五番街と36丁目の角に、尖塔を持つ石灰岩の高層タワーが立っています。400フィフスアベニュー(400 Fifth Avenue)です。
2010年に完成した60階建てで、低層部にはホテルが入り、上層部が住宅という構成です。エンパイアステートビルまで数ブロック、ブライアントパークにも歩ける、ミッドタウンの中心にあります。
この立地は、観光と商業の中心です。平日はオフィスワーカー、週末は買い物客と観光客。住宅地とはまったく違うリズムで動く街です。
そこに住むという選択は、静かな住宅地を選ぶのとは別の判断になります。本日は400フィフスを題材に、商業地区の住宅の見方について見ていきましょう。
1. 400フィフスアベニューという建物

400フィフスアベニューは60階建て、住戸は上層部に約190戸あります。外装は石灰岩で、頂部に向かって段状に絞られるシルエットは、周辺の戦前超高層と呼応する意匠です。
低層部にはホテルが入り、住宅の住民はホテルのサービスを利用できます。エントランスと動線は分離されており、この構成は30パークプレイスの記事で扱ったホテル併設型と同じ考え方です。
住戸は1ベッドルームから2ベッドルームが中心で、大型住戸主体の建物とは構成が異なります。この間取り構成そのものが、建物の性格を示しています。実需の大家族向けではなく、単身・二人暮らし・セカンドホーム・賃貸運用に向いた設計ということです。
2. 商業地区に住むことの実際

ミッドタウンの中心は、居住地としては好みが分かれます。判断の材料を並べます。
利点は明確です。①移動の起点として最強。地下鉄の主要路線、グランドセントラル、ペンステーションが徒歩圏です。②ホテルと商業の密度。生活の用事が徒歩数分で足ります。③賃貸需要の厚み。短期の駐在や単身赴任の需要が絶えません。
一方で、住宅地とは違う条件もあります。①週末と平日の人の流れの差。観光の中心なので、週末の歩道は混みます。②食料品店や学校といった生活基盤の薄さ。日常の買い物の選択肢は住宅地に劣ります。③夜間の静けさは階数と向きに依存します。
つまりこの立地は、フルタイムの生活拠点としてより、拠点のひとつとして使う設計に向いています。年に数回の滞在、出張の拠点、賃貸での運用。使い方が合えば、利便は他のどの地区にも代えがたいものになります。
3. 賃貸需要をどう読むか

賃貸で持つ場合の読み方を整理します。
| 観点 | 商業地区(ミッドタウン) | 住宅地区 |
|---|---|---|
| 借り手の層 | 単身・駐在・短期赴任が中心 | 家族・長期居住が中心 |
| 契約期間 | 1〜2年の回転が速い | 更新が続きやすい |
| 空室の埋まり方 | 需要は厚いが競合も多い | 物件の個性で差が付く |
| 賃料の動き | 景気と企業活動に連動 | 相対的に安定 |
回転が速いということは、原状回復と募集の期間が定期的に発生するということです。年間の収支は、この空白期間を織り込んで計算します。満室を前提にした利回りは、実際の手取りとずれます。
なお、ニューヨーク市では住人が同居しない30日未満の貸し出しが原則として禁止されています。ホテルが下に入っている建物であっても、住宅として買った住戸を宿泊施設のように回すことはできません。この点は30パークプレイスの記事でも書いたとおりです。
非居住者の賃料収入は、課税方式の選択で手取りが変わります。総額への源泉徴収か、経費控除後の純額課税か。購入前に申告の設計まで決めておきます。
4. 名義と、確認すべき書類

400フィフスアベニューはコンドミニアムですので、名義を選べます。個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で可能です。賃貸運用を視野に入れるなら、責任の切り分けの観点から法人名義の検討価値があります。判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
ホテル併設型として確認する書類は、これまでの記事と共通です。①ホテル部分との区分。②共用費の按分。③サービスのうち定額と都度払いの線引き。④ホテル運営者の契約期間。
売却時には非居住者に対する源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「商業地区の住宅は住宅地に劣る妥協の産物ではないか」というものです。
住まいの序列で考えればそう見えます。ただ、この立地の買い手は住宅地と比べていません。移動の起点、賃貸の回転、ホテルのサービス。求めているものが最初から違います。用途が合う買い手にとっては妥協ではなく最適であり、その需要は景気を超えて存在し続けています。物件は序列ではなく、用途で評価します。
この立地には、日本からの拠点としての使い方も実際にあります。出張の頻度が高い方が、ホテル代の累積と比較して購入を選ぶ形です。この場合、滞在日数と法人の経費処理の関係、そして米国での課税上の位置づけを先に整理しておく必要があります。使い方が税務に直結する類型ですので、設計は購入前に固めます。
5. まとめ

400フィフスアベニューは、ミッドタウンの中心にホテルのサービス付きで住むという、用途のはっきりした建物です。
商業地区の住宅は、フルタイムの生活拠点としてではなく、拠点のひとつ、あるいは賃貸運用の器として評価します。間取り構成、賃貸の回転、空室期間。数字は住宅地とは別の読み方をします。
使い方が定まっていれば、この立地の利便は他に代えがたいものです。逆に、使い方が曖昧なまま買うと、月々の費用だけが目立つことになります。まず用途、次に物件。この順序で検討されることを推奨いたします。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、使い方に応じた候補の絞り込みからご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue(この記事)
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
400フィフスアベニューはどのような構成で完成した建物ですか。
2010年に完成した60階建ての高層タワーで、低層部にはホテルが入り、上層部に約190戸の住宅が配置されています。外装は石灰岩を使用し、頂部に向かって段状に絞られるシルエットが特徴的です。
商業地区であるミッドタウン中心部の住宅に住むことの利点はどこにありますか。
移動の起点として最強で地下鉄主要路線やグランドセントラルが徒歩圏内にある点です。またホテルと商業の密度が高く生活用事が徒歩数分で済みます。さらに短期駐在や単身赴任の需要が絶えないため賃貸需要も厚いです。
住宅地区と比較して商業地区での賃貸運用にはどのような特徴がありますか。
借り手は単身や駐在、短期赴任が中心で契約期間は1年から2年の回転が速いのが特徴です。需要は厚いものの競合も多く、原状回復と募集の期間が定期的に発生するため、満室を前提にした利回りと実際の手取りには差が出ます。
English guides on reinventny.com
NEIGHBOURHOODSニューヨークの街と、他都市との比較(37件)
マンハッタンの街
- アッパーウエストサイド — 戦前の名建築と子育て環境
- カーネギーヒル — 美術館の並びに住む
- ヨークビル — 地下鉄新線が変えた買い場
- タートルベイ — 国連の街の静かな買い場
- グラマシー — 鍵のある公園に面した街
- フラットアイアン — ロフトの広さと価格
- ノマド — マンハッタン中央部の相場
- チェルシー — ハイライン沿いのレジデンス
- ウエストヴィレッジ — 石畳の歴史地区
- グリニッチビレッジ — 低層の街と戦前コープ
- ノーホー — 数ブロックのロフト一等地
- ソーホー — ロフト市場の実態
- ロウアーイーストサイド — 変わり続ける街の値段
- 金融地区 — ウォール街に暮らす
- ハーレム — ブラウンストーン1棟と賃料規制
ブルックリンの街
- ブルックリンハイツ — 全米初の歴史保存地区
- コブルヒル — ランドマーク地区のブラウンストーン
- キャロルガーデンズ — 住みながら貸す二戸建て
- ボーラムヒル — 学区の境界は住所ごとに違う
- フォートグリーン — コープが多い地区で海外から買う
- プロスペクトハイツ — 固定資産税の減税が切れる日
- ダウンタウンブルックリン — 供給が集中した地区の出口
- ダンボ — 倉庫街から高級住宅地へ
- グリーンポイント — 水辺エリアの家賃相場
ニューヨークを他の都市と比べる
- 東京 — 価格・価値観・法規制の違い
- ロサンゼルス — 戸建ての街と縦の街
- マイアミ — 税金ゼロの魅力と流動性
- ハワイ — 持ちたい場所として比べる
- トロント・バンクーバー — 外国人購入禁止の国と開かれた市場
- パリ — 石の街の資産と縦の街の資産
- 香港 — アジアの富の置き場所
- シドニー — 外国人規制の壁
- ロンドン — 英米の不動産投資の違い
- 世界の主要都市 — ドバイ・シンガポール・ロンドン・東京
- 全米の主要都市 — 価格・家賃・利回り・値上がり率
- 米国内の他都市 — ニューヨークだけが違う7点
- 日米の投資比較 — 利回り・税制・リスク
エリアの全体像と購入の実務
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。
あわせて読みたい
- セブンティセブン・グリニッジ(77 Greenwich / Jolie)。小学校と歴史建築を抱えた90戸のタワーを、価格交渉と名義から見る
- イレブン・ホイト(11 Hoyt)。ダウンタウン・ブルックリンの481戸を、価格帯と減税の残存年数から見る
- ワン・ブルックリンブリッジパーク(One Brooklyn Bridge Park)。倉庫を転用した449戸を、公園への支払いと名義から見る
- 25パークロウ(25 Park Row)。シティホール公園に面した110戸を、公園向きの価格差と名義から見る
- 252イースト57丁目(252 East 57th Street)。分譲と賃貸が同じ塔にある建物を、値下げの履歴と名義から見る

















