2026年9月28日 Satoshi Onodera

アメリカ不動産を持つ人の国外財産調書。5,000万円と3億円の線

アメリカの不動産を日本に住んだまま持つと、日本の税務署に対して2つの調書の提出義務が生じることがあります。国外財産調書と財産債務調書です。どちらも所得税の申告とは別の書類で、12月31日時点の財産を翌年6月30日までに届け出ます。

 

基準は明確です。国外財産の合計が5,000万円を超えると国外財産調書、所得が2,000万円を超えかつ財産が3億円以上、または財産が10億円以上あると財産債務調書の対象になります。ニューヨークで100万ドル(約1億5,500万円)のコンドミニアムを1戸持てば、前者の基準は超えます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。

 

出さなかった場合の不利益と、出した場合の優遇が制度に組み込まれています。個人名義とLLC名義で書き方が変わり、日本の非居住者には義務そのものがありません。誰が、何を、どう評価して書くのかを順に見ていきます。

 

 

1. 国外財産調書。5,000万円を超えたら翌年6月30日まで

ニューヨークの高層コンドミニアムの外観

 

国外財産調書は、その年の12月31日時点で国外にある財産の合計額が5,000万円を超える日本の居住者が提出します。非永住者は除かれます。提出先は所轄の税務署で、期限は翌年の6月30日です。

所得税の確定申告をしない年でも、財産の基準を満たせば提出義務があります。賃料収入がなく、不動産を持っているだけの方も対象です。

 

記載するのは財産の種類、所在、数量、価額です。米国の不動産であれば、所在地の住所と12月31日時点の価額を書きます。価額は時価が原則ですが、合理的な方法で算出した見積価額でも認められています。ドル建ての価額は、12月31日の対顧客直物電信買相場(TTB)で円に換算します。

 

 

提出しなかったときと、したときの差

この制度には両方向の仕組みがあります。期限内に提出し、記載した国外財産について後日申告漏れが見つかった場合、過少申告加算税と無申告加算税が5%軽減されます。逆に、提出がない、または記載がない財産について申告漏れが生じると5%加重されます。

さらに、正当な理由なく期限内に提出しなかった場合や虚偽の記載をした場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。国税庁のタックスアンサーNo.7456に要件が整理されています。

 

 

2. 財産債務調書。所得2,000万円超と財産3億円以上、または10億円以上

ニューヨークの高層コンドミニアムの外観

 

 

 

対象になる2つの基準

財産債務調書は、国内と国外を問わず財産と債務の全体を届け出る書類です。対象になるのは次のいずれかに当てはまる居住者です。

①その年の各種所得金額の合計が2,000万円を超え、かつ12月31日時点の財産の合計が3億円以上、または有価証券等の合計が1億円以上である方。②12月31日時点の財産の合計が10億円以上である方。②の基準には所得の条件がなく、所得が少なくても財産だけで対象になります。

 

判定に使う財産の価額は、債務を差し引く前の総額です。借入で買った物件も、物件の価額そのもので数えます。期限は国外財産調書と同じ翌年6月30日で、加算税の5%軽減と5%加重の仕組みも同じです。国税庁のタックスアンサーNo.7457が根拠です。

 

以下は2つの調書の要件を並べた表です。

 

項目 国外財産調書 財産債務調書
対象者 居住者(非永住者を除く) 居住者
財産の範囲 国外財産のみ 国内外の財産と債務
基準 5,000万円超 所得2,000万円超かつ3億円以上、または10億円以上
判定日 12月31日 12月31日
提出期限 翌年6月30日 翌年6月30日
加算税 提出で5%軽減、不提出で5%加重 提出で5%軽減、不提出で5%加重
罰則 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 なし

 

※上記は、2026年現在の制度に基づく整理です。両方を出す方は、国外財産調書に書いた財産の明細を財産債務調書では省略し、合計額だけを記載できます。

 

 

3. 個人名義かLLC名義かで、書くものが変わる

ニューヨークの高層コンドミニアムの外観

 

ニューヨークの物件を個人名義で持っている場合、調書に書くのは不動産そのものです。所在地はニューヨークの住所、種類は土地または建物、価額は12月31日時点の見積価額になります。

LLC名義で持っている場合は違います。個人が直接持っているのは不動産ではなくLLCの持分です。調書には出資持分として記載し、財産の所在はLLCの本店所在地で判定します。不動産の住所は出てきません。

 

この違いは、法人名義で買うかを決めるときに知っておく価値があります。LLCの持分の価額は、LLCが持つ不動産から借入を引いた純資産で見積もるのが通常で、借入の多い物件では個人名義より小さな数字になります。5,000万円の基準に届くかどうかが、名義で変わることがあります。

 

 

日本の非居住者と、日本法人には義務がない

どちらの調書も対象は日本の居住者に限られます。米国に住んでいる方は、ニューヨークに何戸持っていても日本の調書の提出義務はありません。駐在で一時的に米国にいる方も、税務上の非居住者であれば同じです。

日本法人の名義で持つ場合も、これらの調書は個人の制度なので出てきません。法人の財産は法人税の申告書と決算書で把握されます。個人として調書に書く必要がなくなる代わりに、法人側の申告が増える形になります。

 

 

4. 見積価額をどう出すか

ニューヨークの高層コンドミニアムの外観

 

 

 

使える3つの方法

実務で迷うのは価額です。米国には日本の路線価にあたる公的な評価額がなく、市場価格を毎年調べる必要があります。認められている方法はいくつかあります。

①その年の固定資産税の評価額(Assessed Value)を使う方法。ニューヨーク市では市場価値より低く出るため、保守的な数字になります。②取得価額に、その後の市場の動きを反映させる方法。③現地の不動産会社の査定や、同じ建物の直近の成約事例を使う方法です。

 

いずれも合理的な根拠があれば見積価額として使えます。ただし、翌年以降に方法を変えると価額が不連続になり、説明を求められる元になります。最初の年に方法を決めて、毎年同じ方法で続けることが大切です。

調書の価額は、将来の相続のときにも参照されます。相続税評価との関係は米国不動産の日本の相続税評価の記事で、非居住者の米国遺産税は非居住者の遺産税の記事で扱っています。

 

 

まとめ

ニューヨークの高層コンドミニアムの外観

 

 

 

出す前提で名義と価額を決める

米国不動産を日本に住んだまま持つ方は、5,000万円を超えた年から国外財産調書の提出義務が生じます。財産が3億円以上で所得が2,000万円を超えるか、財産が10億円以上あれば財産債務調書も加わります。期限はどちらも翌年6月30日です。

個人名義なら不動産を、LLC名義なら持分を書きます。日本の非居住者と日本法人には義務がありません。名義をどう置くかで、書くものと基準への届き方が変わります。

 

提出していれば申告漏れの加算税が5%軽くなり、していなければ5%重くなります。出さない理由はなく、出す前提で名義と価額の出し方を決めておくのが順序です。購入の前に名義を設計する段階で、日本側の申告まで含めてご相談ください。

 

よくある質問

賃料収入がなく、物件を持っているだけでも国外財産調書は必要ですか。

必要です。国外財産調書は所得ではなく12月31日時点の国外財産の価額で判定します。5,000万円を超えていれば、確定申告をしない年でも翌年6月30日までに提出します。

LLC名義で持つ米国不動産は、国外財産調書にどう書きますか。

不動産ではなくLLCの出資持分として記載します。財産の所在はLLCの本店所在地で判定し、価額はLLCの純資産をもとに見積もります。不動産の住所は記載しません。

米国に住んでいる場合も国外財産調書を出す必要がありますか。

ありません。国外財産調書と財産債務調書は日本の居住者の制度で、非居住者には提出義務がありません。日本に帰国して居住者になった年の12月31日から判定が始まります。

価額はどうやって出せばよいですか。

時価が原則ですが、合理的な方法による見積価額が認められています。固定資産税の評価額、取得価額に市場の動きを反映した金額、現地の査定額などが使えます。12月31日の対顧客直物電信買相場(TTB)で円換算し、毎年同じ方法で続けることが大切です。

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