グリニッチビレッジの西、11丁目から12丁目にかけて、低層の新しい建物群が街並みに溶け込むように並んでいます。グリニッチレーン(The Greenwich Lane)です。
ここは長く病院があった場所で、閉鎖後の跡地を再開発する形で2010年代に生まれました。高層タワー1本ではなく、5つの棟と5軒のタウンハウスという構成が選ばれています。ビレッジの街並みに合わせた判断です。
この構成は、買う側から見ると独特の論点を持ちます。複数の建物がひとつのコンドミニアムとして束ねられているためです。どの棟を買っても同じなのか、費用はどう分けられているのか。
本日はグリニッチレーンを題材に、複数棟コンドの構造について見ていきましょう。
1. グリニッチレーンという物件

グリニッチレーンは、約200戸を5棟とタウンハウス5軒に分けた構成です。棟ごとに高さも表情も異なり、通りから見ると別々の建物が並んでいるように見えます。
共用施設は地下でつながっており、プール、フィットネス、スクリーニングルームなどを全棟の住民が共有します。地上は別々、地下でひとつという作りです。
立地はグリニッチビレッジの中心部で、歴史地区の指定を受けた低層の街並みに囲まれています。周辺に高層の新築が建つ余地はほとんどなく、供給が構造的に限られた地区です。
この希少性が、竣工以来の価格水準を支えてきました。ビレッジで新築のコンドミニアムという組み合わせ自体が、めったに出ないためです。
2. 複数棟をひとつに束ねる仕組み

複数の棟をひとつのコンドミニアムとして運営する場合、権利と費用の設計は単棟より複雑になります。確認すべき構造は次のとおりです。
①全体の管理組合が共通部分(地下施設、外構、警備)を管理する。②棟ごとの費用(エレベーター、ロビー、外壁)がどう按分されるか。③タウンハウスは共用施設を使えるか、費用をどう負担するか。④議決権は戸数比か、持ち分比か。
重要なのは、同じ物件名でも、棟によって月額の構成が違い得るという点です。エレベーターの本数、ロビーの規模、外壁の仕様が棟ごとに違えば、その維持費も棟ごとに変わります。
この構造は、書類では次のように確認します。
| 確認項目 | 何を見るか |
|---|---|
| 費用の階層 | 全体共通の費用と、棟ごとの費用の内訳 |
| 按分の基準 | 持ち分比率がどう計算されているか |
| 修繕の単位 | 棟単位の工事の費用を誰が持つか |
| 議決の構造 | 棟の利害が対立したときの決め方 |
4つ目の議決の構造は、複数棟に固有の論点です。たとえば1つの棟だけ外壁の工事が必要になったとき、費用を全体で持つのか棟で持つのか。この線引きが曖昧な物件では、後から住民間の対立になります。オファリングプランに明記されているかを確認します。
3. 棟ごとの違いをどう評価するか

複数棟の物件では、同じ物件名の中に個性の違う選択肢が並びます。これは買い手にとっての利点です。
通りに面した棟と、内側の静かな棟。低層の棟と、眺望の取れる上層階。タウンハウスという独立性の高い選択肢。ひとつの物件の中で、住まい方の違う候補を比べられます。
評価の軸は3つです。①静けさ。面する通りと階数で決まります。②光。棟の向きと、隣の棟との距離で決まります。③再販の個性。その棟・その住戸にしかない条件があるか。
③は出口に効きます。約200戸の物件ですが、棟とタウンハウスで条件が分かれているため、大型単棟タワーのような「同条件の在庫が同時に並ぶ」状態にはなりにくい構造です。ワンマンハッタンスクエアの記事で書いた大型タワーの弱点が、ここでは構成によって緩和されています。
4. 名義と、この物件が示す類型

グリニッチレーンはコンドミニアムですので、名義を選べます。個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で可能です。判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
売却時には非居住者に対する源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「構造が複雑な物件は、単純な単棟のほうが安心ではないか」というものです。
複雑さそのものはリスクではありません。複雑さが書面で整理されているかどうかがリスクの分かれ目です。按分と議決の構造が明文化された複数棟と、単純でも規約の曖昧な単棟なら、前者のほうが安全です。
むしろ、この物件が示しているのは、低層の歴史地区で新築の供給を成立させる方法です。高さで戸数を稼げない場所では、複数棟で面を取る。ビレッジやトライベッカのような地区では、今後もこの類型が新築の主流になります。構造の読み方を身につけておく価値は、この1物件にとどまりません。
病院跡地という出自にも触れておきます。大きな土地がまとまって出ることのないマンハッタンでは、公共施設の跡地が新築の数少ない供給源です。同種の再開発は今後も散発的に出てきますが、場所も時期も選べません。出たときに動ける準備をしておく、という向き合い方になります。
5. まとめ

グリニッチレーンは、病院跡地に5棟とタウンハウス5軒で構成された、ビレッジでは例外的な規模の新築コンドミニアムです。
複数棟の物件では、費用の階層、按分の基準、修繕の単位、議決の構造の4点をオファリングプランで確認します。同じ物件名でも棟によって条件は異なり、その違いが住まい方と出口の両方に効いてきます。
供給が構造的に限られた地区の新築という希少性は、価格の下支えとして働き続けています。棟ごとの個性を読み分けられれば、選択肢の幅は単棟タワーより広い物件です。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、書類の構造の読み解きからご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン(この記事)
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
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- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
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- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
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- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
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ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
グリニッチレーンはどのような構成で建てられていますか。
グリニッチレーンは、低層の新しい建物群が街並みに溶け込むように並ぶ構成です。高層タワー1本ではなく、5つの棟と5軒のタウンハウスという構成が選ばれています。これはビレッジの街並みに合わせた判断であり、約200戸をこのように分けた物件となっています。
グリニッチレーンの共用施設はどのように利用されますか。
グリニッチレーンでは、地上は別々ですが地下でつながっており、プール、フィットネス、スクリーニングルームなどを全棟の住民が共有します。これは地上は別々、地下でひとつという作りであり、複数の建物がひとつのコンドミニアムとして束ねられているためです。
複数棟を束ねた物件では費用はどう分けられますか。
全体共通の費用と棟ごとの費用の内訳を確認する必要があります。エレベーターの本数やロビーの規模、外壁の仕様が棟ごとに違えば維持費も変わります。同じ物件名でも棟によって月額の構成が違い得るため、オファリングプランで按分の基準を確認します。
複数棟の物件では議決権はどう決められますか。
議決権は戸数比か持ち分比かで決まります。1つの棟だけ外壁の工事が必要になったとき、費用を全体で持つのか棟で持つのかという線引きが曖昧な物件では後から住民間の対立になります。オファリングプランに明記されているかを確認します。
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