ウォール街とブロードウェイの角に、石灰岩の壁が波打つように立ち上がる建物があります。1931年に完成したワンウォールストリート(One Wall Street)です。
設計はラルフ・ウォーカー。アールデコの代表作として知られ、長く銀行の本店として使われてきました。その建物が、住宅へと転用されました。
オフィスから住宅への転用は、ニューヨークで近年増えている類型です。金融街には戦前の大型オフィスが多く、働き方の変化で空いた床が住宅に組み替えられています。
この種の物件を検討される際、意匠より先に見るべき数字があります。固定資産税の減税措置と、その期限です。転用物件では月額の負担が途中で変わる設計になっていることがあり、購入時の数字だけを見ると判断を誤ります。
本日はワンウォールストリートを題材に、転用物件の保有コストの読み方について見ていきましょう。
CONTENTS
この建物は動画でもご紹介しています。あわせてご覧ください。
1. ワンウォールストリートという建物

ワンウォールストリートは50階建て、1931年の竣工です。外壁は石灰岩で、平面ではなく緩やかな折れ面で構成されているため、光の当たり方で表情が変わります。
低層部には、モザイクで覆われた大空間が残されています。銀行の営業室として作られた部分で、ニューヨーク市のランドマークに指定されています。
住宅への転用にあたっては、既存の構造を残しながら住戸が作られました。オフィスの床は住宅より奥行きが深いため、窓からの距離が住戸ごとに大きく異なります。同じ広さでも採光の条件が違うということです。
転用物件では、この点が価格差の理由になります。図面上の面積だけで比べず、窓の位置と天井高を必ず現地で確認します。
2. 転用物件と減税措置

ニューヨーク市には、住宅の供給を促すための固定資産税の減税措置がいくつかあります。オフィスからの転用や新規の開発に対して、一定期間、税負担を軽くする仕組みです。
買主にとっての意味は単純です。減税の期間中は月額が軽く、期間が終わると重くなります。多くの制度では、終了時に一気に戻るのではなく、数年かけて段階的に引き上げられます。
ここで実務上の落とし穴があります。販売資料に記載された月額は、多くの場合減税が効いている現在の数字です。10年後、15年後にいくらになるのかは、オファリングプランの中に別途記載されています。
確認するのは次の3点です。
①減税の種類と残存期間。②段階的な引き上げのスケジュール。③満了後の想定税額。この3つが分かれば、保有コストの将来像が描けます。
3. 保有コストを時間軸で見る

以下は、保有にかかる費用を時間軸で整理したものです。転用物件だけでなく、新築コンドミニアムでも同じ見方をします。
| 時期 | 見るべき数字 |
|---|---|
| 購入時 | 譲渡税の負担者、弁護士費用、住宅ローン記録税 |
| 保有初期 | 減税適用中の管理費と固定資産税 |
| 減税の逓減期 | 段階的な引き上げ幅と、その開始年 |
| 満了後 | 通常課税に戻った場合の月額 |
| 売却時 | FIRPTAの源泉徴収、譲渡税、残存する減税の価値 |
最下段に「残存する減税の価値」と書いたのは、減税は建物と住戸に付いており、売却しても引き継がれるためです。残存期間が長い住戸ほど、売却時に有利に働きます。
逆に、減税の満了が近い時期に売ろうとすると、買主は満了後の月額を前提に価格を計算します。出口のタイミングは、減税の残存期間から逆算するという考え方になります。
売却時の源泉徴収については米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご参照ください。
減税の内容は、販売資料ではなく公的な記録でも確認できます。ニューヨーク市財務局は住戸ごとの税額と適用されている減免を公開しており、市財務局の固定資産税ページから辿れます。
売主や仲介の説明と、公的な記録が食い違うことは実際にあります。数字は必ず一次情報で確認するという原則は、ここでも変わりません。
もうひとつ、転用物件では住戸ごとの管理費の按分にも目を通します。オフィス時代の共用部をどこまで住宅側が引き継いだかによって、按分の考え方が建物ごとに違うためです。
4. 名義をどう置くか

ワンウォールストリートの住宅部分はコンドミニアムです。したがって、名義の選択肢があります。
個人で持つのか、法人やトラストで持つのか。この判断は、保有期間と出口の設計から決まります。数年で売る前提なら個人名義の簡便さが勝ち、長期保有や承継を考えるなら法人やトラストの設計が効いてきます。
賃貸に出す場合は、非居住者の賃料収入に対する課税方式の選択が加わります。総額に対する源泉徴収のままにするか、経費を差し引いた純額での課税に切り替えるか。減価償却を取れるかどうかで手取りが変わります。
一方で、こういう見方もあります。「減税が切れた後に負担が増えるなら、最初から減税のない中古のほうが読みやすいのではないか」というものです。
これは筋の通った考え方です。ただ、減税がある期間のキャッシュフローは実際に軽く、その差分を他の運用に回せます。減税は判断材料であって、避けるべきものではありません。読めていないまま買うことだけが問題です。
コンドミニアム購入の全体像はコンドミニアム購入のガイド(価格相場と手順、費用)をご覧ください。
もう一点、金融街という立地の変化も見ておく価値があります。オフィス街だった区画に住宅が増えると、店舗や学校といった生活の設備が後から入ってきます。数年単位で街の性格が変わる地域であり、購入時点の周辺環境だけで判断すると、評価を見誤ることがあります。
現在売りに出ている住戸(2026-08-17時点)
| 住戸 | 広さ | ベッドルーム | 売出価格 |
|---|---|---|---|
| 2612 | 3,639sqft(約338平米) | 4 | 8,795,000ドル(約13.6億円) |
| 1801 | 2,493sqft(約232平米) | 3 | 5,795,000ドル(約9.0億円) |
| 3601 | 2,053sqft(約191平米) | 2 | 5,250,000ドル(約8.1億円) |
| 2516 | 2,055sqft(約191平米) | 3 | 4,995,000ドル(約7.7億円) |
| 2906 | 1,836sqft(約171平米) | 3 | 3,950,000ドル(約6.1億円) |
| 1602 | 1,641sqft(約152平米) | 2 | 3,545,000ドル(約5.5億円) |
出典はCityRealtyのワン・ウォールストリートの建物ページです。売出しは日々入れ替わりますので、最新の在庫と実際に入れる価格は個別にお調べします。非公開で動いている住戸もあります。
5. まとめ

ワンウォールストリートは、1931年のアールデコ建築が住宅として使われている建物です。金融街の中心にあり、戦前の意匠と現代の住戸が同居しています。
購入にあたっては、今の月額ではなく、10年後と満了後の月額を見ます。減税の種類、残存期間、段階的な引き上げ。この3点はオファリングプランに書かれており、契約前に必ず確認できます。
そのうえで、名義を個人に置くか法人に置くかを決めます。保有期間と出口が決まっていれば、この判断は難しくありません。順序を逆にすると、良い住戸が出たときに動けなくなります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、保有コストの試算からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート(この記事)
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
ワンウォールストリートはどのような建物の歴史を持っていますか。
1931年に完成したワンウォールストリートは、ラルフ・ウォーカーが設計したアールデコの代表作です。石灰岩の壁が特徴的なこの建物は、長く銀行の本店として使われてきましたが、現在は住宅へと転用されています。低層部にはニューヨーク市のランドマークに指定されたモザイクで覆われた大空間が残されており、既存の構造を活かして住戸が作られています。
オフィスから住宅への転用物件では、購入時に特に注意すべき数字は何ですか。
転用物件を検討する際は、固定資産税の減税措置とその期限を意匠より先に確認する必要があります。販売資料に記載された月額は減税が効いている現在の数字であることが多く、期間終了後に段階的に引き上げられるためです。減税の種類と残存期間、段階的な引き上げのスケジュール、満了後の想定税額を確認することで、将来の保有コストを正確に読み取ることができます。
転用物件の住戸価格には、どのような要因が影響しますか。
オフィス時代の床は住宅より奥行きが深いため、窓からの距離が住戸ごとに大きく異なり、同じ広さでも採光条件が異なります。この点が価格差の理由になるため、図面上の面積だけで比較せず、窓の位置と天井高を必ず現地で確認する必要があります。また、オフィス時代の共用部をどこまで住宅側が引き継いだかによって、管理費の按分も建物ごとに異なる点に注意が必要です。
コンドミニアムの名義はどのように決めるべきですか。
ワンウォールストリートの住宅部分はコンドミニアムであり、個人、法人、トラストなど名義の選択肢があります。数年で売る前提なら個人名義の簡便さが勝ち、長期保有や承継を考えるなら法人やトラストの設計が効いてきます。また賃貸に出す場合は、非居住者の賃料収入に対する課税方式の選択や減価償却の有無も手取りに影響するため、保有期間と出口の設計から判断します。
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