マンハッタン島の東の端、ローワーイーストサイドの川沿いに、ひときわ大きなタワーが立っています。ワンマンハッタンスクエア(One Manhattan Square)です。
2019年に完成した72階建てのコンドミニアムで、住戸数は800戸を超えます。ニューヨークの分譲物件としては最大級の規模です。
大型タワーには、はっきりした利点があります。共用施設が充実し、管理体制が整い、建物としての運営が安定しやすいという点です。専有面積あたりの価格も、同等の立地の小規模物件より抑えられる傾向にあります。
その一方で、購入をご相談いただく際に必ずお伝えしていることがあります。売るときに、同じ建物の中に競合が並ぶという構造です。
本日はワンマンハッタンスクエアを題材に、大規模タワーの出口の設計について見ていきましょう。
1. ワンマンハッタンスクエアという建物

ワンマンハッタンスクエアは、マンハッタン橋のたもとに立つ住宅タワーです。周辺は長く倉庫と低層の住宅が並ぶ地区で、この規模の分譲は初めてでした。
東側と南側は川に面しており、上層階からはブルックリン方面まで視界が抜けます。同じ建物の中で、向きによって眺望の条件が大きく変わる構成です。
共用施設は、屋内外に広く取られています。プール、フィットネス、コワーキング、屋外の庭園まで含まれ、施設だけで小さな街のような構成です。
この規模の共用施設は、維持にも費用がかかります。管理費の中で共用施設が占める割合を確認し、使う予定のない設備の分まで払い続けることになっていないかを見ます。使わない施設の維持費は、そのまま保有コストです。
2. 大規模タワーの流動性という論点

ここが本題です。800戸を超える建物では、常に一定数の住戸が売りに出ています。
買うときには、これは利点です。選択肢が多く、比較ができ、価格の交渉余地も生まれます。ところが売るときには、立場が逆になります。同じ間取り、似た階数、ほぼ同じ眺望の住戸が、同じ時期に何戸も市場に出るためです。
買主から見れば、条件のほぼ変わらない選択肢が並んでいる状態です。差がつくのは価格になります。結果として、大型タワーでは売却時の価格競争が起きやすくなります。
これに対して、住戸ごとの個体差が大きい建物では事情が違います。戦前建築や小規模な建物では、同じ条件の住戸が同時に出ることがほとんどありません。売り手の側に、比較されないという利点が生まれます。
つまり、大規模タワーを選ぶということは、買いやすさと引き換えに、売りにくさを受け入れるという判断になります。これは欠点ではなく、性質です。
3. 出口を設計するための3点

では、大規模タワーで出口をどう設計するか。実務では次の3点を見ます。
| 確認する点 | 何を読むか |
|---|---|
| 建物内の在庫 | 売り出し中の戸数、分譲主の未売却分、直近の成約件数 |
| 住戸の希少性 | 同じ間取りが建物内に何戸あるか、眺望が代替できるか |
| 減税の残存 | 適用されている減免の種類と、満了までの年数 |
| 賃貸の可否 | 最低賃貸期間、賃貸中の売却がしやすいか |
| 売却コスト | FIRPTAの源泉徴収、譲渡税、残債の処理 |
2つ目の住戸の希少性は、大型タワーでは特に重要です。同じ間取りが建物内に40戸ある住戸と、最上部にしかない住戸とでは、売却時の立場がまったく違います。
3つ目の減税の残存も効きます。減免は住戸に付いて売却後も引き継がれるため、残存期間が長いほど買主にとっての価値が高くなります。逆に満了が近づくと、買主は満了後の月額を前提に価格を計算します。
売却時の源泉徴収については米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。非居住者の場合、売却代金からまず源泉分が引かれ、精算は申告を通じて行われます。
もう一点、大型タワーでは管理組合の議決の重みも違います。800戸を超える建物では、一戸あたりの議決権は小さくなります。修繕の方針や規約の変更に個人の意見を反映させるのは、小規模な建物より難しくなります。
逆に言えば、運営が個人の思惑で振れにくいということでもあります。管理会社と組合の体制が固まっている建物では、この安定は利点として働きます。過去の議事録を読むと、どちらの状態にあるかが分かります。
4. 名義と、賃貸で持つという選択

ワンマンハッタンスクエアはコンドミニアムですので、名義を選べます。個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で可能です。
大型タワーは賃貸に出しやすい物件でもあります。共用施設が整い、管理体制があるため、借り手が付きやすいという特性があるためです。売却まで時間をかけられるなら、賃貸で保有しながら市況を待つという設計が取れます。
その場合、非居住者の賃料収入をどの方式で申告するかが手取りを左右します。総額に対する源泉徴収のままにするか、経費を差し引いた純額での課税を選ぶか。減価償却と管理費を経費として取れるかどうかの差です。
名義の判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
ここで、逆の見方も置いておきます。「売りにくいなら、そもそも大型タワーは避けるべきではないか」というものです。
これは目的によります。住むために買う、あるいは長く貸して持ち続けるのであれば、大型タワーの弱点はほとんど表に出ません。共用施設と管理体制という利点だけが残ります。
売りにくさが問題になるのは、数年で売却して次に組み替える前提のときです。その場合は、個体差の大きい住戸を選ぶか、建物の性質を変えるかという判断になります。
川沿いという立地についても一言添えておきます。水辺に面した住戸は眺望が抜ける一方、保険の条件が内陸の物件と異なる場合があります。建物の保険が何をどこまで担保しているかは、管理組合の資料で確認できます。
現在売りに出ている住戸(2026-08-17時点)
| 住戸 | 広さ | ベッドルーム | 売出価格 |
|---|---|---|---|
| 77J | 2,347sqft(約218平米) | 3 | 6,450,000ドル(約10.0億円) |
| 71A | 1,667sqft(約155平米) | 3 | 3,780,000ドル(約5.9億円) |
| 49C | 1,487sqft(約138平米) | 3 | 3,635,000ドル(約5.6億円) |
| 40C | 1,487sqft(約138平米) | 3 | 3,375,000ドル(約5.2億円) |
| 76E | 1,400sqft(約130平米) | 3 | 2,855,000ドル(約4.4億円) |
| 77B | 1,034sqft(約96平米) | 2 | 2,460,000ドル(約3.8億円) |
出典はCityRealtyのワン・マンハッタン・スクエアの建物ページです。売出しは日々入れ替わりますので、最新の在庫と実際に入れる価格は個別にお調べします。非公開で動いている住戸もあります。
5. まとめ

ワンマンハッタンスクエアは、ニューヨークの分譲では最大級の規模を持つタワーです。共用施設と眺望、そして専有面積あたりの価格に、明確な強みがあります。
その一方で、売却の場面では同じ建物の中の住戸が競合になります。建物内の在庫、住戸の希少性、減税の残存期間。この3点を購入前に確認しておけば、出口で慌てることはありません。
そのうえで、名義を個人に置くか法人に置くか、賃貸に出すのか自分で使うのかを決めます。保有の期間と目的が決まっていれば、大型タワーは十分に合理的な選択肢です。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、出口までの設計を含めてご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square(この記事)
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
ワンマンハッタンスクエアはどのような建物ですか。
2019年に完成した72階建てのコンドミニアムで、住戸数は800戸を超えます。ニューヨークの分譲物件としては最大級の規模を持ち、マンハッタン島の東端に位置しています。共用施設が充実し、管理体制も整っているのが特徴です。
大規模タワーを売却する際にどのような問題がありますか。
同じ建物の中に競合となる住戸が並ぶため、価格競争が起きやすくなります。800戸を超える建物では常に一定数の住戸が売りに出ているため、買主は条件のほぼ変わらない選択肢の中から価格で選ぶことになります。
大規模タワーで出口を設計する際に確認すべき点はありますか。
建物内の在庫、住戸の希少性、減税の残存期間の3点を確認します。同じ間取りが建物内に何戸あるかや、眺望が代替できるかも重要です。また、減免は住戸に付いて売却後も引き継がれるため、残存期間が長いほど価値が高まります。
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