トライベッカの北端、マレーストリートに、上に向かって緩やかに広がるガラスのタワーが立っています。111マレーストリート(111 Murray Street)です。
多くの超高層が上に行くほど細くなるのに対し、この建物は逆です。花瓶のように、頂部へ向かって輪郭が開いていきます。2018年頃に引き渡しが始まった、約160戸のコンドミニアムです。
この建物の住戸構成には、地区の需要がそのまま表れています。2〜4ベッドルームの家族向けが中心で、トライベッカという家族の多い地区の実需に向けた設計です。
ニューヨークで家族向けの広さを探すと、すぐにひとつの事実に突き当たります。3ベッドルーム以上の住戸は、構造的に足りていません。本日は111マレーを題材に、大型間取りの市場について見ていきましょう。
1. 111マレーストリートという建物

111マレーストリートは約60階建てで、ワールドトレードセンターの北側、トライベッカとの境目に立ちます。共用施設はプール、フィットネス、ラウンジのほか、子ども向けの施設が組み込まれており、建物の想定する住民像がはっきり読めます。
トライベッカは、ロフト転用の時代から家族の多い地区として成熟してきました。443グリニッチの記事で書いたとおり、歴史地区の指定によって新築の供給が限られる地区でもあります。
その中でこの建物は、指定区画の外側に立つことで高さを実現した、この地区では数少ない大型タワーです。
2. 大型間取りはなぜ足りないのか

3ベッドルーム以上の住戸が少ない理由は、開発の経済にあります。
①面積単価の逆転。同じ床面積なら、小さい住戸に分割したほうが合計の売値が高くなるのが通常です。②賃貸市場の構成。ビークマンの記事で書いたとおり、賃貸需要の中心は1〜2ベッドルームで、開発はそちらに寄ります。③戦前住戸の統合頼み。大型住戸の供給源は、既存住戸の統合という手間のかかる方法に偏ってきました。
結果として、家族向けの広さを求める実需に対して、供給が慢性的に薄い状態が続いています。この不均衡が、大型間取りの価格の動き方を独特にしています。
3. 大型住戸の価格はどう動くのか

間取りの大きさで、価格の性質は変わります。整理します。
| 観点 | 1〜2BR | 3BR以上 |
|---|---|---|
| 買い手の層 | 実需と投資が混在 | 実需の家族がほぼすべて |
| 供給 | 新築のたびに大量に出る | 恒常的に薄い |
| 景気との連動 | 投資マネーの出入りで振れる | 実需主体で振れが小さい |
| 売却の期間 | 需要は厚いが競合も多い | 買い手は少ないが競合も少ない |
要点は3行目です。大型住戸の買い手は、住むために買う家族です。投資マネーの引き潮で投げ売りが出る、という値崩れの型が起きにくい。実需の底堅さが、価格の振れを抑えます。
ただし、地区の選択は間取り以上に効きます。家族向けの住戸は、家族の集まる地区にあってこそ機能します。学校、公園、生活の施設。トライベッカの大型住戸が強いのは、地区の実需と間取りが噛み合っているからです。同じ間取りを家族の少ない地区で持っても、この底堅さは働きません。
4. 名義と、家族の住まいの設計

111マレーはコンドミニアムですので、名義を選べます。個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で可能です。
家族の住まいとして長く持つ前提なら、承継まで含めた名義の設計が最初の論点になります。非居住者の遺産税の基礎控除は6万ドル(2026年現在、1ドル=155円換算で約930万円)にとどまり、日本の相続税との二重構造もあります。詳細は非居住者の米国遺産税と、日本の相続税との二重構造とニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐をご覧ください。
売却時には非居住者に対する源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「買い手の少ない大型住戸は、いざ売るとき苦労するのではないか」というものです。
買い手の数は確かに少ないです。ただ、競合する売り物も同じだけ少ないのがこの市場です。売却の成否は買い手の絶対数ではなく、需要と供給の比率で決まります。供給の薄い間取りは、買い手が少なくても売り手の立場が弱くなりません。ワンマンハッタンスクエアの記事で書いた大型タワーの構造と、ちょうど裏返しの関係です。
大型住戸を選ぶ際の実務も一点だけ添えます。同じ3ベッドルームでも、寝室の分かれ方と水回りの数で家族の使い勝手は大きく変わります。図面では、寝室の独立性(廊下を挟むか、隣接か)と、バスルームの数と位置を最初に見ます。広さの数字より、間取りの構成が生活を決めます。
5. まとめ

111マレーストリートは、家族の多い地区に家族向けの間取りを供給する、需要と設計の噛み合った建物です。
3ベッドルーム以上の市場は、供給が構造的に薄く、実需が主体で、価格の振れが小さいという独自の性質を持ちます。間取りと地区の実需が噛み合っていることが、この性質の条件です。
家族の住まいとして持つなら、名義と承継の設計を先に固めます。長く持つ資産ほど、器の設計が効いてきます。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、ご家族の計画に合わせた設計からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
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比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
ニューヨークで3ベッドルーム以上の住戸が少ない理由はどこにありますか。
開発の経済が理由で、面積単価の逆転により小さい住戸に分割したほうが合計の売値が高くなるためです。また賃貸需要の中心が1〜2ベッドルームであり、既存住戸の統合という手間のかかる方法に偏っているからです。
大型住戸の価格変動はどのような性質を持っていますか。
大型住戸の買い手は住むために買う家族で実需主体のため、投資マネーの引き潮で投げ売りが出る値崩れの型が起きにくいです。実需の底堅さが価格の振れを抑え、供給が構造的に薄い状態が続いています。
コンドミニアムの名義にはどのような選択肢がありますか。
個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で可能です。家族の住まいとして長く持つ前提なら承継まで含めた名義の設計が最初の論点になり、非居住者の遺産税や日本の相続税との二重構造もあります。
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