ブロードウェイと78丁目から79丁目にかけて、ひとつの街区をまるごと占める建物があります。1908年に完成したアプソープ(The Apthorp)です。
ウィリアム・ウォルドーフ・アスターの依頼で建てられ、設計はクリントン・アンド・ラッセル。鉄門をくぐると中庭があり、外の通りの音がすっと遠のきます。ニューヨーク市のランドマークに指定されています。
この建物が実務上おもしろいのは、意匠ではありません。アプソープは、コープではなくコンドミニアムであるという点です。長く賃貸として運営された後、2000年代後半に分譲へと転換されました。
戦前建築の中庭と天井高を持ちながら、所有の仕組みはコンドミニアム。名義の自由が効きます。海外に資産を置く方にとって、この組み合わせは選択肢として大きな意味を持ちます。
本日はアプソープを題材に、コンドミニアム転換物件の見方について見ていきましょう。
1. アプソープという建物

アプソープは12階建て、中庭を囲むイタリア・ルネサンス様式の建物です。街区の四方に面しているため、住戸の窓は通り側か中庭側のどちらかを向きます。中庭側は、マンハッタンとは思えない静けさです。
天井高、厚い壁、大きな窓、そして当時の間取りに由来する部屋の独立性は、現代の新築では価格をいくら積んでも再現できません。
一方で、1908年の建物であることは変わりません。分譲転換の際に大規模な改修が行われていますが、共用部の設備がどこまで更新されたかは住戸ごと、時期ごとに差があります。
屋根、外壁、配管、エレベーター、暖房方式。この5点の更新履歴は、購入前に必ず確認します。戦前建築では、意匠と設備を切り分けて見ることが実務の基本です。
2. コンドミニアム転換物件とは何か

転換物件とは、もともと賃貸またはコープとして運営されていた建物を、住戸ごとに分譲する形へ組み替えたものを指します。
手続きの中心にあるのがオファリングプランです。ニューヨーク州司法長官室に提出される分譲の計画書で、住戸の区分、共用部の範囲、管理費の按分、修繕の計画、そして既存の賃借人の扱いまでが記載されています。
オファリングプランは一度出して終わりではありません。分譲が進む過程で修正(アメンドメント)が重ねられ、価格や条件、修繕の計画が更新されていきます。最新版まで確認しないと、古い条件を前提に判断することになります。
州司法長官室への届出書類であるため、内容には責任が伴います。仲介の説明ではなく、書面そのものを読むことが実務です。
海外からの購入者にとって、転換物件の意味は次の3点に集約されます。
①名義の自由。法人やトラストでの保有が可能な建物が多くあります。②審査が軽い。コンドミニアムの理事会は先買権を持つのみで、行使されることはほとんどありません。③賃貸に出せる。規約の範囲内で運用ができます。
つまり、戦前建築の魅力を取りながら、コープの制約を避けられるのが転換物件です。この構造を知らずに戦前建築を諦めてしまう方は少なくありません。
3. 転換物件で確認する4点

ただし、転換物件には転換物件の確認事項があります。以下の4点は、住戸を気に入る前に見ておくべき項目です。
| 確認項目 | 何を見るか |
|---|---|
| オファリングプラン | 名義の制限、賃貸の規約、修繕の計画、譲渡税の負担者 |
| 既存賃借人 | 賃料規制の対象住戸が残っているか、その割合 |
| スポンサーの保有 | 分譲主が未売却住戸をどれだけ持ち、議決権をどう握るか |
| 建物の財務 | 直近2期の財務諸表、修繕積立、一時金の履歴 |
特に見落とされやすいのが、2つ目の既存賃借人です。転換前から住み続けている賃借人が残っている建物では、住戸の一部が分譲市場に出てきません。将来の売却時に、建物内の在庫がどう動くかに影響します。
3つ目のスポンサー保有も重要です。分譲主が多くの住戸を持ったままの状態では、管理組合の議決が事実上その意向で決まります。
費用の面では、転換物件に固有の論点が2つあります。ひとつは一時金(アセスメント)です。共用部の大規模な更新が必要になった際、管理費とは別に住戸ごとの負担が発生します。過去に何回、いくらの一時金があったかは、財務諸表から追えます。
もうひとつは固定資産税です。ニューヨーク市の評価は建物ごとの区分と履歴に左右され、転換の前後で扱いが変わることがあります。月々の管理費と固定資産税を合算した実際の保有コストで他の物件と比べることを推奨いたします。
4. 新築タワーと比べたときの立ち位置

ここで、逆の見方も検討します。「同じコンドミニアムなら、設備の新しい新築タワーのほうが良いのではないか」という考え方です。
設備と保証の面では、そのとおりです。新築であれば配管も電気容量も現行の基準で、当面の大規模修繕もありません。
ただし、新築には新築の費用構造があります。分譲では州と市の譲渡税を買主が負担する契約が一般的であり、取得時の総額は中古より重くなります。減税措置がある建物では、その期間の終了後に月額が上がる設計になっていることもあります。
そして供給の観点があります。新築タワーは今後も建ちますが、1908年の中庭を持つ建物は増えません。希少性で選ぶのか、確実性で選ぶのかという比較になります。
どちらを選ぶにせよ、名義の設計は先に決めておくことを推奨いたします。法人やトラストで持つかどうかで、選べる建物と手続きが変わるためです。判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
コンドミニアム購入の全体像はコンドミニアム購入のガイド(価格相場と手順、費用)をご覧ください。
実務としては、転換物件と新築を同じ土俵に並べて比べる必要はありません。目的が居住であれば住み心地と管理の質、資産としての保有であれば名義の自由と賃貸の可否、この順で優先順位をつけると判断が早くなります。
現在売りに出ている住戸(2026-08-17時点)
| 住戸 | 広さ | ベッドルーム | 売出価格 |
|---|---|---|---|
| 2ABC | 8,557sqft(約795平米) | 9 | 19,995,000ドル(約31.0億円) |
| 2C | 4,305sqft(約400平米) | 4 | 10,250,000ドル(約15.9億円) |
| 2A | 4,252sqft(約395平米) | 4 | 9,995,000ドル(約15.5億円) |
| 11C | 3,100sqft(約288平米) | 4 | 7,995,000ドル(約12.4億円) |
| 5A | 1,878sqft(約174平米) | 2 | 5,195,000ドル(約8.1億円) |
出典はCityRealtyのアプソープの建物ページです。売出しは日々入れ替わりますので、最新の在庫と実際に入れる価格は個別にお調べします。非公開で動いている住戸もあります。
5. まとめ

アプソープは、1908年の街区型建築が、現代の所有形態で持てるようになった建物です。中庭と天井高という戦前の価値を残しながら、名義の自由と賃貸の可能性というコンドミニアムの利点を併せ持ちます。
戦前建築はコープばかりで海外からは買えない、という理解は正確ではありません。転換物件という選択肢があります。
その代わり、確認すべき書類は増えます。オファリングプラン、既存賃借人、スポンサーの保有、建物の財務。この4点を先に確認できれば、転換物件は資産としての設計に乗せられます。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、書類の確認からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ(この記事)
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
アプソープはコープではなくコンドミニアムですか。
アプソープは長く賃貸として運営された後、2000年代後半に分譲へと転換されたコンドミニアムです。戦前建築の中庭と天井高を持ちながら所有の仕組みがコンドミニアムであるため、名義の自由が効き、海外に資産を置く方にとって大きな意味を持つ選択肢となります。
オファリングプランにはどのような内容が記載されていますか。
オファリングプランはニューヨーク州司法長官室に提出される分譲の計画書で、住戸の区分、共用部の範囲、管理費の按分、修繕の計画、そして既存の賃借人の扱いまでが記載されています。分譲が進む過程で修正が重ねられるため、最新版まで確認しないと古い条件を前提に判断することになります。
転換物件を購入する際に確認すべき4点は何か。
確認すべき4点はオファリングプラン、既存賃借人、スポンサーの保有、建物の財務です。特に既存賃借人が残っているかや分譲主が未売却住戸をどれだけ持ち議決権をどう握るか、直近2期の財務諸表や修繕積立、一時金の履歴を確認する必要があります。
新築タワーと比べて転換物件の費用構造はどうなりますか。
新築では州と市の譲渡税を買主が負担する契約が一般的であり、取得時の総額は中古より重くなります。また減税措置がある建物では期間終了後に月額が上がる設計になっていることもあります。月々の管理費と固定資産税を合算した実際の保有コストで他の物件と比べることを推奨します。
English guides on reinventny.com
NEIGHBOURHOODSニューヨークの街と、他都市との比較(37件)
マンハッタンの街
- アッパーウエストサイド — 戦前の名建築と子育て環境
- カーネギーヒル — 美術館の並びに住む
- ヨークビル — 地下鉄新線が変えた買い場
- タートルベイ — 国連の街の静かな買い場
- グラマシー — 鍵のある公園に面した街
- フラットアイアン — ロフトの広さと価格
- ノマド — マンハッタン中央部の相場
- チェルシー — ハイライン沿いのレジデンス
- ウエストヴィレッジ — 石畳の歴史地区
- グリニッチビレッジ — 低層の街と戦前コープ
- ノーホー — 数ブロックのロフト一等地
- ソーホー — ロフト市場の実態
- ロウアーイーストサイド — 変わり続ける街の値段
- 金融地区 — ウォール街に暮らす
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ブルックリンの街
- ブルックリンハイツ — 全米初の歴史保存地区
- コブルヒル — ランドマーク地区のブラウンストーン
- キャロルガーデンズ — 住みながら貸す二戸建て
- ボーラムヒル — 学区の境界は住所ごとに違う
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- プロスペクトハイツ — 固定資産税の減税が切れる日
- ダウンタウンブルックリン — 供給が集中した地区の出口
- ダンボ — 倉庫街から高級住宅地へ
- グリーンポイント — 水辺エリアの家賃相場
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- 日米の投資比較 — 利回り・税制・リスク
エリアの全体像と購入の実務
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