アメリカ不動産投資という言葉で検索をされる方は、大きく二つに分かれます。一方は利回りの数字を並べて比較している方、もう一方は日本円に偏った資産をどこに移すべきか考えている方です。
この二つは、同じ「投資」という言葉で語られながら、選ぶべき物件も名義も全く違います。当社にご相談をいただく方の多くは後者ですが、最初は前者のつもりでお越しになります。利回りの比較表を持ってご相談にお越しになり、話を伺っていくうちに、本当に必要だったのは利回りではなかったと分かる、という流れです。
本日は、利回りで選ぶ場合と置き場所で選ぶ場合で何がどう変わるのかを、公開データと実務の両面から見ていきましょう。
1. 利回りで選ぶと、買い手の母集団が狭くなる

利回りだけを基準に物件を選ぶと、必然的に価格の安い地域に向かいます。分母が小さいほど利回りは上がるためです。この判断自体は算数として正しいのですが、見落とされやすい副作用があります。出口で売る相手が限られるという点です。
Zillowの公開データで見ると、オハイオ州クリーブランドの住宅価格中央値は11万6,759ドルで、賃料から算出した表面利回りは14.6パーセントに達します。数字としては圧倒的です。
しかし、この価格帯の物件を日本の投資家が売却しようとするとき、買い手は誰になるでしょうか。現地の実需層はローンの審査を通しづらい所得帯にあり、投資家として買うのは同じ利回りを探している次の日本人である場合が少なくありません。買い手の母集団が狭い資産は、売り急いだときに値段がつきません。
それでは次に、置き場所として選ぶ場合の基準を見ていきます。
2. 置き場所として選ぶときの三つの基準

資産の置き場所として不動産を選ぶ場合、基準は利回りではなくなります。当社がご相談を受ける際に必ず確認するのは、以下の三点です。
①換金性。売りたいときに、買い手が世界中にいるか。②通貨。円建て資産の比率をどこまで下げたいのか。③承継。次の世代にどう渡すのか、そのとき何パーセント持っていかれるのか。
以上で見て来たように、この三点はいずれも利回りとは無関係です。むしろ、利回りの高い地域ほど①と③で不利になる傾向があります。買い手が限られ、相続の局面で売却して現金化することが難しくなるためです。
以下は、代表的な市場を三つの基準で並べた表です。
| 市 | 価格中央値 | 表面利回り | 10年上昇率 | 主な買い手 |
|---|---|---|---|---|
| クリーブランド | 11万6,759ドル | 14.6パーセント | 99.0パーセント | 投資家中心 |
| ヒューストン | 26万3,563ドル | 7.1パーセント | 55.5パーセント | 現地実需 |
| ダラス | 30万9,590ドル | 6.2パーセント | 80.6パーセント | 現地実需 |
| ニューヨーク市 | 83万2,934ドル | 6.0パーセント | 38.2パーセント | 世界の実需と投資家 |
| ボストン | 78万7,763ドル | 5.2パーセント | 39.4パーセント | 現地実需と大学関係 |
| ホノルル | 76万5,367ドル | 4.2パーセント | 26.1パーセント | 別荘需要と実需 |
| ロサンゼルス | 94万6,268ドル | 3.5パーセント | 68.3パーセント | 現地実需 |
※上記はZillowのZHVIとZORIから当社が算出した2026年7月時点の目安です。将来の価格や利回りを保証するものではありません。
注目していただきたいのは、ニューヨーク市の表面利回り6.0パーセントがダラスの6.2パーセントとほぼ同じである点です。ニューヨークは利回りが取れないという前提は、データと合っていません。そのうえで買い手の母集団が桁違いに広い、というのが実態です。
3. 名義を決めないまま買うと、承継で崩れる

置き場所として持つ場合、最も金額に効いてくるのが名義の設計です。ここを決めずに個人名義のまま購入されている方が、実際には非常に多くいらっしゃいます。
非居住者が米国内に不動産を保有したまま亡くなった場合、米国内国歳入庁が示す非居住者の遺産税の取扱いにより、米国内財産に対する基礎控除は6万ドルにとどまります。米国居住者に認められる巨額の控除は適用されません。
1億円の物件を個人名義で保有したまま相続が発生すれば、控除を超える部分に対して連邦遺産税が課され、税率は最高40パーセントに達します。日本側でも相続税が課され、外国税額控除で調整するとしても、手続きは長期化します。売却して納税資金を作ろうにも、遺産の名義変更が終わるまで売れません。
加えて、売却時には非居住者であればFIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。法人で持つのか、トラストを使うのか、日米相続税条約の適用を前提に組むのか。この判断は購入前にしかできません。買った後に名義を移すと、その移転自体が課税の対象になるためです。
4. 一方で、置き場所という考え方への反論について

置き場所という言葉に対しては、それは値上がりを期待しているだけではないか、という指摘をいただくことがあります。もっともなご指摘です。
実際、価格は下がることがあります。当社が扱うニューヨーク近郊でも、5年で13パーセント以上下落した市があります。ニューヨークだから下がらない、という説明を当社はいたしません。
それでも置き場所として成立すると考える理由は、判断の物差しが資産全体の構成にあるためです。資産の大半が円建ての預金と日本の不動産に偏っている状態から、一部をドル建ての実物資産に移す。この目的に対しては、単年の価格変動よりも、必要なときに世界中の誰かに売れることのほうが重要になります。
その意味で、6.0パーセントの利回りが乗っていることは「保有コストが実質的にかからない」ことを意味します。置き場所として持ちながら、待つ余裕が生まれるということです。
もう一点、日本の方にとって見落とせないのが為替です。ドル建ての資産は、現地価格が横ばいであっても円安が進めば円換算では増えます。逆に円高に振れれば目減りします。ドル建て資産を持つとは、この振れを受け入れることでもあります。
ただし、これは置き場所という目的から見れば副作用ではなく本体です。円建てに偏った資産構成を是正するために持つのですから、円高で目減りするのは、同時に手元の円資産の価値が上がっているということです。資産全体で見れば振れが打ち消し合う、この状態を作ることが目的になります。利回りを追う場合と、判断の順序が根本的に異なる点です。
ニューヨークのコンドミニアムについては、価格帯の実数と名義の設計をコンドミニアム購入のガイド(価格相場と手順、費用)にまとめています。主要建物の1平方フィートあたりの実勢価格も掲載しています。
ニューヨーク、ドバイ、シンガポール、ロンドン、東京の価格・税・外国人規制を並べた一覧は世界主要都市の不動産比較にまとめています。
個人名義と法人名義のどちらで持つべきかの具体的な損益分岐は法人名義で買うべきかの解説記事で詳しく扱っています。
承継の器として使うトラストの実務はアメリカの信託(トラスト)の使い方で解説しています。
まとめ

利回りで選ぶか置き場所で選ぶかは、優劣の問題ではありません。目的が違うだけです。ただし、目的を決めないまま利回りの数字だけで比べると、買い手の狭い資産を、税の設計をしないまま個人名義で持つことになります。これが最も避けたい状態です。
公開データで見る限り、ニューヨーク市の表面利回り6.0パーセントはダラスの6.2パーセントと同水準にあり、その上で買い手の母集団は比較にならないほど広くなっています。利回りを捨てて置き場所を取る、という二者択一ではないというのが当社の見方です。
他州の築古戸建てスキームとの比較は5年保有での比較記事を、税の全体像はアメリカ不動産の税金に関する記事をあわせてご覧ください。
名義と税務の設計は購入前にしか決められません。一般論はここまでとし、個別のご事情に応じた組み方についてはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、税務・法務・投資に関する助言ではありません。掲載した数値は公開データに基づく目安であり、将来の価格や利回りを保証するものではありません。具体的な判断は税理士、弁護士その他の独立した専門家にご確認ください。
よくある質問
ニューヨーク市とダラスの表面利回りの数値はどのように比較されますか。
ニューヨーク市の表面利回りは6.0パーセントで、ダラスの6.2パーセントとほぼ同じ水準にあります。このデータにより、ニューヨークは利回りが取れないという前提は誤りであり、買い手の母集団が桁違いに広いという実態が示されています。
非居住者が米国内に不動産を保有したまま亡くなった場合、基礎控除はいくらになりますか。
非居住者が米国内に不動産を保有したまま亡くなった場合、米国内国歳入庁の取扱いにより、米国内財産に対する基礎控除は6万ドルにとどまります。米国居住者に認められる巨額の控除は適用されず、控除を超える部分に対して連邦遺産税が課されます。
非居住者が不動産を売却する際に源泉徴収される税率は何パーセントですか。
非居住者が不動産を売却する際には、FIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。この判断は購入前にしかできず、買った後に名義を移すとその移転自体が課税の対象になるため注意が必要です。
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