2024年12月22日 Satoshi Onodera
アメリカへの移住や長期滞在を検討している富裕層の方々にとって、税務戦略は資産形成における最重要課題の一つとなっています。
2024年12月現在、1ドル=150円として換算した場合、例えば年収30万ドル(4,500万円)の方が、アメリカ内の居住地・週の選択によっては、年間100万ドル(1億5,000万円)以上の税負担の差が生じる可能性があります。

 

本記事では、連邦税と州税の仕組みを詳しく解説し、合法的な節税戦略についてご説明します。

*本記事はあくまで一般的な見解としての解説となり、個別ごとのケースについては、会計士など専門家の方のアドバイスをいただくようお願いいたします。

 

1. 日米の所得税制度の違いについて

アメリカの税制は、日本と比較して州によって大きく異なることが特徴です。

特に注目すべきは長期キャピタルゲイン課税制度です。米国内国歳入庁(IRS)の発表]によると、1年以上保有した資産の売却益に対しては、優遇税率が適用されます。

 

以下が日米の主要な税率の比較表です。

区分 日本 アメリカ(連邦税)+別途州税や市税がかかる
通常所得税率 5-45% 10-37% (1年未満の短期株式売却益も含む)
株式売却益 一律20.315% 0-20%(長期)
配当所得 一律20.315% 0-20%(適格配当)

※2024年度の税率比較

 

また、日米の所得税率は以下のようになります(基礎控除などを除く)。

 

2. デイトレードをやるなら日本の方が得

上記1つ目の表にもあるように、アメリカの株式売却益に対する課税は、保有期間と利益額によって大きく異なり、基本的に1年以内の短期取引による売却は通常の所得としてカウントされてしまうのです

IRSの資料によると、以下のように分類されます。

 

短期売却益(1年以下の保有):
– 通常所得として課税
– 税率:10-37%の累進課税
– 所得に応じて7段階の税率が適用
– 高所得者は最高税率37%が適用

 

長期売却益(1年超の保有):
– 優遇税率が適用
– 所得に応じて3段階の税率:
47,025ドル以下:0%
47,026-518,900ドル:15%
518,901ドル以上:20%

 

さらに、純投資所得税(NIIT)に関する規定があり、高所得者(独身で20万ドル以上、夫婦で25万ドル以上)には、純投資所得税として3.8%が追加課税されます。一方、日本の税制では保有期間に関係なく、一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の課税となります。このため、デイトレーディングのような短期売買をする場合、日本の方がはるかに有利な税率であることがわかります。アメリカでは長期投資を行うことで、大幅な節税効果が期待できます。

 

加えて、米国財務省のデータによれば、特に高所得者層において、長期キャピタルゲイン税率の違いが年間の税負担額に大きな影響を与えています。

 

3. アメリカの州別所得税制度の詳細

州税は、その方の移住地によって決まります。

IRSの州税務情報によると、州税の違いは富裕層の資産形成に顕著な影響を与えます。例えば、年収100万ドル(1億5,000万円)の場合、州の選択だけで年間10万ドル(1,500万円)以上の税負担の差が生じることがあります。

 

それでは、主要な州の税率体系を詳しく見ていきましょう。

まずアメリカでは所得税がある州とない州にわかれます。

 

所得税がある州(State Income Tax)

これらの州では、連邦所得税に加えて州所得税が課されます。税率は累進課税やフラット税率(一定税率)など、州によって異なります。

 

  • 累進課税を採用している代表的な州:
    • カリフォルニア州(California):
      • 税率: 1% ~ 13.3%
      • 特徴: 高所得者に対する税率が非常に高い。テクノロジー企業が多く所在するため、所得分布も多様。
    • ニューヨーク州(New York):
      • 税率: 4% ~ 10.9%
      • 特徴: ニューヨーク市に居住する場合、さらに市税も課されます。
    • オレゴン州(Oregon):
      • 税率: 4.75% ~ 9.9%
      • 特徴: 州全体で均一な税率を採用しており、高い税率が特徴。
    • メリーランド州(Maryland):
      • 税率: 2% ~ 5.75%
      • 特徴: 地方自治体(カウンティや市)ごとに追加の所得税が課されることがあります。

 

  • フラット税率を採用している代表的な州:
    • イリノイ州(Illinois):
      • 税率: 4.95%
      • 特徴: 全ての所得に対して同一の税率が適用されます。
    • インディアナ州(Indiana):
      • 税率: 約3.23%(年により若干変動)
      • 特徴: 州全体で均一なフラット税率を採用。
    • ユタ州(Utah):
      • 税率: 約4.95%
      • 特徴: フラット税率を採用し、簡素な税制が特徴。

 

特殊な税制を採用している州

  • ニュージャージー州(New Jersey):
    • 税率: 1.4% ~ 10.75%
    • 特徴: 高所得者に対する最高税率が非常に高い。
  • ミシガン州(Michigan):
    • 税率: フラット税率4.25%
    • 特徴: フラット税率を採用しており、シンプルな税制。
  • コロラド州(Colorado):
    • 税率: フラット税率4.40%
    • 特徴: フラット税率を採用し、他の州に比べて税率が中程度。

 

所得税がない州(No State Income Tax)

これらの州では、個人の所得に対する州所得税が課されません。その代わりに、他の税(消費税や財産税)で財源を補っています。

  • 代表的な州:
    • テキサス州(Texas): 高い消費税率と不動産税があります。
    • フロリダ州(Florida): 観光業が盛んで、消費税と観光税が主な収入源です。
    • ワシントン州(Washington): 高い消費税率(セールスタックス)が特徴です。
    • ネバダ州(Nevada): 観光業とギャンブル収入が主な財源です。
    • テネシー州(Tennessee): 一部の利子・配当所得には課税がありますが、給与所得には課税されません。

 

 

4. 居住地による具体的な納税額の比較例

次に、IRS統計データを基に、年収別の実質的な税負担を比較します。

ここでは、ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン、ニュージャージー、フロリダ州マイアミ、の3つの州においての州税を比較してみます。まずまとめがこちらです。

次にそれぞれの詳細です。

ニューヨーク州(NYC)

NY州税務当局の定める税率:
– 州税:最高10.9%(年収500万ドル超)
– 市税:最高3.876%(NYC在住の場合)
– 中間所得層(15万ドル-50万ドル):6.33-10.3%
– 各種控除や優遇措置あり

 

ニュージャージー州

NJ州財務局の規定:
– 最高税率:10.75%(年収500万ドル超)
– 100万ドル-500万ドル:8.97%
– 50万ドル-100万ドル:6.37%
– 市税制度なし

 

フロリダ州

フロリダ税務局の特徴:
– 州所得税:なし
– 売上税:6%(地域により追加課税あり)

 

給与所得300万ドル(4億5,000万円)の場合

IRS Publication 17に基づく計算:

ニューヨーク市在住:
– 連邦税(37%):111万ドル(1億6,650万円)
– 州税(10.9%):32.7万ドル(4,905万円)
– 市税(3.876%):11.6万ドル(1,740万円)
– 実効税率:51.8%
– 合計税額:155.3万ドル(2億3,295万円)

 

フロリダ州在住:
– 連邦税(37%):111万ドル(1億6,650万円)
– 州税:なし
– 実効税率:37%
– 合計税額:111万ドル(1億6,650万円)

 

上記のまとめでは、フロリダに住む場合が最も税を抑えることが可能なります。

連邦勢が同じでも、収税で大きな違いがあることがご理解いただけたかと思います。なお、会社売却時(株式売却時)にも同様に所得税が発生しますが、直近の住所が問われるため、売却の1年前にフロリダ州に移住、するなどの話もあると聞きます。

 

次の章で具体的な計算を行ってみましょう。

 

5. 会社売却と資産移転の税務戦略

 

IRSの事業売却に関するガイドラインに基づき、会社売却時の主要な戦略を見ていきます。

 

1. 売却タイミングと居住地の選択

例えば売却額1,000万ドル(15億円)の場合の税負担比較:

 

ニューヨーク市在住:
– 連邦税(20%):200万ドル(3億円)
– 州税・市税(14.776%):147.76万ドル(2億2,164万円)
– NIIT(3.8%):38万ドル(5,700万円)
– 合計:約385.76万ドル(5億7,864万円)

 

フロリダ州在住:
– 連邦税(20%):200万ドル(3億円)
– NIIT(3.8%):38万ドル(5,700万円)
– 合計:238万ドル(3億5,700万円)

 

なんと差額として、約147.76万ドル(2億2,164万円)、実に15%程度の差が生じます。

 

また、以下の様な制度を活用することもできます。

 

6. QSBS(適格小規模事業株式)の活用

QSBS(適格小規模事業株式)は、特定の小規模企業への投資を促進し、投資家に対してキャピタルゲインの税制優遇を提供する制度です。投資対象に以下条件があることが特徴です。

 

QSBSの条件
– C-Corporationであること
– 総資産が5,000万ドル未満で設立
– 5年以上の株式保有
– 特定の事業分野(サービス業除く)
– 最大1,000万ドルまたは投資額の10倍のいずれか大きい方まで非課税

 

段階的な資産移転戦略

米国での居住性確立のステップ:
1. 適切な居住地の選択(税率の低い州)
2. 実質的な生活拠点の確立(最低6ヶ月以上推奨)
– 住居の購入または賃貸
– 運転免許の取得
– 銀行口座開設
– 社会活動への参加

 

最後に、日本からの出国においては、以下の出国税という観点もお見逃しなく。

 

7. 出国税への対応

2024年12月時点では、日本にはアメリカやフランスのような一般的な「出国税」は存在していません。しかし、以下の点に注意が必要です。

 

1. 資産課税の移行: 日本を出国する際、出国前に資産をどのように処分するかによって、キャピタルゲイン課税が発生する可能性があります。特に不動産や株式などの資産を売却する際には、売却益に対して課税されます。

 

2. 永住者の扱い: 日本において長期間居住していた個人が出国する場合、退職所得やその他の所得に対して適切な税務申告が必要です。

 

3. 将来的な法改正の可能性: 政府が高資産者の海外移住に対する課税制度を検討する可能性があるため、最新の法令や政府発表を確認することが重要です。

 

日本の出国税対象資産としては、有価証券、暗号資産、デリバティブ取引などによるものが挙げられます。対象外資産としては、不動産、現金・預金、また一時的な出国(5年以内の帰国予定)の場合などが挙げられます。

 

いずれの場合も、詳細は会計士/弁護士さんら専門家に相談いただければと思います。

 

まとめ

IRSの国際納税者向けガイドラインが示すように、適切な税務戦略により、年間の税負担を20-30%程度削減できる可能性があります。

 

いずれの場合もこれまで見てきた、以下の点が特に重要と言えるでしょう。

– 居住地選択による節税効果の最大化
– 長期投資による優遇税率の活用
– 会社売却のタイミングと居住地の調整
– 国際的な資産移転における適切な税務計画

 

これらの戦略は、必ず税務の専門家と相談の上で実行することが推奨されます。

 

 

記事をお読みいただき、ありがとうございました。

当社Reinvent NY Incでは、2019年よりアメリカ進出・移住される個人様、企業様のご支援を続け、あらゆる側面をサポートする総合的なサービスを提供しています。

特にE2ビザにおいては、当社代表が2019年のトランプ政権下、30歳の時にニューヨーク移住を志し、全額自己資本で5年間の投資家ビザ(E2ビザ)を取得した経験に基づく支援となっており、250社以上の有償支援の実績がございます。

 

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