アメリカ不動産による節税と検索すると、いまも「築22年超の木造中古住宅を買えば4年で全額償却でき、給与所得と相殺できる」という説明が数多く出てきます。当社にも、この前提でご相談にお越しになる方が毎月いらっしゃいます。
結論から申し上げます。個人の方については、この手法は2021年分の所得税から使えなくなっています。2020年度の税制改正で封じられました。にもかかわらず、改正前に書かれた記事が現在も大量に残っており、それを読んで購入を決めてしまう方が後を絶ちません。
当社はニューヨークで不動産の売買を扱っており、税の設計を誤った状態で物件を持ってしまった方から、後になってご相談をいただくことがあります。本日は、2026年現在の正しい姿と、では何が残っているのかについて見ていきましょう。
1. 4年償却という仕組みそのものの説明

まず、なぜ4年という数字が出てくるのかを正確に押さえます。日本の税法では、木造住宅の法定耐用年数は22年と定められています。中古資産を取得した場合、耐用年数は簡便法で計算することが認められており、法定耐用年数を全て経過した資産は、法定耐用年数の20パーセントに相当する年数となります。
22年の20パーセントは4.4年、端数を切り捨てて4年です。これが4年償却の根拠になります。
ここにアメリカ特有の事情が重なります。日本の中古住宅は土地の価値が大きく建物価格が2割から3割にとどまることが珍しくありませんが、アメリカの郊外住宅は建物比率が7割から8割に及ぶケースがあります。同じ1億円を投じても償却できる元本が2倍以上になり、4年で割り戻した年間の償却費が非常に大きくなります。
この計算自体は、いまも正しいものです。変わったのは、生じた損失を他の所得と相殺できるかどうかという点でした。
2. 2020年度改正で何が封じられたのか

改正の内容を正確に申し上げます。国税庁が公表する国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例により、2021年分以後の所得税について、個人が国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、簡便法などにより計算した減価償却費に相当する部分の金額は、生じなかったものとみなされます。
ここで押さえるべき点を順に挙げます。
①対象は国外にある中古建物であり、アメリカの物件は当然に含まれます。②対象となるのは簡便法などで耐用年数を計算した場合であり、実際の使用可能期間を合理的に見積もった場合は対象外です。③生じなかったものとみなされるのは損失のうち償却費相当部分であり、不動産所得の中で黒字と相殺することは可能です。④封じられたのは給与所得や事業所得との損益通算です。
つまり、高い給与所得をお持ちの方が償却で赤字を作り、本業の所得を圧縮するという設計が成り立たなくなりました。この手法の中心的な効用が、そこにあったわけです。
それでは次に、それでも残っている道について見ていきます。
3. 法人名義なら成立する。ただし出口まで設計が要る

この特例の対象は個人です。法人が保有する場合、現時点で同様の制限は設けられていません。したがって、償却を軸に据えるのであれば法人名義が前提になります。
ただし、法人にすれば解決という話ではありません。押さえておくべき論点があります。
①法人の設立費用と毎年の維持コスト、申告実務が発生します。②償却は税を消すものではなく繰り延べるものであり、償却した分だけ簿価が下がって売却時の譲渡益が膨らみます。③アメリカ側でも売却時に減価償却費の取戻し課税があり、償却相当額には最大25パーセントの税率が適用されます。④非居住者が売却する際はFIRPTAにより売買代金の15パーセントが源泉徴収されます。⑤最終的に法人をどう畳み、資金をどう日本に戻すかまで決めておかないと、出口で想定外の課税が発生します。
以上で見て来たように、法人名義は使える道ではありますが、入口の節税額だけを見て判断すると出口で取り戻されます。取得前に出口まで一本の線で設計しておく必要があります。
4. 節税が主目的でなくなったとき、選ぶ場所が変わる

ここが本題です。償却という理由が弱くなると、わざわざ建物比率の高い築古戸建てを選ぶ必然性がなくなります。物件を選ぶ基準が、資産としての強さそのものに戻るわけです。
そこで、以下はZillowが公開している住宅価格指数から算出した、州別の値上がり率です。2026年7月時点のものとなります。
| 州 | 住宅価格中央値 | 5年上昇率 | 10年上昇率 |
|---|---|---|---|
| ニューヨーク州 | 52万7,312ドル | 29.5パーセント | 80.0パーセント |
| オハイオ州 | 24万9,941ドル | 29.3パーセント | 90.9パーセント |
| ジョージア州 | 33万4,119ドル | 23.9パーセント | 97.4パーセント |
| フロリダ州 | 37万8,167ドル | 22.5パーセント | 86.5パーセント |
| ハワイ州 | 83万3,877ドル | 16.8パーセント | 53.8パーセント |
| カリフォルニア州 | 77万3,735ドル | 15.0パーセント | 70.7パーセント |
| テキサス州 | 30万1,806ドル | 12.6パーセント | 62.9パーセント |
※上記はZillowのZHVIから当社が算出した目安です。将来の価格を保証するものではありません。
直近5年で最も価格が上がった州は、この7州の中ではニューヨーク州の29.5パーセントでした。築古戸建てスキームの主戦場であるテキサス州は12.6パーセントで最下位です。10年で見てもニューヨーク州80.0パーセントに対しテキサス州は62.9パーセントとなっています。
利回りについても同様です。Zillowの賃料指数から算出すると、ニューヨーク市の表面利回りは6.0パーセントで、ダラスの6.2パーセント、ヒューストンの7.1パーセントと同じ土俵にあります。ニューヨークは利回りが取れないという前提そのものが、データと合っていません。
まとめ

4年償却という計算方法は、いまも制度として存在します。しかし個人については、そこで生じた損失を給与所得と相殺する道が2021年分から塞がれており、節税を主目的に築古戸建てを買う理由は大きく後退しました。
法人名義であれば成立しますが、償却は繰り延べにすぎず、アメリカ側の取戻し課税、FIRPTAの源泉徴収、法人の畳み方まで含めて設計しなければ、入口で得た分を出口で返すことになります。
そして節税という理由が外れた以上、選ぶ基準は資産そのものの強さに戻ります。公開データで見る限り、直近5年の値上がり率も表面利回りも、ニューヨークは築古戸建ての主戦場とされる州に対して見劣りしません。詳しい税の全体像はアメリカ不動産の税金に関する記事を、購入の実務はニューヨーク不動産購入ガイドをあわせてご覧ください。
どの名義で持ち、どの税務スキームで組むかによって手元に残る金額は大きく変わります。一般論はここまでとし、個別のご事情に応じた設計についてはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、税務・法務・投資に関する助言ではありません。掲載した数値は公開データに基づく目安であり、将来の価格や利回りを保証するものではありません。具体的な判断は税理士、弁護士その他の独立した専門家にご確認ください。不動産サービスはR New Yorkとしてのサービス提供となります。
本ページの相場、利回り、所要時間などの数値は、一般に公開されているデータや当社の取引経験にもとづく目安です。物件、時期、条件によって実際とは異なる場合があり、当社が正確性および最新性を保証するものではありません。犯罪発生状況はニューヨーク市警などの公的機関が地区ごとの統計を公開しているため、そちらの数字をご確認ください。当社は入居者や購入者の国籍、人種、出身、宗教、家族構成によって物件やエリアをお勧めすることはいたしません。本ページの内容は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や税務助言には当たりません。


















