アメリカに居住する日本人の方にとって、避けて通れないのが複雑な税務申告制度です。特に日本に金融口座を保有している場合、FBAR(Foreign Bank Account Report)とFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)という2つの重要な報告義務が生じます。
2026年4月現在、アメリカ国税庁(IRS)は海外金融口座の監視を強化しており、適切な申告を怠った場合、最大で口座残高の50%という重大なペナルティが科される可能性があります。実際に、2023年度だけでIRSは約140万件のFBAR申告を受理しており、この数字は年々増加傾向にあります。
一方で、これらの制度を正しく理解し適切に対応すれば、アメリカでの税務コンプライアンスを確実に満たすことができます。本日はFBARとFATCAの具体的な要件、申告手順、そして注意すべきポイントについて見ていきましょう。
1. FBARの基本要件と申告義務

FBARとは何か
FBAR(Foreign Bank Account Report)は、アメリカ居住者が海外に保有する金融口座について財務省に報告する制度です。年間のいずれかの時点で海外金融口座の合計残高が10,000ドル(約155万円)を超えた場合、翌年の4月15日(延長可能)までに報告義務が生じます。
アメリカ金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)によると、この制度は1970年の銀行秘密法に基づいて設立され、マネーロンダリングやテロ資金調達の防止を主な目的としています。
申告が必要な金融口座の種類
FBARで申告が必要な海外金融口座には、以下のようなものが含まれます。
① 銀行預金口座(普通預金、定期預金、当座預金など)
② 証券口座(株式、債券、投資信託など)
③ 保険会社の積立型保険(現金価値を有する生命保険など)
④ 投資ファンド口座(ヘッジファンド、プライベートエクイティファンドなど)
⑤ その他の金融商品(デリバティブ、先物取引口座など)
重要なポイントとして、署名権限を有する他人名義の口座についても申告義務が生じる場合があります。例えば、日本の親族の口座に対して代理人として署名権限を持っている場合などが該当します。
10,000ドル基準の計算方法
10,000ドルの判定は、年間を通じて海外口座の合計残高がいずれかの時点で10,000ドルを超えたかどうかで決まります。月末残高の平均ではなく、最大残高で判定される点が重要です。
IRSのFAQでは、複数の海外口座を保有している場合、すべての口座の残高を合計して判定することが明記されています。
2. FATCAの仕組みと報告要件

FATCAの概要と目的
FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)は、2010年に制定された法律で、アメリカ人の海外資産に対する課税逃れを防ぐことを目的としています。FBARが財務省への報告であるのに対し、FATCAはIRSへの申告となります。
IRSのFATCAページによると、この制度により年間約100億ドルの追加税収が見込まれており、国際的な税務透明性の向上に大きく寄与しています。
Form 8938の申告要件
FATCAの下では、Form 8938(Statement of Specified Foreign Financial Assets)の提出が必要となります。申告基準は居住ステータスによって以下のように異なります。
| 居住ステータス | 年末時点 | 年間最高額 |
|---|---|---|
| 国内居住・独身 | 50,000ドル以上 | 75,000ドル以上 |
| 国内居住・夫婦合算 | 100,000ドル以上 | 150,000ドル以上 |
| 海外居住・独身 | 200,000ドル以上 | 300,000ドル以上 |
| 海外居住・夫婦合算 | 400,000ドル以上 | 600,000ドル以上 |
※上記は、海外金融資産の申告基準額(2026年4月現在、1ドル=155円換算)
申告対象となる金融資産
Form 8938で申告が必要な「特定海外金融資産」には、以下のようなものが含まれます。
・外国金融機関に預けられた預金口座
・外国法人が発行する株式や債券
・外国パートナーシップの持分
・外国信託の受益権
・外国年金制度への拠出
・外国デリバティブ契約
Form 8938の説明書では、これらの資産について詳細な記載方法が説明されており、各資産の取得コスト、年間最高額、年末残高などの情報が必要となります。
3. FBARとFATCAの違いと重複部分

制度の根拠法と管轄機関の違い
FBARとFATCAは、しばしば混同されがちですが、根拠法、管轄機関、申告基準がそれぞれ異なる独立した制度です。
FBARは1970年の銀行秘密法に基づく制度で、財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が管轄しています。一方、FATCAは2010年の外国口座税務コンプライアンス法に基づき、IRSが管轄する税務申告制度です。
申告基準額と対象範囲の比較
両制度の主な違いを整理すると以下のようになります。
① 申告基準額
・FBAR、10,000ドル(約155万円)
・FATCA、50,000ドル~600,000ドル(居住ステータスにより変動)
② 申告対象
・FBAR、海外金融口座(署名権限を含む)
・FATCA、海外金融資産全般(より広範囲)
③ 申告期限
・FBAR、4月15日(10月15日まで自動延長)
・FATCA、税務申告書(Form 1040)と同時提出
二重申告が必要なケース
多くの場合、海外に大きな金融資産を持つアメリカ居住者は、FBARとFATCA の両方の申告義務を負うことになります。
IRSの比較資料によると、同じ口座について両方の申告が必要な場合でも、それぞれの制度の要件に従って別々に申告する必要があります。片方の申告をもって他方の申告に代えることはできません。
4. 申告手続きと実務上の注意点

FBAR申告の具体的手順
FBARの申告は、FinCENの電子申告システム(BSA E-Filing)を通じて行います。紙での申告は原則として受け付けられていません。
申告に必要な主な情報は以下の通りです。
・口座保有者の基本情報(氏名、住所、納税者番号)
・金融機関の詳細情報(名称、住所、口座番号)
・各口座の年間最高残高
・口座の種類(預金、証券、その他)
・署名権限の有無
BSA E-Filingシステムでは、初回利用時にユーザー登録が必要で、登録完了まで数日を要する場合があります。申告期限に余裕を持って準備することをご推奨いたします。
Form 8938の記載要領
Form 8938は、通常の所得税申告書(Form 1040)に添付して提出します。主な記載項目は以下の通りです。
① Part I、外国預金口座・その他の金融口座
② Part II、外国株式・債券等の有価証券
③ Part III、その他の外国金融資産
④ Part IV、例外事項・特別な状況
各資産について、取得年月日、取得コスト、年間最高額、年末残高、所得の発生有無などの詳細情報を記載する必要があります。
為替レート換算の取り扱い
海外資産の米ドル換算については、IRSが公表する年末の公式為替レートを使用します。IRSの為替レート表では、主要通貨について月次・年次の平均レートが公表されています。
2026年の日本円対米ドルの年末レートは149.34円(2026年12月31日時点)でしたが、2026年については年末時点での公式レートを使用することになります。
まとめ

FBARとFATCAは、アメリカ居住者にとって避けて通れない重要な申告義務です。FBAR は10,000ドル以上の海外金融口座について財務省に報告し、FATCA は居住ステータスに応じた基準額以上の海外金融資産についてIRSに申告する制度です。
両制度とも、適切な申告を怠った場合の ペナルティは非常に重く、FBARでは口座残高の50%、FATCAでは最大60,000ドルの制裁金が科される可能性があります。IRSのペナルティ規定によると、故意の申告漏れの場合、さらに重い刑事罰が科されるケースもあります。
一方で、これらの制度を正しく理解し適切に対応すれば、アメリカでの税務コンプライアンスを確実に満たすことができます。複雑な判定基準や申告手続きについては、国際税務に精通した税理士や会計士にご相談されることをご推奨いたします。
アメリカでの税務申告や海外資産の管理について ご不明な点がございましたら、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
FBARの報告義務が生じる口座残高の基準額はいくらですか。
FBARの報告義務は、年間のいずれかの時点で海外金融口座の合計残高が10,000ドルを超えた場合に生じます。月末残高の平均ではなく最大残高で判定され、複数の口座を保有する場合はすべての残高を合計してこの基準額と比較する必要があります。
FATCAのForm 8938提出に必要な資産額の基準は居住ステータスによってどう異なりますか。
FATCAの申告基準額は居住ステータスにより異なり、国内居住の独身者は年末50,000ドル以上または年間最高額75,000ドル以上、海外居住の独身者は年末200,000ドル以上または年間最高額300,000ドル以上で義務が生じます。夫婦合算の場合はそれぞれ倍額の基準が適用されます。
FBARとFATCAの両方の申告が必要な場合、片方の提出で他方を代替できますか。
FBARとFATCAは根拠法や管轄機関が異なる独立した制度であり、同じ口座について両方の申告が必要な場合でも、それぞれの要件に従って別々に申告する必要があります。片方の申告をもって他方の申告に代えることはできず、重複して提出することが求められます。
FBARの申告を怠った場合に科されるペナルティの最大額はいくらですか。
適切なFBAR申告を怠った場合、最大で口座残高の50%という重大なペナルティが科される可能性があります。また故意の申告漏れの場合にはさらに重い刑事罰が科されるケースもあり、アメリカ国税庁は海外金融口座の監視を強化しています。
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