2026年現在、日本人の米国不動産オーナーが増える中、非居住者のキャピタルゲイン税(Capital Gains Tax)への理解は売却時の手取り額を大きく左右します。FIRPTAによる源泉徴収はあくまで「仮の前払い」であり、最終的な税負担は確定申告(Form 1040NR)によって確定します。本記事では、短期・長期の税率の違い、具体的な計算例、1040NR申告の手順、そして日米租税条約の適用可能性まで、実務に基づいて解説します。
米国税務の全体像については米国確定申告(1040NR)の総合ガイドもあわせてご参照ください。非居住者として米国で収益を得る場合、申告義務と税率の仕組みを正確に把握することが節税の第一歩となります。
1. キャピタルゲイン税とFIRPTAの違いを正確に理解する

FIRPTAは「源泉徴収」であり確定税額ではない
非居住者が米国不動産を売却する際、買主または決済エージェントはFIRPTA(外国人不動産税法)に基づき、売却金額の15%(取得価格要件を満たす場合は10%)を源泉徴収し、IRSに納付します。この仕組みはあくまでも「税金の仮払い」であり、実際の税額ではありません。
実際のキャピタルゲイン税は、売却益(Gain)に基づいて計算されます。売却価格から取得費用・改修費・売却費用を差し引いた「正味譲渡益」に対して税率が適用されます。FIRPTAで過剰に源泉徴収された分は、1040NRを提出することで還付を受けられます。逆に源泉徴収額が実際の税額を下回る場合は追加納税が必要です。
IRS公式FIRPTAガイダンスによれば、売主が外国人であることを証明できない場合、買主はデフォルトで15%を源泉徴収する義務を負います。この点でFIRPTAと確定申告は「別の手続き」として明確に区別する必要があります。
非居住者に適用されるキャピタルゲインの定義
米国税法上、非居住者(Nonresident Alien)が米国の不動産を売却して得た利益は、「米国内源泉所得(Effectively Connected Income)」として課税対象になります。これは、居住者と同様の税率体系が適用されることを意味します。IRSは非居住者による不動産売却益を「ECI(実質的関連所得)」として分類しており、Form 1040NRで申告する必要があります。
2. 短期・長期キャピタルゲインの税率と計算方法

保有期間が1年を境に税率が大きく変わる
キャピタルゲイン税の税率は、不動産の保有期間によって大きく異なります。1年以内に売却した場合は「短期キャピタルゲイン(Short-term Capital Gain)」として通常の所得税率(最大37%)が適用されます。一方、1年超保有してから売却した場合は「長期キャピタルゲイン(Long-term Capital Gain)」として優遇税率が適用されます。
非居住者の長期キャピタルゲイン税率は、課税所得水準に応じて0%・15%・20%のいずれかとなります。2026年現在、課税所得が518,901ドル超(約7,783万円)の場合は20%が適用されます。さらに高所得者には3.8%のNIIT(純投資所得税)が追加される場合がありますが、非居住者のNIIT適用についてはIRS NII税ガイダンスを確認する必要があります。
| 区分 | 保有期間 | 適用税率 | 課税対象 |
|---|---|---|---|
| 短期キャピタルゲイン | 1年以内 | 10%〜37%(通常税率) | 売却益全額 |
| 長期キャピタルゲイン(低中所得) | 1年超 | 0%〜15% | 売却益全額 |
| 長期キャピタルゲイン(高所得) | 1年超 | 20% | 課税所得518,901ドル超の部分 |
| Section 1250 Unrecaptured Gain | 1年超(減価償却分) | 最大25% | 償却済み建物部分の利益 |
具体的な計算例(長期保有の場合)
例えば、日本在住の田中さん(非居住者)が2020年に300,000ドル(4,500万円)でニューヨーク州のコンドミニアムを購入し、2026年に500,000ドル(7,500万円)で売却したケースを考えます。売却に関連する費用(仲介手数料・登記費用等)が30,000ドル(450万円)だったとします。
計算の流れは以下の通りです。まず売却価格500,000ドルから取得費用300,000ドルと売却費用30,000ドルを差し引くと、純キャピタルゲインは170,000ドル(2,550万円)となります。保有期間が5年で長期扱いのため、適用税率は15%です。したがって税額は170,000ドル×15%=25,500ドル(約382万円)となります。一方、FIRPTAで源泉徴収された額は売却価格の15%、すなわち75,000ドル(1,125万円)です。申告後の還付額は75,000ドル−25,500ドル=49,500ドル(約742万円)となり、大きな還付が発生します。
この例が示す通り、1040NR申告を行わなければ過剰な源泉徴収分が手元に戻りません。申告は売却年の翌年4月15日が期限です(延長申請可能)。
3. Form 1040NRの申告手順と必要書類

1040NR申告の5つのステップ
非居住者の米国不動産売却に関する確定申告は、Form 1040NR(非居住外国人の米国所得税申告書)を使用します。居住者が使用するForm 1040とは別の様式ですが、キャピタルゲインの計算ロジックは共通しています。手順は以下の5段階です。
第1ステップとして、売却に関する情報をSchedule D(Capital Gains and Losses)にまとめます。取得日・売却日・取得費用・売却価格・ネットゲインを記入します。第2ステップでは、Form 8949(Sales and Other Dispositions of Capital Assets)で各物件の売却明細を記入し、Schedule Dに転記します。
第3ステップとして、FIRPTAで源泉徴収された税額をForm 8288-Aで確認します。この書類はクロージング時に発行されており、申告書に添付することで源泉徴収税額を税額控除として計上できます。第4ステップで1040NR本体に所得、控除、税額、源泉徴収額を記入し、還付額または追加納税額を確定します。第5ステップとして期限までにIRSへ提出します。
IRS Form 1040NR公式ページでは最新の申告書様式と記入手引きを入手できます。州税(ニューヨーク州やカリフォルニア州等)の申告も別途必要な場合があり、州によって税率・控除額が異なる点に注意が必要です。
ITINの取得と申告準備
社会保障番号(SSN)を持たない非居住者は、申告前にITIN(Individual Taxpayer Identification Number)を取得する必要があります。Form W-7を記入し、パスポートのコピー等の身分証明書をIRSに郵送、またはサーティファイドアクセプタンスエージェントを通じて申請します。ITINの取得には通常6〜10週間かかるため、売却が決まったら早めに手続きを開始することを推奨します。
4. 日米租税条約の活用と州税への影響

日米租税条約はキャピタルゲインに適用されるか
日米租税条約(Japan-US Tax Treaty)は、一部の所得について二重課税を排除する仕組みを持ちます。しかし、米国の不動産売却益については条約の軽減措置が限定的であることに注意が必要です。財務省の租税条約一覧が示す通り、日米条約第13条では不動産の所在地国(米国)に課税権が優先的に認められています。
つまり、米国に所在する不動産の売却益は、原則として米国で課税されます。一方、日本でも同じ所得が課税対象になる場合は、外国税額控除(Foreign Tax Credit)を日本の確定申告で申請することで二重課税を緩和できます。日本の国税庁の外国税額控除制度については国税庁の外国税額控除ガイドをご参照ください。
ニューヨーク州・カリフォルニア州の州税に注意
連邦税に加えて、物件所在州の州税も発生します。例えば、ニューヨーク州の場合、非居住者の不動産売却には「IT-2663(非居住者不動産売却の見積税)」として売却時点での前払い納税が義務付けられています。州のキャピタルゲイン税率は州によって大きく異なり、ニューヨーク州では最大10.9%、カリフォルニア州では最大13.3%となっています。
これらの州税は連邦税の計算において控除できる場合があるため、連邦・州を含めた総合的な税負担を試算することが重要です。州税の申告漏れは過少申告ペナルティの対象となるため、専門家への相談を強くお勧めします。
5. まとめ

非居住者が米国不動産を売却した際のキャピタルゲイン税は、FIRPTAによる源泉徴収とは別に、Form 1040NRによる確定申告で最終的な税額を確定させる必要があります。保有期間が1年を超えるかどうかで税率が大きく変わるため、売却タイミングの計画が重要です。長期保有であれば15〜20%の優遇税率が適用され、FIRPTAで源泉徴収された15%との差額が大きな還付金として戻ってくる可能性があります。
また、減価償却の再取り込み(Section 1250 Unrecaptured Gain)や州税の取り扱い、日米租税条約の適用判断は複雑であり、米国税務の知識を持つ専門家(CPA)に相談することで大きな節税効果が期待できます。ITINの取得から1040NRの提出まで、段取りよく進めることが過剰な利子・ペナルティを避ける鍵です。
非居住者の米国所得税申告についてより詳しく知りたい方は、米国確定申告の総合解説ページもあわせてご確認ください。申告の準備から提出まで、専門家のサポートを活用することで安心して手続きを進められます。
税務上の判断や申告手続きについてご不明な点がある場合は、お気軽にご相談ください。お問い合わせフォームよりご連絡いただければ、専門家が丁寧にお答えいたします。
よくある質問
非居住者が米国不動産を売却する際、FIRPTAによる源泉徴収は最終的な税額とどう異なりますか。
FIRPTAによる源泉徴収はあくまで仮の前払いであり、実際の税額は売却益に基づき計算されます。過剰に徴収された分はForm 1040NRの提出で還付を受けられ、不足分は追加納税が必要です。両者は別の手続きとして明確に区別する必要があります。
非居住者の米国不動産売却におけるキャピタルゲイン税率は保有期間によってどう変化しますか。
保有期間が1年以内なら短期キャピタルゲインで最大37%の通常税率が適用されます。1年超なら長期キャピタルゲインとなり、所得水準に応じて0%から20%の優遇税率が適用されます。高所得者には3.8%のNIITが追加される場合もあります。
非居住者が米国不動産売却益を申告する際、Form 1040NRの手順と必要書類はどのようなものですか。
Schedule Dで売却情報をまとめ、Form 8949で明細を記入し、FIRPTAの源泉徴収額をForm 8288-Aで確認します。その後1040NR本体に所得や控除を記入して提出します。社会保障番号がない場合は事前にITINを取得する必要があります。
日米租税条約は米国不動産売却益への課税権をどう規定し、二重課税はどう緩和されますか。
日米租税条約では不動産の所在地国である米国に課税権が優先的に認められています。日本でも課税対象となる場合は、日本の確定申告で外国税額控除を申請することで二重課税を緩和できます。また物件所在州の州税も別途発生します。
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