ハイラインの西、ハドソン川を望む位置に、ねじれながら立ち上がる2本の塔があります。XI(イレブン)として販売が始まり、現在はワンハイライン(One High Line)と呼ばれる建物です。
設計はデンマークの建築家ビャルケ・インゲルスの事務所。2本の塔が互いにひねりながら向き合う構成は、ハイラインを歩く誰もが見上げる存在です。
この建物の履歴には、意匠より重要な教材が含まれています。当初の開発会社が資金難に陥り、工事が止まり、物件が別の事業者の手に渡って完成したという経緯です。名前が変わったのはそのためです。
竣工前に契約していた買主たちは、この過程で何を経験したのか。手付金はどうなったのか。本日はこの建物を題材に、デベロッパー破綻のリスクと買主の守られ方について見ていきましょう。
1. XIからワンハイラインへ

この物件は2本の塔で構成され、住戸数は合計200戸を超えます。低層部にはホテルも入る複合開発として計画されました。
当初の開発会社は販売を進めながら工事を続けていましたが、資金繰りが行き詰まり、プロジェクトは貸し手側の手続きを経て別の事業者に引き継がれました。工事は再開され、名前を変えて完成し、現在は引き渡しも進んでいます。
結果として建物は完成し、現在の所有者にとって過去の経緯は履歴のひとつです。ただし、竣工前に契約していた買主にとっては、数年にわたる不確実な期間がありました。この経験こそが、これから竣工前物件を検討する方への教材になります。
2. 竣工前契約で、手付金はどう守られているか

ニューヨークの新築分譲では、竣工前の契約時に価格の一部を手付金として支払います。この資金の扱いには、州の規制があります。
手付金は分譲主の運転資金ではなく、エスクロー口座で分別管理するのが原則です。オファリングプランには、誰がエスクロー代理人を務め、どの口座で管理されるかが記載されています。
この仕組みが機能していれば、開発が頓挫しても手付金そのものは保全されます。実際、この物件の経緯でも、契約者の手付金の扱いが焦点のひとつになりました。
ただし、保全されることと、すぐ戻ることは別の問題です。手続きには時間がかかり、資金が拘束されている間の機会損失は買主の負担になります。また、契約の解除条件は契約書の文言次第であり、工事遅延がどこまで進めば解除権が生じるかは案件ごとに異なります。
3. 竣工前物件で確認する条項

以下は、竣工前の物件を契約する際に弁護士と確認する項目です。
| 確認項目 | 何を見るか |
|---|---|
| エスクローの体制 | 代理人は誰か、分別管理の口座はどこか |
| 引き渡しの期限 | 遅延が何年に及んだら解除できるか |
| 解除時の返金 | 利息の有無、返金までの手続き |
| 分譲主の財務 | 建設資金の調達が確定しているか |
| 工事の進捗 | 現地で実際に動いているか。定期的に確認 |
4つ目の分譲主の財務は、ランタンハウスの記事で書いた「作り手の実績」の確認と重なります。建設資金の融資が組成済みか、それとも販売の進捗頼みか。オファリングプランと公開情報からある程度読めます。
5つ目は単純ですが有効です。契約後も工事現場を定期的に見る。工事の止まった現場は、報道より先に現地が教えてくれます。海外にお住まいの場合は、現地の代理人がこの確認を担います。
4. 破綻を経た建物を、今買うことをどう考えるか

完成した現在のワンハイラインを買う場合、開発時の破綻リスクはすでに消えています。建物は完成し、引き渡しの実績があり、運営も始まっています。
確認すべきは、むしろ引き継ぎの痕跡です。①施工が中断を挟んでいるため、工事の連続性に関する記録。②保証の主体。当初の開発会社が消えた場合、施工保証を誰が引き継いだか。③管理組合の立ち上がり。スポンサーの交代が組合運営に影を残していないか。
この3点が整理されていれば、履歴は価格の交渉材料にこそなれ、避ける理由にはなりません。200アムステルダムの記事で書いたとおり、報道された過去と現在の法的状態は分けて評価します。
名義の設計はコンドミニアムの通常どおりです。個人名義、法人名義、トラスト名義のいずれも規約の範囲で選べます。判断材料はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐を、売却時の源泉徴収は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「破綻の履歴がある物件は、いくら安くても避けるべきではないか」というものです。
感覚としては理解できます。ただ、破綻したのは事業者であって、建物ではありません。完成後の建物の価値は、立地と設計と管理で決まります。履歴を理由に価格が抑えられているなら、リスクの消えた割引はむしろ機会です。区別すべきは「破綻した事業者の未完成物件」と「破綻を経て完成した物件」であり、この2つはまったく別のリスクです。
ハイライン沿いという立地の評価は、520ウエスト28丁目やランタンハウスの記事で書いた内容と共通します。遊歩道との距離、視線の条件、時間帯による人の流れ。内見は平日と週末の両方で行うことを推奨いたします。
ホテルが入る複合である点は、30パークプレイスの記事で書いた確認点がそのまま使えます。区分の線、共用費の按分、ブランド契約の期間。書類はオファリングプランに揃っています。
5. まとめ

ワンハイライン(旧XI)は、開発会社の破綻と事業者の交代を経て完成した建物です。この履歴は、竣工前契約のリスクを具体的に教えてくれます。
竣工前物件では、エスクローの体制、引き渡し期限と解除条件、分譲主の資金調達を契約前に確認します。手付金の保全は制度としてありますが、拘束される時間は買主の負担です。
完成済みの物件を買う場合、開発時のリスクは消えています。保証の引き継ぎと管理組合の状態を確認すれば、履歴は交渉材料に変わります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、契約条項の確認からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI)(この記事)
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
竣工前契約において手付金はどのように管理される仕組みになっていますか。
ニューヨークの新築分譲では、手付金は分譲主の運転資金ではなく、エスクロー口座で分別管理するのが原則です。オファリングプランには誰が代理人を務めどの口座で管理されるかが記載されており、この仕組みが機能すれば開発が頓挫しても手付金そのものは保全されます。
竣工前の物件を契約する際に弁護士と確認すべき項目は何ですか。
確認すべき項目はエスクローの体制、引き渡しの期限、解除時の返金条件、分譲主の財務状況、そして工事の進捗です。特に建設資金の調達が確定しているかや、現地で実際に工事が動いているかを定期的に確認することが有効な対策となります。
開発破綻の履歴がある完成済み物件を購入する際のメリットは何ですか。
完成済みの物件では開発時のリスクはすでに消えており、保証の引き継ぎや管理組合の状態を確認すれば履歴は価格交渉材料になります。破綻したのは事業者であって建物ではないため、立地と設計で決まる価値が履歴を理由に抑えられている場合は機会です。
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NEIGHBOURHOODSニューヨークの街と、他都市との比較(37件)
マンハッタンの街
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- カーネギーヒル — 美術館の並びに住む
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- ソーホー — ロフト市場の実態
- ロウアーイーストサイド — 変わり続ける街の値段
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- ハーレム — ブラウンストーン1棟と賃料規制
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