ブルックリン橋を渡った先、市庁舎と裁判所が並ぶ一帯の背後に、この20年で高層の住宅が林立しました。ダウンタウンブルックリンです。
2004年の用途地域の変更が起点でした。それまでオフィスと商業のための地区だった区画に住宅が建てられるようになり、以後、供給が一気に増えました。ブルックリンタワーやブルックリンポイントのような高層はその延長線上にあります。
交通の便は市内でも屈指で、生活の施設も揃っています。それでもこの地区を検討される方に必ずお伝えしているのが、供給が集中した地区では、出口の設計が入口の設計より難しいという点です。本日はその中身を見ていきましょう。
1. 短期間に供給が積み上がった経緯

用途地域の変更は、街の設計図を書き換える行為です。同じ土地に建てられる床の量と用途が変わりますので、条件の整った区画から順に開発が進みます。
この地区では、その進行が20年ほどのあいだに集中しました。結果として、竣工年が近く、設備の水準も似た高層住宅が、狭い範囲に並ぶ状態が生まれています。
買う側から見た利点は明確です。選択肢が多く、設備は新しく、価格の比較材料が豊富にあります。交通は複数の路線が集まり、マンハッタンのダウンタウンとミッドタウンの双方へ短時間で出られます。実需の立地としての条件は揃っています。
問題は、その利点が売るときには逆に働くという点です。買い手にとっての選択肢の多さは、売り手にとっての競合の多さと同じものです。
もうひとつ、この地区の特徴として、住宅と商業と公共の施設が層になって重なっている点があります。低層に店舗、上層に住宅という構成の建物が多く、日常の買い物は建物を出ずに済むことも珍しくありません。生活の利便という意味では市内でも上位です。ただし複合の建物では、住宅部分と商業部分の費用の按分を確認する必要があります。共用のインフラをどの割合で負担するのかは、オファリングプランに書かれています。
2. 在庫の集中をどう測るか

競合の度合いは、感覚ではなく数で測ります。確認するのは次の項目です。
| 観点 | 何を数えるか |
|---|---|
| 建物内の競合 | 同じ建物で売り出し中の住戸数と、その間取り |
| 分譲主の在庫 | 未売却の住戸が残っているか、値引きの有無 |
| 地区内の競合 | 徒歩5分圏で同水準の売り出し戸数 |
| 今後の供給 | 着工済みの棟数と、引き渡しの予定年 |
| 成約までの日数 | 直近の成約が売り出しから何日かかったか |
二行目が特に効きます。分譲主の未売却在庫が残っている建物では、個人の売り手は分譲主と競合します。相手は資金力があり、値付けの裁量も広い。同じ建物の中で価格の基準を作られてしまうと、個人の売り手はその下で戦うことになります。
五行目は、市場の厚みを表す実測値です。成約までの日数が短ければ、供給が多くても需要が吸収しているということです。逆に日数が伸びているなら、在庫が積み上がっている兆候になります。
この5項目は、購入の前に一度、購入の後も年に一度は見ておくものです。出口の環境は、保有しているあいだにも変わります。
数字を取る場所も申し添えます。ニューヨークでは成約が公的な記録として残るため、過去の取引価格と日付を住戸単位で追えます。募集価格の一覧だけを見て相場を判断すると、実際に売れた水準からずれます。売り出しの数と、成約の数と、その差。この三つを並べたときに、市場の実態が見えます。
3. 競合に埋もれない住戸の条件
供給の多い地区で価格を守る方法は、ひとつしかありません。代替の効かない条件を持つ住戸を選ぶことです。
具体的には次のような条件です。①角部屋。窓の方角が二面以上あり、同じ建物内でも数が限られます。②階数と眺望の抜け。周囲より高い階で、将来も塞がれない向き。③間取りの希少性。その建物で戸数の少ない構成。④専用の外部空間。テラスやバルコニーの有無。
逆に避けたいのが、その建物に何十戸も存在する標準的な住戸です。売るときに、まったく同じものが同時に何戸も市場に出ます。価格でしか差がつかない状態は、売り手にとって最も不利な状況です。
この考え方は、大型タワーの記事で書いた内容と同じ構造です。戸数の多い建物ほど、住戸の個性が価格を決めます。
価格の差がどれくらい付くかは、建物によります。ただ実務の感覚として申し上げると、希少な条件の住戸は、下げ相場でも値が崩れにくいという違いが出ます。標準的な住戸は市況とともに下がりますが、代替のない住戸は「その条件が欲しい人」を相手に売ることになり、市況の影響を受ける度合いが小さくなります。買うときに払う上乗せは、売るときの保険料として理解しておくのが実務に近いと思います。
4. 賃貸運用の性格と、名義の設計

この地区は、賃貸運用には向きます。理由は借り手の層の広さです。複数の大学と裁判所、病院、そしてマンハッタンへの通勤者。需要が一つの勤務先に依存していません。
一方で、賃料の水準は供給の影響を受けます。新棟が引き渡されるたびに募集が増えますので、更新時の賃料交渉では強気に出にくい局面があります。利回りの想定は、募集期間を長めに、賃料の上昇を控えめに置くのが現実的です。
コンドミニアムであれば名義は自由に選べます。個人、法人、トラストのいずれも規約の範囲で可能です。判断の材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。賃貸に出す場合は、規約上の最低賃貸期間と、貸し出しの届出の要否を先に確認します。
売却時には非居住者に対する源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「供給が多いということは、それだけ需要があるから建っているのではないか」というものです。
正しい指摘です。開発は需要の見込みがあって進みます。ただ、供給の判断は着工の数年前に行われており、引き渡しの時期の市況とは必ずしも一致しません。需要が実在することと、自分が売りたい年にその需要が来ていることは別の話です。地区の将来を悲観する必要はありませんが、出口の時期を一点に賭けない設計は必要です。複数年で売れる余裕を持てるかどうかが、この地区での持ち方を分けます。
5. まとめ

ダウンタウンブルックリンは、用途地域の変更を起点に高層住宅が集中した地区です。交通と生活の条件は市内でも上位で、賃貸の需要も厚みがあります。
その一方で、供給の集中は出口の競合として返ってきます。購入前に測るのは建物内の競合、分譲主の在庫、地区内の競合、今後の供給、成約までの日数の5点です。
選ぶべきは、その建物で数の少ない住戸です。角部屋、眺望の抜け、希少な間取り、専用の外部空間。代替が効かない条件だけが、供給の多い市場で価格を守ります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、在庫状況の確認から出口の設計までご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
近隣エリアの記事もあわせてご覧ください。ブルックリンハイツ、フォートグリーン、ボアラムヒル。
よくある質問
ダウンタウンブルックリンの高層住宅はいつから供給が増えましたか。
2004年の用途地域の変更が起点となり、それまでオフィスと商業のための地区だった区画に住宅が建てられるようになり、以後、供給が一気に増えました。ブルックリンタワーやブルックリンポイントのような高層はその延長線上にあります。
分譲主の在庫が残っている建物は売却時にどう影響しますか。
分譲主の未売却在庫が残っている建物では、個人の売り手は分譲主と競合します。相手は資金力があり、値付けの裁量も広いので、同じ建物の中で価格の基準を作られてしまうと、個人の売り手はその下で戦うことになります。
供給の多い地区で価格を守る住戸にはどんな条件がありますか。
代替の効かない条件を持つ住戸を選ぶことです。具体的には角部屋、周囲より高い階で将来も塞がれない眺望の抜け、その建物で戸数の少ない間取りの希少性、そしてテラスやバルコニーなどの専用の外部空間の有無です。
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