米国で高い給与を得ている方ほど、税負担の重さを実感されているはずです。連邦税に州税、市税が重なり、限界税率が5割に近づくこともあります。
ここで注目されるのが、不動産の減価償却で課税所得そのものを圧縮するという考え方です。給与という動かせない所得に対して、不動産側で作った帳簿上の損失をぶつける。理屈としては明快です。
ただし、この設計には米国税法上の大きな壁があります。その壁を越える鍵が、不動産プロフェッショナル(Real Estate Professional Status、以下REPS)です。
本日は、高所得の給与所得者が米国不動産で課税所得を下げる仕組みと、その条件について見ていきましょう。
1. まず立ちはだかる「受動的損失」の壁

米国の税法では、賃貸不動産から生じる損失は原則として受動的損失(パッシブ・ロス)に分類されます。そして受動的損失は、給与などの通常の所得と相殺できません。
相殺できるのは、同じく受動的な所得に対してだけです。使いきれなかった損失は繰り越されますが、その年の税金は減りません。
例外として、賃貸活動に積極的に関与する方には年間2万5,000ドルまでの特別枠がありますが、この枠は所得が上がるにつれて縮小し、一定水準を超えると完全に消えます。
つまり、高所得の方ほど、この特別枠は使えません。ここが最初に理解すべき点です。「不動産を買えば給与の税金が下がる」という説明だけを聞いて購入されると、この壁に突き当たります。
2. REPSが認められると何が変わるか

REPSは、税務上「不動産業に従事している」と認められる区分です。この区分に該当し、かつ各物件に実質的に関与していると認められると、賃貸の損失が受動的ではなくなり、給与を含む通常の所得と相殺できるようになります。
ここで効いてくるのが減価償却です。建物部分を償却することで、実際には現金が出ていかないのに帳簿上の損失が生まれます。この損失で課税所得を圧縮する形です。
限界税率が高い方ほど、同じ償却額から得られる効果は大きくなります。年収の高い給与所得者にとって、この設計の価値が大きいと言われるのはこのためです。
償却を前倒しする手法についてはコストセグリゲーションの記事に、基本的な仕組みは加速度減価償却の記事にまとめています。
3. 条件は厳しい。フルタイム勤務との両立は難しい

ではREPSはどうすれば認められるのか。求められる条件を整理します。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 時間の要件 | 年間750時間以上を不動産業に従事 |
| 比率の要件 | 全業務時間の過半を不動産業に充てる |
| 物件ごとの関与 | 各物件に実質的に関与していること |
| 記録 | 従事時間を裏付ける記録の保存 |
※上記は一般的な整理です。適用の可否は必ず米国の会計士にご確認ください。
ここで多くの方が気づかれます。フルタイムで勤務しながら「全業務時間の過半を不動産業に充てる」ことは、現実的にはほぼ不可能です。週40時間勤務している方が、それを上回る時間を不動産に使うことになるためです。
そこで実務上検討されるのが、配偶者の側でREPSの要件を満たすという設計です。夫婦合算で申告する場合、一方がREPSに該当すれば、その効果は世帯として反映されます。
ご家庭の状況によっては現実的な選択肢になりますが、形式を整えるだけでは認められません。実際に不動産業務に従事している実態と、それを示す記録が求められます。時間の記録は、税務調査で最初に確認される項目です。
4. ニューヨークで検討する際の注意点

米国では、短期の賃貸を活用してこの制限を回避する設計が語られることがあります。平均滞在日数が短い場合、税務上「賃貸活動」に当たらないという扱いがあるためです。
ただしニューヨーク市では、所有者が同居しない30日未満の貸し出しが原則として禁止されています。市内の物件でこの設計を前提にすることはできません。
また、償却によって圧縮した所得は、売却時に取り戻し課税として戻ってきます。免税ではなく繰り延べであるという点は、最初に押さえておいてください。
貸し出しの制約は買った物件を貸す場合の記事に、税の全体像はアメリカ不動産の税金の記事にまとめています。
まとめ

高所得の給与所得者にとって、不動産の減価償却は税負担を下げる有力な手段です。ただし受動的損失の制限があるため、REPSに該当しない限り、給与所得と相殺することはできません。
そしてREPSの要件は、フルタイム勤務との両立が難しい水準に設定されています。配偶者の側で要件を満たす設計を含め、購入前に会計士と組み立てておくことが前提になります。
「不動産を買えば給与の税金が下がる」という説明だけで進めると、想定した効果が出ません。ご自身のケースで成立するかどうかから、ご一緒に確認いたします。
※本記事は一般的な情報提供であり、税務の助言ではありません。要件および適用は改正され、個別の事情により判断が異なります。実行の前に、必ず米国の会計士にご確認ください。
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