米国の不動産を取得される際、名義を誰にするかというご相談は必ず出てきます。ご夫婦で持つ、お子様と持つ、あるいはご兄弟で持つ。
このとき、多くの方が「二人の名前を書けば共有になる」と考えられます。実際にはそうではありません。米国では共有にいくつかの形式があり、どの形式を選んだかによって、片方が亡くなったときの結果がまったく変わります。
そして形式は、権利証書に書かれた一行の文言で決まります。後から変えるには手続きが要り、税が発生することもあります。本日は、この一行が何を決めているのかを見ていきましょう。
1. 共有の形式は一つではない

米国の不動産における共有には、主に次の形があります。
①持分共有。それぞれが持分を持ち、その持分は本人の財産として扱われます。亡くなれば、持分は遺産として相続の対象になります。持分の割合は等分でなくても構いません。
②生存者権付きの合有。持分は等しく、一方が亡くなると、その持分は自動的にもう一方へ移ります。遺言の内容にかかわらず移りますので、遺産分割の対象になりません。
③夫婦間の特別な合有。州によって認められている形式で、夫婦を一体として扱います。生存者への自動移転に加え、債権者からの保護が働く場面があります。ニューヨーク州ではこの形式が認められています。
違いは相続のときに表面化します。②と③では、裁判所の検認手続きを経ずに名義が移ります。①では、遺産として検認を通ることになります。
もう一点、形式によって共有者どうしの関係も変わります。持分共有では、それぞれが自分の持分について独立して判断できます。合有では二人で一つの権利を持っている扱いになり、片方だけの判断で動かせる範囲が狭くなります。「共に持つ」という言葉の中身が、形式によって違うということです。
2. 検認手続きを避けたいという動機

検認とは、亡くなった方の財産を裁判所の監督のもとで整理する手続きです。米国では、その州にある不動産は、その州の裁判所の手続きに服します。
海外にお住まいの方にとって、この手続きは負担が大きくなりがちです。書類は英語で用意し、必要に応じて公証と認証を経ます。相続人が全員日本にいる場合、代理人を立てて進めることになり、期間も費用も膨らみます。
だからこそ、検認を通さずに承継できる形が選ばれます。生存者権付きの合有はその一つです。ほかにトラストを使う方法もあり、こちらは複数の資産をまとめて設計できます。承継全体の考え方は非居住者の米国遺産税と、日本の相続税との二重構造にまとめています。
ただし、検認を避けることと、税を避けることは別の話です。手続きを通さずに移転できたとしても、遺産税の課税対象になるかどうかは別の基準で判定されます。非居住者の基礎控除は小さく設定されていますので、手続きの簡便さだけで判断すると税の面で不意を突かれます。
日本側の扱いも並行して確認します。米国で検認を経ずに移転した資産であっても、日本の相続税の課税対象になるかどうかは日本の基準で判定されます。片方の国の手続きが軽くなることと、両国を合わせた負担が軽くなることは同じではありません。二つの制度を並べたうえで設計します。
3. 形式ごとの比較

非居住者の視点で、3つの形式を並べます。
| 観点 | 持分共有 | 生存者権付き合有 |
|---|---|---|
| 持分の割合 | 自由に設定できる | 原則として均等 |
| 死亡時の移転 | 遺産として相続の対象 | 生存者へ自動的に移る |
| 遺言の効力 | 遺言で承継先を指定できる | 遺言より共有形式が優先する |
| 検認 | 通常は必要 | 持分の移転では不要 |
| 単独での処分 | 自分の持分を売却できる | 処分すると形式が崩れる |
三行目が最も重要です。共有の形式は、遺言の内容に優先します。遺言で別の人に渡すと書いていても、生存者権付きの合有であれば持分は共有者へ移ります。遺言だけを整えて安心されている方が、実は最も危うい状態にあります。
五行目は運用の柔軟性です。持分共有であれば、自分の持分だけを売却したり、担保に入れたりできます。生存者権付きの合有でそれを行うと形式が崩れ、意図した承継が働かなくなります。柔軟性を取るか、承継の確実さを取るかという選択です。
持分の割合を自由に決められる点も、実務では効きます。資金の拠出割合と持分の割合がずれていると、その差が贈与とみなされることがあります。誰がいくら出したかを記録し、その割合を証書に反映しておくのが基本です。後から説明するより、最初から一致させておくほうが確実です。
4. 取得の前に決める理由

共有の形式は、権利証書の文言で決まります。つまり取得の瞬間に確定します。
後から変えることもできますが、名義の変更は権利の移転として扱われ、譲渡税や贈与の問題が生じ得ます。持分の一部を家族へ移すという行為は、贈与として課税の対象になり得ます。非居住者間の贈与の扱いは複雑ですので、事前の確認が欠かせません。
法人やトラストを器として使う場合は、また別の設計になります。取得の前に比較しておくべき論点はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。保有中と売却時の税はアメリカ不動産の税金の全体像、売却時の源泉徴収はFIRPTAの源泉徴収の記事をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「相続のことは先の話であり、まず物件を決めるのが先ではないか」というものです。
順序としては理解できます。ただ、形式の選択に追加の費用はかかりません。権利証書に書く文言が変わるだけです。取得の前に決めれば無料で、後から変えれば税がかかる。同じ結果に対して、支払う金額が違います。しかも「先の話」は予定通りに来るとは限りません。決めておくのが高くつくことは、この論点に限ってはありません。
もう一点、共有者が複数いる場合の実務も添えます。売却には共有者全員の合意が要ります。将来、一人が売りたくなったときにどうするか。取得の段階で、退出の方法を家族間で話しておくことをお勧めしています。書面にしておけば、なお確実です。
付け加えると、共有の形式は物件ごとに選べます。一つ目は夫婦の合有で、二つ目は持分共有で、という設計も可能です。資産全体を一つの形式で揃える必要はありません。使い方と承継の希望が物件ごとに違うなら、器も物件ごとに分けて考えます。
5. まとめ

米国の不動産を複数人で持つときは、共有の形式を選ぶことになります。持分共有か、生存者権付きの合有か。この選択が、相続のときの手続きと結果を決めます。
押さえるべき点は3つです。共有の形式は遺言に優先すること、検認を避けることと税を避けることは別であること、そして形式は取得の瞬間に確定すること。
権利証書の一行を決めるのに、追加の費用はかかりません。後から変えるほうが高くつきます。取得の前に、承継の姿まで含めて器を決めておく。それがこの論点への向き合い方です。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、名義と承継の設計段階からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
よくある質問
米国の不動産を夫婦で共有する場合、生存者権付きの合有を選べば遺言の内容にかかわらず持分は自動的に移りますか。
生存者権付きの合有では持分が等しくなり、一方が亡くなるとその持分は自動的にもう一方へ移ります。遺言の内容にかかわらずこの移転が行われるため、遺産分割の対象にはなりません。裁判所の検認手続きを経ずに名義が移る点も特徴です。
米国の不動産を共有する際、持分共有を選べば自分の持分だけを売却したり担保に入れたりできますか。
持分共有ではそれぞれが自分の持分について独立して判断でき、自分の持分だけを売却したり担保に入れたりできます。生存者権付きの合有でそれを行うと形式が崩れ、意図した承継が働かなくなります。柔軟性を取るか承継の確実さを取るかの選択です。
米国の不動産を複数人で持つ場合、資産全体を一つの共有形式で揃える必要がありますか。
共有の形式は物件ごとに選べます。一つ目は夫婦の合有で二つ目は持分共有でという設計も可能です。資産全体を一つの形式で揃える必要はありません。使い方と承継の希望が物件ごとに違うなら、器も物件ごとに分けて考えます。
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