米国不動産の節税として、日本では減価償却の話が広く知られています。木造なら4年、といった耐用年数の短さを使う設計です。
その一段先に、コストセグリゲーションという手法があります。日本語で書かれた情報がほとんどなく、名前だけ聞いたことがあるという方が多い領域です。
これは建物を構成要素に分解し、それぞれに短い償却年数を割り当てる調査のことです。うまく使えば償却を大幅に前倒しできますが、向かない物件もあります。
本日は、コストセグリゲーションの中身と、使うべきかどうかの判断について見ていきましょう。
1. 建物をひとかたまりで償却しない

米国の税法では、建物の法定耐用年数は住宅用で27.5年、商業用で39年と長く設定されています。これをそのまま適用すると、償却は毎年ゆっくりとしか進みません。
ところが建物は、実際には寿命の異なる部品の集合体です。カーペットや家電は建物本体ほど長持ちしませんし、駐車場の舗装や造園も別物です。
コストセグリゲーションは、建物の取得価額を構成要素ごとに分解し、それぞれに5年、7年、15年といった短い償却年数を割り当てる調査です。エンジニアと会計士が実地調査と図面をもとに区分します。
結果として、初期の数年間で計上できる減価償却費が大きく増えます。
2. どのくらい前倒しできるのか

物件のタイプによりますが、取得価額の20〜35パーセント程度を短期償却の区分に振り替えられるのが一般的な水準です。集合住宅や商業施設のほうが、区分できる要素が多くなります。
それでは、区分の例を表で見ていきます。
| 区分 | 償却年数 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| 動産扱いの設備 | 5年 | カーペット、家電、一部の照明・配線 |
| 什器・造作 | 7年 | 固定家具、特定の内装造作 |
| 土地の改良 | 15年 | 舗装、外構、造園、屋外照明 |
| 建物本体 | 27.5年/39年 | 躯体、屋根、外壁 |
| 土地 | 償却なし | 敷地そのもの |
※上記は一般的な区分です。実際の割り当ては調査結果と会計士の判断によります。
ここにボーナス償却が組み合わさります。短い年数に区分された資産は、条件を満たせば取得初年度にまとめて償却できる制度があり、これが効果を大きくします。
ボーナス償却の割合は法改正によって変動してきた項目です。今年の適用割合は必ず会計士にご確認ください。制度の詳細はIRSが公表しています。
3. 費用と、向く物件・向かない物件

調査費用は、物件の規模と複雑さによって数千ドルから2万ドル程度が目安です。1住戸のコンドミニアムでも実施はできますが、費用対効果で見ると合わないことがあります。
向く物件と向かない物件を整理します。
向くもの: 集合住宅や商業施設など構成要素の多い物件。取得価額が大きい物件。長期保有を前提とする物件。そして相殺できる所得がある方。
向かないもの: 小規模なコンドミニアム1戸。数年以内に売る予定の物件。相殺できる所得がない場合。
最後の点が最も重要です。減価償却は所得を圧縮する仕組みであり、圧縮すべき所得がなければ意味を持ちません。しかも米国の税法には受動的損失の制限があり、不動産の損失を他の所得と相殺できる範囲は限られています。
ここを飛ばして「償却できるから得」と考えると、費用だけかけて効果が出ないことになります。
4. 売却時に戻ってくる負担

そしてもう一つ、必ず理解しておくべき点があります。前倒しした償却は、売却時に取り戻し課税(ディプリシエーション・リキャプチャー)として戻ってきます。
計上した減価償却の分だけ簿価が下がっているため、売却益が大きくなり、その部分に課税されます。動産扱いにした区分については、通常の所得として扱われる部分もあります。
つまり、コストセグリゲーションは免税ではなく、課税の繰り延べです。手元資金を今のうちに厚くして再投資に回す、という設計であって、税そのものが消えるわけではありません。
この負担を先送りし続ける手段が1031エクスチェンジで売却益を繰り延べるです。買い替えを繰り返すことで、取り戻し課税も含めて繰り延べる設計が可能になります。
減価償却の基本は減価償却による節税の記事を、集合住宅の収支はマルチファミリー投資の記事をご参照ください。
まとめ

コストセグリゲーションは、構成要素の多い物件を、相殺できる所得がある方が、長く持つ前提で取得する場合に効いてきます。この3条件が揃わないなら、調査費用に見合いません。
そして繰り延べであって免税ではないこと、売却時に取り戻し課税があることは、最初に押さえておいてください。
ご検討中の物件で効果が出るかどうか、提携する会計士とともに試算いたします。
※本記事は一般的な情報提供であり、税務の助言ではありません。制度は改正されます。実行の前に、必ず米国の会計士にご確認ください。
よくある質問
コストセグリゲーションとは何ですか。
建物を構造、設備、内装などの構成要素に分解し、それぞれに応じた短い償却年数を適用するための調査です。建物全体を一律の年数で償却するよりも、初期の償却費を大きく取れます。米国の税務で確立された手法です。
どのような物件で効果がありますか。
建物価値の比率が高い物件、設備や内装の割合が大きい物件で効果が出やすくなります。ニューヨークのコンドミニアムは土地より建物の比率が高い傾向があり、この手法と相性が良い市場です。
費用はどのくらいかかりますか。
専門の調査会社が行い、物件の規模と複雑さで金額が変わります。調査費用と、前倒しできる償却額を比べて判断します。一定規模以上の物件では、調査費用を大きく上回る効果が出ることが多くあります。
日本の税務でも同じ効果がありますか。
日本側では、2020年度税制改正により個人が国外中古建物の償却損失を他の所得と通算することはできません。この手法の効果は主に米国側の申告と、法人で保有する場合に生きます。名義の設計とセットでご検討ください。
English guides on reinventny.com
PRACTICE取得・保有・出口の実務(119件)
買うとき
- 物件の探し方 — 情報の仕組みと在庫の実際
- 日本から買う — 内見から送金までの実務
- 米国のローン — LTVとレバレッジの考え方
- アメリカの住宅ローン — 駐在・非居住者でも借りられる条件と金利
- ニューヨークシティのコンドミニアム購入 — 価格相場と手順、費用と名義の決め方
- DSCRローン — 収入証明なしで組む条件
- 法人名義で買うか — 個人所有との損益分岐
- タイトル保険 — 日本の登記制度との違い
- 不動産会社の選び方 — 確認すべき5点
- 失敗は5つに集まる — 契約前に確認できる項目
- 海外不動産のデメリット4つ — 対処できるものとできないものを分ける
- 新築と中古 — 価格・交渉・維持費で比べる
- プレコンストラクション — 竣工前に買う判断
- タウンハウス一棟 — 管理組合のない所有
- 借りるか買うか — 高金利下の損益分岐
- オファーの条件をどこまで外すか — 手付金10%を賭ける判断
- 住みながら買う — 賃貸を続ける場合との比較
- 買付前に揃える資金証明 — 海外資産をどう示すか
- 購入資金を日本から動かす — 送金の手順と証跡の残し方
- 価格を交渉する — 売主が実際に見ている条件
- 新築か中古か — 費用構造から比べる
- ペントハウスとは何か — 名称の実態と価値の見極め方
- Airbnb前提で買わない — 30日ルールの実際
- アメリカ不動産の買い方 — 手続き・費用・注意点
- アメリカで家を買うときにつまずきやすい点 — 準備の順序で結果が変わる
- 利回りか、資産の置き場所か — ニューヨークを選ぶ理由の分かれ目
- コンドとコープの違い — 審査・費用・売りやすさ
- 賃貸と購入の総費用 — 税制とリスクまで含めて比べる
- オフマーケット物件 — 情報が回る経路と紹介を受ける準備
- バイヤーエージェント — 買主側につく担当の役割
- アトーニー(弁護士) — 契約と決済で担う役割
- 購入前のデューデリジェンス — 確認すべき書類と手順
- インスペクション — 何を見て、いくらかかるか
- 価格はどう決まるか — 鑑定と成約事例の読み方
- 買うのに何ヶ月かかるか — オファーから鍵の受け取りまで
- クロージング費用 — 内訳と節約できる項目
- マンションタックスと譲渡税 — 100万ドルを超えると変わること
- エスクロー — 仕組みと流れ、日本との違い
- タイトル保険の費用 — 必要な理由と保険料の決まり方
- 新築コンドのスポンサーユニット — 仕組みと交渉
- SSNなしで組むローン — 3つの方法を比べる
- 学区と価格の関係 — コンドミニアム相場の読み方
持っているあいだ
- 管理費は月いくらか — 区別の実額と安い建物の落とし穴
- 不動産にかける保険 — 所有形式で必要な補償が変わる
- 買った後の管理 — 海外に住みながら所有を続ける
- 管理会社の選び方 — 費用と契約前の確認事項
- テナント管理 — 賃料回収と契約更新の実務
- 収益改善の手法 — プロパティマネジメントの実際
- アメリカの固定資産税は年いくらか — 州別の実効税率と物件価格別の年額
- 減価償却で税を前倒しする — 建物比率と、個人名義・法人名義の違い
- 4年償却は使えるのか — 2020年改正後の正しい姿
- 改正後に残った節税の道 — 個人の損益通算と法人名義の分かれ目
- 土地の権利とゾーニング — 何が建てられるかの規制
- 保証人と保証会社 — 収入40倍の壁を越える
- 賃貸収入の税務 — 非居住者の源泉徴収と純額課税の選択
- 非居住者の確定申告 — オーナーの年間カレンダー
- 価格の推移 — 10年・5年・直近1年を都市別に見る
- 駐在員の確定申告 — 日米どちらに出すか、FBARの1万ドルの線
- 賃料の日本での申告 — 円換算のレート、償却の制限、外国税額控除
- 国外財産調書と財産債務調書 — 5,000万円と3億円の線
- 法人名義と日本の合算課税 — LLCは日本では外国法人。20%と27%の線
- 日本にいながら賃貸を回す — 管理会社の選び方と契約で決めること
- 家賃を払わない入居者 — 貸主にできることと、できないこと
- 買った翌年に税額が変わる — 減免の残存年数で年2万ドルの差
- 固定資産税の不服申立 — 3月1日と3月15日という期限
- 州を固定資産税で選ぶ前に — 同じ州でも郡と学区で倍変わる
- マルチファミリー投資 — 収益構造と融資、見落としやすいリスク
- 賃料規制物件を買うと — レントスタビライゼーションの実際
- リノベーション — 管理組合の承認と工事の実際
- コストセグリゲーション(この記事)
- 不動産プロフェッショナル(REPS) — 給与所得の課税を下げる仕組み
- IRSの税務調査 — 備えておく書類
- 売らずに積み上げる — 担保に次を買い、課税を繰り延べる
- 商業不動産への投資 — 住宅との違いと市場の特徴
- ピエダテール税 — 日本に住む所有者のコンドは対象か
- 家賃凍結 — 貸している物件に効くのはどの住戸か
出すときと税務
- 売るときの流れ — 海外にいながら決済まで
- 売却の手続きと税金 — 必要書類まで
- 売却の戦略 — 市場を見て出口を決める
- 非居住者のキャピタルゲイン税 — 1040NRの申告手順
- 1031エクスチェンジ — 譲渡益を繰り延べる仕組み
- 出口の使い分け — 源泉徴収・1031・セクション121
- QOF(適格機会基金) — 譲渡益の課税を繰り延べる
- オポチュニティゾーン — 繰延制度の中身
- FIRPTAの源泉徴収 — 売却代金の15%と還付の手続き
- 贈与税はいくらから — 非居住者は生涯控除ゼロ
- アメリカの相続税 — 連邦と州、非居住者の場合分け
- 非居住者の遺産税 — 基礎控除6万ドルの壁
- 不動産をトラスト名義にする — プロベートは避けられるが遺産税は消えない
- 日本の相続税評価 — 鑑定評価、TTB換算、小規模宅地の特例
- FIRPTAと外国税額控除 — 対象は確定税額。控除の年がずれる
- 売却の為替差益 — 取得日と売却日のTTMで譲渡所得が変わる
- ニューヨーク州の遺産税 — 控除を5%超えると全部消える
- 持分を毎年贈与するか — 取得費が引き継がれるか、時価に置き換わるか
- 信託(トラスト) — 種類・税務・債権者保護
- 複数人で持つ — 共有の形式で相続の結果が変わる
- 遺言書 — 手続きと費用、税務上の注意
- FBAR・FATCA — 海外金融口座の報告義務
- 駐在員の確定申告 — 日米の税金と控除
- 日米の税制の要点 — 法人設立の前に押さえる
- 日米租税条約 — 軽減されるもの、されないもの
- 富裕層の節税の型 — 実際に使われている7つ
- 資産をどこに置くか — 富裕層の配分と、不動産が選ばれる理由
- C-Corp と LLC — 形態ごとの課税の違い
- 1031と日本の課税 — 米国で繰り延べても日本では課税される
- 相続したときの名義の移り方 — 検認と納税証明の順番
- プロベートの費用と期間 — 回避する方法
- 資産の種類で変わる相続 — 米国株・米国債・預金・不動産
- 日本の遺言書は使えるか — 現地で別に作る場合の線引き
- 名義変更でかかる費用 — 買った後に器を変える代償
- 住んでから貸すか、貸してから住むか — 順番だけで7万1,400ドル変わる
- 所得税ゼロの州で買う — 効く人と効かない人の境界線
市場を読む
- 今後10年の市場予測 — 投資家が見ておく5つの流れ
- 住宅不足はなぜ解消しないか — 供給ギャップと価格への影響
- 2026年のアメリカ不動産市場 — 金利と為替、地域差
- ニューヨーク住宅市場の現在地 — 価格動向とエリア別の需給
- なぜニューヨーク不動産なのか — 価値が残る7つの理由
- 利回りが高い州と都市 — 全米の順位と読み方
- アメリカ不動産投資の始め方 — 利回りと税制の基本
全体の流れ
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。

















