米国の不動産を取得される際、保険は決済の要件として最後に出てきます。融資を使う場合は加入証明がなければ決済できませんので、多くの方が急いで手配されます。
その結果、何にどこまで備えているのか分からないまま、毎年保険料だけを払い続けているという状態が生まれます。数年後に事故が起きて、対象外だったと知る。これは実際に起きています。
米国の不動産保険は、所有の形式によって必要な補償が根本的に違います。本日はその区分と、決めるべき数字について見ていきましょう。
1. 所有形式で変わる補償の範囲

まず前提として、建物のどこまでを自分が所有しているのかを整理します。
コンドミニアムでは、住戸の内側が自分の所有で、外壁や屋根、共用部は管理組合の所有です。組合は建物全体に保険をかけていますので、個人が必要とするのは住戸内の造作と家財、そして自分の責任で起きた損害への賠償です。
コープでは、所有しているのは株式ですので、さらに範囲が変わります。建物は法人が保有し、住戸内の改修部分と家財が個人の対象になります。
一棟の建物やタウンハウスでは、すべてが自分の責任です。建物の躯体、屋根、設備、外構。再建に必要な費用の全額を自分の保険で賄う設計になります。
ここで見落とされやすいのが、コンドミニアムの組合保険との境界です。どこまでが組合の補償で、どこからが個人かは、建物ごとの規約と組合の保険証券に書かれています。境界の位置は建物によって違います。決済前にこの2点を取り寄せて確認します。
組合が加入している保険にも免責金額があります。共用部で起きた事故で組合の免責分が発生した場合、その負担が住戸の所有者に配分される仕組みを持つ建物があります。この配分に備える補償を個人の保険に付けられるかどうかは、代理店に確認しておく価値があります。
2. 貸すなら補償の設計が変わる

自分で住む場合と、賃貸に出す場合では、必要な保険が違います。
賃貸に出す物件では、家財の補償の重みが下がり、賠償責任と家賃収入の補償の重みが上がります。入居者の持ち物は入居者自身が備えるものであり、所有者が備えるべきなのは建物と、事故が起きたときの責任です。
加えて、貸主に特有の補償があります。①家賃収入の補償。事故で住戸が使えなくなった期間の賃料を補います。②賠償責任。入居者や来訪者が建物内で負傷した場合。③設備の故障。暖房や給湯の機器が壊れた場合の修理と、それによる二次被害。
実務では、入居者に借家人保険への加入を賃貸契約で義務づけることが一般的です。入居者側の過失で起きた損害に、入居者の保険が働きます。契約書にこの条項があるかどうかで、事故のときの負担が変わります。
もうひとつ、貸す場合には契約の種類そのものが変わります。自己居住を前提とした住宅保険のまま賃貸に出していると、事故のときに用途の相違を理由に支払いを拒まれ得ます。賃貸に切り替えたら、保険も切り替える。単純ですが、忘れられやすい手順です。
3. 決めるべき数字と、洪水の区分

保険の設計で決める数字は4つです。
| 項目 | 決め方の考え方 |
|---|---|
| 建物の補償額 | 購入価格ではなく再建に要する費用で組む |
| 賠償責任の限度 | 資産全体を守れる水準まで引き上げる |
| 免責金額 | 自己負担を上げれば保険料は下がる |
| 洪水の扱い | 通常の保険では対象外。別契約になる |
一行目が最も誤解されます。建物の補償額は購入価格と一致しません。土地の価値は燃えませんので、再建に必要な建築費で決めます。都心の物件では、購入価格より建物の補償額が大幅に低くなるのが普通です。逆に、古い意匠を復元する必要のある建物では、建築費が想定より高くつきます。
四行目は独立した論点です。通常の住宅保険は洪水を対象にしません。海や河川に近い物件では、連邦の制度または民間の保険で別に手当てします。区分は連邦緊急事態管理庁(FEMA)の洪水地図で住所ごとに確認できます。
この区分は融資の条件にも関わります。指定の区域内では加入が求められることがあり、保険料が年間の収支に効いてきます。購入の判断に入る前に、住所で確認しておく項目です。
免責金額の考え方も一点。少額の修理は保険を使わず自己負担で処理するという前提に立てば、免責を上げて保険料を下げる設計が合理的になります。米国では請求の履歴が次の更新の保険料に影響します。小さな請求を重ねるより、大きな事故のために備えを残しておくという考え方です。
4. 海外在住のまま加入するときの実務

非居住者でも加入は可能です。ただし実務上の注意点がいくつかあります。
①空室期間の扱い。入居者のいない状態が長く続くと、補償が制限される条項を含む契約があります。売却前の空室や、二拠点で使う物件では確認が必要です。②法人名義。所有者が法人であれば、契約者も法人になります。名義の判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。③連絡先。事故時の一次対応者を米国内に置いておくと、対応が早くなります。管理を委託している場合は管理会社が担います。委託の設計は賃貸管理の記事をご覧ください。
保険料は経費として扱われますので、税務の面でも記録を残します。全体像はアメリカ不動産の税金の全体像をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「補償を厚くすると保険料が上がるので、最低限でよいのではないか」というものです。
保有する資産の規模によります。ただ、米国で警戒すべきなのは建物の損害よりも賠償責任です。訴訟に至った場合の請求額は、日本の感覚とは水準が違います。建物の補償額を削ることには合理性がありますが、賠償責任の限度額を削ることには合理性がありません。保険料の差は限度額の差ほど大きくならないためです。厚くする場所と薄くする場所を分ける。これが設計の要点です。
更新の時期にも一手間かけます。建築費と修繕費は年ごとに動きますので、数年前に決めた補償額が現在の再建費用に足りていないことがあります。毎年の更新案内をそのまま承認せず、補償額の妥当性を確認する。手間は数分ですが、事故のときの差は大きくなります。
代理店の選び方も一点。米国では、複数の保険会社の商品を扱う代理店と、一社の商品のみを扱う代理店があります。物件の条件が特殊なほど、複数社を比較できる代理店のほうが選択肢が広がります。古い建物、洪水の区域、法人名義、非居住者。これらが重なると、引き受けられる会社は限られてきます。
5. まとめ

米国不動産の保険は、所有形式で必要な補償が変わります。コンドミニアムとコープでは組合との境界を確認し、一棟の建物では再建費用の全額を自分で設計します。
賃貸に出すなら、家財より賠償責任と家賃収入の補償に重心を移し、入居者には借家人保険の加入を契約で義務づけます。
決める数字は4つ。建物の補償額、賠償責任の限度、免責金額、そして洪水の扱いです。洪水は別契約であり、住所ごとに区分を確認します。
保険は事故が起きるまで価値が見えない支出ですが、設計を誤ると資産全体が危険にさらされます。取得の前に確認しておく項目です。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、保有の設計段階からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・保険に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
よくある質問
コンドミニアムの所有者は建物の外壁や屋根の損害を保険で補償する必要がありますか。
コンドミニアムでは住戸の内側が個人の所有となり、外壁や屋根、共用部は管理組合の所有です。管理組合が建物全体に保険をかけるため、個人が必要とするのは住戸内の造作と家財、そして自分の責任で起きた損害への賠償となります。
賃貸物件の所有者は入居者の持ち物に対する補償を保険設計に含めるべきですか。
賃貸に出す物件では家財の補償の重みが下がり、賠償責任と家賃収入の補償の重みが上がります。入居者の持ち物は入居者自身が備えるものであり、所有者が備えるべきなのは建物と事故が起きたときの責任です。
建物の補償額は購入価格と同じ金額で設定するのが正しいですか。
建物の補償額は購入価格と一致しません。土地の価値は燃えないため再建に必要な建築費で決めます。都心の物件では購入価格より建物の補償額が大幅に低くなるのが普通ですが、古い意匠を復元する必要のある建物では建築費が想定より高くつきます。
洪水による損害は通常の住宅保険で補償されますか。
通常の住宅保険は洪水を対象にしません。海や河川に近い物件では連邦の制度または民間の保険で別に手当てします。区分は連邦緊急事態管理庁の洪水地図で住所ごとに確認でき、指定の区域内では加入が求められることがあります。
PRACTICE取得・保有・出口の実務(55件)
買うとき
- 物件の探し方 — 情報の仕組みと在庫の実際
- 日本から買う — 内見から送金までの実務
- 米国のローン — LTVとレバレッジの考え方
- 住宅ローンの組み方 — 駐在・非居住者でも借りられる条件と金利
- コンドミニアムの購入 — 価格相場と手順、費用と名義の決め方
- DSCRローン — 収入証明なしで組む条件
- 法人名義で買うか — 個人所有との損益分岐
- タイトル保険 — 日本の登記制度との違い
- 不動産会社の選び方 — 確認すべき5点
- 失敗は5つに集まる — 契約前に確認できる項目
- 海外不動産のデメリット4つ — 対処できるものとできないものを分ける
- 新築と中古 — 価格・交渉・維持費で比べる
- プレコンストラクション — 竣工前に買う判断
- タウンハウス一棟 — 管理組合のない所有
- 借りるか買うか — 高金利下の損益分岐
- 住みながら買う — 賃貸を続ける場合との比較
持っているあいだ
- 管理費は月いくらか — 区別の実額と安い建物の落とし穴
- 不動産にかける保険(この記事)
- 買った後の管理 — 海外に住みながら所有を続ける
- 管理会社の選び方 — 費用と契約前の確認事項
- テナント管理 — 賃料回収と契約更新の実務
- 収益改善の手法 — プロパティマネジメントの実際
- アメリカの固定資産税は年いくらか — 州別の実効税率と物件価格別の年額
- 減価償却で税を前倒しする — 建物比率と、個人名義・法人名義の違い
- 4年償却は使えるのか — 2020年改正後の正しい姿
- 改正後に残った節税の道 — 個人の損益通算と法人名義の分かれ目
- 土地の権利とゾーニング — 何が建てられるかの規制
- 保証人と保証会社 — 収入40倍の壁を越える
- 賃貸収入の税務 — 非居住者の源泉徴収と純額課税の選択
- 非居住者の確定申告 — オーナーの年間カレンダー
- 価格の推移 — 10年・5年・直近1年を都市別に見る
- 駐在員の確定申告 — 日米どちらに出すか、FBARの1万ドルの線
出すときと税務
- 売るときの流れ — 海外にいながら決済まで
- 売却の手続きと税金 — 必要書類まで
- 売却の戦略 — 市場を見て出口を決める
- 非居住者のキャピタルゲイン税 — 1040NRの申告手順
- 1031エクスチェンジ — 譲渡益を繰り延べる仕組み
- 出口の使い分け — 源泉徴収・1031・セクション121
- QOF(適格機会基金) — 譲渡益の課税を繰り延べる
- オポチュニティゾーン — 繰延制度の中身
- FIRPTAの源泉徴収 — 売却代金の15%と還付の手続き
- 贈与税はいくらから — 非居住者は生涯控除ゼロ
- アメリカの相続税 — 連邦と州、非居住者の場合分け
- 非居住者の遺産税 — 基礎控除6万ドルの壁
- 不動産をトラスト名義にする — プロベートは避けられるが遺産税は消えない
- 信託(トラスト) — 種類・税務・債権者保護
- 複数人で持つ — 共有の形式で相続の結果が変わる
- 遺言書 — 手続きと費用、税務上の注意
- FBAR・FATCA — 海外金融口座の報告義務
- 駐在員の確定申告 — 日米の税金と控除
- 日米の税制の要点 — 法人設立の前に押さえる
- 日米租税条約 — 軽減されるもの、されないもの
- 富裕層の節税の型 — 実際に使われている7つ
- 資産をどこに置くか — 富裕層の配分と、不動産が選ばれる理由
- C-Corp と LLC — 形態ごとの課税の違い
全体の流れ
English guides on reinventny.com
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。

















