アメリカの住宅価格が高止まりしている理由を一言で説明するなら、売りに出る家が足りていないからです。需要が強いという説明はよくなされますが、実態としてはそれ以上に供給が細っています。しかもこの不足は、景気の波によって生じた一時的なものではありません。2008年の金融危機以降、新築の着工が10年以上にわたって人口の増加ペースに追いつかず、そこにコロナ禍と金利上昇が重なりました。結果として、既存の所有者が家を手放さなくなり、市場に出てくる在庫がさらに減るという循環が生まれています。本日はアメリカの住宅不足について、どの程度の規模なのか、なぜ解消しないのか、そして不動産をお持ちになる立場から見て何を意味するのかを見ていきましょう。
1. 供給ギャップはどの程度の規模なのか

アメリカの住宅がどれだけ不足しているかについては、複数の機関が推計を出しています。ただし推計の幅は大きく、機関によって数百万戸の開きがあります。世帯形成のペースをどう見積もるか、空き家をどこまで供給として数えるかで結果が変わるためです。
それでも共通しているのは、いずれの推計も不足の方向を示しているという点です。過不足なしという結論を出している主要機関は見当たりません。住宅市場の統計は米国国勢調査局が着工数と完成数を、全米不動産業者協会が中古住宅の在庫と成約数を公表しています。
着工数が回復しても足りない理由
住宅着工は金融危機後の落ち込みから回復してまいりましたが、問題は不足が10年以上にわたって毎年積み上がってきたという点にあります。ある年の着工が需要と均衡したとしても、それは新たな不足を増やさないという意味であって、過去の蓄積が解消されるわけではありません。
加えて、着工されている住宅の内訳も重要です。開発業者にとって採算が合いやすいのは価格帯の高い住宅であり、最も不足している価格帯の供給は相対的に細くなります。それでは、なぜ供給が増えないのかを具体的に見ていきます。
2. 供給が増えない4つの理由

供給が伸びない要因は複合的です。実務の現場から見て、影響が大きい順に4つ挙げられます。
①開発資金の調達コストが上がった、②建築資材と人件費が高止まりしている、③土地利用規制が新規建設を制約している、④建設技能労働者が不足しているという4点です。
このうち、政策で動かしにくいのは③と④です。土地利用規制は各自治体が定めるもので、一戸建て以外を認めない区域が広く残っています。既存の住民にとって新規開発は交通量の増加や学区の混雑につながるため、規制の緩和は地域の合意形成の問題になります。
建設労働者の不足も構造的です。金融危機の際に業界を離れた層が戻らず、新規の入職も細い状態が続いています。資材の値段が下がっても、施工する人手がなければ着工は増えません。
3. 中古が市場に出てこないという別の問題

ここ数年で新しく効いてきているのが、既存の所有者が家を売らなくなったという現象です。アメリカの住宅ローンは30年固定が主流で、いったん組んだ金利は完済まで変わりません。
金利が歴史的な低水準にあった時期に借り換えを済ませた世帯は、いま住み替えると新しいローンを現在の金利で組み直すことになります。同じ広さの家に移るだけで月々の返済が大きく増えるため、売る合理性がなくなり、そのまま住み続けるという判断になります。
この結果、中古住宅の在庫が構造的に細くなりました。アメリカの住宅取引は中古が大半を占めますので、ここが詰まると市場全体の流動性が落ちます。金利の推移はフレディマックが週次で公表しており、長期の系列はセントルイス連銀のFREDで確認できます。
以下は供給が制約されている要因を整理した表です。それぞれ解消までにかかる時間の性質が異なります。
| 要因 | 性質 | 解消に要する時間 | 価格への影響 |
|---|---|---|---|
| 開発資金のコスト | 金融環境 | 短期で変わりうる | 大きい |
| 資材と人件費 | コスト構造 | 数年単位 | 中程度 |
| 土地利用規制 | 制度と合意形成 | 10年単位 | 地域差が大きい |
| 技能労働者の不足 | 労働市場 | 10年単位 | 中程度 |
| 中古が出てこない | 金利差による滞留 | 金利の低下次第 | 大きい |
※上記は、供給側の制約を性質ごとに整理したものです。制度と労働市場に起因する要因は、金融政策が変わっても短期間では動きません。
4. 一方で「いずれ供給過剰になる」という見方について

住宅不足の話をすると、これだけ価格が上がれば供給は必ず追いつく、むしろ数年後には供給過剰に転じるのではないかというご意見をいただきます。人口の伸びが鈍化していることを根拠に、長期では需要そのものが細るという見方もございます。
実際、地域単位で見れば供給が需要を上回っている市場は存在します。テキサスやフロリダの一部都市では、賃貸物件の大量供給によって家賃の伸びが止まった地区があり、こうした場所では在庫の積み上がりが観察されています。
しかし、この議論を全米に当てはめることには無理があると考えております。理由は2つです。
第一に、アメリカの住宅市場は全国が一つの市場として動いているわけではありません。供給が過剰になる市場は、土地が確保しやすく建築規制の緩い地域に偏ります。ニューヨークやカリフォルニアの沿岸部のように、物理的にも制度的にも新規供給が難しい地域では、同じ現象は起きにくいという構造があります。
第二に、人口の伸びが鈍っても世帯数は別の動きをします。単身世帯の増加や世帯分離が進めば、人口が横ばいでも必要な住戸数は増えます。住宅需要を決めるのは人口ではなく世帯数です。
ですので当社としては、住宅不足を全米の平均で語らず、どの市場を見ているのかを常に特定することをご推奨いたします。都市ごとの価格と利回りの差については全米主要都市の比較で数字を並べておりますので、ご参照いただけますと幸いです。
まとめ

アメリカの住宅不足は、着工が足りないという単純な話ではありません。10年以上の累積、規制と労働力という動きの遅い制約、そして金利差によって中古が市場に出てこないという3つが重なっています。このうち金利に起因する部分は金融政策で変わりますが、規制と労働力は変わりません。
不動産をお持ちになる立場から見ると、この構造は保有資産の価格を下支えする方向に働きます。同時に、購入を検討される立場では、在庫が少ない市場で競争しなければならないという負担にもなります。
大切なのは、平均の話と個別市場の話を分けて考えることです。費用の詳細は、ご相談の際にお客様のご条件に合わせて個別にご提示いたします。保有中の税負担についてはアメリカの固定資産税は年いくらかを、海外市場との比較は世界主要都市との比較をあわせてご覧ください。
当社はニューヨークを拠点に、アメリカ不動産のご購入とご投資をご支援しております。ご検討の地域が決まっている方も、まだ絞れていない方も、お気軽にご相談ください。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘や収益の保証を行うものではありません。市場データは公表時点のものです。
よくある質問
アメリカの住宅価格が高止まりしている主な理由はなんでしょうか。
売りに出る家が足りていないことが主な理由です。需要が強いという説明もありますが、実態としてはそれ以上に供給が細っています。この不足は景気の波による一時的なものではなく、2008年の金融危機以降、新築の着工が10年以上にわたって人口の増加ペースに追いつかない状況が続いています。
アメリカの住宅供給ギャップの規模はどの程度と推計されていますか。
複数の機関が推計を出していますが、幅が大きく数百万戸の開きがあります。世帯形成のペースの見積もり方や空き家をどこまで供給として数えるかで結果が変わるためです。それでも共通しているのは、いずれの推計も不足の方向を示しており、過不足なしという結論を出している主要機関は見当たりません。
住宅供給が増えない要因として実務現場で挙げられる4つの理由はなんでしょうか。
開発資金の調達コストが上がったこと、建築資材と人件費が高止まりしていること、土地利用規制が新規建設を制約していること、そして建設技能労働者が不足していることの4点です。このうち政策で動かしにくいのは土地利用規制と技能労働者の不足であり、これらは構造的な問題となっています。
既存の所有者が家を売らなくなった理由は何でしょうか。
アメリカの住宅ローンは30年固定が主流で、いったん組んだ金利は完済まで変わりません。歴史的な低水準にあった時期に借り換えを済ませた世帯は、住み替えると新しいローンを現在の金利で組み直す必要があり、月々の返済が大きく増えるため、売る合理性がなくなりそのまま住み続ける判断になります。
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