売りに出ている住戸の数です。
| 建物 | 売出中の住戸数 | 価格帯 |
|---|---|---|
| ワン・ウォールストリート | 24戸 | 1.0〜8.8百万ドル |
| 53 West 53rd | 21戸 | 2.8〜64.7百万ドル |
| ブルックリンタワー | 20戸 | 1.0〜16.8百万ドル |
| ワン・マンハッタン・スクエア | 18戸 | 1.2〜6.5百万ドル |
| セントラルパークタワー | 16戸 | 7.0〜128.0百万ドル |
| 432 Park Avenue | 14戸 | 7.9〜90.0百万ドル |
| スカイラインタワー | 14戸 | 0.9〜2.7百万ドル |
※上記は当社がCityRealtyの建物ページから2026年8月に集計した実数です。在庫は日々入れ替わります。
220 Central Park Southのように全館で1戸しか出ていない建物もあります。名門コープではさらに少なく、ダコタやサンレモのように売り物がゼロという時期も珍しくありません。
つまり「良い物件を探す」という発想がそもそも成り立ちにくく、買える条件を先に整えて、出てきたときに動ける状態にしておくほうが現実的です。日本の中古マンション市場のように、常に選択肢が並んでいる前提で考えると、いつまでも決まりません。
3. 表に出る前に決まる住戸がある

在庫が少ないことの裏返しとして、公開される前に買い手がつく住戸が一定数あります。
売主が公開を望まないケースは、離婚や相続、事業上の資金化など、事情を知られたくない場合に起こります。また、公開して内見が続くことを嫌う高額帯の所有者も少なくありません。こうした住戸は、担当する会社の内部や、業界内の限られたやり取りの中で買い手を探すことになります。
ここで効いてくるのが、買主側の準備状況です。売主側から見れば、すぐに動けて、確実に決済できる相手にしか声をかける意味がありません。資金証明が用意できているか、名義をどうするか決まっているか、弁護士が決まっているか。この3つが揃っていない買主は、そもそも紹介の対象になりません。
水面下の在庫がどう回るかについては、オフマーケット物件の記事で4つの経路に分けて解説しています。
4. 物件より先に、どの名義で持つかを決める

ここが本題です。物件探しに集中していると後回しになりますが、手元に残る金額を最も大きく左右するのは名義の設計です。そして名義は、買った後に変えると移転自体が課税の対象になります。
非居住者の方が個人名義で保有した場合に効いてくる点を挙げます。
①売却時、FIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。利益ではなく売買代金に対してかかる点が見落とされがちです。②相続では、米国内国歳入庁が示す非居住者の遺産税の基礎控除が6万ドルにとどまり、超過分に最高40パーセントの連邦遺産税が課されます。③日本側でも相続税が課され、外国税額控除で調整するとしても手続きは長期化します。④名義変更が終わるまで売却できないため、納税資金を物件から作ることができません。
そのうえで、法人名義には別の論点があります。設立と維持のコスト、毎年の申告、そして最終的に法人をどう畳んで資金を日本に戻すかまで決めておかないと、入口で得たものを出口で返すことになります。個人か法人かトラストかは、資産全体の構成と、次の世代にどう渡すかによって答えが変わります。
もう一点、物件選びに直結する話をします。コープ(Co-op)は、法人名義やトラスト名義での保有を認めない建物がほとんどです。つまりコープを選んだ時点で、名義の設計という選択肢そのものが消えます。審査の通りやすさだけの問題ではありません。コンドミニアムとコープの違いはコンドミニアム購入のガイド(価格相場と手順、費用)で詳しく扱っています。
一方で、名義の設計は購入額が小さければそこまで神経質にならなくてよい、というご意見もあります。確かに、遺産税の基礎控除6万ドルという壁は、数千万円の物件であれば影響が限定的です。しかし当社にご相談をいただく数億円規模の取得では、設計の有無で最終的に手元に残る金額が数千万円単位で変わります。金額が大きいほど、物件そのものより器のほうが効いてきます。
5. 探す作業は一本化できる。10社とやり取りする必要はない

ここまでの話を読むと、情報が分散していて在庫も少ないなら、結局どう探せばいいのかという疑問が残ると思います。答えは仕組みの側にあります。
ニューヨークの売買では、買主側にバイヤーエージェントを立てるのが標準です。エージェントは業界内のデータベースであるRLSに直接アクセスできるため、どの会社が担当している住戸であっても、一人の担当者を通じてすべて照会と内見の手配ができます。10戸に興味があっても、やり取りの相手は1人で済むということです。
費用の面も日本と事情が異なります。仲介の報酬に決まった料率はなく、すべて当事者間の交渉で決まります。金額と支払い条件は契約前に書面でご確認ください。
もう一つ、遠隔での購入を心配される方が多いのですが、内見の動画中継、書類の電子署名、送金までを日本にいながら完結させる体制は既に一般的になっています。実際の段取りは日本にいながら買う方法の記事に、買主側エージェントの役割はバイヤーエージェントの解説記事にまとめています。
探す前の準備として整えておくものは3つです。
①資金証明。銀行残高証明を英文で用意します。オファーに添付できる状態にしておくと、売主側の扱いが変わります。②名義の方針。個人か法人かトラストか。ここが決まっていないと、良い住戸が出ても契約書のドラフトに進めません。③弁護士。ニューヨークの売買は弁護士が契約書を確認する慣行です。物件が決まってから探すと1週間から2週間を失います。
以上で見て来たように、準備が揃っている買主にとって、在庫の少なさはむしろ味方になります。動ける人が少ない市場では、動ける準備そのものが競争力になるためです。
まとめ

ニューヨークで物件を探すことは、日本の感覚での「サイトを見比べる」作業とは別物です。一元的なサイトが存在せず、高額帯の在庫は常時数戸しかなく、良い住戸ほど公開前に動きます。
ですから、探し方の順番を逆にすることをご推奨いたします。物件を先に決めるのではなく、予算と資金の出どころ、どの名義で持つか、誰が手続きを担当するかを先に固めておく。この3つが決まっていれば、出てきた住戸に対してその日のうちに動けますし、公開前の話も回ってくるようになります。
逆に、物件を探しながら名義を後で考えるという進め方をすると、良い住戸が出たときに動けず、動けたとしても税務の設計が間に合いません。急いで決めた名義は、出口で必ず高くつきます。
購入の流れ全体はニューヨーク不動産の購入ガイドを、法人名義にするかどうかの損益分岐は法人名義で買うべきかの記事を、税金の全体像はアメリカ不動産の税金に関する記事をあわせてご覧ください。
どの物件を選ぶかより先に、どの器で持つかを決める段階からご相談を承っております。一般論はここまでとし、個別のご事情に応じた設計についてはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、税務・法務・投資に関する助言ではありません。掲載した数値は公開データに基づく目安であり、将来の価格や在庫を保証するものではありません。具体的な判断は税理士、弁護士その他の独立した専門家にご確認ください。
よくある質問
ニューヨークには日本のような公的な物件情報サイトは存在しますか。
ニューヨークにはすべての売却物件が一元的に載っている公的なサイトが存在しません。実際に売り出されている住戸の情報は業界内のデータベースであるRLSに集約されており、消費者向けのサイトはその写しです。各社の判断で配信されるため、更新の遅れや掲載の差、写真と実物の乖離などが発生します。
ニューヨークの高額帯建物は常に多くの住戸が売りに出されていますか。
人口860万人の都市ですが、高額帯の建物では常時売りに出ている住戸が数戸しかないことが普通に起こります。2026年8月時点の集計でも、セントラルパークタワーは16戸、432 Park Avenueは14戸など在庫は少なく、全館で1戸しか出ていない建物もあります。
公開される前に買い手がつく住戸が存在しますか。
在庫が少ないことの裏返しとして、公開される前に買い手がつく住戸が一定数あります。売主が離婚や相続などの事情を知られたくない場合や、内見が続くことを嫌う高額帯の所有者などがおり、業界内の限られたやり取りの中で買い手を探すことになります。
非居住者が個人名義で保有した場合に売却時にどのような税金がかかりますか。
非居住者の方が個人名義で保有した場合、売却時にはFIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。これは利益ではなく売買代金に対してかかる点が見落とされがちです。また、相続では米国内国歳入庁が示す非居住者の遺産税の基礎控除が6万ドルにとどまります。
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