2026年8月24日 Satoshi Onodera

ベレスフォードと相続の設計。ニューヨークのコープ株式を次世代へ渡すときの実務

アメリカ自然史博物館の向かい、セントラルパーク・ウエストと81丁目の角に、三本の塔を載せた大きな建物が立っています。1929年に完成したベレスフォード(The Beresford)です。

設計はサンレモと同じエメリー・ロス。角地の利点を生かし、塔を三方に配することで、多くの住戸に公園と街並みの両方の眺望を与えています。

 

この建物のご相談をいただくとき、話題は購入そのものより、その先に及ぶことが少なくありません。買った後、この資産を誰にどう渡すのかという論点です。

ニューヨークのコープは、持ち分が不動産ではなく株式です。相続の手続きも、名義の書き換えも、日本の不動産や米国のコンドミニアムとは違う道を通ります。

本日はベレスフォードを題材に、コープを保有した場合の承継の設計について見ていきましょう。

 

1. ベレスフォードという建物

ニューヨークのベレスフォードの外観

 

ベレスフォードは、1929年に竣工した22階建てのコープです。イタリア・ルネサンス様式の意匠に、角に置かれた三本の八角形の塔が組み合わされています。

住戸数はおよそ170戸とされ、上層階には各階1戸の大型住戸が並びます。天井高と部屋数に対して、現代の新築より窓の数が多いことが戦前建築の特徴です。

 

立地は、公園と博物館に挟まれた静かな一角です。地下鉄B線とC線の81丁目駅が博物館の下にあり、ミッドタウンへの移動も読みやすい場所にあります。

 

費用の見え方にも特徴があります。コープでは固定資産税が管理費(メンテナンス)に内包されており、住戸ごとに別途請求されません。コンドミニアムのように管理費と固定資産税を並べて比べることができないため、月額の数字だけを他の建物と単純比較しても意味がありません。

建物全体の税額と借入がどう按分されているかまで見て、はじめて他の物件と比較できる数字になります。

建物はニューヨーク市のランドマークに指定された地区の中にあり、外観に関わる改修は保存の観点から審査を受けます。意匠の維持と、設備の更新を両立させてきた建物という理解が実務に近いと思います。

 

2. コープの持ち分は「株式」である

ニューヨークのベレスフォードの住戸と共用部

 

ベレスフォードのようなコープでは、購入者は建物を所有する法人の株式を取得し、その株式に紐づく住戸の占有権を得ます。登記された不動産を持つわけではありません

この一点が、承継の場面で大きな差になります。日本の不動産であれば、相続が発生すれば登記の名義を書き換えることになります。ところがコープでは、株式の承継そのものに取締役会の関与が入ります。

 

実務の流れは次のとおりです。

遺産の手続き(プロベート)を経て、②取締役会に承継の申請を出し、③相続人が居住・保有の要件を満たすか審査を受け、④承認された場合に株式と占有権が移るという順序になります。

 

ここで実際に問題になるのが、相続人が海外に住んでいる場合です。本人が承認されなければ、住戸を保有し続けることができません。売却して現金で受け取る形に切り替わることもあります。

 

3. 米国の遺産税と日本の相続税。二重の構造

ニューヨークのベレスフォードの住戸と共用部

 

承継のもうひとつの論点が税です。米国に所在する資産は、非居住者であっても米国の遺産税の対象になります。

非居住者の場合、米国市民や居住者に認められる大きな控除は使えず、基礎控除が6万ドル(2026年現在、1ドル=155円換算で約930万円)にとどまります。日本の相続税と合わせて、二重に課税関係が発生する構造です。

 

以下は、保有形態ごとの承継の見え方をまとめたものです。

 

※制度の適用は個別事情によって異なります。具体的な設計は税務の専門家との確認を前提とします。
項目 コープ(個人名義) コンドミニアム
承継の対象 法人の株式と占有権 不動産そのもの
取締役会の関与 相続人も審査を受ける 原則として通知で足りる
トラストの利用 認めない建物が多い 建物次第で利用できる
生前の分割 株式の一部移転も承認が要る 持分を分けて登記できる

 

手続きの時間も見ておく必要があります。米国のプロベートは州ごとに運用が異なり、書類の準備や裁判所の日程によって数ヶ月から1年以上かかることがあります。

その間も管理費の支払いは止まりません。誰が支払いを続けるのかを決めていない状態で相続が起きると、遺族が現地の手続きと支払いを同時に抱えることになります

 

あわせて、米国資産についての遺言をどこで作るかという論点もあります。日本の遺言だけで進めようとすると、翻訳と認証の手間が増え、手続きがさらに延びます。米国側の資産については、現地で有効な形の書面を用意しておくほうが実務は速く進みます。

 

この違いは、相続が起きてから対処できる種類のものではありません。買う前に決めておくべき設計です。数字と手続きの詳細は非居住者の米国遺産税と日本の相続税の二重構造で扱っています。

 

4. それでも戦前コープを選ぶ場合の考え方

ニューヨークのベレスフォードの住戸と共用部

 

一方で、「承継が面倒でも、この建物に住みたい」というご相談は実際にあります。これは正当な動機です。

公園に面した戦前建築の住戸は供給が増えません。1929年に建てられたものと同じ天井高、同じ窓の数、同じ立地の住戸は、今後どれだけ資金を積んでも新規に作れないからです。希少性は年々上がるという見方には根拠があります。

 

この場合、当社では次の順で整理をお願いしています。

ご本人が米国に居住されるのか。②相続人が将来この住戸を保有し続ける可能性があるのか。③保有し続けない場合、売却の手続きを誰が担うのか

 

この3点が揃っていれば、承継の段取りは事前に組めます。逆に、どれかが空欄のまま購入に進むと、いちばん動きにくい局面で判断を迫られることになります。

 

売却で終える設計にする場合も、非居住者にはFIRPTAによる源泉徴収が入ります。相続人が受け取る手取りは、売却価格からこの源泉分と諸費用を差し引いた額です。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説に記載があります。

 

③まで見通せているなら、コープを選ばれても設計としては成立します。逆に、資産として次世代に残すことが主目的であれば、名義の自由が効くコンドミニアムのほうが素直です。トラストを使った保有の考え方はアメリカの信託(トラスト)の使い方。種類・税務・債権者保護にまとめています。

 

5. まとめ

ニューヨークのベレスフォードの住戸と共用部

 

ベレスフォードは、公園の西側に残る戦前建築の代表格です。三本の塔と、博物館を望む立地は、この街でもほかに代わりがありません。

その一方で、コープの持ち分は株式であり、相続の場面では取締役会の承認という関門がもう一度立ちます。米国の遺産税は非居住者に厳しく、日本の相続税との二重構造もあります。

 

建物を選ぶ前に、誰の名義で持ち、誰に渡すのかを決めておく。この順序を守るだけで、選べる建物と選ぶべきでない建物がはっきりします。

 

当社では、ニューヨークの売買の現場に立つ立場から、保有と承継の設計を含めてご相談を承っております。物件のご紹介より前に、持ち方の整理からご一緒させていただきます。

 

※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。

 

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比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。

購入の実務ガイド

よくある質問

ベレスフォードはどのような特徴を持つ建物ですか。

ベレスフォードは1929年に竣工した22階建てのコープで、イタリア・ルネサンス様式に三本の八角形の塔を組み合わせた意匠です。住戸数はおよそ170戸で、上層階には各階1戸の大型住戸が並びます。天井高と部屋数に対して窓の数が多いことが戦前建築の特徴であり、ニューヨーク市のランドマーク指定地区内に位置しています。

コープの持ち分はどのような性質を持っていますか。

コープでは購入者が建物を所有する法人の株式を取得し、その株式に紐づく住戸の占有権を得ます。登記された不動産を持つわけではなく、承継の場面では取締役会の関与が入ります。遺産の手続きを経て申請を出し、相続人が居住や保有の要件を満たすか審査を受け、承認された場合に株式と占有権が移るという順序になります。

非居住者がコープを相続する場合、税務面でどのような構造になりますか。

米国に所在する資産は非居住者であっても米国の遺産税の対象になり、基礎控除が6万ドルにとどまります。日本の相続税と合わせて二重に課税関係が発生する構造です。また、売却で終える設計にする場合も、非居住者にはFIRPTAによる源泉徴収が入り、手取りは売却価格からこの源泉分と諸費用を差し引いた額になります。

コープの承継手続きにはどのような時間がかかる可能性がありますか。

米国のプロベートは州ごとに運用が異なり、書類の準備や裁判所の日程によって数ヶ月から1年以上かかることがあります。その間も管理費の支払いは止まらず、誰が支払いを続けるのかを決めていない状態で相続が起きると、遺族が現地の手続きと支払いを同時に抱えることになります。

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本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。