アメリカの不動産を子どもに渡す方法は、大きく2つです。持分を少しずつ贈与していくか、相続まで持ち切るか。日本にお住まいの非居住者にとって、この選択は税額が桁で変わる場面です。
数字の前提はこうです。贈与には年間19,000ドル(約294万5,000円)の非課税枠がありますが、非居住者には生涯控除がありません。枠を超えた分には最高40%がかかります。一方、相続での基礎控除は6万ドルだけで、100万ドルの物件なら94万ドルが課税対象になります(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
どちらも重い制度です。だからこそ、持分を分けて毎年の枠を使い続けるという方法が選択肢に入ります。この方法が何を節約し、何を失うのかを順に見ていきます。
1. 持分を分けて渡すとは何をすることか

物件そのものではなく、共有の割合を渡す
物件を丸ごと渡すのではなく、所有権の一部(たとえば2%)を毎年、証書(Deed)で移していく方法です。受け取る側は共有者になり、年を重ねるごとに持分が増えていきます。
渡す相手が複数いれば、枠はその人数分使えます。子ども2人に渡すなら年間38,000ドル、夫婦それぞれから2人へなら年間76,000ドルまでが非課税の範囲です。非課税枠は渡す人と受け取る人の組み合わせごとに数えます。
非居住者が米国の不動産を贈与すると米国の贈与税の対象になりますが、米国株式や米国外の資産は対象になりません。不動産だからこそ、この方法を使う必要が出てきます。贈与税の基本はアメリカの贈与税はいくらからにまとめています。
2. 共有持分には評価の割引が認められている

1割の持分は、物件価格の1割では売れない
共有の持分は、単独所有より売りにくいものです。買い手が限られ、勝手に処分できず、分割するには裁判所の手続きが要ります。この売りにくさを理由に、贈与の評価額を物件価格の按分より低く見積もることが認められています。
米国内国歳入庁のForm 709の説明書でも、共有持分の割引を使う場合は申告書でその旨を申告し、根拠を添付すると定められています。割引は自動的に認められるものではなく、鑑定で根拠を示すものです。
割引の幅は物件の種類、共有者の人数、市場の状況で変わります。この数字を自分で決めることはできません。鑑定人の評価と、それを裏づける取引事例が必要です。根拠のない割引は否認され、加算税の対象になります。
3. 分けて渡すと、代わりに失うもの

取得費が引き継がれる
いちばん大きいのは取得費の扱いです。贈与で受け取った持分は、渡した人の取得費をそのまま引き継ぎます。30年前に50万ドルで買った物件を贈与すれば、受け取った側の取得費も50万ドルのままです。後で300万ドルで売れば、250万ドルの譲渡益に課税されます。
相続なら違います。相続で受け取った資産は、相続時の時価が取得費になります。300万ドルで相続してすぐ売れば、譲渡益はほぼゼロです。遺産税を払う代わりに、含み益が消えます。
つまり、贈与は遺産税を避ける代わりに譲渡益の税を先送りし、相続は遺産税を払う代わりに譲渡益を消します。どちらが有利かは、物件の含み益がどれだけあるかで逆転します。
以下は、2つの渡し方を並べた表です。
| 項目 | 持分を毎年贈与 | 相続まで持ち切る |
|---|---|---|
| 米国の控除 | 年間19,000ドル(人数分) | 基礎控除6万ドルのみ |
| 税率 | 枠を超えた分に最高40% | 控除後に最高40% |
| 取得費 | 渡した人のものを引き継ぐ | 相続時の時価に置き換わる |
| 評価の割引 | 共有持分として鑑定で主張できる | 単独所有なら割引なし |
| 手間 | 毎年の証書の作成、登記、鑑定、申告 | 一度の手続き |
| 売却の自由 | 共有者全員の合意が必要になる | 単独で決められる |
※上記は、日本にお住まいの非居住者が米国の不動産を渡す場合の一般的な整理です。日本側の課税は別に生じます。
4. 日本側の贈与税と、途中で売れなくなる問題

日本でも受け取った側に課税される
米国の贈与税は渡す側にかかりますが、日本の贈与税は受け取る側にかかります。日本に住む子どもが持分を受け取れば、その年の贈与として日本でも申告します。米国で納めた贈与税は外国税額控除の対象ですが、課税の向きが逆なので単純には相殺されません。
日本の基礎控除は年間110万円です。19,000ドルは約294万5,000円なので、米国の枠いっぱいに渡すと日本側で課税が生じます。両国の枠が違うため、どちらに合わせるかを先に決める必要があります。日本側の評価の出し方は米国不動産の日本の相続税評価の記事にまとめています。
もう一つ、実務で効いてくるのが売却の自由です。持分を分けた後は、売るときに共有者全員の署名が要ります。相続人の一人が海外にいたり、判断ができない状態になれば、物件は動かせなくなります。節税のために分けた結果、出口を失うことがあります。
共有の形式そのものの選び方はアメリカの不動産を複数人で持つに、名義をトラストに置いて手続きを軽くする方法は不動産をトラスト名義にするにまとめています。相続で渡す場合の実額は非居住者の遺産税で計算しています。
まとめ

含み益の大きさで答えが変わる
持分を毎年贈与する方法は、年間19,000ドルの枠を人数分使い、共有持分の評価の割引を重ねることで、遺産税の対象を減らしていくものです。非居住者に生涯控除がない以上、時間をかけるしか方法がありません。
ただし取得費が引き継がれるため、含み益の大きい物件では譲渡益の税が後から効きます。相続まで持てば取得費が時価に置き換わり、含み益が消えます。手間と売却の自由も、分けた分だけ失われます。
含み益がいくらあるか、渡す相手が何人か、いつまでに渡し終えたいか。この3つが決まらないと答えは出ません。渡し方の設計段階からご相談ください。
よくある質問
非居住者が米国不動産を贈与すると、いくらまで非課税ですか。
1人あたり年間19,000ドル(2026年)です。米国居住者に認められる1,500万ドルの生涯控除は非居住者には使えません。渡す人と受け取る人の組み合わせごとに枠を数えるため、子ども2人に夫婦それぞれから渡せば年間76,000ドルまでが非課税の範囲です。
共有持分にすると評価は下がりますか。
共有持分は単独所有より売りにくいため、評価の割引が認められています。ただし自動ではなく、Form 709で割引を申告し鑑定などの根拠を添付する必要があります。根拠のない割引は否認され加算税の対象になります。
贈与と相続では取得費の扱いが違いますか。
違います。贈与で受け取った持分は渡した人の取得費をそのまま引き継ぎますが、相続で受け取った資産は相続時の時価が取得費になります。含み益の大きい物件では、相続のほうが譲渡益の税を消せる分だけ有利になることがあります。
日本側でも課税されますか。
されます。米国の贈与税は渡す側、日本の贈与税は受け取る側にかかります。日本の基礎控除は年間110万円で、19,000ドル(約294万5,000円)を渡すと日本側で課税が生じます。両国の枠が違うため、どちらに合わせるかを先に決める必要があります。
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