日本に住んだままアメリカの不動産を法人名義で持つとき、日本側で見落とされやすい制度があります。外国子会社合算税制です。日本の居住者や法人が50%超を持つ外国の会社の所得を、一定の条件で日本の株主の所得に足して課税する仕組みで、米国のLLCもこの判定の対象になります。
判定の軸は、その会社が現地で負担している税の割合です。租税負担割合が20%以上なら原則として合算されず、ペーパーカンパニーなら27%以上で免除になります。米国のC-Corpは連邦21%に州と市の税が乗るため、この線を超えます。問題は、米国で法人としての税を払わないパススルーのLLCです。
LLCが日本でどう扱われるか、判定の4段階、そして個人株主には外国税額控除がないという法人との違いを順に見ていきます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
1. 米国LLCは、日本の税務では外国法人

パススルーを選んでいても法人扱い
米国のLLCは、米国の税務上は法人課税とパススルー課税を選べます。しかし日本の税務では、その選択にかかわらず外国法人として扱うのが原則です。国税庁の米国LLCに係る税務上の取扱いで示されており、ニューヨーク州のLLCについては東京高裁の判決でも法人格が認められています。
ここから2つのことが決まります。第一に、LLCが受け取る賃料は日本では個人の不動産所得ではなく、外国法人の所得です。個人が受け取るのはLLCからの配当になります。第二に、日本の居住者が50%超を持つ外国法人なので、外国関係会社として合算税制の判定に入ります。
米国側では本人が1040-NRで賃料に課税され、日本側ではLLCという法人の所得として見られる。この食い違いが、後で述べる二重課税の入口になります。
2. 判定は4段階。どこで止まるかで結果が変わる

租税負担割合と、会社の実体
合算税制の判定は、財務省の外国子会社合算税制の概要にある順序で進みます。①日本の居住者・法人が合計で50%超を持っているか。②ペーパーカンパニーなど特定外国関係会社に当たるか。当たれば租税負担割合が27%未満で会社単位の所得が合算されます。③当たらなければ、経済活動基準(事業基準、実体基準、管理支配基準、所在地国基準または非関連者基準)を満たすか。1つでも満たさなければ、20%未満で会社単位の合算です。④すべて満たせば、20%未満でも受動的所得だけが部分合算になります。
実体基準は現地に事務所などを持つこと、管理支配基準は現地で自ら経営していることです。日本から遠隔で持つ1戸のためのLLCは、事務所も従業員もないのが普通で、この2つを満たさないことが多いと考えてください。
不動産の保有を主たる事業とする一定の会社は、ペーパーカンパニーの判定から除かれる規定があります。ただし要件があり、除かれた場合でも③以降の判定は残ります。以下は名義ごとの位置づけを並べた表です。
| 名義 | 米国での法人税 | 日本での扱い | 合算税制 |
|---|---|---|---|
| 個人名義 | なし(本人が1040-NR) | 本人の不動産所得 | 対象外 |
| LLC(パススルー) | LLC自体は納めない | 外国法人。受取は配当 | 判定に入る。負担割合が低く出るおそれ |
| C-Corp | 連邦21%+州・市 | 外国法人。受取は配当 | 負担割合20%以上で原則免除 |
| 日本法人の直接保有 | 日本法人が1120-F | 日本法人の所得 | 対象外(外国法人ではない) |
※上記は、2026年現在の制度に基づく一般的な整理です。租税負担割合の計算と各基準の当てはめは個別の確認が必要です。
3. LLCの租税負担割合はなぜ低く出るのか

税を払っているのはLLCではなく本人
租税負担割合は、その外国関係会社の所得に対して課された外国の法人税を、所得で割って出します。パススルーのLLCは米国で法人としての税を納めず、代わりに出資者本人が1040-NRで納めます。本人がいくら米国に納めていても、LLCの負担割合には素直に反映されないおそれがあり、20%や27%の線を下回る計算になりえます。
その結果、LLCの所得が日本の本人の所得に合算される可能性が出てきます。個人の場合、合算された金額は雑所得として扱われ、総合課税の対象になります。
対照的にC-Corpは、連邦の21%に州と市の法人税が乗ります。ニューヨーク市に置けば連邦、州、市の三層で、租税負担割合は20%を大きく超えます。合算税制だけを見れば、C-Corpのほうが入口に立ちません。ただしC-Corpには、配当時に米国と日本で二重に課税される、非居住者の売却で不利になる場合がある、といった別の論点があります。法人名義で買うかの記事で、個人所有との損益分岐を扱っています。
4. 個人株主には外国税額控除がない

法人株主との決定的な違い
日本法人が株主なら、合算された所得について外国の法人税を外国税額控除できます。ところが個人が株主の場合、合算課税では外国税額控除が認められていません。プレミア国際税務事務所の個人の外国子会社合算税制の解説に、法人との違いとして整理されています。
つまり、米国で1040-NRの税を納め、日本でLLCの所得が合算されると、同じ賃料に二度課税されて調整の手段がない状態が起こりえます。これが、日本に住む方が米国LLCで不動産を持つときの最大の落とし穴です。
部分合算については、対象金額が2,000万円以下または税引前利益の5%以下なら適用が免除される少額の基準があります。1戸の賃料であればこの範囲に収まることが多いのですが、会社単位の合算にはこの免除がありません。どの段階で止まるかが、そのまま税額になります。
保有中の申告全体は賃貸収入の税務のガイドに、日本側の調書は国外財産調書と財産債務調書の記事にまとめています。
まとめ

名義を決める前に、合算税制の判定を通す
米国LLCは日本では外国法人で、日本の居住者が50%超を持てば合算税制の判定に入ります。パススルーのLLCは米国で法人税を納めないため租税負担割合が低く出るおそれがあり、事務所も従業員もない1戸のLLCは経済活動基準も満たしにくい構造です。C-Corpは連邦と州の税で20%の線を超えます。
個人株主には外国税額控除がなく、合算されると同じ賃料に二度課税されて戻せません。米国側の有利不利だけで名義を決めると、日本側でこの制度に当たります。
個人か、LLCか、C-Corpか、日本法人の直接保有か。米国と日本の両方の税を並べて初めて答えが出ます。名義と税務の設計段階からご相談ください。
よくある質問
米国のLLCは日本ではどう扱われますか。
日本の税務では、米国でパススルー課税を選んでいても外国法人として扱われます。国税庁の質疑応答で示されており、ニューヨーク州のLLCについては東京高裁も法人格を認めています。賃料はLLCの所得となり、本人が受け取るのは配当です。
租税負担割合が20%以上なら合算されませんか。
ペーパーカンパニーなど特定外国関係会社に当たらなければ、20%以上で会社単位の合算は免除されます。特定外国関係会社に当たる場合は27%以上が必要です。C-Corpは連邦21%に州と市の税が乗るためこの線を超えますが、パススルーのLLCはLLC自体が米国で法人税を納めないため低く出るおそれがあります。
個人が株主でも合算税制は適用されますか。
適用されます。個人の場合、合算された金額は雑所得として総合課税の対象になります。法人株主と違い、個人には合算課税に係る外国税額控除が認められていないため、米国で本人が納めた税との二重課税を調整する手段がありません。
少額なら免除されますか。
部分合算については、対象金額が2,000万円以下または税引前利益の5%以下なら適用が免除されます。ただしこの免除は部分合算に限られ、ペーパーカンパニーや経済活動基準を満たさない場合の会社単位の合算には適用されません。
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