日本に住む方がアメリカの不動産を貸すと、家賃の30%が源泉徴収されます。経費を引く前の総額にかかるため、月8,000ドルの家賃なら年9万6,000ドルのうち2万8,800ドルが引かれます。
これを避ける方法が、家賃を「事業の所得」として扱う選択です。管理会社などにW-8ECIという書類を出し、毎年アメリカで確定申告をすれば、経費を引いた後の純額に普通の税率がかかります。W-8BENとW-8ECIのどちらを出すかで、手取りが大きく変わります。
- 何も選ばなければ、家賃の総額に30%。日米租税条約でも不動産の所得は下がりません
- W-8BENは「外国人である」ことの証明。出しても家賃の30%は変わりません
- W-8ECIを出して純額で申告すると、経費と減価償却を引いた額に累進税率がかかります
- 選んだら毎年1040-NRを出します。期限から16か月を過ぎると経費が認められません
本日はW-8BENとW-8ECIの違いと、家賃の課税を純額に切り替える手続きについて見ていきましょう。
1. 家賃の30%は、経費を引く前の総額にかかる

非居住者の家賃は「定期的な所得」の扱い
内国歳入庁(IRS)の非居住者の不動産所得の説明によれば、アメリカの事業と結びつかない不動産の所得には、30%(または条約の軽減税率)がかかります。家賃を払う側(借り手や家賃を受け取る管理会社)が、支払いのときに差し引いて納めます。
日米租税条約の第6条は、不動産から生じる所得は不動産のある国で課税できると定めています。配当や利子と違って税率の上限がないため、家賃の30%は条約では下がりません。
管理費も固定資産税も引かれない
総額への課税なので、管理費、固定資産税、保険、ローンの利息、減価償却はいずれも差し引かれません。経費の重いニューヨークのコンドミニアムでは、利益が小さい年でも家賃の3割が出ていきます。
2. W-8BENとW-8ECIは何が違うのか

2つの書類の役割
| 項目 | W-8BEN(法人はW-8BEN-E) | W-8ECI |
|---|---|---|
| 証明する内容 | 受取人が外国人(外国法人)であること。条約の軽減の請求 | その所得がアメリカの事業と結びつく所得であること |
| 家賃への源泉 | 総額の30%のまま | 源泉されない |
| アメリカの申告 | 家賃だけなら原則不要 | 毎年必要(個人は1040-NR、法人は1120-F) |
| 納税者番号 | 家賃だけなら原則不要 | 必須(個人はITINなど) |
※IRSのW-8BENの記入要領とW-8ECIの記入要領から整理しました。
IRSの外国人向けの税の手引き(Publication 519)には、「家賃1万ドルから30%が源泉され、1042-Sを受け取っている人は1040-NRを出さなくてよい」という例が載っています。手続きは軽い一方で、税は総額で決まります。
LLCで持っている場合
社員が1人のLLCは、税務上は持ち主と同じ扱いです。W-8BENの記入要領は、この場合の受取人を持ち主本人としています。書類は持ち主の名前で出します。アメリカの法人(C-Corp)で持つ場合は、受取人がアメリカの会社になるため、W-9を出して源泉はかかりません。名義ごとの違いは米国不動産をLLCで持つと税はどう変わるかにまとめています。
3. 純額で申告すると、税はどれだけ変わるか

家賃9万6,000ドル、経費6万ドルの例
管理費、固定資産税、保険、ローンの利息、減価償却の合計が年6万ドルなら、課税されるのは差額の3万6,000ドルです。2026年の連邦の税率表では、1万2,400ドルまでが10%、そこから5万400ドルまでが12%です。税額は約4,072ドルになり、総額の30%(2万8,800ドル)との差は2万4,000ドルを超えます。
赤字の年は、アメリカの連邦税がかからないこともあります。ただし州の所得税は別にかかり、ニューヨーク州にも非居住者の申告があります。
この選択は、その年のアメリカの不動産の所得すべてにかかります。物件ごとに選ぶことはできません。一度選ぶと、取り消すまで翌年以降も続きます。取り消しは、選んだ年の申告から3年以内(または納税から2年以内の遅い方)であれば修正申告で行えます。それを過ぎると、以後の年はIRSの承認が必要です。
個人と法人で手続きが違う
個人は、最初の年の1040-NRに選択の書面(物件の一覧、所在地、取得日、所得など)を付けます。日本の法人がアメリカの不動産を直接持つ場合も、同じ選択ができます。IRSの1120-Fの記入要領に、外国法人がその年の不動産の所得を事業の所得として扱える旨が書かれています。
4. 選んだ後に守ること

毎年の申告と、16か月の期限
- ITIN(個人の納税者番号)を取ります。W-8ECIは番号がないと有効になりません。取り方はITINの記事にあります
- W-8ECIを管理会社など家賃を受け取る相手に出します。署名した年の3年後の年末まで有効です
- 毎年1040-NRを出します。給与のない非居住者の期限は翌年6月15日です
- 日本でも家賃を申告し、アメリカで納めた税を外国税額控除で差し引きます
IRSは、期限から16か月以内に正しい申告書を出さないと、経費を差し引けないとしています。申告を何年も出していないと、純額の選択をしていても総額に近い課税になりえます。W-8ECIを出したまま申告を止めないでください。
日本の申告とのつなぎ方
日本の居住者は、アメリカの家賃も日本で不動産所得として申告します。アメリカで納めた税は、確定した1040-NRの税額をもとに外国税額控除で差し引きます。円換算や償却の制限はアメリカの賃料収入を日本でどう申告するかで扱っています。1年の申告の流れは非居住者の米国確定申告ガイドをご覧ください。
まとめ

何も出さないと、総額の30%で決まる
アメリカの家賃は、何も選ばなければ経費を引く前の総額に30%がかかり、日米租税条約でも下がりません。W-8BENは外国人であることの証明で、家賃の税率は変わりません。
W-8ECIを出して純額で申告すれば、経費と減価償却を引いた額に累進税率がかかります。その代わり、毎年の1040-NRと16か月の期限を守る必要があります。
個人、LLC、法人のどの名義で持つかで、出す書類と申告書が変わります。一般的な整理はここまでです。物件と名義に合わせた判断は、個別にご相談ください。
よくある質問
W-8BENとW-8ECIの違いは何ですか。
W-8BENは、受取人が外国人であることを示し、条約の軽減を請求する書類です。家賃は日米租税条約でも軽減されないため、W-8BENを出しても総額の30%の源泉は変わりません。W-8ECIは、その家賃をアメリカの事業と結びつく所得として扱うことを示す書類で、出すと源泉されず、毎年の申告で純額に課税されます。
W-8ECIを出すと何が必要になりますか。
納税者番号(個人はITINなど)が必要で、番号がないと書類は有効になりません。選んだ年から毎年1040-NR(法人は1120-F)を出し、最初の年には選択の書面を付けます。IRSは期限から16か月以内に申告書を出さないと経費を差し引けないとしています。
社員が1人のLLCで持っている場合、誰の名前で書類を出しますか。
税務上は持ち主と同じ扱いになるため、持ち主本人の名前で出します。IRSのW-8BENの記入要領も、この場合の受取人を持ち主としています。アメリカの法人(C-Corp)で持つ場合は、W-9を出し、家賃に源泉はかかりません。
家賃から30%が引かれた場合、日本ではどうなりますか。
日本の居住者は、アメリカの家賃を日本でも不動産所得として申告します。アメリカで納めた税は、日本の所得税から外国税額控除として差し引けます。控除には限度額があり、引ききれない分は翌年以降3年の繰越しの仕組みがあります。
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