ニューヨークの不動産を持ったまま亡くなると、連邦の遺産税とは別に、ニューヨーク州の遺産税がかかります。日本にお住まいの非居住者も対象です。州は、州内にある不動産と有形資産について、住んでいた場所に関係なく課税します。
そして州には、連邦にはない仕組みがあります。基礎控除を5%超えると、控除が全部消えます。2026年の基礎控除は735万ドル(約11億3,925万円)、その105%にあたる771万7,500ドルが境目です。1ドル超えただけで、控除ゼロとして課税し直されます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
このクリフの効き方、非居住者がどこまで対象になるか、州には贈与税がないのに3年間の持ち戻しがある点、そして連邦との二層でいくら残るのかを順に見ていきます。
1. 基礎控除を5%超えると、控除が消える

境目は771万7,500ドル
連邦の遺産税は、基礎控除を超えた分にだけ課税します。1,500万ドルの控除に対して遺産が1,600万ドルなら、超過の100万ドルが対象です。ニューヨーク州は違います。
州の基礎控除は2026年に735万ドルで、遺産がこの105%(771万7,500ドル)を超えた瞬間に、控除が全部なくなります。超過分だけでなく、遺産の全額が課税対象に戻ります。
この境目のすぐ上では、税負担の増え方が異常になります。780万ドルの遺産では州税がおよそ74万6,000ドル。控除の上限から62万5,000ドル増えただけで、74万6,000ドルの税が生まれます。超過分に対する実質的な負担は165%を超えます。増えた財産より多い額が税として出ていく計算です。
2. 非居住者は、ニューヨークにある不動産だけが対象

持っている物件の所在地で決まる
ニューヨーク州は、非居住者について州内にある不動産と有形資産にだけ遺産税をかけます。日本にお住まいの方がマンハッタンのコンドミニアムを持っていれば、その物件は対象です。日本の預金や日本の不動産、米国の株式は対象になりません。
計算は按分で行います。全世界の遺産を分母、ニューヨーク州内の資産を分子として、州の税額を割り付けます。そのため州外の資産が多いほど、クリフの判定では不利に働きます。判定に使うのは全世界の遺産だからです。
連邦の側では、非居住者の基礎控除は6万ドルしかありません。州と連邦で控除額も対象範囲も違うため、二つを別々に計算します。連邦側の計算は非居住者の遺産税の記事にまとめています。
3. 州に贈与税はない。ただし3年間は持ち戻される

亡くなる3年以内の贈与は遺産に戻す
ニューヨーク州には贈与税がありません。生前に渡した分に州の税はかかりません。ただし亡くなる前3年以内に行った贈与は、遺産に足し戻して計算します。直前に慌てて渡しても、州の遺産税の計算では渡していないことになります。
この3年の持ち戻しは、クリフの判定にも効きます。渡した分が戻ってきて771万7,500ドルを超えれば、控除は消えます。
逆に言えば、3年より前に渡した分は戻りません。州の遺産税を意識するなら、余裕のあるうちに動かす以外に方法がないということです。ただし非居住者が米国の不動産を贈与すると連邦の贈与税がかかり、生涯控除もありません。贈与と相続のどちらで渡すかの分岐はアメリカの贈与税はいくらからの記事で扱っています。
4. 連邦と州、二層でいくら残るのか

居住区分と物件の規模で結果が変わる
以下は、ニューヨーク市のコンドミニアムを持つ場合の、立場ごとの当たり方を並べた表です。
| 立場 | 連邦の基礎控除 | NY州の基礎控除 | 州の課税対象 |
|---|---|---|---|
| NY州の居住者 | 1,500万ドル | 735万ドル(105%でクリフ) | 全世界の遺産 |
| 他州の居住者 | 1,500万ドル | 735万ドル(按分・クリフあり) | NY州内の不動産と有形資産 |
| 日本在住の非居住者 | 6万ドル | 735万ドル(按分・クリフあり) | NY州内の不動産と有形資産 |
※上記は2026年の制度に基づく整理です。按分の計算と控除の適用は個別の確認が必要です。
日本在住の方にとって、実務上重い順序は連邦が先です。基礎控除6万ドルに対して州は735万ドルあるため、数億円規模の1戸であれば州の遺産税には届かず、連邦だけが問題になることが多くなります。州が効いてくるのは、複数戸を持つ場合や、米国内に他の資産を置いている場合です。
日本側では、同じ物件に日本の相続税もかかります。米国で納めた州税と連邦税は外国税額控除の対象です。日本側の評価と控除の順序は米国不動産の日本の相続税評価の記事にまとめました。名義をトラストに置く場合の効き方は不動産をトラスト名義にするの記事で扱っています。
まとめ

境目を知らずに増やさない
ニューヨーク州の遺産税は、2026年の基礎控除が735万ドル、その105%の771万7,500ドルを超えると控除が全部消えます。超過分に対する負担が165%を超える区間があり、財産が増えたことで手取りが減ります。
非居住者は州内の不動産と有形資産だけが対象ですが、クリフの判定には全世界の遺産を使います。州に贈与税はないものの、亡くなる前3年以内の贈与は遺産に戻されます。
連邦の6万ドルと州の735万ドルは、控除額も対象範囲も別のものです。二つを並べて初めて、何戸まで個人名義で持ってよいかが決まります。名義と税務の設計段階からご相談ください。
よくある質問
日本に住んでいてもニューヨーク州の遺産税はかかりますか。
かかります。ニューヨーク州は非居住者について、州内にある不動産と有形資産に遺産税を課します。日本の預金や日本の不動産、米国株式は対象になりません。税額は全世界の遺産を分母、州内の資産を分子として按分します。
105%のクリフとは何ですか。
2026年の基礎控除735万ドルの105%にあたる771万7,500ドルを遺産が超えると、控除が全額なくなり、遺産の全体が課税対象に戻る仕組みです。780万ドルの遺産では州税がおよそ74万6,000ドルになり、超過分に対する実質的な負担は165%を超えます。
ニューヨーク州に贈与税はありますか。
ありません。ただし亡くなる前3年以内に行った贈与は遺産に足し戻して計算します。直前に渡してもクリフの判定では渡していないことになるため、動かすなら3年より前である必要があります。
連邦の遺産税とどちらが重いですか。
日本にお住まいの方は連邦が先に効きます。連邦の基礎控除は非居住者で6万ドルしかないのに対し、州は735万ドルあるためです。州が問題になるのは複数戸を持つ場合や、米国内に他の資産を置いている場合です。
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