アメリカで貸している物件の修理代を、その年の経費にできるか、資産に足して何年もかけて減価償却するか。日本の申告では国税庁の基準で、アメリカの申告ではIRSの規則で、それぞれ分けます。同じ工事でも、国ごとに扱いが分かれることがあります。
日本の基準には20万円と60万円という形式の線があり、アメリカには1件2,500ドル以下を経費にできる特例があります。
- 日本では、価値を高めるか耐久性を増す部分が資本的支出、通常の維持管理と原状回復が修繕費。名目ではなく実質で判定する
- 日本の形式基準は、1回20万円未満かおおむね3年以内の周期なら修繕費、判断がつかない部分が60万円未満なら修繕費
- アメリカでは、改良(ベターメント、回復、転用)に当たれば資産に足し、当たらなければ経費
- アメリカには、1件2,500ドル以下を経費にできる特例があり、毎年の申告書で選ぶ
本日はアメリカの賃貸物件の修繕費と資本的支出の分け方について見ていきましょう。
1. 同じ工事を、二つの国の基準で分ける

日本は実質で判定する
国税庁のNo.1379によれば、貸付けに使っている建物や設備の修理で、通常の維持管理や修理のための支出は必要経費です。一方、使える期間を延ばしたり、価値を高めたりする部分は資本的支出で、減価償却を通じて各年の経費にします。区別は名目ではなく実質で判定します。
アメリカは改良に当たるかで判定する
IRSの有形資産の規則の案内によれば、改良に当たるのは、ベターメント(欠陥の是正、拡張、性能や品質の大きな向上)、回復(主要な部分の取替え、新品同様への再生)、転用(元の用途と違う用途への変更)の3つです。建物では、建物の構造と、給排水、電気、冷暖房、エレベーターなどの設備ごとに判定します。
2. 日本の申告での分け方

資本的支出になる例
国税庁の所得税基本通達37-10は、資本的支出の例として、避難階段の取付けのように物理的に付け加えた部分、用途変更のための模様替え、部品を特に品質や性能の高いものに取り替えたときの通常を超える部分を挙げています。増築は建物の取得に当たります。
形式で修繕費にできる線
判断が難しい工事のために、通達は形式の基準を置いています。金額は、アメリカで支払ったドルを円に換算した額で見ます。
| 基準 | 修繕費にできる場合 | 通達 |
|---|---|---|
| 少額か周期が短い | 1回の修理、改良などが20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われる | 37-12 |
| 判断がつかない部分 | その金額が60万円未満、または前年末の取得価額のおおむね10%以下 | 37-13 |
| 上の二つに当たらない | 判断のつかない金額の30%と、前年末の取得価額の10%の、少ないほうを修繕費にし、残りを資本的支出にできる(継続して適用) | 37-14 |
※いずれも、その金額を修繕費として所得を計算して確定申告をしている場合に認められる扱いです。
資本的支出にした金額は、減価償却で各年の経費に回します。国外にある中古の建物の減価償却には2021年から損失の制限があり、その整理はアメリカ不動産の減価償却は4年で全額計上できるのかにあります。
3. アメリカの申告での分け方

修理は経費、改良は資産に足す
IRSのPublication 527は、賃貸物件の修理や維持の費用は経費にでき、物件を改良する費用は資産に足して減価償却すると定めています。改良かどうかは、上のベターメント、回復、転用の3つで判定します。
経費にできる3つの特例
改良に当たるか迷う支出のために、IRSは特例を置いています。いずれも年ごとの扱いで、会計方法の変更の届出(Form 3115)は要りません。
| 特例 | 内容 | 使い方 |
|---|---|---|
| 少額の特例(デミニミス) | 請求書1件または1品ごとに2,500ドル以下(監査済みの財務諸表があれば5,000ドル以下)を経費にできる | 延長を含む期限内の申告書に、選択する旨の書面を毎年付ける |
| 定期の維持の特例 | 建物では、使い始めてから10年の間に2回以上行うと見込まれる、使用に伴う維持の作業 | 条件に当たれば、改良に当たる支出でも経費にできる場合がある |
| 小規模な納税者の特例 | 平均の年間総収入が1,000万ドル以下で、建物の取得価額が100万ドル以下の場合、その建物の修理と改良の年間合計が取得価額の2%か1万ドルの少ないほう以下 | 申告書に書面を付けて毎年選ぶ |
4. コンドミニアムの工事で分かれやすいもの

退去後の補修と、全面の改装
入居者が出たあとの壁の塗り直しや、壊れた設備を同じ程度のものに替える工事は、どちらの国でも修繕に寄ります。キッチン全体の入替えや間取りの変更は、日本では価値を高める支出、アメリカでは改良に当たりやすい工事です。ニューヨークのコンドミニアムやコープでは、工事に管理組合の承認が要ります。手順はニューヨークのリノベーションにまとめています。
記録は、両方の申告で使える形で残す
日本で修繕費にした工事が、アメリカでは資産に足すことになる、あるいはその逆も起こります。判定はそれぞれの国の基準で行うため、扱いが分かれること自体は誤りではありません。請求書、工事の内容と範囲が分かる見積もり、工事前後の写真を残し、日本では支払日のレートで円に換算した額を記録します。
アメリカの少額の特例は、期限内の申告書で選ばなければ使えません。日本に住む方は、アメリカの申告そのものが遅れると経費が引けなくなる決まりもあります。管理会社に任せている物件は、請求書の宛名と工事の明細を、毎年まとめて受け取れるように管理の契約で決めておきます。
まとめ

工事の中身で判定し、国ごとの線で分ける
修理代を経費にするか資産に足すかは、日本では価値を高めるか耐久性を増すかの実質で、アメリカでは改良に当たるかで判定します。日本には20万円未満、3年以内の周期、判断のつかない部分が60万円未満という形式の線があり、アメリカには1件2,500ドル以下を経費にできる特例があります。
大きな改装を予定している方は、工事の前に、どの部分がどちらの国でどう扱われるかを見ておくと、申告の年と金額が読めます。一般的な整理はここまでです。物件と工事の内容に合わせた判断は、個別にご相談ください。
よくある質問
アメリカの物件で20万円未満の修理なら、日本では経費にできますか。
1回の修理、改良などの金額が20万円未満であれば、修繕費として所得を計算して確定申告をすることが認められています(所得税基本通達37-12)。金額は、アメリカで支払ったドルを円に換算した額で判定します。おおむね3年以内の周期で行う修理も同じ扱いです。
修繕費か資本的支出か判断がつかない工事は、日本ではどうしますか。
判断のつかない部分の金額が60万円未満か、前年末の取得価額のおおむね10%以下であれば、修繕費とすることが認められています(所得税基本通達37-13)。どちらにも当たらない場合は、その金額の30%と取得価額の10%の少ないほうを修繕費にし、残りを資本的支出にする方法があります(37-14)。
アメリカの申告で、2,500ドル以下の支出を経費にするには何が必要ですか。
少額の特例(デミニミス)を選びます。延長を含む期限内の申告書に、選択する旨の書面を毎年付けます。監査済みの財務諸表がない場合の上限は、請求書1件または1品ごとに2,500ドルです。会計方法の変更の届出は要りません。
日本で修繕費にした工事を、アメリカでは減価償却にしてもよいですか。
判定はそれぞれの国の基準で行うため、扱いが分かれることはあります。日本は価値を高めるか耐久性を増すかの実質で、アメリカは改良(ベターメント、回復、転用)に当たるかで判定します。請求書と工事の内容が分かる資料を、両方の申告で使える形で残しておきます。
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