シティホールの南、ビークマンストリートに、1883年の煉瓦建築と現代の高層タワーが並んで立っています。ビークマンレジデンス(The Beekman Residences)です。
低層の歴史建築は9層吹き抜けのアトリウムを持つ元オフィスビルで、修復されてホテルになりました。その隣に51階建ての住宅タワーが新築され、この2つがひとつの複合として運営されています。
このタワーの住戸構成には、はっきりした特徴があります。1ベッドルームと2ベッドルームが中心で、大型住戸は上層の一部に限られるという構成です。
この構成は、実需の家族向けではなく、賃貸運用と単身・二人暮らしに向けた設計を意味します。本日はビークマンを題材に、貸すために買う場合の住戸の選び方について見ていきましょう。
1. ビークマンレジデンスという建物

ビークマンレジデンスは51階建て、住戸数は約70戸のコンドミニアムです。2016年頃に引き渡しが始まりました。隣接するホテルのサービスを住民が利用できる、ホテル連携型の構成です。
立地はダウンタウンの中心で、市庁舎、裁判所、金融街に歩ける位置です。周辺の就業者数が多く、単身赴任と若い共働き世帯の賃貸需要が絶えない地区でもあります。
ワンウォールストリートの記事で書いたとおり、ダウンタウンはオフィスから住宅への転用が進み、店舗と生活施設が後から充実してきた地区です。街の性格が住宅寄りに動き続けていることは、賃貸需要の追い風になっています。
2. 貸すために買うなら、どの間取りか

賃貸運用を前提にする場合、住戸選びの基準は自分が住む場合と変わります。
基準は単純です。その地区の借り手の中心層が求める間取りを選ぶ。ダウンタウンの借り手の中心は、単身の専門職と二人暮らしです。需要の厚みは1ベッドルームに集中し、次が2ベッドルームです。
大型住戸は賃料の単価こそ高いものの、借り手の層が薄く、空室期間が延びやすくなります。自宅として最良の住戸と、賃貸の器として最良の住戸は、同じ建物でも別の住戸です。
以下は、賃貸運用の観点での間取り比較です。
| 間取り | 借り手の層 | 運用の性格 |
|---|---|---|
| スタジオ・1BR | 単身の専門職、駐在 | 需要が厚く空室が短い。回転は速い |
| 2BR | 共働き世帯、ルームシェア | 単価と安定の均衡が良い |
| 3BR以上 | 家族。ただし層が薄い | 賃料は高いが空室が読みにくい |
回転の速さは、費用でもあります。入れ替わりのたびに原状回復と募集の期間が発生するためです。回転の速い間取りほど、空室と募集の費用を年間収支に織り込みます。満室前提の利回りで判断しないという原則は、これまでの記事と共通です。
3. 収支を実際の手取りで組む

賃貸運用の収支は、賃料から次の項目を引いた残りです。
①管理費と固定資産税。②管理会社への委託費。③空室と募集の期間。④修繕と原状回復。⑤保険。そして⑥税金です。
⑥の税金は、非居住者の場合、申告方式の選択で大きく変わります。総額への源泉徴収のままにするか、経費控除後の純額課税を選ぶか。減価償却、管理費、固定資産税、委託費を経費として差し引けるかどうかの違いです。
純額課税を選ぶには、米国の納税者番号を取得し、申告の体制を整える必要があります。物件を決めてから慌てて始めると、初年度の賃料から余計な源泉が引かれます。順序は、申告の設計が先、物件が後です。
ホテル連携型の建物では、管理費にホテルサービスの分が乗ります。自分が住まない住戸では、このサービスの恩恵を受けるのは借り手です。その分を賃料に転嫁できる地区かどうかを、周辺の成約賃料で確認します。
4. 名義と、出口までの設計

ビークマンはコンドミニアムですので、名義を選べます。賃貸運用が前提なら、責任の切り分けの観点から法人名義の検討価値があります。1戸のみなら個人名義の簡便さが勝つ場合も多く、判断の分岐はニューヨークの不動産を法人名義で買うべきか。個人所有との違いと損益分岐にまとめています。
投資用として保有した物件を次の物件に組み替える場合は、1031エクスチェンジによる課税の繰り延べが使える場合があります。売却時の源泉徴収は米国内国歳入庁(IRS)のFIRPTA解説をご覧ください。
ここで、逆の見方も置いておきます。「賃貸運用ならニューヨークより利回りの高い都市があるのではないか」というものです。
表面利回りの数字では、そのとおりです。ニューヨークの賃貸運用は、利回りで選ぶものではありません。空室の短さ、賃料の下方硬直性、そして資産そのものの流動性で選ぶものです。利回りの高い市場は、多くの場合、出口の流動性が薄い市場でもあります。何を最優先にするかで、答えは分かれます。
遠隔管理の体制についても、順序を示しておきます。①現地の管理会社を決め、委託の範囲と費用を固める。②家賃の受け取り口座と送金の流れを作る。③修繕の承認ルール(いくらまでは管理会社の判断で進めるか)を決める。この3つが決まっていれば、日本にいながらの運用は現実的に回ります。
逆に、体制が曖昧なまま入居が始まると、深夜の水漏れ対応のような場面で判断が止まります。体制づくりは入居募集より先です。
5. まとめ

ビークマンレジデンスは、歴史建築のホテルと連携した、賃貸需要の厚い地区のタワーです。1〜2ベッドルーム中心の住戸構成は、運用の器としての性格をはっきり示しています。
貸すために買うなら、地区の借り手の中心層に合わせて間取りを選び、空室と費用を織り込んだ手取りで収支を組みます。申告方式と納税者番号の準備は、物件より先です。
自宅の基準と運用の基準は別物です。この切り替えができれば、同じ建物の中でも選ぶべき住戸は明確になります。
当社では、個人と法人、居住者と非居住者それぞれの場合分けを踏まえ、収支の設計からご相談を承っております。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、法務・税務・投資に関する助言ではありません。個別の判断は、独立した専門家へのご確認を前提とします。
BUILDINGSニューヨークの主な建物。名義と税務の観点から(93件)
ビリオネアズロウと57丁目
- セントラルパークタワー — 世界一高い住宅ビル
- One57 — ビリオネアズロウの先駆け
- 432 Park Avenue — 正方形窓の超高層
- 220 Central Park South — 全米住宅最高額の記録
- 111 West 57th — 世界で最も細い超高層
- 53 West 53rd — 近代美術館の上に住む
- Mandarin Oriental Fifth — ホテルブランドの住まい
- エセックスハウス — 公園南のアールデコ
- オズボーン — 1885年の石積み
セントラルパーク西の戦前建築
- ダコタハウス — 1884年、市内最初期の高級住宅
- サンレモ — エメリー・ロスのツインタワー
- ベレスフォード — 三本の塔と博物館の眺め
- エルドラド — 公園西の最北、貯水池の眺望
- センチュリー — 公園西で最も中心に近い
- マジェスティック — ダコタの向かい、急行駅前
- One Central Park West — コロンバスサークルの角
- 15 Central Park West — 新築で戦前の風格
パークアベニューとイーストサイド
- 740 Park Avenue — 世界で最も入りにくい住宅
- 520 Park Avenue — 戦前の格を新築で
- オリンピックタワー — 五番街の複合の先駆け
- リッツ・カールトン・レジデンス — ホテルブランドの実際
- シェリーネザーランド — ホテル機能を持つコープ
- リバーハウス — 川に正対する名門コープ
- One Sutton Place South — 借地の上に立つ建物
- サットンタワー — イーストリバー沿いの新築120戸
- 252イースト57丁目 — 分譲と賃貸が同じ塔、値下げの履歴
- ワンビーコンコート — オフィスの上に住む複合ビル
- 200イースト59 — 全戸テラス67戸、屋外面積の評価
- マンハッタンハウス — 戦後モダニズムの代表作
- ウォルドーフ・アストリア — 歴史的ホテルの住宅転用
- プラザ・レジデンス — 1907年の名門ホテル
- アマン・ニューヨーク — クラウンビルの最上位ブランド
- 400 Fifth Avenue — 商業地区に住むという選択
アッパーウエストとグラマシー
- アンソニア — ホテルから賃貸、コンドへ
- アプソープ — 1908年の中庭型、名義の自由
- ベルノード — 賃貸から分譲への転換
- 200 Amsterdam — 建築許可をめぐる訴訟
- 50 Gramercy Park North — 公園の鍵という権利
- マディソンハウス — ノマドの新築タワーと管理費
- 30イースト31 — 42戸の細身タワーの価格帯
- ワンマディソン — 築10年超の53戸と転売
- 277フィフスアベニュー — 5番街の住所は価格に乗るか
ダウンタウンとトライベッカ
- ウールワースタワー — 1913年の超高層に住む
- ワンウォールストリート — オフィス転用と減税
- ザ・グリニッジ — 125グリニッジの88階建て273戸
- 25パークロウ — シティホール公園向きの価格差
- 77グリニッジ — 小学校を抱えた90戸の価格交渉
- ワン・ビークマン — シティホール・パーク前のフロア1戸31戸
- 56 Leonard Street — 新築分譲の取得コスト
- 111 Murray Street — 大型間取りの市場
- 130 William — 固定資産税の読み方
- 30 Park Place — ホテル併設レジデンス
- 45パークプレイス — SOM設計50戸と値引き後の価格
- 100バークレー — 1927年電話局を改装した157戸
- 101ウォーレン — フルブロック227戸の価格帯
- 200チェンバーズ — プール付き258戸の維持費
- ビークマン・レジデンス(この記事)
- 443 Greenwich — 倉庫転用と面積表示
- 565ブルームソーホー — レンゾ・ピアノ設計の112戸
- 42クロスビー — 10戸と100万ドルの駐車場の評価
- 10サリバン — ソーホー西端の22戸と小規模コンドの注意
- 108レナード — ランドマーク改装の167戸
- グリニッチレーン — 5棟とタウンハウスの構成
- 130ウエスト12丁目 — 病院跡コンバージョンの評価
- パックビルディング — 6戸だけのペントハウス
- ザ・シューマッハ — 印刷所転用20戸の維持費
- 70ベストリー — 川沿い46戸、少数戸を持つ意味
- 160レロイ — ウエストビレッジ川沿い57戸の値付け
- 150チャールズ — 低層91戸と中庭の維持費
- One Manhattan Square — 大型タワーの出口
- ワンハイライン(旧XI) — 開発会社の破綻と再生
ハイライン・ハドソンヤーズ
- 520 West 28th — ザハ・ハディド唯一のNY住宅
- ランタンハウス — デベロッパーの実績の見方
- 100 Eleventh Avenue — ガラス外壁の維持費
- 15 Hudson Yards — 新開発地区の評価
- 35 Hudson Yards — 似た2棟をどう比べるか
- ハドソンヤーズの住宅 — 竣工前契約の実務
- ザ・コートランド — レンガ外装と資産価値
- ウォーカータワー — 電話局のコンバージョン
- 25 Columbus Circle — 建物の改名と資産価値
ブルックリンとクイーンズ
- ブルックリンタワー — 区で初めての超高層
- ブルックリンポイント — 屋上プールの高層
- クワイタワー — 公園に守られた眺望
- ワン・ブルックリンブリッジパーク — 倉庫転用の449戸と公園への支払い
- イレブン・ホイト — 481戸の価格帯と減税の残存年数
- スカイラインタワー — クイーンズ最高層
- オリンピア・ダンボ — ブルックリン最高額の物差し
比較の全体像はビリオネアズロウ主要タワーの比較をご覧ください。
購入の実務ガイド
よくある質問
ビークマンレジデンスはどのような建物が並んでいる複合施設ですか。
シティホールの南、ビークマンストリートに1883年の煉瓦建築と現代の高層タワーが並んで立っています。低層の歴史建築は修復されてホテルになり、隣に51階建ての住宅タワーが新築され、この2つがひとつの複合として運営されています。
ビークマンレジデンスの住戸構成にはどのような特徴がありますか。
住戸構成にははっきりした特徴があり、1ベッドルームと2ベッドルームが中心で、大型住戸は上層の一部に限られます。これは実需の家族向けではなく、賃貸運用と単身・二人暮らしに向けた設計を意味しています。
貸すために買う場合、どの間取りを選ぶべきですか。
基準は単純で、その地区の借り手の中心層が求める間取りを選ぶことです。ダウンタウンの借り手の中心は単身の専門職と二人暮らしであり、需要の厚みは1ベッドルームに集中し、次が2ベッドルームです。
賃貸運用の収支を組む際に考慮すべき項目は何ですか。
賃料から管理費と固定資産税、管理会社への委託費、空室と募集の期間、修繕と原状回復、保険、そして税金を引いた残りが手取りです。非居住者の場合、申告方式の選択で大きく変わります。
English guides on reinventny.com
NEIGHBOURHOODSニューヨークの街と、他都市との比較(37件)
マンハッタンの街
- アッパーウエストサイド — 戦前の名建築と子育て環境
- カーネギーヒル — 美術館の並びに住む
- ヨークビル — 地下鉄新線が変えた買い場
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- ノマド — マンハッタン中央部の相場
- チェルシー — ハイライン沿いのレジデンス
- ウエストヴィレッジ — 石畳の歴史地区
- グリニッチビレッジ — 低層の街と戦前コープ
- ノーホー — 数ブロックのロフト一等地
- ソーホー — ロフト市場の実態
- ロウアーイーストサイド — 変わり続ける街の値段
- 金融地区 — ウォール街に暮らす
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ブルックリンの街
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