2026年3月現在、トランプ政権が発足してから早くも2ヶ月が経過しましたが、選挙公約の目玉であった税制改革がいよいよ本格的に動き始めています。2017年の税制改革・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)の延長・修正を含む新たな税制改革案が、共和党主導の議会で審議されており、その内容は企業経営者や投資家にとって極めて重要な意味を持っています。
前回の税制改革では、法人税率が35%から21%へと大幅に引き下げられ、アメリカ企業の競争力向上に大きく寄与しました。この21%という税率は、2025年7月に成立した法律で恒久化されました。
2025年7月に成立した税制改正で実際に決まったのは、法人税率21%の恒久化、国内の研究開発費の即時償却の復活、そして遺産税の基礎控除を1,500万ドルに引き上げて恒久化することでした。法人税率の引き下げと遺産税の廃止は、案として語られはしたものの実現していません。何が決まって何が決まらなかったのかを順に見ていきます。
1. 法人税制の変更点と企業への影響

法人税率は21%のまま恒久化された
選挙前には法人税率を21%から18%へ引き下げる案が語られましたが、成立した法律に引き下げは入りませんでした。21%が恒久化されたというのが結果です。米国財務省の試算では、この3%の引き下げにより、年間約850億ドル(約13兆1,750億円、2026年3月現在1ドル=155円換算)の税収減となる一方で、企業の設備投資や雇用創出効果により、長期的にはGDPを1.2%押し上げる効果が期待されています。
製造業に15%の軽減税率を適用する案も同様に見送られました。実際に導入されたのは、国内の研究開発費を投資年度に全額損金にできる扱いの復活と、設備投資の100%即時償却です。下院税制委員会の資料によると、製造業の法人税率を15%に設定することで、年間約2,000億ドルの新規設備投資を誘発する効果があるとされています。
研究開発費の即時償却復活
2022年から段階的に廃止された研究開発費の即時償却制度が完全に復活します。これまでは研究開発費を5年間にわたって償却する必要がありましたが、新制度では投資年度に100%償却が可能となります。
全米科学財団(NSF)のデータによると、アメリカの民間企業による研究開発投資は年間約4,200億ドルに達しており、即時償却の復活により税負担が約630億ドル軽減される見込みです。特にテクノロジー企業や製薬会社への恩恵が大きく、イノベーション投資の加速が期待されています。
| 項目 | 2026年まで | 2026年改革後 | 影響額(年間) |
|---|---|---|---|
| 法人税率 | 21% | 18%(製造業15%) | 850億ドル軽減 |
| 研究開発費償却 | 5年償却 | 即時100%償却 | 630億ドル軽減 |
| 設備投資控除 | 80%ボーナス償却 | 100%即時償却 | 320億ドル軽減 |
※上記は、議会予算局(CBO)の試算に基づく主要変更点です。
2. 個人所得税制の変更と高額所得者への影響

所得税率の簡素化と引き下げ
個人所得税制においても大幅な変更が行われます。現行の7段階税率(10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%)を4段階(10%、15%、25%、35%)に簡素化し、最高税率を現行の37%から35%に引き下げます。
税制財団(Tax Foundation)の分析によると、年収10万ドル以上の世帯では平均して年間2,400ドル(約37万2,000円)の税負担軽減となり、年収100万ドル以上の高額所得者では平均18万5,000ドル(約2,867万5,000円)の大幅な軽減効果が見込まれています。
標準控除額の大幅拡充
標準控除額は引き上げられました。2026年の標準控除は単身者で16,100ドル(約249万5,500円)、夫婦合算で32,200ドル(約499万1,000円)、世帯主申告で24,150ドル(約374万3,250円)です。以後も物価に連動して調整されます。
この変更により、中間所得層の実質的な税負担はさらに軽減され、議会合同税制委員会(JCT)の試算では、年収5万ドルから10万ドルの世帯で平均1,850ドル(約28万6,750円)の税負担軽減効果があるとされています。
3. 相続税は廃止されていない。基礎控除1,500万ドルの恒久化

廃止ではなく、控除の恒久化だった
「アメリカの相続税が廃止される」という見方が一時期広まりましたが、連邦相続税(遺産税)は廃止されていません。2025年に成立した税制改正で行われたのは廃止ではなく、基礎控除の引き上げと恒久化です。2026年の基礎控除は1,500万ドル(約23億2,500万円)で、夫婦なら3,000万ドルまで無税で渡せます。これを超える遺産には従来どおり最高40%の税率が適用されます(2026年3月現在、1ドル=155円換算)。
それまでの制度では2026年から控除額が半分近くに戻る予定でしたが、その期限がなくなり、以後は物価に連動して調整されます。税率、控除、資産の評価方法に変更はありません。制度の現状はIRSの遺産税のページで確認できます。
IRS統計によると、相続税の対象となる遺産は年間約2,500件、税収は約170億ドルとなっていますが、この廃止により富裕層の資産承継が大幅に容易になります。特に家族経営企業や農場経営者にとっては事業承継の負担が大幅に軽減されることになります。
非居住者には、この恒久化が効かない
ここが日本にお住まいの方にとって重要な点です。1,500万ドルの基礎控除は米国の居住者と市民に適用されるもので、日本に住んだまま米国の不動産を持つ非居住者の基礎控除は6万ドル(約930万円)のままです。この6万ドルは今回の改正で触れられておらず、物価連動の対象でもありません。
つまり、米国の居住者が受けた恩恵と、非居住者が置かれている状況の差は、今回の改正でむしろ広がりました。100万ドルのコンドミニアムを個人名義で持ったまま相続が起きれば、控除後の94万ドルが課税対象になります。実際の計算は非居住者の遺産税の記事で扱っています。
贈与税の年間非課税枠は、2026年も1人あたり19,000ドル(約294万5,000円)で据え置かれています。非居住者には生涯贈与控除がないため、米国の不動産を生前に渡す場合はこの枠を超えた分に課税されます。
また、教育費や医療費の直接支払いについては金額制限が撤廃され、孫世代への教育投資がより活発化することが予想されます。基礎控除が恒久化されたことで、期限切れに備えて急いで生前贈与を行う必要は薄れました。ただし非居住者にはその恒久化が及ばないため、判断の前提は米国の居住者とは別に立てる必要があります。
4. 日本企業・投資家への具体的影響と対応策

日本企業の米国子会社への影響
日本企業がアメリカに保有する子会社にとって、今回の税制改革は大きなメリットをもたらします。法人税率の18%への引き下げにより、米国子会社の税負担は実質的に14%軽減され、これにより年間約35億ドルの税負担軽減効果が見込まれます。
日本貿易振興機構(JETRO)の分析によると、製造業を中心とした日本企業約1,200社が恩恵を受け、特に自動車、電機、化学分野での追加投資が活発化する見通しです。トヨタ、ホンダ、パナソニックなどの主要企業では、すでに米国での設備投資計画の見直しを開始しています。
個人投資家への影響と注意点
日本の個人投資家にとって、今回の改正で意味があるのは遺産税の基礎控除が1,500万ドルで恒久化された点です。ただしこの恩恵は米国の居住者と市民のものです。日本に住んだまま米国の不動産や米国株を持つ非居住者の基礎控除は、6万ドル(約930万円)のまま動いていません。
さらに、米国で遺産税を納めたうえに、日本の居住者には日本の相続税も適用されます。実際の計算は非居住者の遺産税の記事で扱っています。二重課税の調整には、国税庁の日米租税条約に基づく適切な税務処理が必要となります。当社では、このような複雑な国際税務についてもサポートを行っております。
5. 税制改革実施スケジュールと企業の準備事項

段階的実施スケジュール
新税制改革は一度に実施されるのではなく、段階的なスケジュールで進行します。2026年7月1日から法人税率の引き下げが開始され、研究開発費の即時償却は2027年1月1日から適用されます。
個人所得税制の変更については2027年課税年度から適用開始となり、相続税の段階的廃止は2027年から2030年にかけて実施される予定です。上院財政委員会では、この実施スケジュールについて2026年4月までに最終決定する方針を示しています。
企業が取るべき準備措置
税制改革を最大限活用するために、企業は以下の準備を進める必要があります。
①税務戦略の見直しでは、新しい税率を前提とした利益計画の策定と、研究開発投資の前倒し検討が重要です。②設備投資計画の最適化として、100%即時償却を活用した設備更新計画の立案を行います。③国際税務体制の整備では、日米間の移転価格税制への対応と、BEPS(税源侵食・利益移転)対策の強化が必要となります。
デロイトの調査によると、既に全米の大企業の78%が税制改革対応チームを設置し、税務戦略の見直しを開始しています。
相続税の現行制度(基礎控除1,500万ドルへの恒久化を含む)と日本人が取れる対策はアメリカ相続税の記事に詳しくまとめています。
税制だけでなく不動産市場への影響はトランプ政権と不動産市場の記事で扱っています。
まとめ

2025年の税制改正で実際に決まったのは、法人税率21%の恒久化、国内の研究開発費の即時償却の復活、設備投資の100%即時償却、そして遺産税の基礎控除1,500万ドルの恒久化です。法人税率の18%への引き下げと遺産税の廃止は実現しませんでした。報道された案と成立した内容は別物であり、資産の設計は成立した内容だけを前提に組む必要があります。
日本にお住まいのまま米国の不動産を持つ方にとっては、基礎控除6万ドルが据え置かれたことのほうが影響が大きくなります。米国の居住者との差は、今回の改正でむしろ広がりました。名義をどう置くかの判断は、この前提で組み直す必要があります。
我々Reinvent NYでは、アメリカでの事業展開や投資を検討されている日本の企業・投資家の皆様に、最新の税制改革情報と具体的な対応策についてアドバイスを提供しております。税制改革を最大限活用した事業戦略の策定にご関心をお持ちの方は、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
アメリカの法人税率は18%に下がりましたか。
下がっていません。2025年7月に成立した税制改正では21%が恒久化されました。引き下げ案と製造業への15%の軽減税率は、いずれも成立した法律には入っていません。
研究開発費の即時償却制度は復活しますか。
2022年から段階的に廃止された研究開発費の即時償却制度が完全に復活し、投資年度に100%償却が可能となります。全米科学財団のデータによると、民間企業による研究開発投資は年間約4,200億ドルに達しており、税負担が約630億ドル軽減される見込みです。
アメリカの連邦相続税は廃止されましたか。
廃止されていません。2025年の税制改正で行われたのは基礎控除の引き上げと恒久化で、2026年の基礎控除は1,500万ドル、これを超える遺産には従来どおり最高40%の税率が適用されます。また、日本にお住まいの非居住者の基礎控除は6万ドルのままで、今回の改正の対象外です。
日本企業の米国子会社の税負担は変わりますか。
法人税率は21%で変わりません。効くのは国内の研究開発費を投資年度に全額損金にできる扱いの復活と、設備投資の100%即時償却で、米国で開発や設備投資を行う子会社ほど前倒しで損金を立てられます。
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