2026年現在、外国人投資家がアメリカで不動産を保有する際にLLC(有限責任会社)を活用するケースが急増しています。個人名義での直接保有と比較してLLC保有には税務面での大きなメリットがあり、特に非居住外国人にとってFIRPTA源泉徴収率の違いや相続税対策における効果は見逃せません。本記事では、個人所有とLLC所有の税率を具体的に比較しながら、外国人投資家が知っておくべき節税スキームを詳しく解説いたします。
なお、米国LLCの基本的な仕組みや設立手順については米国LLC設立の詳細解説をご参照ください。本記事では不動産保有に特化した税務の観点から、より実践的な内容をお伝えいたします。
1. 外国人が米国不動産を保有する際の税務の基本

非居住外国人(NRA)に課される税金の種類
米国税法上、日本人を含む非居住外国人(Non-Resident Alien、以下NRA)が米国不動産を保有・売却する場合、複数の税金が課されます。主なものは連邦所得税・州所得税・FIRPTA源泉徴収税・連邦遺産税の4種類です。これらは保有形態(個人名義かLLC名義か)によって税率や申告義務が大きく異なります。
特に注意が必要なのが、IRS公式サイトで解説されているFIRPTA(外国人不動産税法)です。FIRPTAは外国人が米国不動産を売却した際に、買主が売却代金の一定割合を源泉徴収することを義務付けた制度です。保有形態によって源泉徴収率が変わるため、LLC活用の効果が際立ちます。
個人保有とLLC保有の根本的な違い
個人名義で不動産を保有する場合、NRAは米国源泉所得として賃料収入や売却益に対して連邦税が課され、さらに不動産所在地の州税も負担します。一方、LLCを通じた保有では、パススルー課税(Pass-through Taxation)という仕組みが適用されるため、法人税が二重にかかることなく、LLC段階では課税されずにメンバー(出資者)レベルで課税が行われます。
この構造の違いが、税負担の大きな差を生み出す根本的な要因です。詳しい米国所得税の全体像については米国所得税の総合解説もあわせてご確認ください。
2. パススルー課税のメリットと個人所有との税率比較

パススルー課税とは何か
LLCのパススルー課税とは、LLC自体が法人税を納めず、所得がメンバーに「流れ抜ける(pass through)」形で課税される仕組みです。例えばLLCが年間100万円の純利益を出した場合、そのLLC自体には課税されず、出資者である個人の確定申告に組み込まれて課税されます。これにより法人税と個人所得税の二重課税が回避できます。
C法人(Corporation)と比較すると、C法人は法人税率21%が課された後の残余利益に対してさらに配当課税がかかるため、実質的な税負担は大幅に高くなります。LLCのパススルー課税は二重課税を防ぐ点で外国人投資家に特に有利な構造といえます。
個人所有vsLLC所有の税率比較表
| 項目 | 個人名義(NRA) | LLC名義(単独メンバー) | LLC名義(複数メンバー) |
|---|---|---|---|
| 賃料収入への課税 | 30%(グロス)または実額控除後の通常税率 | パススルーで個人税率に準拠 | パススルーで各メンバー税率に準拠 |
| 売却益への課税 | 最高37%(短期)または20%(長期) | 最高20%(長期キャピタルゲイン) | 最高20%(長期キャピタルゲイン) |
| FIRPTA源泉徴収率 | 15%(売却価格に対して) | 15%(個人名義と同じ) | 15%(各メンバーの区分で判定) |
| 連邦遺産税 | 最高40%(控除枠$60,000のみ) | 最高40%(控除枠$60,000のみ。個人名義と同じ) | 最高40%(控除枠$60,000のみ) |
| 州所得税 | 州により異なる(例NY州最高10.9%) | 州により異なる | 同左 |
※上記は連邦税ベースの整理です。出資者が1人のLLCは米国の税務上ないものとして扱われるため、FIRPTAの源泉徴収も遺産税も個人名義と同じ扱いになります。遺産税の対象から外す余地が生まれるのは、上に米国外の法人を置いた場合です。
上記の通り、LLCを活用することで特にFIRPTA源泉徴収税と遺産税において大きな節税効果が期待できます。ただし具体的な税率は個人の状況や条約の適用有無によって異なるため、専門家への相談を強くお勧めします。
3. FIRPTA源泉徴収率の違いとLLC活用の効果

FIRPTAの仕組みと外国人への影響
FIRPTAとは1980年に制定された外国人不動産投資税法(Foreign Investment in Real Property Tax Act)の略称です。米国法典(26 U.S.C. § 1445)に基づき、外国人が米国不動産権益(USRPI)を売却する際、買主は売却代金の15%を自動的に源泉徴収してIRSに納付する義務を負います。これは外国人の脱税を防ぐための先払い課税制度です。
例えば、100万ドル(1億5,000万円)の不動産を売却した場合、個人名義であれば15万ドル(2,250万円)がFIRPTAとして源泉徴収されます。最終的な税額が源泉徴収額を下回る場合は還付申請が可能ですが、資金拘束期間が生じる点は大きなデメリットです。
LLC活用でFIRPTAを軽減する方法
LLCを複数層の構造(ストラクチャリング)で活用することで、直接的なUSRPIの売却ではなくLLC持分の移転として取引を組成できる場合があります。この場合、IRS Publication 515(外国人への源泉徴収)の規定上、FIRPTAの適用が変わる可能性があります。
また、米国・日本間の日米租税条約(財務省公式情報)を活用することで、特定条件下において源泉徴収税の軽減申請が可能になるケースもあります。LLCの出資者構成や事業実態によって適用条件が細かく異なるため、税理士との連携が不可欠です。
4. LLCと遺産税。効くのはどの構造か

外国人の遺産税が持つ深刻なリスク
米国連邦遺産税(Estate Tax)は、米国に所在する財産を外国人が保有したまま死亡した場合に課されます。米国市民・永住権保持者には1,500万ドルの基礎控除(2026年現在)が適用されますが、NRAには控除枠がわずか6万ドル(約930万円)しかありません。最高税率40%が適用されるため、不動産の含み益がある場合は多額の遺産税が発生します。
例えば、100万ドル(約1億5,500万円)相当の不動産を個人名義で保有していたNRAが死亡した場合、(100万ドル − 6万ドル) × 40% = 37.6万ドル(約5,828万円)が遺産税として課税される計算になります。これは事前対策なしでは避けられない深刻なリスクです。
LLCを使った相続税対策の仕組み
米国のLLCを1つ挟んだだけでは、遺産税は変わりません。出資者が1人のLLCは税務上ないものとして扱われ、不動産を直接持っているのと同じに見られるためです。変わるのは、米国外の法人の株式に置き換えたときで、米国外の法人の株式は米国内財産に当たらないため、遺産税の対象から外れる余地が生まれます。
具体的には、日本の法人または外国LLCが米国LLCに出資し、その米国LLCが不動産を保有するという二層構造が典型的です。この場合、個人が直接持つのは米国外の法人の株式になります。ただし上に置いた法人の段階で法人税と維持費が乗り、賃料や売却益の税率も個人名義より重くなることがあります。遺産税で得る分と、毎年の税で失う分を並べて初めて答えが出ます。ただしIRSはこの種のストラクチャーを厳しく審査するため、IRS遺産・贈与税ページの最新情報を確認しながら専門家と精緻に設計することが不可欠です。
LLCによる資産保全の観点についてはLLC資産保全の詳細解説もご参照ください。税務面だけでなく訴訟リスクや債権者からの保護という観点でもLLC活用は有効です。
節税シミュレーション個人保有とLLC保有の比較
仮に売却価格200万ドル(約3億1,000万円)、取得費120万ドル(約1億8,600万円)、保有期間1年超で長期の譲渡益になる売却を想定します。個人名義の場合、まずFIRPTAで売却価格の15%にあたる30万ドル(約4,650万円)が決済時に源泉徴収されます。実際の税額は、譲渡益80万ドルに連邦の長期税率20%を掛けた16万ドル(約2,480万円)に州税を加えたもので、源泉との差額は申告後に還付されます。源泉の30万ドルは前払いであり、税額に足すものではありません。
一方、パススルーのLLCで持っていても、譲渡益にかかる連邦の税率は個人名義と同じ20%です。経費や減価償却の扱いも個人名義と変わらず、LLCにしただけで課税所得が圧縮されることはありません。差が出るのは、上に米国外の法人を置いた二層構造にした場合の遺産税と、その代わりに乗る法人段階の課税との比較で、物件の規模と保有期間で損益分岐が変わります。
保有中の物件をLLCに移す場合にかかる費用は名義変更でかかる費用の記事で整理しています。
5. まとめ

米国側で見ると、LLCにはパススルー課税で法人段階の税を避けられる、上に米国外の法人を置けば遺産税の対象から外れる余地がある、という利点があります。ただし日本に住んだまま持つ場合、日本ではLLCが外国法人として扱われ、外国子会社合算税制の判定に入ります。米国側の利点だけで名義を決めると日本側で当たる制度で、判定の順序は米国不動産を法人名義で持つと日本の合算課税にかかるかの記事にまとめました。
ただし、LLC保有に伴う税務コンプライアンスは複雑で、毎年のForm 1065(パートナーシップ申告)やForm 5472(外国人関連取引申告)など複数の申告義務が生じます。また、個人の状況・保有物件の規模・投資期間・将来の相続計画によって最適な保有構造は異なります。
最も重要なのは、購入前の段階でLLC設立と保有構造の設計を行うことです。不動産を個人名義で取得した後からLLCへ移転しようとすると、FIRPTA課税が発生する可能性があり、むしろ税負担が増えてしまうケースもあります。事前の入念な設計が節税の成否を左右します。
外国人の米国不動産投資における税務戦略は、LLC設立・不動産取引・国際税務の3分野にわたる専門知識が必要です。弊社では、これらを一括してサポートする体制を整えています。具体的なご状況についてのご相談は、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
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