アッパーウエストサイドの86丁目、ブロードウェイとアムステルダムアベニューの間に、街区をまるごと占める建物があります。1908年に完成したベルノード(The Belnord)です。
中央に大きな中庭を持ち、アーチ型の車寄せから中へ入ります。完成当時は世界最大級の共同住宅と紹介された建物で、ニューヨーク市のランドマークに指定されています。
この建物は長い間、賃貸として運営されてきました。その後、大規模な改修を経てコンドミニアムとして分譲されています。つまり戦前の骨格に、現代の設備と現代の所有形態が入っている建物です。
所有の形がコンドミニアムであるということは、法人やトラストの名義で持てるということでもあります。ここから保有と運用の設計が現実的な話になります。
本日はベルノードを題材に、賃貸に出す前提での保有構造について見ていきましょう。
CONTENTS
1. ベルノードという建物

ベルノードは13階建て、中庭を囲む形の建物です。街区型のため、住戸は通り側と中庭側に分かれます。中庭側は静かで、上層階は光の入り方が変わります。
戦前建築の特徴である天井高と窓の大きさを残しながら、分譲にあたって住戸内は現代の仕様に組み替えられています。共用設備も改修時に整備されました。
賃貸として運営されてきた歴史があるため、建物内には従前からの賃借人が残る場合があります。分譲された住戸と、賃貸のままの住戸が同じ建物に混在するという構造です。
これは欠点ではありませんが、購入前に把握しておくべき事実です。将来の売却時に建物内でどれだけの在庫が動くかに影響します。
2. 法人名義で持つという選択

コンドミニアムであることの実務上の意味は、名義を選べるという一点に尽きます。個人名義、LLCなどの法人名義、トラスト名義のいずれも、建物の規約が認める限り選択できます。
コープでは、この選択肢がありません。ダコタやサンレモのような名門コープは個人名義が原則で、法人やトラストでの保有は認められないのが通常です。
名義を分けられることの効果は、次の3点に出ます。
①相続と承継の設計。持ち分を分けたり、生前に移したりする設計が取れます。②責任の切り分け。賃貸に出す場合の責任範囲を、他の資産と分けられます。③複数物件の管理。将来買い増す場合に、保有の構造を揃えられます。
一方で、法人名義には費用と手間が伴います。設立と維持の費用、申告の手間、金融機関の対応の違い。1戸の保有であれば個人名義のほうが軽いという判断も十分に成立します。損益分岐の考え方はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐で整理しています。
3. 賃貸に出す場合の税務

ベルノードのようなコンドミニアムでは、規約の範囲内で住戸を賃貸に出せます。ここで非居住者に固有の論点が出てきます。
非居住者が受け取る米国の賃料収入は、原則として総額に対する源泉徴収の対象になります。ただし、その不動産賃貸を米国内の事業に実質的に関連するものとして申告する選択をすれば、経費を差し引いた純額に対する課税へ切り替えることができます。
この選択をするかどうかで、手取りは大きく変わります。減価償却、管理費、固定資産税、修繕費といった経費を差し引けるかどうかの違いだからです。
あわせて、日本にお住まいのまま賃貸に出す場合の体制も決めておく必要があります。入居者の募集、契約、家賃の回収、修繕の一次対応、退去時の精算。これらを誰が担うかという話です。
現地の管理会社に委託するのが一般的で、費用は運用コストとして毎月かかります。この費用を織り込まずに利回りを計算すると、実際の手取りとずれます。
納税者番号の取得と申告の体制も先に整えます。米国に納税者番号がない状態では、源泉徴収の扱いも申告の選択もできません。物件を決めてから慌てて手続きを始めると、初年度の賃料から余計な源泉が引かれることになります。
以下は、保有と運用の主な論点をまとめたものです。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| 賃料収入の課税 | 総額課税か、経費控除後の純額課税か |
| 減価償却 | 建物と土地の按分、住宅用の償却年数 |
| 売却時 | FIRPTAの源泉徴収と、償却分の取り戻し課税 |
| 組み替え | 1031交換の要件と期限(45日・180日) |
| 相続 | 非居住者の基礎控除6万ドルと日本の相続税 |
売却の際はFIRPTAによる源泉徴収が入ります。制度の概要は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説に記載があります。
投資用として保有した物件を次の物件に組み替える場合は、1031エクスチェンジで売却益を繰り延べるが使える場合があります。ただし居住用には使えません。賃貸で持つのか、自分で使うのかを最初に決めておく必要があるのはこのためです。
4. 戦前建築を賃貸に回すことの是非

ここで、逆の見方も置いておきます。「賃貸で回すなら、管理が楽な新築のほうが良いのではないか」という考え方です。
運用の手間だけを見れば、そのとおりです。新築は設備が新しく、当面の修繕がありません。管理会社との連携も定型化しやすいと言えます。
ただし、賃貸需要の側から見ると景色が変わります。中庭を持つ戦前建築の住戸は数が限られており、同等の代わりが街に存在しません。空室が出た際の埋まり方は、供給の多い新築タワーとは異なります。
賃料の水準も、供給の少なさに支えられます。同じ広さの新築タワーと比べたとき、戦前建築の住戸を選ぶ層は入れ替わりが緩やかで、長期の入居につながりやすい傾向があります。
加えて、戦前建築は改修を終えた後の維持が安定します。大規模な更新が済んだ直後の建物は、しばらくの間、大きな支出が起きにくい状態にあります。
したがって当社では、改修の履歴と修繕積立の状態を確認したうえでなら、戦前の転換物件は賃貸運用に十分向くと考えています。判断の前提は建物の財務であって、築年数そのものではありません。
あわせて、購入前に空室期間の想定を置いておくことを推奨いたします。入居者の入れ替わりの際には、原状回復と募集の期間が必ず生じます。年間の収支は、満室を前提にせず、この期間を織り込んだ数字で見ておくほうが安全です。
現在売りに出ている住戸(2026-08-17時点)
| 住戸 | 広さ | ベッドルーム | 売出価格 |
|---|---|---|---|
| 710 | 2,447sqft(約227平米) | 3 | 6,750,000ドル(約10.5億円) |
| 910 | 2,444sqft(約227平米) | 3 | 6,495,000ドル(約10.1億円) |
出典はCityRealtyのベルノードの建物ページです。売出しは日々入れ替わりますので、最新の在庫と実際に入れる価格は個別にお調べします。非公開で動いている住戸もあります。
5. まとめ

ベルノードは、1908年の街区型建築が、現代のコンドミニアムとして持てる形になった建物です。中庭と天井高という戦前の価値を残しながら、名義の自由が効きます。
賃貸に出す前提で持つのであれば、決めるべきことは3つです。誰の名義で持つか、賃料をどの課税方式で受けるか、出口をどう設計するか。この3点が決まっていれば、物件選びは驚くほど早く進みます。
逆に、この3点を空欄のまま物件を探すと、良い住戸が出たときに動けません。ニューヨークの良い在庫は、判断の速さで決まります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、保有構造の設計からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード(この記事)
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス — 賃貸運用向けの間取り
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
ベルノードはどのような建物の歴史を持ち、現在どのような形態で分譲されていますか。
1908年に完成した世界最大級の共同住宅として紹介されたこの建物は、ニューヨーク市のランドマークに指定されています。長い間賃貸として運営されてきましたが、大規模な改修を経てコンドミニアムとして分譲されるようになり、戦前の骨格に現代の設備と所有形態が入った建物となっています。
ベルノードのようなコンドミニアムを保有する場合、名義にはどのような選択肢があり、コープとはどう異なりますか。
コンドミニアムであるため、個人名義やLLCなどの法人名義、トラスト名義のいずれも建物の規約が認める限り選択できます。これに対しコープは個人名義が原則で、法人やトラストでの保有は認められないのが通常であり、名義を選べる点が実務上の大きな違いとなります。
非居住者がベルノードの住戸を賃貸に出す場合、米国の賃料収入に対する課税にはどのような選択肢がありますか。
非居住者が受け取る米国の賃料収入は原則として総額に対する源泉徴収の対象になりますが、不動産賃貸を米国内の事業に実質的に関連するものとして申告する選択をすれば、経費を差し引いた純額に対する課税へ切り替えることができます。
戦前建築を賃貸運用に回す場合、新築と比較してどのような利点があり、購入前に確認すべき点はありますか。
中庭を持つ戦前建築の住戸は数が限られており同等の代わりが街に存在しないため、供給の少なさに支えられ長期の入居につながりやすい傾向があります。判断の前提は建物の財務であり、改修の履歴と修繕積立の状態を確認したうえで賃貸運用に向くと考えられます。
English guides on reinventny.com
NEIGHBOURHOODSニューヨークの街と、他都市との比較(37件)
マンハッタンの街
- アッパーウエストサイド — 戦前の名建築と子育て環境
- カーネギーヒル — 美術館の並びに住む
- ヨークビル — 地下鉄新線が変えた買い場
- タートルベイ — 国連の街の静かな買い場
- グラマシー — 鍵のある公園に面した街
- フラットアイアン — ロフトの広さと価格
- ノマド — マンハッタン中央部の相場
- チェルシー — ハイライン沿いのレジデンス
- ウエストヴィレッジ — 石畳の歴史地区
- グリニッチビレッジ — 低層の街と戦前コープ
- ノーホー — 数ブロックのロフト一等地
- ソーホー — ロフト市場の実態
- ロウアーイーストサイド — 変わり続ける街の値段
- 金融地区 — ウォール街に暮らす
- ハーレム — ブラウンストーン1棟と賃料規制
ブルックリンの街
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- コブルヒル — ランドマーク地区のブラウンストーン
- キャロルガーデンズ — 住みながら貸す二戸建て
- ボーラムヒル — 学区の境界は住所ごとに違う
- フォートグリーン — コープが多い地区で海外から買う
- プロスペクトハイツ — 固定資産税の減税が切れる日
- ダウンタウンブルックリン — 供給が集中した地区の出口
- ダンボ — 倉庫街から高級住宅地へ
- グリーンポイント — 水辺エリアの家賃相場
ニューヨークを他の都市と比べる
- 東京 — 価格・価値観・法規制の違い
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- トロント・バンクーバー — 外国人購入禁止の国と開かれた市場
- パリ — 石の街の資産と縦の街の資産
- 香港 — アジアの富の置き場所
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- 全米の主要都市 — 価格・家賃・利回り・値上がり率
- 米国内の他都市 — ニューヨークだけが違う7点
- 日米の投資比較 — 利回り・税制・リスク
エリアの全体像と購入の実務
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