アメリカの相続税(連邦遺産税)は、日本と課税の向きが逆です。受け取る側ではなく遺産の側に課され、税率は最高40%です。基礎控除は米国居住者で1,500万ドル(約23億円)あるため、米国に住む方の多くは対象になりません。
ところが日本に住んだまま米国の不動産を持つ方は、基礎控除が6万ドルしかありません。100万ドルのコンドミニアムを持ったまま相続が起きると、控除後の94万ドルに課税されます。米国居住者と非居住者で、同じ物件の相続の結果がまったく違います。
連邦と州の二層の仕組み、税率と控除、非居住者の場合分けと事前に取れる対策を順に整理します。
1. アメリカ相続税制度の基本構造

連邦相続税の概要
アメリカの相続税制度は、連邦政府レベルと州政府レベルの二層構造で運営されています。連邦相続税は、アメリカ国税庁(IRS)により管理され、全国一律の制度として適用されます。
2026年現在、連邦相続税の基礎控除額は1,500万ドル(約23億円)に設定されており、この金額を超える部分には、実質的に40%の税率がかかります(税率表は18%から40%の累進ですが、基礎控除が税額控除の形で差し引かれる仕組みのため)。この基礎控除額は、Tax Cuts and Jobs Act(減税・雇用法)により2018年から大幅に引き上げられましたが、2026年末に半減する予定でした。しかし2025年成立の税制法でこの縮小は撤回され、2026年からは1,500万ドルの水準が恒久化されています。
州の相続税・遺産税制度
連邦相続税とは別に、一部の州では独自の相続税または遺産税を課しています。Tax Foundationの集計(2025年1月時点)では、12州と首都ワシントンD.C.が独自の遺産税を、5州(ケンタッキー、メリーランド、ネブラスカ、ニュージャージー、ペンシルベニア)が相続税を課しています。アイオワ州の相続税は2025年に廃止されました。
州の相続税は連邦よりも低い控除額で設定されることが多く、例えばニューヨーク州では、2026年に亡くなった場合の基礎控除が735万ドル(約11億3,900万円、毎年インフレ調整)です(ニューヨーク州税務財務局)。ニュージャージー州は2018年に遺産税を廃止しましたが、受取人の続柄に応じて課される相続税は残っています。
| 税制区分 | 管轄 | 基礎控除額(2026年) | 最高税率 |
|---|---|---|---|
| 連邦相続税 | 全米 | 1,500万ドル | 40% |
| ニューヨーク州 | 州レベル | 735万ドル | 16% |
| カリフォルニア州 | 州レベル | 相続税なし | – |
※上記は主要州の相続税制度の比較です。
2. 税率構造と課税対象資産

累進税率の仕組み
アメリカの連邦相続税の税率表は、課税対象の遺産額の全体に当てはめます。そこから基礎控除に相当する税額控除(統一税額控除)を差し引くため、基礎控除を超えた部分には実質的に40%がかかります。IRS Form 706の説明書によると、2026年の税率構造は以下のようになっています。
①1万ドルまで、税率18%
②1万ドル超2万ドルまで、税率20%
③2万ドル超4万ドルまで、税率22%
④4万ドル超6万ドルまで、税率24%
⑤6万ドル超8万ドルまで、税率26%
⑥8万ドル超10万ドルまで、税率28%
⑦10万ドル超15万ドルまで、税率30%
⑧15万ドル超25万ドルまで、税率32%
⑨25万ドル超50万ドルまで、税率34%
⑩50万ドル超75万ドルまで、税率37%
⑪75万ドル超100万ドルまで、税率39%
⑫100万ドル超、税率40%
課税対象となる財産の範囲
アメリカの相続税における課税対象財産は非常に幅広く定義されています。総遺産(Gross Estate)には、被相続人が死亡時に所有していたすべての財産が含まれます。
現金、銀行預金、有価証券はもちろん、不動産、事業資産、生命保険金、退職金制度の給付、さらには被相続人が設立した信託の受益権なども含まれます。特に注目すべきは、アメリカ国外の資産についても、アメリカ市民権者および永住権者の場合は全世界の財産が課税対象となることです。
一方で、非居住外国人の場合は、アメリカ国内に所在する財産のみが課税対象となりますが、基礎控除額は6万ドル(約930万円)と大幅に減額されます。
3. 日本人特有の課税問題と二重課税

居住ステータスによる課税の違い
日本人のアメリカ相続税における取り扱いは、被相続人の居住ステータスにより大きく異なります。IRSの非居住外国人相続税ガイダンスによると、主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。
アメリカ市民権者の場合は、居住地に関係なく全世界の財産が課税対象となり、基礎控除額は1,500万ドルが適用されます。永住権者(グリーンカード保持者)も同様の扱いを受けますが、永住権を放棄した場合の特例措置があります。
最も注意が必要なのは非居住外国人のケースです。この場合、アメリカ国内の資産のみが課税対象となりますが、基礎控除額は6万ドルと極めて低く設定されています。つまり、アメリカに100万ドル(約1億5,500万円)の不動産を所有している日本人が亡くなった場合、94万ドル(約1億4,570万円)に対して相続税が課税される可能性があります。
日米租税協定による救済措置
このような厳しい課税を緩和するため、日米の相続税・贈与税条約では特別な規定が設けられています。比例的基礎控除という制度により、非居住外国人でも一定の条件下で基礎控除額の増額が認められます。
具体的には、被相続人の総財産に占めるアメリカ資産の割合に応じて、基礎控除額を按分計算します。例えば、総財産2,000万ドルのうちアメリカ資産が1,000万ドルの場合、アメリカ資産の割合は50%です。1,500万ドルの基礎控除に相当する税額控除5,945,800ドルの50%、2,972,900ドルが認められ、非課税になる遺産額に直すと約757万ドルです。
また、日本とアメリカで二重に相続税が課税される場合には、外国税額控除により調整が行われます。ただし、控除額の計算は複雑で、両国の税制の違いにより完全な二重課税の排除は困難なケースも多くあります。日本の相続税の計算でアメリカの不動産がどう評価されるかは、アメリカ不動産の相続税評価にまとめています。
4. 効果的な相続税対策と節税戦略

生前贈与による節税効果
アメリカの相続税対策として最も基本的かつ効果的な手法が生前贈与です。IRS贈与税ガイドによると、年間贈与税非課税枠は1人あたり19,000ドル(約295万円、毎年インフレ調整)に設定されています。
夫婦がそれぞれ自分の財産から贈与すれば、受け取る1人あたり年間38,000ドル(約589万円)まで非課税です。受贈者ごとに枠があるため、子2人と孫2人へ夫婦から贈与すれば年間152,000ドルを非課税で移転でき、相続税の大幅な軽減効果が期待できます。
さらに、教育費や医療費の直接支払いについては金額制限がなく、年間贈与税非課税枠とは別枠で利用できます。孫の学費を大学に直接支払う場合などは、この制度を活用することで効率的な財産移転が可能です。
信託を活用した高度な節税戦略
より高度な節税戦略として、各種信託制度の活用があります。代表的な信託には、次のようなものがあります。
①生命保険信託(Irrevocable Life Insurance Trust, ILIT)、生命保険金を相続財産から除外し、相続税の軽減を図る
②慈善信託(Charitable Remainder Trust, CRT)、慈善団体への寄付により相続税控除を受けながら、生前は収益を受け取る
③適格個人住宅信託(Qualified Personal Residence Trust, QPRT)、住宅を信託に移して相続税評価額を圧縮する
④世代スキップ信託(Generation-Skipping Trust, GST)、子の世代をスキップして孫世代に財産を移転し、一世代分の相続税を節約
これらの信託制度は複雑な法的要件があり、設定には専門的な知識が必要ですが、設計によっては相続税を大きく抑えられる場合があります。
不動産投資における特別な配慮
日本の投資家からの関心が高いアメリカ不動産投資においては、相続税対策として特別な配慮が必要です。遺産税の評価は死亡時の時価で行われ、含み損のある物件も、取得価格ではなく時価で評価されます。
名義を有限責任会社(LLC)にしても、出資者が1人のLLCは米国の税務上ないものとして扱われるため、遺産税は個人名義と変わりません。複数人で持つLLCの持分では、流動性の低さや経営権の制約を理由とした評価減が認められる場合があります。遺産税の対象から外れる余地が出るのは、上に米国外の法人を置いた構造にしたときで、その場合は法人段階の課税と維持費が加わります。
生前からの具体的な設計は米国遺産税対策ガイドにまとめています。
相続を待たずに生前贈与で移す設計もあります。アメリカ側の贈与税の税率と年間非課税枠はアメリカの贈与税の記事にまとめています。持分を毎年少しずつ贈与する方法と相続まで持つ方法の違いは、持分の生前贈与と相続の比べ方で取得費から見ています。
日本在住のまま保有し続けた場合に実際いくら取られるかは、非居住者の遺産税の記事で100万ドルの物件を例に計算しています。
不動産以外の資産、米国株・米国債・銀行預金がそれぞれどう扱われるかは資産の種類で変わるアメリカの相続の記事で表にまとめています。
遺言書の用意の仕方は日本の遺言書はアメリカで使えるかの記事にまとめています。
まとめ

アメリカの相続税制度は、高額な基礎控除額と累進税率により、富裕層を対象とした税制として設計されています。2026年5月現在、連邦相続税の基礎控除額は1,500万ドル(約23億2,500万円)と高額で、2025年成立の税制法により恒久化されています。ただし将来の政権交代で再び変わる可能性は残ります。
日本人にとって特に重要な点は、居住ステータスにより課税の取り扱いが大きく異なることです。非居住外国人の場合は基礎控除額が6万ドルと極めて低く、アメリカ資産を保有する際は十分な対策が必要です。
効果的な節税戦略としては、年間19,000ドルの贈与税非課税枠を活用した生前贈与、各種信託制度の利用、名義の構造の見直しなどがあります。これらの対策は長期的な視点での実施が重要であり、早期の準備開始をご推奨いたします。
アメリカ相続税に関する具体的な対策については、個々の資産状況や家族構成により最適な手法が異なります。お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
TAX STRATEGY
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出典 Reinvent NY「アメリカ相続税の仕組みと対策を日本人が知るべき税率や控除、節税方法で解説」https://reinvent.co.jp/souzoku/
数字の前提の確認や、取材・コメントのご依頼は取材・メディア出演のご依頼のページから承っております。
よくある質問
アメリカの相続税の基礎控除はいくらですか。
連邦は1,500万ドルです。2025年成立の税制法で恒久化されました。ただし非居住者はわずか6万ドルで、扱いが大きく異なります。
日本在住のまま米国不動産を持って亡くなるとどうなりますか。
非居住者として基礎控除6万ドルの遺産税がかかります。100万ドルの物件なら概算33万ドル前後です。日米相続税条約の按分控除で減らせる余地があります。
ニューヨーク州にも相続税はありますか。
あります。連邦とは別に州の遺産税があり、基礎控除は2026年で735万ドル(毎年インフレ調整)です。遺産が控除額を5%超えると、控除がすべて使えなくなります。カリフォルニア州のように州の相続税がない州もあります。
生前にできる対策はありますか。
年間19,000ドルまでの非課税贈与の積み上げ、生命保険信託(ILIT)、住宅信託(QPRT)などがあります。どれが効くかは資産構成と含み益の大きさで変わります。
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