ブロードウェイの73丁目から74丁目にかけて、パリのオスマン様式を思わせる白い大きな建物が立っています。1904年に完成したアンソニア(The Ansonia)です。
丸みを帯びた角、連続する出窓、屋根の装飾。アッパーウエストサイドの戦前建築の中でも、外観の華やかさでは群を抜いています。
この建物の面白さは、その履歴にあります。ホテルとして生まれ、賃貸住宅として使われ、現在はコンドミニアムという3つの段階を経ています。音楽家が多く住んだ時代、地下にスポーツクラブがあった時代。用途は何度も変わりました。
そして実務の観点では、この履歴こそが確認すべき対象になります。用途変更を重ねた建物では、いつ何が更新され、何が残っているのかが住戸ごとに違うためです。
本日はアンソニアを題材に、履歴のある建物の読み方について見ていきましょう。
1. アンソニアという建物

アンソニアは17階建て、1904年の竣工です。完成当時は長期滞在型のホテルで、防音性の高い厚い壁と広い間取りが特徴でした。この壁の厚さが、後に音楽家たちに愛される理由になります。
ニューヨーク市のランドマークに指定されており、外観に関わる工事は保存の審査を受けます。
1990年代以降にコンドミニアムへの転換が進み、現在は住戸ごとに所有される形になっています。戦前のスケールを持つ住戸を、コンドミニアムとして持てる建物のひとつです。
ただし、転換の時期や改修の範囲は住戸ごとに異なります。同じ建物の中に、全面改修された住戸と、ほぼ原型のままの住戸が併存しています。
2. 履歴のある建物で確認すること

用途変更を重ねた建物では、書類の確認が新築より重要になります。見るべきは次の4点です。
①使用証明(C of O)。現在の用途が正式に認められているか。②住戸ごとの改修記録。配管と電気がいつ更新されたか。③建物全体の設備。ボイラー、屋根、外壁の更新履歴。④従前からの賃借人。転換前から住み続けている賃借人が残っているか。
④は建物の性格に関わります。賃料規制の対象となる住戸が残っている場合、その住戸は市場に出てきません。分譲された住戸と賃貸のままの住戸が混在するのは、転換物件に共通する構造です。
以下に、履歴のある建物と新築の確認項目の違いをまとめます。
| 項目 | 履歴のある建物 | 新築 |
|---|---|---|
| 設備の状態 | 住戸ごとに更新時期が違う | 全戸同一 |
| 間取り | 個体差が大きく比較しにくい | タイプごとに標準化 |
| 価格の参照点 | 改修の度合いで単価が割れる | 分譲価格が基準になる |
| 賃借人 | 従前の賃借人が残ることがある | なし |
単価の比較には注意が要ります。改修済みの住戸と未改修の住戸では、同じ建物でも面積あたりの価格が大きく違います。未改修の住戸を安く買って改修する設計は成立しますが、ランドマーク指定の建物では工事の審査に時間がかかることを織り込みます。
3. 戦前コンドという稀少なカテゴリ

アッパーウエストサイドの戦前建築は、その多くがコープです。ダコタもサンレモもベレスフォードも、法人やトラストの名義では持てません。
その中で、アンソニアのようなコンドミニアムに転換された戦前建築は、稀少なカテゴリになります。戦前のスケールと意匠を持ちながら、名義の自由が効くためです。
海外にお住まいのまま購入される場合、この差は決定的です。取締役会の承認は不要で、理事会は先買権を持つのみ。法人名義、トラスト名義での保有も規約の範囲で可能です。
賃貸に出すこともできます。非居住者の賃料収入は課税方式の選択によって手取りが変わりますので、購入前に申告の設計を決めておきます。名義の判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
売却時には非居住者に対する源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説に記載があります。
賃貸で持つ場合の見方も添えておきます。厚い壁と高い天井を持つ住戸は、賃貸市場でも代替が少なく、長期の入居につながりやすい特性があります。募集の際も、同等の住戸が市場にほとんど出ないため、価格の主導権を握りやすい部類です。
減価償却の按分、管理費、固定資産税。経費として取れる項目が多い建物ほど、純額課税を選ぶ意味が大きくなります。
4. 履歴は弱点なのか

ここで、逆の見方も置いておきます。「用途変更を重ねた建物は、素性が読みにくく不安ではないか」というものです。
心情は理解できます。ただ、実務では逆の面もあります。120年の履歴がある建物は、問題が起きる箇所がすでに出尽くしています。屋根、外壁、配管。どこに費用がかかるかは、過去の記録から読めます。
新築は履歴がないぶん、施工の質が数年経ってから分かります。履歴のある建物は、記録を読む手間と引き換えに、予測可能性を手に入れられるということです。
判断の分かれ目は、記録が残っているかどうかです。管理組合の議事録、財務諸表、工事の記録。この3点が整っている建物なら、履歴はむしろ判断材料の厚みになります。
周辺環境にも触れておきます。ブロードウェイの73丁目界隈は、地下鉄の急行停車駅と食料品店、劇場が徒歩圏に揃う生活の中心地です。建物の華やかさに目が行きますが、日常の実用性が高い立地であることも、賃貸と再販の両面で効いてきます。
5. まとめ

アンソニアは、ホテルから賃貸、コンドミニアムへと姿を変えながら120年立ち続けてきた建物です。厚い壁と広い間取りという戦前の価値を、名義の自由が効く形で持てます。
購入にあたっては、住戸ごとの改修履歴を最初に確認します。同じ建物でも、住戸の状態と価格は大きく異なります。単価の比較は、改修の度合いを揃えてから行います。
戦前コンドは数が限られたカテゴリです。コープの制約を避けながら戦前建築を持ちたいという設計には、正面から合致します。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、書類の確認からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
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ビリオネアズロウと57丁目
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- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
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- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
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- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
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- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア(この記事)
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
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- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
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- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
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- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
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ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
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- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
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- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
アンソニアはどのような歴史をたどってきましたか。
アンソニアは1904年に完成し、当初は長期滞在型のホテルとして使われました。その後賃貸住宅となり、現在はコンドミニアムという3つの段階を経ています。用途変更を重ねたため住戸ごとに改修の範囲が異なり、全面改修された住戸と原型のままの住戸が併存しています。
履歴のある建物ではどのような書類を確認すべきですか。
確認すべきは使用証明、住戸ごとの改修記録、建物全体の設備、従前からの賃借人の4点です。特に配管や電気の更新時期やボイラーなどの履歴を把握し、賃料規制対象の住戸が残っていないか確認する必要があります。
戦前のコンドミニアムはコープとどう違うのですか。
多くの戦前建築はコープですが、アンソニアのようなコンドミニアムは名義の自由が効きます。取締役会の承認は不要で、法人やトラスト名義での保有も可能です。また賃貸に出すこともでき、非居住者の賃料収入についても課税方式を選択できます。
履歴のある建物は新築と比べてどのようなメリットがありますか。
120年の履歴があるため、屋根や外壁など問題が起きる箇所が出尽くしており、過去の記録から費用がかかる場所を予測できます。管理組合の議事録や財務諸表、工事記録が残っていれば、履歴は判断材料の厚みになります。
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