アメリカの不動産投資を調べ始めると、多くの方がまず出会うのが「築古の戸建てを買って、木造の耐用年数を使って償却を立てる」という手法です。テキサス、ジョージア、オハイオといった州の名前が並び、表面利回り7パーセント、8パーセントという数字が示されます。
そして、その説明のほとんどに共通しているのが「ニューヨークは価格が高く利回りが取れないので投資先には向かない」という一文です。当社はニューヨークで実際に売買を扱っておりますが、この一文は事実として正しくありません。
ニューヨークで表面利回り5パーセントから7パーセントの物件は現に存在します。しかも、その多くが過去10年で価格を2倍以上にしています。本日は、公開データの実数を使いながら、他州の築古戸建てスキームとニューヨークを正面から比較していきましょう。
1. 築古戸建てスキームが売っているものは何か

まず、一般的な築古戸建てスキームが実際に何を商品にしているのかを整理します。結論から申し上げますと、売っているのは利回りではなく減価償却による課税所得の圧縮です。
アメリカの木造住宅は日本の税法上、法定耐用年数22年で計算されます。築22年を超えた中古木造住宅であれば簡便法により4年で償却できる扱いとなり、購入から4年間、毎年大きな減価償却費を計上できます。
ここで効いてくるのが建物比率の違いです。日本の中古住宅は土地の価値が大きく建物価格が2割から3割にとどまることが珍しくありませんが、アメリカの郊外住宅は建物比率が7割から8割に及ぶケースがあります。同じ金額を投じても、償却できる元本が2倍以上になるわけです。
それでは次に、この前提が2020年にどう変わったのかを見ていきます。
2. 2020年の税制改正が前提を変えた

この手法の土台は、2020年度税制改正によって個人については実質的に崩れています。
国税庁が公表する国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例により、2021年分以後の所得税について、個人が国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、簡便法などで計算した減価償却費に相当する部分は生じなかったものとみなされます。給与所得と相殺する道が塞がれたということです。
ここで場合分けが必要になります。この特例の対象は個人であり、法人が保有する場合は現時点で同様の制限を受けません。償却を軸に据えるのであれば法人名義が前提となり、法人の設立と維持、そして出口で法人をどう畳むかまで設計しなければ、手間だけが残ります。
加えて、償却は税を消すものではなく繰り延べるものです。償却した分だけ簿価が下がり、売却時の譲渡益が膨らみます。5年以内の売却であれば日本の短期譲渡所得として39.63パーセントが課され、前半で圧縮した所得を出口で取り戻される構造になっています。
3. ニューヨークでも利回りは取れる

ここが最も誤解されている部分です。ニューヨークという言葉からマンハッタンの超高級コンドミニアムだけを思い浮かべると利回りは3パーセント前後になりますが、ニューヨーク州はマンハッタンだけではありません。
以下はZillowが公開している住宅価格指数と賃料指数から算出した、ニューヨーク近郊主要市の実数です。2026年7月時点のものとなります。
| 市 | 住宅価格中央値 | 表面利回り | 5年上昇率 | 10年上昇率 |
|---|---|---|---|---|
| ピークスキル | 52万6,914ドル | 7.3パーセント | 23.7パーセント | 80.5パーセント |
| ミドルタウン | 41万7,645ドル | 6.6パーセント | 38.7パーセント | 131.1パーセント |
| ビーコン | 56万9,746ドル | 6.2パーセント | 37.6パーセント | 132.4パーセント |
| ニューヨーク市 | 83万2,934ドル | 6.0パーセント | 9.2パーセント | 38.2パーセント |
| ロングビーチ | 81万461ドル | 5.4パーセント | 24.0パーセント | 63.3パーセント |
| ガーデンシティ | 140万1,920ドル | 5.2パーセント | 37.8パーセント | 56.8パーセント |
| ヨンカーズ | 71万85ドル | 4.7パーセント | 27.2パーセント | 66.8パーセント |
※上記はZillowのZHVIとZORIから当社が算出した目安です。表面利回りは管理費や固定資産税を差し引く前の数値であり、物件ごとに異なります。
ビーコンとミドルタウンは10年で価格が2.3倍になりながら、いまも6パーセント台の利回りが乗っています。利回りとキャピタルゲインを両立させたエリアが、ニューヨーク州内に現に存在するということです。他州の築古戸建てを勧める説明の中で、これらの数字が示されることはまずありません。
そして注目していただきたいのがニューヨーク市の5年上昇率9.2パーセントです。郊外が30パーセントから38パーセント上昇するあいだ、市内はほとんど動いていません。出遅れているのは郊外ではなく市内のほうだという読み方ができます。当社がクイーンズの2世帯から4世帯住宅を継続して追いかけているのも、この価格帯に取得と利回りの両方が残っているためです。
4. 下がらない資産はないという前提で考える

ここまで数字を並べましたが、一方で「ニューヨークなら下がらない」という説明を当社はいたしません。同じ表の中に、ブロンクスビルのように5年で13.7パーセント下落した市が含まれているためです。
正確に申し上げるべきは、ニューヨークは下がらない市場ではなく、下がっても戻ってきた市場であるということです。2008年の金融危機でも2020年の混乱でも価格は下落しましたが、いずれも数年で回復し、10年単位では上の表の通りの結果になっています。買い手が世界中にいる都市の不動産は、売り急がない限り時間が味方をします。
この差が最も出るのが出口です。他州の築古戸建てを売る相手は、多くの場合同じ手法を探している次の日本人投資家になります。現地の実需が薄い価格帯と立地では買い手の層がそこに限られるためです。買い手の母集団が狭い資産は、売り急いだときに値段がつきません。ニューヨークは実需と投資家の双方が世界中にいる点で、この不安から解放されます。
もっとも、名義の設計を誤れば数字は簡単に吹き飛びます。非居住者が個人名義で売却するとFIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。相続では非居住者の米国内財産に対する遺産税の基礎控除が6万ドルにとどまるため、数億円の物件を個人名義のまま持つことは避けるべきです。詳しくはアメリカ不動産の税金に関する記事もご覧ください。
まとめ

他州の築古戸建てスキームが売っているのは償却であり、その前提は2020年の税制改正で個人については崩れました。法人名義で組むのであれば成立しますが、出口の譲渡益と法人の畳み方まで含めた設計が必要になります。
そしてニューヨークは、利回りが取れない市場ではありません。ピークスキル7.3パーセント、ミドルタウン6.6パーセント、ビーコン6.2パーセントという数字が公開データから算出でき、しかもこれらの市は10年で価格を2倍以上にしています。利回りを取りながら値上がりも取れる場所が、ニューヨーク州内に残っているというのが実態です。
加えて、ニューヨーク市の5年上昇率は9.2パーセントと郊外に大きく出遅れています。ここは今後に余地があると当社は見ております。
ただし、どのエリアを選んでも、どの名義で持ち、どの税務スキームで組むかによって手元に残る金額は大きく変わります。一般論はここまでとし、個別のご事情に応じた設計についてはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、税務・法務・投資に関する助言ではありません。掲載した数値は公開データに基づく目安であり、将来の価格や利回りを保証するものではありません。具体的な判断は税理士、弁護士その他の独立した専門家にご確認ください。不動産サービスはR New Yorkとしてのサービス提供となります。
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。


















