イースト52丁目の突き当たり、イーストリバーに面して、アールデコの大きな建物が立っています。1931年に完成したリバーハウス(River House)です。
完成当時は専用の船着き場を持ち、ヨットで自宅に帰れる建物として知られました。船着き場は後の高速道路建設で失われましたが、川に正対する立地と、内部のプライベートクラブは今も残っています。
この建物は、ニューヨークで最も閉鎖的なコープのひとつとして語られてきました。そして過去には、コンドミニアムへの転換が検討されたことが報じられた建物でもあります。
コープをコンドに変えれば、名義の自由が効き、買い手が広がり、価格も上がるはずです。ではなぜ、転換は進まないのか。本日はリバーハウスを題材に、この問いについて見ていきましょう。
1. リバーハウスという建物

リバーハウスは26階建て、住戸数は約70戸のコープです。川に面した立地のため、東側の住戸は水面を正面に見ます。
住戸は大型が中心で、複数フロアにまたがるものや、暖炉を複数持つものが含まれます。低層部には会員制のクラブが入り、スポーツ施設と社交の場を兼ねてきました。
取締役会の審査は市内でも特に厳しい部類とされ、著名人が断られたという報道が過去に何度もあります。資金力だけでは入れない建物の代表例として、740パークと並んで名前が挙がります。
2. コープからコンドへの転換という選択肢

理屈の上では、コープはコンドミニアムに転換できます。建物を区分所有の形に組み替え、株式を不動産の持ち分に変える手続きです。
転換すれば、住民の資産価値は上がるのが通常です。コンドミニアムはコープより高い単価で取引されるためです。名義の自由が効き、審査がなく、買い手の層が世界に広がることが理由です。
それでも転換はめったに起こりません。理由は3つあります。
①議決のハードル。転換には住民の圧倒的多数の賛成が必要で、要件は建物の規約と州法で決まっています。②費用と時間。オファリングプランの作成、税務の整理、借入の組み替え。年単位の作業になります。③そして最大の理由は、住民が転換を望んでいないことです。
③は外から見ると不思議に映ります。資産価値が上がるのに、なぜ反対するのか。
答えは単純です。審査の権利を手放したくないからです。誰が隣人になるかを選べるという仕組みは、この種の建物の住民にとって、資産価値の上昇より重い価値を持っています。
3. 買主にとって、この構造は何を意味するか

転換が進まない構造を、買う側から整理すると次のようになります。
| 観点 | 買主にとっての意味 |
|---|---|
| 価格 | コンド換算より割安な単価で戦前の大型住戸が買える |
| 転換への期待 | 実現可能性は低い。期待を価格に織り込まない |
| 流動性 | 買い手が審査を通る人に限られ、売却に時間がかかる |
| 環境の安定 | 住民構成と運営方針が変わりにくい |
1つ目は、コープという形式の実利です。同じ広さと立地をコンドミニアムで求めれば、価格は大きく上がります。審査を通れる方にとっては、割安に買える構造とも言えます。
2つ目は注意点です。「いずれコンドに転換されて値上がりする」という筋書きを売り文句にする話が、市場にはときどき出てきます。転換の議決要件と住民の利害を考えれば、この期待に価格を払うべきではありません。
4. では、誰がこの建物を買うべきか

リバーハウスのような建物が合うのは、条件がはっきりしています。米国に生活の基盤があり、個人名義で、長く住む方です。
審査を通る準備は、740パークの記事でも書いたとおり、米国内の資産、納税履歴、推薦者が土台になります。詳細はニューヨーク不動産購入の最難関、コープのボード審査を通過する方法をご覧ください。
日本にお住まいのまま資産として持つことが目的の場合、この建物は候補になりません。名義を法人やトラストに置けず、賃貸にも出せず、承継には取締役会の関与が入ります。相続の設計は非居住者の米国遺産税と、日本の相続税との二重構造で扱ったとおりです。
資産としての保有であれば、名義の自由が効くコンドミニアムから選びます。ニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐が判断の出発点になります。
ここで、逆の見方も置いておきます。「閉鎖的な建物は時代に合わなくなり、いずれ価値を落とすのではないか」というものです。
この問いは常にあります。ただ、90年間この方針を守ってきた建物が、それでも買い手を見つけ続けてきたのも事実です。閉鎖性を価値と見る買い手が一定数いる限り、この市場は成立し続けます。規模は小さくても、なくならない市場という理解が実務に近いと思います。
5. まとめ

リバーハウスは、川に正対する立地とクラブを持つ、ニューヨークで最も閉鎖的なコープのひとつです。
コープからコンドミニアムへの転換は、理屈の上では可能でも、住民が審査の権利を手放さないため、めったに実現しません。転換への期待は価格に織り込まないのが実務です。
審査を通れる方にとっては、戦前の大型住戸を割安な単価で持てる構造でもあります。ご自身の居住形態と名義の条件が、この形式と噛み合うかどうか。判断はそこから始まります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、購入可能な建物の絞り込みからご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス(この記事)
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
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- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
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- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
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- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
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- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
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- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
リバーハウスは1931年に完成したコープで、現在は船着き場が残っていますか。
リバーハウスは1931年に完成したアールデコ調の建物ですが、当初持っていた専用の船着き場は後の高速道路建設により失われています。現在残っているのは川に正対する立地と内部のプライベートクラブであり、住戸数は約70戸で26階建てとなっています。
コープからコンドミニアムへの転換が進まない最大の理由はなんでしょうか。
転換が進まない最大の理由は、住民が審査の権利を手放したくないからです。誰が隣人になるかを選べる仕組みは、資産価値の上昇よりも重い価値を持つためです。議決のハードルや費用・時間の問題も存在しますが、住民の意向が転換を阻む主要因となっています。
コープ形式のリバーハウスを購入する買主にとって価格にはどのような特徴がありますか。
同じ広さと立地をコンドミニアムで求めれば価格は大きく上がりますが、コープという形式であれば割安な単価で戦前の大型住戸が買えます。ただし転換への期待は実現可能性が低いため、その期待を価格に織り込むべきではありません。
日本にお住まいのままリバーハウスを資産として保有することは可能ですか。
日本にお住まいのまま資産として持つことが目的の場合、この建物は候補になりません。名義を法人やトラストに置けず、賃貸にも出せず、承継には取締役会の関与が入るためです。資産としての保有であれば、名義の自由が効くコンドミニアムを選ぶ必要があります。
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