日本に住む方が米国の不動産を売ると、日本の譲渡所得は円で計算します。このとき取得費は買った日のレート、売却代金は売った日のレートで別々に円に換算します。ドル建てでは値上がりしていなくても、円安が進んでいれば円建ての譲渡益が生じ、そこに課税されます。
1ドル=110円のときに100万ドルで買い、1ドル=155円のときに100万ドルで売った場合、ドルでは損も益もありません。しかし円では1億1,000万円で買って1億5,500万円で売ったことになり、4,500万円の譲渡益が生まれます。為替差益は別の所得ではなく、譲渡所得の中に含まれます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
換算に使うレートの決まり、ドル預金で買ったときに先に実現する為替差益、売却代金をドルのまま持つ場合の扱い、そして個人と法人の違いを順に見ていきます。
1. 換算のレートは取引日のTTM

譲渡価額、取得費、譲渡費用をそれぞれの日で
国税庁の外国通貨で支払が行われる不動産を譲渡した場合の円換算によると、譲渡価額、取得価額、譲渡費用は、それぞれの取引日の対顧客直物電信売買相場の仲値(TTM)で円に換算します。根拠は所得税基本通達57の3-2です。
取得費は購入時の決済日、譲渡価額は売却の決済日、仲介手数料などの譲渡費用は支払日のレートです。同じ物件でも3つの日付のレートが混ざります。
例外として、受け取ったドルをその都度すぐに円に替えている場合は、実際に受け取った円の額(TTBで換算した額)を譲渡価額にできます。円をドルに替えてすぐ支払った取得費や譲渡費用は、実際に支払った円の額(TTS換算)にできます。ドルのまま持ち続けた場合はこの例外が使えず、原則のTTMに戻ります。
2. ドル預金で買うと、買った時点で為替差益が実現する

建物の購入は外貨建取引
米国の不動産を、以前から持っていたドル預金で買う方は多くいます。この場合、建物を買った時点で預金の為替差益が所得として実現します。国税庁の外貨建預貯金を払い出して貸付用の建物を購入した場合の為替差損益に、そのままの事例が示されています。
事例では、1ドル=100円で預けた10万ドルと112円で預けた5万ドルを払い出し、120円のときに12万ドルの建物を買っています。預けたドルの平均取得レートは104円で、建物購入時の120円との差16円に12万ドルを掛けた192万円が為替差益として、購入した年の所得になります。円に替えていなくても課税されます。
この為替差益は雑所得として総合課税の対象です。以前からドルを持っている方が円安局面で物件を買うと、物件の収益が出る前に日本で税が発生する点は、資金計画に入れておく必要があります。同じ考え方は、売却代金のドルを別の物件の購入に充てるときにも当てはまります。
3. 売却代金をドルのまま持つと、次の為替差益が待っている

譲渡所得と、その後の為替差益は別々に計上する
売却で受け取ったドルを円に替えずに置いておく方も多いと思います。売却日のTTMで換算した譲渡価額で譲渡所得は確定し、その後の為替の動きは次にそのドルを使ったときの為替差損益として、別に認識されます。
売却時に1ドル=155円で受け取った300万ドルを、後に165円で円に替えれば、10円に300万ドルを掛けた3,000万円が為替差益です。逆に145円で替えれば3,000万円の為替差損で、雑所得の中で他の為替差益とは通算できますが、譲渡所得や給与とは通算できません。
以下は、典型的な流れごとに為替差損益がどこで生じるかを並べた表です。
| 場面 | 為替の影響が出る所得 | 認識する時点 |
|---|---|---|
| 円をドルに替えてすぐ買う | なし(実際の円額が取得費) | ー |
| 持っていたドル預金で買う | 雑所得(預金の為替差益) | 建物の購入日 |
| 保有中に円安が進む | 譲渡所得に含まれる | 売却日 |
| 売却代金をすぐ円に替える | なし(実際の円額が譲渡価額) | ー |
| 売却代金をドルのまま持つ | 雑所得(次に使ったときの差損益) | 円転または次の購入日 |
※上記は、日本の居住者が個人名義で持つ場合の一般的な整理です。レートの選び方は継続適用が条件で、途中で変えられません。
4. 個人と法人、居住者と非居住者で前提が変わる

誰の所得として円換算するか
ここまでは日本の居住者が個人名義で持つ場合です。日本法人の名義で持つ場合も円換算の考え方は同じですが、法人はドル預金や外貨建の債権について期末に換算替えする方法を選べるため、預金として持つドルの為替差損益が出るタイミングが変わります。不動産そのものは取得日のレートで固定されます。米国LLCの名義なら、日本ではLLCという外国法人の所得になり、本人に届くのは配当です。
米国に住んでいる方は日本の非居住者なので、米国の不動産の売却益に日本の所得税はかかりません。円換算そのものが生じません。帰国して居住者になった後に売る場合は、取得日のレートまで遡って計算することになるため、購入時の決済書類と当日のレートを残しておく必要があります。
米国側の源泉徴収と、日本での外国税額控除の年のずれはFIRPTAと外国税額控除の記事で、売却の段取りは売るときの流れの記事で扱っています。保有中の賃料の円換算は米国の賃料収入の日本での申告にまとめました。
まとめ

為替は3回、所得に入ってくる
米国不動産の日本の譲渡所得は、取得費と譲渡価額をそれぞれの日のTTMで円換算して計算します。ドルで損益がなくても、円安が進んでいれば円建ての譲渡益が生じます。ドル預金で買えば購入時に預金の為替差益が実現し、売却代金をドルのまま持てば次に使うときにまた為替差損益が出ます。
為替が所得に入ってくる場面は、購入時、売却時、円転時の3回です。どこで何を認識するかを知らずに動くと、想定していない年に税が出ます。
ドルをどう持ち、いつ替え、どの名義で買うかは、為替の局面と資産全体の構成で答えが変わります。出口まで含めた設計の段階からご相談ください。
よくある質問
ドルでは損なのに日本で譲渡益が出ることはありますか。
あります。取得費は買った日のレート、譲渡価額は売った日のレートで円換算するため、同じ100万ドルで買って売っても、1ドル110円から155円へ円安が進んでいれば4,500万円の譲渡益になります。為替差益は譲渡所得の中に含まれます。
以前から持っていたドル預金で物件を買うと、その時点で課税されますか。
されます。国税庁の質疑応答では、ドル預金を払い出して貸付用の建物を買った時点で、預金の取得レートと購入時のレートの差が為替差益として実現し、雑所得になります。円に替えていなくても購入した年の所得です。
売却代金をドルのまま持っていれば課税は先送りできますか。
譲渡所得は売却日のレートで確定し、先送りはできません。その後ドルのまま持っている間の為替の動きは、次にそのドルを円に替えたり別の資産を買ったりした時点で、雑所得の為替差損益として別に認識されます。
米国に住んでいる場合はどうなりますか。
日本の非居住者であれば、米国の不動産の売却益に日本の所得税はかからず、円換算も生じません。帰国して居住者になってから売る場合は取得日のレートまで遡って計算するため、購入時の決済書類と当日のレートを保管しておく必要があります。
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